大正四年の七月に樺太を先に訪れ・・・北海道に帰ってきて紫雲古津を訪れます それを記録しておられたので・・・紹介致します ----------------------------------------------------------------
九月二十六日 紫雲古津ノアイヌ部落ニ着ク まず為之助の家に荷物を卸す。障子 唐紙欄間仲々美シク住マエリ。奥の二間ヲ客座敷ニシテ宿屋ヲモ兼タル如ク 店ニハ菓子雑貨アレド見ルカライタク寂ビレタルハ例ノ主人為之助 内地ヨリ連レ来リタリトカイフ女ト別所帯ヲ余所にカマヘテ内ハ顧ミザルモノナルベシ。 田園遠ク開ケテ好箇の農村ナリ。豚鶏ナド南瓜畑ササゲ畑の下などを出入してゐる。 畑中の径のT字形になった所に大吉の家あり。訪へど黄昏にて内は暗がりに ひっそりとして人一人なし。側の家にてイナキミとやらを蓆にひろげて 穂をうつ女の子どもあり聞けば山に椎茸とりに行って留守なりといふ。 沙流川のほとりまで出て回顧するに、画図の中にあるが如き農村 あすよりこの側に田園生活をするのと思へばうれしさ云ふばかりなし。 ウトウリクの家と問ヘバ路傍にあり、唐もろこしをかかへて戸口を入らんとする 老爺その人なり、涙に咽んで挨拶す。感動する。
帰りて、為之助の妻君に逢ひ、夕餉をしたいとて其の話をしてみる さすがウレシバウクの女子だけありて様子言語すっかり日本化して 立派なものである。志ばらくあってコポアヌ大吉相伴ってやって来た ニコニコ笑って久久闊を喜ブ心顔ノ面ニアフレテ居ル ミヤゲモノ取り出シテヤルト 二度三度押戴イテ子供ノヤウニ嬉シガルノモ可愛ユイ。 十時頃帰ッテ行く。寝タ
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九月二十七日 午前?為之助の家から大吉方へ引越ス。 今日一日ハ、バッコ大吉ミナ内に居テ仕事ヲ休ンデ歓待ス 大吉ハ女ノスル事男ノスル事スベテヒトリデ気ノツクママニ働イテ ランプ掃除モ膜?部ノ拭清メモ、茶器机身ノマハリノ事マデ、ミナヒトリデ ヤッテクレル板マデ掃イテイタハル故、下手な祖?屋ヨリモ尻心ヨシ 取りアヘズ故ワカルベ爺ノ家に盲妻ヲ訪フ、ミンダラカタニ糸ヲシテ居タ カスカニ仰グヤウニシテ又病シ手ヲモミテ二言三言浮泣嗚咽 物モ云ヘナクナッテ泣ク。ウレシパトクニ逢フ。ヤハリソノ通り。 真情流露モラヒ泣キヲシテシマッタ。尚遺児エマチヲ見ントピタラパ村ヘト行ク。 山ノ上ニ山村アリアイヌ家五六軒書ニカイタヤウ。トッツキノ家ノ内ニ 白髪白髭ノ老爺ノ夫婦アルヲ、ヨソナガラ見テ隣家ヲ訪フ。 エマチ運動服ヲ着テ遊ンデ居タ。スグナレテ手元ヘヨッテ来ル。 母ハ涙ナガラニ跛イテ先年来ノ礼ヲ云っッテ居ル。 今日紫雲古津ヘ来イト云ッテ菓子ナド与ヘテカヘル。カエリシナニ 老爺ノ家ヲ訪フ。筵戸リワトテ音ニキキタル故老ナリ。 ワカルバ東京ヘ来ル中病篤ク カムイノミシテ来タトイフ老爺ナレド 老爺ハ依然丈夫ニナッテワカルバ亡シ。イロイロ物語リ ヘカチニ酒ヲ買ハシム。シリカプのハイにて造れる箸みやけ゜すとてくれる。 ウタリ沢山つどひ色々の宝物見せる。唐もろこしを焼いてふるまふ。 慇懃にカムイノミしてをくる。辞し去る一つ谷を下りて又山道へかかる ウタリ皆々老幼門に立ちて見送っている。帰りに店へよって米一俵に 二三の器具を求めて帰る。 この夜酒二升に米、菓子など買ひて、故老爺の亡くなったウレシパツ゜クの 家にてシンヌラッパをする。一村の人をあつめ酒イユシ酒サンケ ウヤイペカレシテカムイノミシ来つどひたる五十余人の老幼に 米ノ飯と菓子とイチャラバして歓を盡し、夜更けてメノコだち
ホリッパ、ウポポ盛んなり。男も立ちてサケハウし、歓歌?(べん)舞 夜ノ更くるを知らざるものの如し。 (この日初めて鮭一尾取れる。ウレシパツ゜クの婿捕へたり丁度この 度の振る舞いになれるも、神の遣ハされたるものにて、 丁度ニシパのこんな催しあるのに加へしめられたるなるべしと口々にいふ)
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九月二十八日 故ワカルバノ盲婦、イムーバッコ来り語る
九月二十九日 サンゲレキノ妹バッコ来ルウトムリウク来ル大吉妻 シュクモノク門別ヨリ来リ家ノ世伝ヲ見ル
九月三十日 終日バッコノユカラヲ聞ク
十月一日 八郎ノ病状ヲ訪フ。午後ヨリ新平賀ノサンゲレキヲ訪フ 夜若者ノユカラヲ聞ク
十月二日 バッコノカムイユカラヲ聞ク、ウトムリウクも来テ カムイウパシクマヲ教フ
十月三日 山門別ヨリ馬ニテシェクモノカ迎ニ来ルマデウテカレバッコニ カムイユカラヲキク、昼少シ前シュモノク馬ニ頭小馬ヲ率イテ来ル 昼飯ヲタベテ大吉ト三人ニテ沙流川ヲ馬デ渡シテ?田ノ牧場ヲ 横ギリ黄バンダ山路柏ノ下萩の中
四日 門別ニ目サム
五日 ウテカラバッコ ト ユカラ ス
六日 ウテカラバッコ
七日 門別ノ馬市ヘ行クツモリデアッタガ ヨシテ バッコタチノユカラヲ聞ク
八日 バッコダチトユカラ ス 終日雨
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