リー環の話

佐武一郎

さすがに、リー環ばかりここ3ヶ月ほど勉強して、とどめの数学ブックスなの
でよくわかる。よくわかると言いつつも、やっぱり難しい。

数セミの連載を1987年にまとめたものだが、新版が2002年に出た。今回読んだ
のは旧版。
旧版がB5で新版はA5版。新版では、本文に3章が追加され、補章が2つ追加になっ
た。という差はあるとはいえ、旧版が110ページほどなのに、新版は320ページ
もある。1章は5ページなので、同じペースで5章分追加しても旧版サイズで140
ページ程度なのだが、活字を組み直したりすると、ページ数は倍以上になるの
か。
旧版はソフトカバーで、なんだかペラペラした感じだが、新版は最近の日評選
書の型。

「リー群の話」は最初からA5版ハードカバーなのだが、売り切れになって久し
い。「リー環の話」が新型で出た今、「リー群の話」も新しくして出して欲し
い。

13,14章は辿り着かなかった。あと一週間借りるつもりで、図書館に行ったら
もう延長はできません。と、問答無用で没収された。

以下感想など

adjoint表現は、
ad: x→gl(V)

つまり、
 ad
x→gl(V)
adは、リー環の圏の対象から ベクトル空間の線型な射の圏への関手(とはこの
本ではまったく書いてない。私の想像)。
ad(x)∈Hom(x,-)

リー環のある基底 Jiに対して、
[Ji, Jj]=fijk Jk
ならば、
xi yj [Ji, Jj]=xi yj fijk Jk
=
([x,J1],[x,J2],[x,J3]...)(y1)
                         (y2)
                         (y3)
=
(J1,J2,J3...)(xi*fi11,xi*fi21,xi*fi31)(y1)
             (xi*fi12,xi*fi22,xi*fi32)(y2)
             (xi*fi13,xi*fi23,xi*fi33)(y3)

これで、x→f*jk(x) と行列表示できた。これがadjoint表示。
adjoint表現のなにが嬉しいかというと、巾零環とかが、そのまま環論の意味
での巾零と読めることにある。

エンゲルの定理(の一般化版の補題)がさっぱり判らなくて、1週間も悩み続け
る。
巾零リー環の表現に対して、共通の固有ベクトルが存在する。
まず、リー環の表現ρ(g)に対して、随伴表現は ρ(g)→gl(ρ(g)) と書ける。
これは、例えば、gとして対角要素が0の上三角行列、
x=(0 x1 x2)  ∈ρ(g)
  (0 0  x3)
  (0 0  0)
と取ったとき、
J1=(0 1 0)
   (0 0 0)
   (0 0 0)

J2=(0 0 1)
   (0 0 0)
   (0 0 0)

J3=(0 0 0)
   (0 0 1)
   (0 0 0)

という基底に対して、J1〜J3の交換関係を計算すると、[J1,J3]=J2 であるこ
とがわかる。従って、
[x,y]=
(J1 J2 J3)(0   0  0)(y1)
          (-x3 0 x1)(y2)
          (0   0  0)(y3)
と書けることがわかる。xのgl(ρ(g))表現、ad_{ρ(g)}(ρ(x)) は、
(0   0  0)
(-x3 0 x1)
(0   0  0)
となる。
ad_{ρ(g)}(ρ(x))は、引数がρ(x)で定義域がρ(g)なる写像。

ここまではオッケー。問題はこの後。このgの極大部分環hへの制限を
ρ~とするんだけど、これが何者か判らない。

というところで、制限写像の意味をやっと知ることとなる。
f(x),x∈X, y∈Y⊂Xのとき、f(y)を、fのYへの制限と書く。定義域の方が制限
されているのだ。制限写像は、X全体では定義されていない。

したがって、ad_{ρ(g)}(ρ(x))のhへの制限は、
ad_{ρ(h)}(ρ(x)), x∈hである。


極大部分環として、
(0 x1 x2)
(0 0  0)
(0 0  0)
を取ることができる。これは、和積に対して閉じているし(積に対しては0)、
次元は2で最大な真の部分環である。

ρ~(x)=ad_{ρ(g)}(ρ(x))したがって、

(0 0 0)
(0 0 x1)
(0 0 0)
とことを指しているものと思われる。で、ρ(h)は、ρ~(h)不変と言っている
が、これは閉じているから、当然そうか。
(0 0 0 )(y1)=(0)
(0 0 x1)(y2) (0)
(0 0 0 )(0 ) (0)
当然そうというか、0になる。

