ESPANSIVA! NIELSEN

オススメ曲紹介

 このコーナーでは、当HP主催のMsの個人的な判断によって、ニールセンの作品より「オススメ」なものをセレクトして紹介してゆきたいと思います。皆さんのニールセン探検の地図のような役割となれれば良いのですが・・・・。ただ、個人個人それぞれに趣味趣向が異なる訳ですから参考にならない場合もあるかもしれません。あしからずご了承のうえ、ご覧下さい。

管弦楽曲
 やはり、ニールセンの「交響曲」に興味を持ってしまったからには、同じく管弦楽を使っての作品が気になります。カッコイイ作品、実験精神に溢れた作品、ユニークな作品等々、とにかくいろいろなキャラクターを持った作品があって一言ではまとめきれません。そんな中での私のオススメは・・・。

 私のオススメ、第一は、
 序曲「ヘリオス」

 一般的には、ニールセンならではの個性的作品として、
 パンとシランクス、そして、
 サガの夢
 それ以外にも個人的には、機会作品ながらユニークさをかって、
 詩篇「より近く、神のみもとに」によるパラフレーズ、
 狂詩曲風序曲「フェロー諸島への幻視旅行」
あたりを挙げましょう。
 ただ、交響曲と違ってまだまだ認知されていない管弦楽作品という分野ですので一応、ざっと彼の主たる管弦楽作品はここで触れておきましょうか。
 最初に断っておきますが、弦楽合奏曲は別の項としました。ヴァイオリンを最も親しい楽器としていた彼だけに、弦楽器を使った作品は特別の地位にあると思われますし、また素晴らしい作品がそろっていますので。また、劇音楽の中にも優れた管弦楽曲が多々ありますが、同じく北欧の巨匠グリーグ、シベリウスと同様に彼もまた劇音楽に重要かつ興味深いものも多いため、これも別項とします。

 さて、時代順に行きますと、まず、交響的ラプソディ(FS7)。1889年の作。
 交響曲の作曲への野心が第1楽章のみで挫折してしまった、まだ習作の域にありそうなもの。しかし、大らかな3拍子のアレグロは後の彼の特徴、競技的3拍子を既に感じさせます。また、旋律が同じ音を3拍づつ伸ばしながらハーモニーを変えてゆく部分は、交響曲第5番の第2楽章でも聴かれるものです。習作として葬り去るのは惜しい、興味深くも愛すべき作品ではあります。
 続いて、序曲「ヘリオス」(Op.17,FS32)。1903年の作。彼の管弦楽作品中、最も親しまれ、また優れたものと認めます。
 ギリシャ滞在中、アクロポリスを望む部屋から、エーゲ海より昇りまた沈む太陽にインスピレーションを受けて書かれた作品。生き生きとした明るさ、そして広々とした見晴らしの良さ・・・、聴いていてとてもすがすがしく、また心地よさが感じられる不思議な力を持ったもの。冒頭の、暗闇、静けさから次第に明るさを帯びてゆく息の長いクレシェンド、そして最後のクライマックスが収束してゆく際の独特な和音進行を伴うデクレシェンド。まさに太陽の、日の出、日没を思わせる美しい場面です。しかし、単なる描写音楽に留まらず、主題の展開、精巧なフーガ的部分など、音楽の構成美にも配慮が見られ、彼の交響曲と並ぶ代表作の一つと言って良いでしょう。
 その後、彼は次第に当時としては新しい、様々な実験的な試みを作品に潜ませてゆきます。その一つの例が、サガの夢(Op.39,FS46)。1908年の作。和訳については果たしてこれで良いのかはまだ問題があります(Simpsonに寄る英訳から訳せば「ガンナーの夢」。「サガの夢」では意味不明、直訳し過ぎで日本語になってないような気もします。Simpsonのような意訳は必要かとも思います。)。
 アイスランドのサガ(伝説)に基づいた作品で、ガンナー(どういう人物かは勉強不足でスミマセン)がノルウェイへの旅の途中に見た夢に着想を得たようです。終始、穏やかな眠りと、おぼろげな夢を思わせる、静かで神秘的な雰囲気が持続されます。素材的には、交響曲第3番のフィナーレのテーマとの類似が指摘できますが、最大の特徴は、曲の後半に置かれたカデンツァと書かれた部分。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、シンバル、鉄琴の6つのパートが次から次へと奏者に任された自由なテンポでそれぞれのカデンツァを奏でるのです。後の交響曲第5番、劇音楽「アラディン」でも試みられる前衛的な手法(偶然性の音楽)の最初の例です。
 続いて、管楽器と打楽器のための、詩篇「より近く、神のみもとに」によるパラフレーズ(FS63)。1912年の作。
 なんとタイタニック号沈没の犠牲者のための慈善コンサートの指揮者を依頼されたニールセンが、そのコンサートのために書いたもの。とにかく聴いてみてください。
 さらに、パンとシランクス(Op.49,FS87)1917〜18年の作。
 フランス印象主義の影響が指摘され得る作品として、ほぼ同時期のシベリウスによる交響詩「大洋の女神」と比較したいところですが、その作品の相違ぶりの甚だしさ・・・・。確かに、ニールセン得意の木管楽器のソリスティックな扱い、そして何と言っても、鉄琴、小太鼓、タンバリンなどの打楽器の異彩を放つ使い方など、音色に関する配慮に特徴があります。曲の内容は、特定の物語に基づくと言うよりは、ギリシャの田園的雰囲気、そして、ニンフ(妖精)たちを追いまわすパン(牧神)と、逃げ惑うシランクス(葦に変身してしまう妖精)を暗示的に描写しているようです。副題には「オーケストラのための、自然の情景」とあります。聴きどころとしては、クライマックスの混沌ぶりなどなかなか面白い表現ですし、クラリネットや小太鼓の使い方は、後の交響曲第5番の第1楽章を思わせたりもします。
 最後に、狂詩曲風序曲「フェロー諸島への幻視旅行」(FS123)。1927年の作。
 デンマーク領である、イギリス北方に位置するフェロー諸島からの使節団歓迎のための委嘱作品で、フェロー諸島の民謡も引用しています。機会作品のわりには、全く形式ぶったところのない自由奔放なパロディ風な作品で笑いを誘うような箇所さえあります。また、冒頭の不可思議な雰囲気は、マーラーの交響曲第1番冒頭を私に想起させますし、やや混乱した感のある素材の取り扱い方は、アイヴズのパロディ精神との類似すら感じさせます。交響曲第6番と協奏曲2曲(フルート、クラリネット)に代表される晩年の作品はかなり聴きづらいものもありますが、この序曲は民謡の引用がかなりとっつきやすくさせてくれていると思います。この作品に慣れることで晩年の作品群への突破口が見つかるかもしれません。何はともあれ、楽しい作品であることは間違いありません。

 ついでに、劇音楽からの管弦楽作品もこの場で触れておくなら、断然、「アラディン」(Op.34,FS89)1918〜19年の作、が楽しさ満載。歌劇からなら、取り上げられることも多い(実演ではなく、CD録音でですが)、「仮面舞踏会」(FS39)1904〜06年の作、からの組曲、特に、軽快で生きの良い「序曲」と、ユーモラスな「雄鶏の踊り」。さらに、もう一つの歌劇である「サウルとダビデ」(FS25)1898〜1901年の作、からの「第2幕への前奏曲」など、華々しくカッコイイものでオススメです。個性的な作品ばかりですが、どれを聞いても、あっ、ニールセン、と思わせる独特な節回しなり、語り口があって楽しめると思います。

(2002.3.24 Ms)

 


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