解析概論

高木貞二

大学1年生の時に買ったもの。 大学に数学科として入学した私は、数学科の王道、高木貞二の解析概論で解析 の授業を始めたのだった。 数学科の解析の授業は、それはそれは、強烈なものであった。

忘れもしない、演習の時間。 まず、演習で一人づつ黒板で解くのだが、だれひとりOKにならないのだ。3週 間くらいだれもOKにならなかったと思う。 「有界だが収束しない関数の例を挙げろ」だったかなんだったかの問題で、 sin(x)と黒板に書いた人がいた。 教官は言った。「sinとはなんですか?」 学生は答えた。「直角三角形の、、、、」 そこで教官はさらにたずねた「三角形とはなんですか?」

といった楽しいエピソードがあったわけだ。

その後、数学科の人に会う度にこの話題を出してみるのだが、そういう経 験をした人は数学科でもあまりいないらしい。

私は転科し2年生から物理に進むこととなった。

数学科での解析概論は↑の調子で、一歩一歩進んで行ったため、1年生の間に 微分までしか終らなかった。(その後、数学科の人達はどうしたんだろう)。物 理学科の2年生は、当然微分も積分も陰関数定理も1年生の間に終ったことになっ ているものとして進む。私の微積分苦手意識はこのころに始まる。

あわてて勉強したのだが、「解析概論」では多変数の微分積分は後半にある。 「この本は数学科のプロ用だから、これで勉強していてはいつまで経っても微 積分に辿り着かない」 と思った私は、物理学科の1年の教科書指定になっていたより薄い本で勉強し た、のだと思う。よく覚えていないが鉛筆書き込みのある教科書を持っている。

とにかく、この後ずっと 解析、多変数の微積分 に対して苦手意識がつきまと う。物理数学、電磁気、統計力学、、、と多変数の微積分や陰関数定理、微積 分の変数変換、などは登場し、その度に勉強するのだが、なんど勉強しても 「ああ私は解析を授業ではちゃんと勉強してないのだ」と思ってしまって、苦 手なままだった。

あれからじつに18年。死蔵されていて、その姿を見るたびに胸が痛む存在だっ た「解析概論」を通読した。

通読とは言うものの、最後のルベーグ積分はパス。複素関数論とフーリエ級数 も最初は飛ばした。でも戻って読んだ。戻ってよかった。すごく勉強になった。

複素関数論では、ずっとモヤモヤしていたものが晴れた気分。なるほど、どの 方向から極限を取っても同じというのがクリティカルだったのか。こんな当た り前のことを改めて気付かされてしまった。

フーリエ級数。こんなに難しいと思わなかった。なんというか三角関数のフー リエ級数なんか、結果がわかっているのに、道のりはとても遠い。一般の直交 基底ではそんなにも非自明なのね。

微分と積分については、なんとか理解できた。これでこれまでの苦手意識を転 じて得意になる、というほど簡単なものではないのだけど、言い訳の材料は減っ た。

(2007/2/7)