昔々あるところに、2人の男がおりました。
1人は領主の息子、もう1人は大商人の息子で、
2人は毎日、働きもせずに 家のお金で遊んでばかりいました。
2人は友人であると同時に、ライバルでもありました。
商人の息子がダイヤの指輪をしてくれば、
次の日、領主の息子はもう少し大きなダイヤの指輪をしてくる。
その次の日には、商人の息子がさらに大きなダイヤの指輪を。
2人はそんな仲でした。
2人には共通の想い人がいました。
彼女は町一番の美人で、働き者で、器量良し。
2人は彼女の気を惹こうと、
競うように高価な服を買い漁り、着飾ります。
ライバルよりも高価なものを彼女の前で披露することが、
彼らの喜びでもありました。
そんなある日、領主の息子は彼女に尋ねました。
「僕と商人の息子、どっちの方が格好良いと思う?」
彼女は答えました。
「あなたは商人の息子の100倍 格好良いわ」
それを聞いた領主の息子は有頂天。
その話を 商人の息子に自慢げに語るのでした。
しかし、商人の息子はその話を信用しませんでした。
「僕の方が 領主の息子よりも ずっと格好良いはずだ」
次の日、商人の息子も彼女に尋ねました。
「僕と領主の息子、どっちの方が格好良いと思う?」
彼女は答えました。
「あなたは領主の息子の100倍 格好良いわ」
それを聞いた商人の息子は、急いで帰って
領主の息子に言いました。
「この嘘つき! 彼女は僕の方が100倍格好良いって
言ってくれたぞ!」
「そんな筈はない。だって彼女は確かに 僕の方が100倍
格好良いって言ってくれたもの」
「それじゃ、彼女が嘘をついているってことか?」
「さあな。だが、確実に言えるのは、僕・君・彼女の3人のうち、
少なくとも誰か1人が嘘をついているってことさ」
「僕は嘘なんかついていないぞ」
「僕だってついていない」
「だったら仕方がない。彼女に聞いて、確かめてみよう」
2人は彼女を呼び出しました。
彼女がやってくると、まずは領主の息子が彼女に尋ねました。
「ちょっと確認したいことがあるんだけれど、いいかな。
君は僕に『商人の息子の100倍格好良い』って言ってくれたよね」
「ええ、確かに言ったわ」
次に商人の息子が彼女に尋ねました。
「君は僕にも『領主の息子の100倍格好良い』って言ってくれたよね」
「ええ、確かに言ったわ」
それを聞いた2人は大激怒。
「なんだよそれ!
領主の息子が商人の息子の100倍格好良くて、
商人の息子が領主の息子の100倍格好良いなんて、
全く矛盾しているじゃないか!
この八方美人の嘘つき女!」
しかし、彼女は冷静に言い返しました。
「私は嘘なんてついていないし、言っていることも矛盾していないわ。
『領主の息子は商人の息子の100倍格好良くて、
商人の息子は領主の息子の100倍格好良い』の。
2人とも私の言っている意味が分からないの?」
彼女は2人を置いて、さっさと帰ってしまいましたとさ。
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