コホモロジー

安藤哲

2003/08/15〜2003/09/25

読みたい本が溜っているのに、また本を借りてしまった(町田市図書館)。
「環と体の理論」が、サクっとは読めない本なので、浮気気味なのだ。
「群の発見」に戻らなければならないのに。

千葉大学で行なわれた公開講座のまとめ。一般向けの公開講座なので、厳密性
はこだわらない。その理論よりは、計算法としてのコホモロジー、と前書きに
書いてある。しかし、かなりいい本だと思う。
位相幾何学的な視点からコホモロジーを導入するが、数学者達の本命はどちら
かというと代数で、代数的考え方に入門中の私にはグっとくるものがある。

図形の切り分け方というあたりからホモロジーの概念が出てきて、その双対と
してコホモロジーを導入する、目標はド・ラム コホモロジーというのが、物
理における幾何学の入門書の定跡なんだけど、ホモロジーが判り難い上にその
「コ」(双対)だと言われても。。。と毎回思っていた。でもこの本では、ドラ
ムコホモロジーは導入でしかない。

私的には、かなり魅惑のキーワード、ホモロジー/コホモロジーのみならず、
層、スキーム、関手、圏、グロタンディークなんて名前が後半には登場する。

と、ここまでが、読む前の感想。
読み終えて。

思い起せば、3年ほど前、とある雑誌で見た「コホモロジー」という単語を一
回勉強したはずなのに完全に忘れている自分に気付いたのが、数学勉強再開の
契機だった。数々の本を読み直し、新規に読み、結局、大学院当時も、読み直
した今も、やっぱりピンとは来ないものであった。
この本で、少なくともドラムコホモロジーまではかなり手触りを持って理解で
きた。今の目で考えると、「微分・位相幾何」、「理論物理学のための幾何学
とトポロジー」、「物理学における幾何学的方法」など読んだなら、ドラムコ
ホモロジーは理解できてもよかった気もするが。
結局物理に必要なのは、物理であって、数学ではないのかなとか思ったりもし
た。

たしか杉原「トポロジー」の後半が、(読んでないけど)、ホモロジーの計算論
だったと記憶している。たとえば、ネットワークや、リンクのようなグラフか
らホモロジーが計算できたら、おもしろいことはあるだろうか。

1章

わりかし標準的な概観。序章では果してコホモロジーが実世界で生きる分野
があるか、という問いに少しネガティブに答えている。

2章

ホモロジーの説明。なるほどね。杉原「トポロジー」でホモロジーはなんとな
く計算できるようになった私としては、納得。トーラスは、三角形二つでは、
単体分割したことにならない(頂点が重なってしまう)のだけど、でもそれでも
三角分割にはなっているじゃん、と数々のトポロジー本を読んで思っていたけ
ど、「心を広く持」てば、それでもオッケーなのね。

ああ、ああ、
この本を読んでいて、コホモロジーがなんか突然判った。
  ∂43210
0 → C3 → C2 → C1 → C0 → 0
みたいな鎖群と境界作用素による系列に対して、コチェイン(双対鎖群と訳す
のか?)の系列
  δ0   δ1   δ2   δ3   δ4
0 → C0 → C1 → C2 → C3 → 0

がある、というのは、判っていたつもりだったけど、わかってなかった。

コチェインのチェインに対する作用を境界作用素で引き戻したものがコバウン
ダリー作用素(双対境界作用素と訳すのだろうか)である、という絵を見たらわ
かることが、今更わかった。

C0の元は、C0の双対であるから、α∈C0, a∈C0 で、ベクトル空
間(体上、環上でもいけるかな)であれば、
α・a=α1a12a2+....+αnan
である。ここで、C0がn次元だとしている。つまり、C0が縦ベクトルな
ら、C0は横ベクトル。

さて、∂1は、C1の元に作用して、C0の元に写像する準同型写像だか
ら、C1の次元が m なら、∂1は、n行m列の行列表示ができる。

b∈C1  b=(b1...bm)に対して、

∂1b
=(.... )(b1)  ∈C0
 (     )(b2)
 (     )(  )
 (     )(bm)
 (n行  )

α∈C0 が与えられているとき、α(∂1b)で、b∈C1 への作用を導出
できる(引き戻し)。つまり、α*b=α(∂1b)。
これにより、α∈C0 → α*∈C1 という変換ができた。これが δ1。
具体形は、
α(∂1b)
=(α1...αn)(....)(b1)
            (    )(b2)
            (    )(  )
            (    )(bm)
            (n行 )

