遥かなるケンブリッジ

藤原正彦

藤原正彦と言えば、「数学者の言葉では」で大学院時代、完全に打ちのめされ て鬱になったのを思い出す。(最近再読した)。

最初と最後のイギリス論はおもしろかったのだが、中間の次男のイジメ問題に ついては、なんだか昔の人的で、どうかと思った。 もちろん、冷静でない当時の自分を、冷静な視点でふりかえっているのでトン デモにはなってないのだが、やっぱりその肩肘の張り方が明治の人を見ている ようで。

私は、海外に長期滞在もしたことがないし、英語力もないし。リアルに海外滞 在した記録に対しての文句は、基本的に間違っているのだが。実際海外滞在す ると自分のアイデンティティを意識してああなってしまうのだろうか。

でも武士の家がどうのとは言わないなあ。(そうじゃないし)。

氏がケンブリッジに行ったのは、1987から88年なんだけど。孤軍奮闘する様子 から、もう少し昔の話かと思っていたのだが、15年ほど前の、最近と言っても いいころの話だった。 87,88年なら、夏休みの語学研修等で、バブルの学生達がケンブリッジに行く のもそんな珍しくないと思うのだが、そういう人のことは、ぜんぜん出て来な い。 日本人がアメリカよりイギリスに魅かれる時代が来ると書いているが、半分は 正解。既に日本人はビジネスでなければ、アメリカよりもヨーロッパやアジア に向いている。 ブルバキ組がフランスで活躍していたのは、もう少し前。ケンブリッジとパリ は、やっぱり微妙な関係だったんだなあ。

知っている名前が一杯出てくる。クィーンズカレッジの物理のグリーン博士は、 グリーン-シュワルツ-ウィッテンのグリーンだろう。(そう言えば顔を知らな い)。オックスフォードのドナルドソンは、ドナルドソン-ウィッテンのドナル ドソンかな。当時既にケンブリッジにはホーキングがいて有名だったと思うけ ど、話題はなし。ディラックの名前は一回だけ。マックスウェル、ラザフォー ドもケンブリッジの人だったのか。

イギリスだからなのか、数学者だからなのか、わからないが、趣味人が多い。 詩をそらんじるとか、音楽を演奏するとか。 まったくの感覚なのだが、物理の徒はもっと物理だけをストイックにやり続け ているような気がする。数学は情緒なんですかねえ。

2004.07.04