ヤング図形のはなし

昨年末の「加群十話」いらい、ヤング図形に魅了されている。
ヤング図形とは、□を左上寄せで並べた図。

□□□
□□
□□
□

みたいな図。ここに、数字をいれる。その入れ方からいろいろなものが見えて
くる。
n個の箱に1からnまでの数字を並べるのに、右、下ほど大きくなるように並べ
ると、その並べかたから、n次の置換群の既約表現が出てくる。
素敵だ。これを「加群十話」で知って、ヤング図形っておもしろい、と思って
しまった。

あるヤング盤の'形'λに対する数字の入れ方をf(λ)とすると、
n!=Σf(λ)^2
という関係がある。
試してみる。n=3の場合

λ=□□□  123    f(λ)=1

λ=□□   12  13 f(λ)=2
  □    3   2

λ=□    1      f(λ)=1
  □    2
  □    3

1^2 + 2^2 + 1^2 = 6 
3! = 3*2*1 = 6
正しい。この本「ヤング図形のはなし」は、この式を軸にヤング図形を遊ぶ本
である。

ヤング図形に1個箱を加えるオペレータをU, 1個箱を取るオペレータをDとする
と、DU-UD=1 となる。やってみる。

   U      D
□□ → □□□ → □□ □□□
□    □     □

   → □□  → □□ □
     □     □  □
     □        □

   → □□  → □□
     □□    □


   D      U
□□ → □□  → □□ □□□
□          □

   → □   → □□ □
     □     □  □
              □

ということで、引き算(DU-UD)は、横3つと縦3つはそれぞれ1個ずつあるのでキャ
ンセルし、元と同じ形が(3-2)個だから、元と同じ形が一個残る。DU-UD=1 。
このDU-UD=1を使うと上のf(λ)^2と n!の関係の式が証明できたりする。

物理の人は、[D,U]=1と書いて、量子化とか思ってしまう。なにが量子化され
たんだ?
これは、Differential poset(partially ordered set)の一般的な性質だそうで
す。と言われるといわゆる量子化、たとえば、角運動量の合成stateの系列は、
Differential posetなのか?とか思う。(ちがう[少なくとも定義通りではない]、
でも、直積表現と半単純盤との関係はあるんだから、関係あるんだろうな)。
Differentialなんだから、そりゃまあポアソン括弧と関係があるとか考えてみ
たりする。結晶の成長みたいなものと考えて、モデルを、とか思ってみる。

この辺の話は、なんかわくわくしてしまう。

シュペヒト多項式との関係から、標準ヤング盤がCnの既約表現と対応している、
という4章以降の話は、「加群十話」を読んだときより感動はなかった。
知ってるから、というのもあるが、
噛み砕いて説明しているのが、噛み砕かれすぎて、論を追うのがかったるくなっ
てしまうのだ。「加群十話」では、迷子になってしまうことがあったが、「ヤ
ング図形のはなし」では、迷子にはならないが、渋滞に巻き込まれてしまう。
半ページほど苦労して苦労して、読んでから、「そりゃまあそうだろう、」み
たいなことを思ったりした。まあ、はやとちりが多い人間ではあるのだが。
表現の既約分解、ということの意図するところが、(やりすぎくらい)具体的に
よくわかった。

ちなみに、リー群の表現で出てくるヤング図形は、2つの表現の直積表現の既
約分解を求めるのに使うのだけど、
上と同様、同じ列に同じ数字の登場を許さない(反対称だから)が、同じ行には
同じ数字の登場を許す。また、下には < 、 右には <= でヤング盤に数字を入
れたもの、で、半標準盤というものになる。

この本には半標準盤のことは、「おわりに」で触れられているのみ。半標準盤
の表現論的解釈とGL(n,C)の直積表現、というのが、最後の最後の3ページほど
に触れられている。けど、あまりに簡略すぎて、私には具体的イメージを描く
のは難しかった。