群の発見

原田耕一郎

2001年末の刊ながら、すでに名著の呼び声高い本。
ガロア理論を軸にして、19世紀、群という概念が生れていく様子を描いた本。
私は群は、多面体などの研究から生れたものだと思っていたので、群論の直接
の契機は、方程式論だったと聞いておどろいた。読み初める前は全く予期して
なかった。

物理において群論は、結晶構造を記述する点群と、ゲージ対称性を記述するリー
群しか出てこない。(か、どうかは分野にもよるだろうが)。とするならば、物
理屋は、群論の中心を勉強してないんだな。

「環と体」を読んで思ったのだが、物理屋は本当に代数学を勉強してない。で
も実は代数学は、ちょろちょろ物理に入りつつあるのではないだろうか。
「リー環」なんて、結構使う人は使うし。

私はリー群とリー環とリー代数の意味がいまだピンと来てないので、リーと言
われた瞬間に思考停止する。また、コホモロジーとかホモロジーとか言われる
と目の前が真っ暗になったりするが、結局、解析学は、それなりにやったもの
の、代数学の柱が立ってないのが原因の一つかも知れない。

数学における、いくつかの柱のうちで最も太いものの一つであろう、代数学の
柱を藁の柱で立てておいて、解析学、微分幾何、トポロジーなんてのを周遊し
ようとしても、いつも同じような穴にはまってしまう。

「環と体1」は、2章読んだ所でダウンしたが、(予期してなかったことに)、こ
の「群の発見」は、「体論」がメインなのだった。そして、ガロア理論は、現
代数学の基礎シリーズでは、「環と体2」に含まれている。今年は、「加群十
話」にはじまって、「ヤング図形の話」、「環と体1」、「群の発見」と、代
数を中心にやっていることに、今さら気付いた。
今年は代数学、という啓示なのかも知れない。


さて、この本だが、実は結構読み難い。日本語的に、ちょっと、な所が多いの
だ。「エッセイ群論」が、エッセイとして成功するためには、やっぱり地の文
がまっとうでないと。私が正しい日本語の読み手であると主張するつもりもな
いけど、その私にも、おかしい、と思える記述が結構ある。
日本語の校正は、エディタの仕事だと思うが、岩波編集者は口を出さ(せ)なかっ
たのだろうか。

内容的に、新しいことをいっぱい知ることができたし、数学者が(物理学者も
だが)、地の文で、問題意識や理論の価値、話のバックグランドを語るのは、
問題を一段上から眺めることができるので、すごく勉強になる。その語り口が
今一つなのが、とても残念。

図書館から借りたため、返却日がきてしまった。しかも予約者ありで、延長で
きない。残念だが、ここで一旦返却する。3章まで読み終えたこととし、4章か
ら次は読むことにしよう。

1章

書いてみればわかる、という感じ。それは、いいこと、なんだけど、エッセイ
としてはどうかな。この本のターゲットは例えば数学好きの高校生も入ってる
と思うけど、やっぱりちょっと難しいと思うよ。導入部は、フンフンと読めな
きゃ。
本当は難しくないことを、説明を1行省略したために、難しく感じさせてしま
うことは、損なのだと思う。

(私の中では)シンメトリーは形容詞なので、シンメトリーが何個あるとか言わ
れるとちょっと違和感ある。

2章

3次方程式や、4次方程式は一般解が知られている。その求め方の説明なんて初
めて読んだ。知らなかった。
ま、最近では2次方程式の解の公式も忘れてしまって、必要になるたびに平方
完成して解の公式を作ってる私ではあるが(そういう人多いと思う)、
この方法を覚えると3次方程式もアドホッキーに解けるようになるか?(A. 3次
方程式の厳密解が必要になる事はまずない)。


3次方程式の解き方はなかなかおもしろい。メモしておく。
x3+a1x2+a2x+a3=0
は、x=y-a1/3 とすると、
y3-a1y2+a12y/3-a13/27
  +a1y2-2/3 a1y+a12/9
      +a2y-a1a2/3
      +a3=0
ということで、2次の項はおちる。整理して、
x3+px+q=0                              ..............(1)
と書き直す。
x=s+t と二つに分割して変数変換する。
(s+t)3+p(s+t)+q=0
s3+t3+q+3st(s+t)+p(s+t)=0
これを、
s3+t3=-q                    ..............(2)
3st=-p
と書いて、連立方程式と見る。
第2式は、
s3t3=-p3/27      ..............(3)
と書ける。
ここで、解がy1,y2である、変数yの2次方程式は、
(y-y1)(y-y2)=0
y2-(y1+y2)y+y1y2=0
と書けることを思い出すと、(2),(3)から、s3と、t3は、
y2+qy-p3/27=0
という2次方程式の2解である。s, t自身は、この解の3乗根。この2次方程式の
2解の3乗根をs,tと書いておく。
ここで、
ω=(-1+√-3)/2
が、1の3乗根(ω3=1)であったことを思い出すと、
(3)を満す解は、(s,t)のみでなく、
(ωs,ω2t), (ω2s,ωt)でもよい。ということで、
x=s+t, ωs+ω2t, ω2s+ωt
が方程式(1)の3解。