=(αδ1)b
だから、
(α1...αn)(....)
           (    )
           (    )
           (    )
           (n行 )
でαのδ1による変換がかける。Rnで考えれば、
∂1を転置したものが、δ1。

つまりまさにdualということか。

δはなにか神様が勝手に付与するマップのようなイメージがあったが、きっち
りおいかけられるのね。

ちなみに、このコチェインがチェインの双対、という説明なしに、コホモロジー
はホモロジーの双対、という説明をしているケースがあるが、環上の鎖群の場
合は必ずしもそうではないそうです。勉強になるなあ。

3章

R上のチェインに対してR値になる線型作用、として、一番イメージしやすいの
が、
 チェイン は 微少図形素 である。
 微少図形素一つ一つに数値を与えて自由加群になっている→微少面積素
 微少面積素一つ一つに数値をかけて、線型和を取って数値となる→積分
 微少面積素一つ一つに面積とかけ合わせられるべき数値が載っている→Form場
というストーリーがあって、ドラムコホモロジーが出てきました。

4章

さあ圏論だ。おおこんな所に入射的(単射的)加群が。これの双対の射影的加群
が「環と体1」に出てきてわかんなくて悩んだんだ。

まず、加群の準同型とは、
f(a)+f(b)=f(a+b)
である。したがって、加群 Zで、
Z→2Z
f(a)=2*aは、
2a+2b=2(a+b)
1+2=3
2+4=6
であるから、これは準同型。

環の準同型とは、
f(x+y)=f(x)+f(y)
f(x*y)=f(x)*f(y)
f(x)=2*xだと、
2(1+2)=2*1+2*2はOK
2(1*2)=2*1*2*2=8 はダメ。

R加群の準同型とは、
f(ax+by)=af(x)+bf(y)
f(x)=2*xだと、
2*(ax+by)=a(2x)+b(2y)=af(x)+bf(y)なので、
R加群としてのRであっても、
f(ac+bd)=2*(ac+bd)=a(2c)+b(2d)=af(c)+bf(d)なので、準同型

ふむふむ。

単射的分解。というのが、単体分割の抽象化にあたるのか。

任意のR準同型写像
g:L→I
とR単射
h:L→M
が与えられたとき、常にR準同型 f:M→I で g=f・h を満すものが作れるとき、
IをR単射的加群と呼ぶ。
任意の R加群 M には M⊂I の R単射加群Iが存在する。

例     Z加群Zn に対しては QnがZ単射加群で、Zn⊂Qn

Znは、Z単射的加群になれないのだろうか反例をあげよ。
Z準同型写像
g: L=Z→Z
(id)と、Z単射
h: L=Z→M=Z
h(x)=2x を考えよ。
m*2a+n+2a=(m+n)*2a∈Z
だから、hは準同型写像。
g(a)=aなので、f(h(a))=f(2a)=a
とならなければならない。f(a)=a/2 で、Z準同型じゃない。と思う。
ma/2+na/2=(m+n)a/2 ∈Z[1/2]
Z[1/2]
hは任意なので、3Zへの変換、4Zへの変換も当然ありで、結局、fは、Q準同型
変換でないとだめ。ということかなあ。しかしそれは、IがQであることを言っ
ているわけではないのだが。


任意のMに対して、M⊂I0なる単射的加群I0が存在する。(とりあえず認める)。
0→M→I0→I0/M→0
は完全系列。ここで、I0→I0/Mは全射。I0/M⊂I1 となる単射的
加群I1が存在する。(さっき認めた)。
すると、
   g    i
I0→I0/M→I1
なる包含写像iがある。包含写像なので、i(x)=x。したがって、
Ker(i・g)=Ker(g)=I0/M
ということで、
0→M→I0→I1
まで、完全系列。次は、
       i   h
0→I0/M→I1→I1/(I0/M)→0
という完全列。Ker(h)=Im(i)=I0/M=Ker(i・g)。したがって、
I1/(I0/M)⊂I2 なる単射的加群I2が存在する(2度も認めた)ので、
0→M→I0→I1→I2
が完全。なるほど。(ここまででどこに I が単射加群であったことが使われた
んだろう)。

     ∂01
0→I0→I1→I2

にすると、0→I0→I1の部分が完全でなくなり、コホモロジー複体にな
る。Ker(∂1)=M, Im(0)={0}, H0=M, のこりは完全なので、Hn=0, n>=1。

