リー環の話(新版)

佐武一郎

旧版をまったく理解できず、貸し出し延長もできず取り上げられてしまってか
ら2年ちかくが経って、新版を購入し、読み、そして突然Lie環がわかった気が
した。

読み始めたのは、多分10月ごろだと思うので、5ヶ月くらいこの本を読んでい
たことになる。途中違う本もよんだりしたけど、ずっと夢中で読んでいた感じ
だ。

前回読んでいてまるっきりわからなかったエンゲルの定理は、たしかに難しい
証明だけど、gl(V)という線型変換からgl(V)への写像を考えればよいという普
通の読解をすれば一応証明の道筋は追える。

今回は、じっくり読んだおかげで巾零元と巾零リー環、なんてのを混同するこ
ともなく、ちゃんと理解できた。半単純性は一見しては難しいけど。

読みながら何度もsl(3)を題材にカルタン部分群を作ったり、h*とhの同一視を
計算してみたり、ルート図を書いたり、ウェイト図を書いたり。

で、だ。最終的に、読み終えてから、「物理におけるリー代数」をまたちょっ
と読む。なにしろ、この本ではルートの導出は2ページしか書いてない。

そこで、やっと、突然、

カルタン部分群は、チャージの固有状態であり、カルタン部分群の独立次元が
チャージの数になっている。チャージは独立ではなく、特定の値しか取れない。
ルート図は、sl(2)の3表現に対応しており、
Eα,E-α,α
の部分sl(2)はその生成子自身がルート図の点に対応しているから、直線で結
ばれる。ルートの方向に部分sl(2)は働くので、この方向にすべての点は上げ
下げされ、上下対称な個数個存在する。ルートが複数個あればそのすべての方
向に上げ下げされる。
最大ウェイトは、sl(2)のときの最大ウェイトと同じ意味で、そこから下げ演
算子をかけて行くことですべてのウェイトを尽せる。各ウェイトの点がstate
にあたる。

というような、おそらく最初に判るべきことがやっとわかった。字面を何度も
何度も追って、式は追って、佐藤、吉川、ジョージアイ、松本、佐武と何冊も
それ関係の本を読んで、ちっともイメージできなかったリー環がやっとわかっ
た。13年もかかった。本当にバカだ。なんでわからなかったんだろう。と思う。
勉強のしかたが悪かったのに尽るのだろうけど、勉強しなかったわけじゃない。
手を動かさなかったわけでもない(動かした量は確かに少なかった)。

exp(ad(x))y=exp(x)y exp(-x)
とか、
ad(x)y=[x,y] なので ad(x)|y>=|[x,y]>

とか、わかってしまえば当たり前のところで、とにかく詰りまくった。ajoint
表現はgl(g)である、という意味がわかってなかった。さらに言えば、リー環
とリー群の関係もあやふやだった。
ルート図が登場すると、抽象ルート系で話しが済んでしまうので、それとリー
環との関係が判らなくなってしまうという面もあったようにも思う。

この読書感想のいろいろな所に恥をさらす記述が残っている。

この数年で、まず環というものに対する恐怖感が薄れ、変換の変換みたいな高
階の概念に慣れたから、だろうか。

## この本では、環の定義として結合性が条件であるような書き方をしながら
## リー環自身は結合性が満されてないので、ちょっと混乱した。

とにかくとても嬉しい。モヤモヤモヤモヤしてイメージも捕めなかったリー環
がやっと自分のものになった感じだ。まずイメージがあれば、その証明や詳細
に入って行ける。今まで、イメージなしに、詳細を理解しようとしていた感じ
だった。

付録のジョルダン環とリー環を今読んでいる。

(2006/03/06)

と上で書いてから、結局、付録を読み終るのに、2ヶ月かかった。「ジョルダン
環とリー環」は、ページ数は確かに少ないが、計算や証明の省略が多すぎる。
途中で、積を (XY+YX)/2 で定義した行列が実例だ、と気付いてガゼン読み易
くなる。それまではちっとも読めなかった。が、読み易くなった後も式の1つ1
つで紙に計算し直し、1日がかりくらいで、計算してようやく判り、を繰り返
してようやく最後まで辿り付いた。

「リー群の話」も新版を出してくれ。

(2006/05/07)