4次方程式は、3次の項を落して、補助変数を入れてやると、平方完成できるよ
うに補助変数を選べる。この補助変数の決めるのに3次方程式を解いてやらな
ければいけない。ということで、3次方程式が解けている今、4次方程式も解け
るのであった。

という話は、この本的には、ネタふりで、本命はラグランジュの定理から、ル
フィニ、アーベルによる5次方程式に解の公式がないことの証明。

ところで、この本の主役は、ガロアとアーベルなんだけど、5次方程式に解が
ないことの証明はガロアがやった、と 1章で主張してような気がしていたのに、
2章では、その証明はアーベルがやった、と思いきや、最初にその証明をやっ
たのは、不完全ではあったかも知れないが、ルフィニだった。
なんというか、数学界のアイドル、ガロアとアーベルが主役の本なのに、どう
してもなかなか彼等がトップに出てこない。

べき根拡大。なかなかどうして、さっぱりわからない。
体Kに、ある元(元といいつつ、u∉Kが条件なのか?)を添加したものを、
a+bu∈K(u)とかく(a,b∈K)。(割り算も入れると有理式にすべきだろうが)。
ここまでが、体Kの拡大。K(u)/Kと書く(この書き方は商体みたいだ)。

さらに条件として、L=K(u)であって、u∈L, up∈Kであり、
upは、Kの元のp乗で書けない、また、u∉Kのとき、LをKのべ
き根拡大とよぶ。(べき根拡大の記号を定義して下さい)。

たとえば、
f(x)=x2+a0x+a1
なる体K上の2次関数(K(a0,a1))に対して、f(x)=0の解は、
x1,x2=1/2(-a0±√(a02-4a1))
であるが、これは、体K(a0,a1)内では書けてない。
Kに、√(a02-4a1))を添加した体で書けている。
(√(a02-4a1)))2∈K(a0,a1)
であるから、K(x1,x2)はK(a0,a1)のp=2のべき根拡大。

K(1のn乗根を十分に含む)のa1/30による拡大(a∈Kの不定元)。
L=K(a1/30)     (a1/30)30∈K
   L=Σa_k*ak/30
30=2*3*5
K1=K((a(1/30))6=a1/5)       (a1/5)5∈K
K2=K1((a(1/30))10=a1/3)     (a(1/3))3∈K⊂K1
K3=K2((a(1/30))15=a1/2)     (a(1/2))2∈K⊂K2
L=K3
高さ3のべき根拡大と言える。

ルフィニ-アーベルによる5次以上の方程式にベキ根表示がない、ことの証明。
まず、問題は、
f(x)=xn+a1xn-1...an
とするとき、f(x)=0の解は、x1,...xnは、C(a1,...,an)
のベキ根拡大体で書ける、つまり、C(x1,...,xn)が存
在すること、が不可能なことの証明である。

C(x1,...,xn)の2元u,vが、up=vであったとする。pは素数。
このとき、vが、(1,2,3),(3,4,5)で不変なら、uも(1,2,3),(3,4,5)で不変。
σ=(1,2,3), τ=(3,4,5)として、
σv=σ(up)=up
((σu)u-1)p=1
したがって、
σu=ζσu
ζσは、1のp乗根の一つ。
τu=ζτu
τσ=(1,2,3,4,5)
τσ2=(1,3,4,5,2)
τσu=ζτζσu
τσ2u=ζτσ)2u
(τσ)5=(ζτζσ)5=1
(τσ2)5=(ζτσ)2)5=1

(ζσ)p=1
(ζτ)p=1
(ζσ)3=1
(ζτ)3=1
(ζτζσ)5=1
(ζτσ)2)5=1

ζστ=1しかありえない。
σu=u, τu=u

さて、aiは、x1..xnの対称和で書かれているから、
C(a1,...,an)は、xiについて(1,2,3),(3,4,5)で対称。
べき根拡大体が存在すれば、
C(x1,...,xn)もxiについて、(1,2,3),(3,4,5)で対称。
ところが、解空間では、例えば、
x1∈C(x1,...,xn)
これはあきらかに、(1,2,3)で非対称。したがって、
C(x1,...,xn)なるべき根拡大はない。

(1,2,3),(3,4,5)以外の場合には、なにか制限はつかないだろうか。

(1,2),(2,3)
σv=σ(up)=up
((σu)u-1)p=1
σu=ζσu
ζσ2=1
τσ=(1,2,3)
τσ2=(2,3)
(ζτζσ)3=1
ζσ2=1
ζτ2=1
ζστ=1,-1