不変な部分空間があれば、商空間を作ることができる。
ρ(g)/ρ(h) これの代表元は、
(0 0 0)
(0 0 x3)
(0 0 0)
となる。ρ~'=ad_{ρ(g)/ρ(h)}と書いてあるが、これはなんだ。という所で、
前のページを見ると、「x∈gl(V,W)、v∈V に対して、v0∈V/W とすれば、
x0 v0=(xv)0 として、x0∈gl(V/W)を定義したもの」を翻訳したものらしい。
すると、
(0   0 0 )(*)  =  (0) 〜 0
(-x3 0 x1)(*)     (*)
(0   0 0 )(y3)    (0)
であるから、ad_{ρ(g)/ρ(h)}=ρ~'は、0である?
ad_{ρ(g)/ρ(h)}は、ρ(g)/ρ(h)群のajoint表現という意味に見えるので、
x∈ρ(g)/ρ(h)〜R
これは、交換関係は0で、結局 ρ~' はやっぱり0だ。トリビアルすぎる。hと
対応しているかどうか判らない。

これで、
dimρ~'=0 <= dimρ~=1 <= dimρ(h)=2 <= dimρ(g)=3
は、合ってるんだけど。

ρ~'(h):0に対する、共通固有ベクトルu1は、なんでもよい。u1=y だ。
ρ(g)の表現で言えば、
(0 0 0)=ρ(x1)
(0 0 y3)
(0 0 0)
x∈hに対して、
ρ~'(x)u1=0
これは、
(ρ~(x)u1)0 ∈ρ(h)
これは、
ρ~(x)u1=ρ([x,x1])∈ρ(h)
[x,x1]∈h
したがって、h+{x1}は、積に対して閉じるので、h+{x1}はhを含む部分環。と
いうことで、g=h+{x1}

ρ(h)の共通固有空間vを作ると、ρ(h)は、vを不変にするが、同時に、{x1}も
不変にする。h+{x1}=gはvを不変にする。ということで、vは同時固有ベクトル
となる。
さらに、ρ(x)v1=0なるv1を取れば、V1={v1}Rは、1次元。ρ_{V/V1}が対角0の
上三角行列になるとすれば、ρ_V(x)は、
(v1  *        )
(0   ρ_{V/V1})
と書け、結局、対角0の上三角行列で書ける。

古典リー群は、カルタン部分環と、E_αで書けるわけで、カルタンは互いに交
換[E,[E, E]]は、ルート系で、いつかゼロ。[E,H]=αE なので、Eをかけてい
けば、ゼロ。[H,[H,E]]が、ゼロにはならないか。

この辺のことは、結局巾零元、半単純元が登場して納得行きはじめる。

ルート系のはなしである、8,9,10章を何度も読み返す。

難解である。

難解に思える理由の80%くらいは、この数章前から登場している半単純環と半
単純元(s-元)と、s-部分環(半単純部分環だよな)が、ごっちゃごちゃになって
いるからのような気がする。
半単純環は、{0}以外の可解なイデアルを含まない環で、可解環の逆。
半単純元(s-元)は、対角化可能なgl(V)の元。任意のgl(V)の元は、Jordan分解
で、s-元とn-元(巾零元)に一意に分解する。
gの部分環で、gのs-元のみからなる部分環をs-部分環という。(これを半単純
部分環と書くと、半単純環と似ているようだが、別物)。
半単純環は、gl(V)に表現を取れるので、半単純環の元が、半単純元と巾零元
に分解する。

ここでは、sl_n(C)というリー環を主に扱う。物理では、コンパクト性を仮定
してしまうので、su(n)ばっかりなんだけど。sl_2(C)とsu(2)はリー環として
同じらしい。さらに f_{ijk}として完全反対称になるような基底の取りかたを
してしまうんだけど、数学の人は、そうでもないのがおもしろい。カルタン標
準形でとりあえず考える方が綺麗なんだろうな。

固有ベクトルをxとすると、
[h,x]=α(h)x
で、αは、hのデュアル h* に属する、おお。すなわちルートは極大半単純環
とデュアル。これを、キリング形式の内積で同一視できる。おお。

例えば、sl_2(C)を考える。
h∈g0 は、
(z  0)
(0 -z)
という形をしている。zを決めると、α(z)が決まる。
x=(a3   a1)
  (a2  -a3)
というgl_2の一般形に対して、
[h(z), x]=α(z)x
という固有方程式の固有値が、α(z)、固有ベクトルが、x。
[h(z),x]=z(0    2a1)=α(z)(a3   a1)
          (-2a2 0  )      (a2  -a3)
したがって、
α(z)=0, (a3  0)
         (0 -a3)
α(z)=2z,  (0 a1)
           (0 0 )
α(z)=-2z, (0  0)
           (a2 0)
の3つとなる。
これは、hの各点各点についている空間をα(z)の固有空間で直和分解したこと
になっている。
sl2のadjoint表現は、
ad(h)=(0       0     0    )=(0  0    0)
      (0     [h,e+]  0    ) (0  2z   0)
      (0       0    [h,e-]) (0  0  -2z)
α=2*z∈h*
に対して、hを B(α_h, h)=α(h) となるように決める。
tr(ad(h)ad(h'))=4zz'+4zz'=8zz'=2z
z'=1/4
(z  0)←→(1/4  0  )
(0 -z)    (0   -1/4)

