熱力学 -- 現代的な視点から --

熱力学は難しい。
等温過程と断熱過程を組み合わせてカルノーサイクルをまわして、というのが、
熱力学と思ってた。
統計物理学の現象論としての熱力学というイメージであった。

しかし、熱力学は、独立した学問であり、統計力学が熱力学で正当化されると
いうのがこの本の立場。それは判る。
いつもいつも混乱してしまう、等温過程の定義と断熱過程の定義が久しぶりに
ちゃんとイメージできた。
  等温過程:一種類の熱浴と熱交換を許す。途中はどうなってもいいが、最終
            的には熱浴と平衡になる。
  断熱過程:外界との熱の交換を許さない。

あと、間違えていたのは、断熱過程で体積を増やす時、温度はどうなるか。
答えは、変わらない。
断熱材でできたシリンダーに気体を詰めて、一気にシリンダーを抜く。この時
外界は真空であると、より判りやすい。気体の入った部屋と真空の部屋をつな
いで、穴を空ける、と言っても良い。
体積は増え、気圧が下がる。外界が真空であれば、外から仕事はしないので、
温度は変わらない。
なんとなく温度は下るような気がしていたんだが。
ちなみに、シリンダーを挿入して体積を減らすときは、外界から圧力以上の力を
加えて仕事をすることになるので、温度は上る。
(こっちで温度が上るので、逆は下ると思い込んでいた)。

でも、この本は、はっきり言ってしつこい。
この本の方針が他と違うことは良くわかったが、何度も言われると疲れてくる。
それから、物理の哲学的な話をされると、私はノンポリなので、困ってしまう。

ルジャンドル変換に関する図的な説明はなかなかわかりやすくてよかった。
ブラックホール熱力学のように、統計的バックグランドが見難い対象にたいし
ても熱力学の手法が通じるのだ、ということが触れられても良いのではないか
と思った。