(1,2,3),(2,3,4)
τσ=(1,2)(3,4)
τσ2=(1,3,4)
(ζτζσ)2=1
(ζτσ)2)3=1
((ζτ)2ζσ)3=1
ζσ3=1
ζτ3=1
ζστ=1
ζσ=ω,ζτ2
ζσ2τ=ω

なるほど、少なくとも、up=vのときvが対称ならuも対称、とはな
らない。

3章

体のシンメトリーという意味。
同型写像が存在するとき、シンメトリーが存在する。
特に、p(x)を既約なK係数n次多項式。p(x)=0の解の一つをαとすれば、
 K/(p(x))=K(α)
(既約多項式→極大イデアル、による剰余環は、体である。さらに、それは、K
に既約多項式の=0の解を一つ添加した拡大体と同型である)。
K(α1)=K(α2)
別の解を添加した拡大体同志は、K/(p(x))を介して同型である。
K(α1)とK(α2)をつなぐ、シンメトリーが存在する。

ちょっと油断しながら読んだら、ガロア拡大は、今一理解が浅くなっている。

K係数方程式、f(x)=0の解を{α1,..,αn}とするとき、
K(α1,...,αn)を、K(β1)と単純拡大に書き変える。β1は既約方程式 g(x)=0の解。
このとき、g(x)=0の別解をβ2とすると、K(β1)≅K/(g(x))≅K(β2)。
Kを固定して、β1をβ2に写す写像をψとすれば、ψ(f)(x)=f(x)なので、
ψ{α1,..,αn}={α1,..,αn}
したがって、K(β1)=K(β2)。(イコール。同型より強い)。
したがって、ψはK(β1)のシンメトリー。g(x)をs次とすれば、K(β)/Kは、
s次の拡大。一方g(x)=0の解は、s個あるから、
シンメトリーは、s個
従ってK(α1,...,αn)は、Kのガロア拡大。

で、この「シンメトリーはs個」のところだが、一瞬K(β1)→K(β2)にするシ
ンメトリーが1個、と思ったので、sC2個のシンメトリーがあるんじゃないか?
とか思う。
シンメトリーがs個とは、シンメトリーの位数がsという意味らしい。あるいは
シンメトリーの元がs個。(シンメトリーという単語は、対象変換という意味と
私の頭では変換されている)。

4章

やっとおなじみの群論。コセット、共役類分解。
gH={hi} k個
|G|=|H|*[G:H]
コセットの分解は、上に・のついた∪で、重なりのない分解を表わしながら、
共役類分解では単なる∪での分解で、なにが違うのか考え込む。
Cxと、Cx'が被ったら、
gxg-1=g'x'g'-1
x'=g'-1 g x g-1 g'
x'=(g'-1 g) x (g'-1 g)-1
であり、g'-1 g∈G であるから、Cx=Cx'となる。
ということで、やっぱり共役類分解も・∪でいいと思った。
コセットの場合、単位元を含む部分群のサイズとすべてのコセットのサイズが
等しくなる。

gxg-1=g'xg'-1 ⇔   gCG(x)=g'CG(x)
つまり、共役なもので分類した数は、中心化群のコセットの数に等しい。

S5の部分群
位数1
  {1}
位数2
  {1,(12)} など
位数3
  {1,(123),(132)}など
位数4
  {1,(1234),(13)(24),(1432)} 1234 2341 3412 4123
位数5
  {1,(12345),(13524),(14253),(15432)} 12345 23451 34512 45123 51234
位数6
  {(12)(345)のn乗} 12345 21453 12534 21345 12453   21534
    {1, (12)(345), (354), (12), (345), (12)(354)}
位数8
5を固定し、
 1 2
 4 3  という正四角形の空間対象群
   1234 2341 3412 4123
   2143 1432 4321 3214

位数10

位数12
  A4
  5を固定して、1234を偶置換 4!/2=12
   1234 2143 3412 4321 
   2314 3124
   2431 4132
   3241 4213
   1342 1423

(位数15)

位数20

位数24
  S4
  5を固定して、1234を並べ変える群  4!=24

(位数30)

(位数40)

位数60
  A5  交代群 5!/2=60
  (12)(34)                  5C4*4C2/2=5*6/2=15
  (123)=(12)(13)            5C3*2=5*2*2    =20
  (15432)=(15)(14)(13)(12)  5!/5=4*3*2*1   =24
  I                                          1
  15+20+24+1=60

位数120
  S5

シローの定理。有限群論の究極の定理、と書いてあるのに、私の持っている、
物理学者を相手にした群論の本
 「群と物理」(佐藤)
 「群と表現」(吉川)(理工系のための基礎数学シリーズ)
 「応用群論」(犬井)
 「物理学におけるリー代数」ジョージアイ(これは群論の本か?)
の、どれにもシローの定理は出てこない。

シローの定理全然わかんない。という所で、中断することになってしまった。

$Date: 2003/09/25 15:23:57 $ (GMT)