さて、ここで、Tを左半完全共変関手とする。T(M)=HomR(E,M) これがなん
で左なのかはよくわからない。共変関手は、
 f
M→N
を
   T(f)
T(M)→T(N)
と変換する。反変なら、矢印は逆。
 E→M→N
 N→M→E

完全系列
0→L→M→N→T
に左半完全共変関手を作用させると、矢印の向きは変わらないが、
0→L→M→N
完全系列はここまで。M→N→Tの完全性は保証されない。

ということで、単射的分解に対して左半完全共変関手を作用すると、矢印はか
わらず、
0→T(M)→T(I0)→T(I1)→T(I2)→
ここで、T(I0)→T(I1)→T(I2) 以降は既に完全でない。さらに、
0→T(I0)→T(I1)→T(I2)→
とすると、最初の矢印も完全でなくなり、コホモロジー複体となる。
 R0T=H0=T(M)、RnT=Hn n>=1は関手の取り方による。


射影的分解は、
0←M←P0←P1←P2←
したがって、
0←P0←P1←P2←
はホモロジー複体これに、左半完全反変関手を作用。反変なので矢印は逆。
0→T(P0)→T(P1)→T(P2)→
これは、コホモロジー複体。
 R0T=H0=T(M)、RnT=Hn n>=1は関手の取り方による。

T1(M)=Hom(N,M)
T2(N)=Hom(N,M)
Extn(N,M)=RnT1(M)=RnT2(N)

Torn(N,M)は、これの反対で右半完全関手を取ったものらしい。

イメージはなんとなくわかった。スペクトル系列も、2重複体をななめに行っ
てるんだろうな、くらいのことはわかるわけだ。

5章

うむむ。むずかしいぞ。
たぶん、どこにも説明がないけど、1,2,3章で導入してきたコホモロジーの考
えかたを、4章で一気に一般化して代数の道具とし、5〜8章はそれぞれの分野
での応用ということなんだろうな。

層、層係数コホモロジー、スキーム。
座標環あたりまでは雰囲気はわかるのだけど。スキームはむむむ。。

最後の数節はついていけない。

印象に残った言葉
C2内でf(x,y)=0によって定義される代数曲線Xを考える。集合としては、
(f(x,y))k=0で定義される集合X'とXは区別がつかない。Xの座標環
R=C[x,y]/(f)まで考察すると、これはX'の座標環R'=C[x,y]/(fk)とは同型
でないので区別がつく。X上の点とRの極大イデアルは1対1に対応しているか
ら、座標環Rから曲線Xを復元することができる。したがって、XよりRのほう
が情報を多く含んでいる。

6章 数論のコホモロジー

だめだ。さっぱりわからない。完全に右から左へ。通過状態。

これ一般公開講座で理解できたんだろうか。一般大衆は。

印象に残った言葉
コホモロジーはさまざまな幾何学的対象と、それらの間に網の目のように
張り巡らされた関係についての総合的な理解を可能にするような「世界の記
述のことば」とも言える。

7章 佐藤超関数

ここにきて、層、層係数コホモロジーがちょびっとわかってくる。やっぱり具
体例を上げられると少しは。

8章 D加群のコホモロジー

あ、これはおもしろい。D加群の層の間の写像に関手をかけてコホモロジー複
体を得ると、0次のコホモロジーが解空間、1次のコホモロジーが微分方程式の
非斉次方程式に拡張した場合の正味の自由度(ゲージ自由度で割っているのか)
なんて、とっても楽しい。

ただ、関数の層のHom(・,F)の系列
     P0  P1
0→F1→F2→F3
に対して、

P0=(D1)
   (D2)

P1=(D2 -D1)

でコホモロジー

H0={u∈F1|P0u=0}
H1={f∈F2|P1f=0}/{Pu|u∈F1}

を作るというのは、よくよく考えたら、0形式uと1形式fから、外微分dについて
H1=Ker(d)/Im(d)
でコホモロジーを作っているのと同じではないか。

du=D1udx+D2udy=P0u・dx
df=d(f1dx+f2dy)=D2fdy∧dx+D1fdx∧dy=(-D2f+D1f)dx∧dy=P1fdx∧dy

だから、まさにそのまま。D加群のコホモロジーとドラムコホモロジーは、割
と近いのね。

「加群十話」の最後の章はD加群で、加群に疲れてしまって読むのをやめたの
だけど、もう一度借りて読んでみようか。