sl3(C)でやってみたら、
(1  0 0)  (0 0  0)
(0 -1 0)  (0 1  0)
(0  0 0), (0 0 -1)がカルタン。

で非対角要素に1つづつ1が入った6つの行列が残り。で、8次元表現となる。


ルート系は、ルート系の公理から制限される。
1. ルート系は、Euclide空間の部分集合
2. αがルートなら、cαでルートになれるのは、c=±1のみ
3. α、βがルートなら、β-2<α,β>/<α,α>もルート

最後の公理はαに垂直な平面に対してβに対称位置はルートであることを示し
ている。

これから許されるルートが例のA,B,C,D,E型に決まる。

なんか、原点対称な2点のきれいな置き方の分類みたいだ。

リー環がこれまで判ってなかったのは、まず知りたいのはリー群。その為に、
リー環を研究し、リー環の性質を決めるのはウェイトなんだけど、それを決め
るものとして、ルートが出てくる(この旧版にはウェイトは出てこない)。とい
う寸法で、2階建3階建になっている。
それぞれが、似たような部分もあったりして、それが私を混乱させたのだ。ぶっ
ちゃけ、リー環とリー群の差もよくわかってなかった。SU(2)群の中よく探せ
ば、シグマ行列が含まれていると思ってたもんね。あとどっちに0が入ってて、
1が入ってるか、なんて考えてもいなかった。ウェイトとルートの差はもっと
判ってなかった。

付録 ジョルダン環とリー環

あまりにも難解すぎて、疲れてきたので、どうも纒まりがよさそうな、付録
ジョルダン環とリー環を読んでみる。

やっぱり難しい。まがりなりにも読めたのは第1回目だけ。
双1次の対称式S(x,y)を用意し、S(e0)=1とする。ちょっとまて。S(e0)がなん
でいきなり出てくるの?τ(a,b)=τ(ab)のような意味か?
S(e,x)=1/n*τ(x)であることから、S(x)=1/n*τ(x)と書くことにして、また、
e0=1であるとから、S(e0)=1/n*τ(e)=S(e0,e0)という意味かなあ。

S(x,y)=(x1,x2)(-1  0)(y1)=-x1y1+2x2y2
              (0   2)(y2)
とすると、
S(e1,e1)=-x1^2+2x2^2=1 なので、e0として(1,1)が選べる。(べつにこれでな
くてもよい)。
xy=S(x,e0)y+S(y,e0)x-S(x,y)e0
  =(-x1+2x2)(y1)+(-y1+2y2)(x1)-(-x1y1+2x2y2)(1)
            (y2)          (x2)              (1)
  =(-x1y1+2x1y2+2x2y1-2x2y2)
   (x1y1-x1y2-x2y1+2x2y2   )

によって積を決めると、これが、e0を1としたジョルダン環としての性質を満す。
xy=yx
(x^2y)x=x^2(yx)
xe0=(-x1+2x1+2x2-2x2)=(x1)
    (x1-x1-x2+2x2   ) (x2)

巾等元
x^2=x となるのは、
x^2=(-x1^2+4x1x2-2x2^2)=(x1)
    (x1^2-2x1x2+2x2^2 ) (x2)

この解は、(0,0),(1,1),((1+√2)/2,(2+√2)/4),((1-√2)/2,(2-√2)/4)の4つ。
後の2つをe1,e2と置けば、e1+e2=(1,1)=e0。

巾等元の固有値、固有ベクトルは
e1x=λx
λ=0,x=(1,-√2/2), λ=1,x=(1,√2/2)

e2x=λx は、
λ=0,x=(1,√2/2), λ=1,x=(1,-√2/2)

どちらにも、λ=1/2の空間はない。
このジョルダン環は、
U=U0(e1)+U1(e1)
U=U0(e2)+U1(e2)
という形になっている。

e2は、(1,√2/2)*(1+√2)/2
e1は、(1,-√2/2)*(1-√2)/2
ということで、互いに、λ=1の固有空間に含まれている。

ちなみに、e0x=x であるが、e1e0=e1であって、e1の固有空間には入ってない。
e0は巾等元であるが、すべての固有値は1の固有空間に含まれている。
U=U1(e0)

r>=3は急に難しくなる。

2004/05/23