土地に縛られる経済−中国と日本−


 人間は有史以来土地に縛られて生活してきた。現代社会における経済活動も土地と密接な関係を持っているが、人間が土地に拘束される経済には問題が多い。バブル経済の元凶は土地に対する執着と投機であった。土地は本来誰のものでもなく、水、空気と同様、公共財と考えるべきだろう。

1.土地が生む経済格差

 平等を理念とする社会主義国家の中国では沿海部の「都市」と内陸部の「農村」の貧富の格差が問題になっている。これも「土地」が持つ「付加価値」の格差がもたらすものだ。中国の農民は一生農村で暮らすことが強制され、農村以外で生活することが許されない。都市で働くためには「労働ビザ」を取得しなければならず、期限つきで就労が許されるが、期限が切れると不法就労で摘発されるという。中国人民は戸籍制度に縛られて国内での自由な移動が制約されているため、都市と農村の間に簡単には解消することができない貧富の格差をつくってしまったのだ。
 土地が公有の中国の格差は、戸籍にもとづく土地利用権の格差によるもので、過去
10年間沿海部では沼地や農地を工場や街区に変え土地の付加価値を飛躍的に上昇させたが、内陸部では土地の低い生産性を変えられなかったことが格差を生んだのである。
 農民が付加価値の少ない農地に縛られ一生を貧困の中で過ごさねばならないとしたら、社会主義国家としては許されざる不公平である。これでは貧しい中国内陸部での暴動の発生は避けられないだろう。
 中国政府もこの歪に気がつき、戸籍制度の段階的廃止に着手するらしいが、土地の付加価値から生まれる格差をどうのように解消するかが問題だ。

 一方、日本でも土地の付加価値による格差が、都市と農村の格差を生み、都心部への一極集中と農村の過疎化を促進し、地域経済の二極化を招いている。地方交付税や補助金の給付で格差を是正しようとしてきたが、土地の付加価値がもたらす格差を解消しない限り問題の根本的な解決にはならない。

 「土地」の付加価値を問わずに、「土地」に「通貨」と同等の価値を認めることは、土地を持つものと、持たないものとの間に不当な格差をもたらし、社会的不公平の原因にもなる。都市近郊における土地価格の上昇は、土地を売却したものに巨額の不労所得をもたらしたが、土地の値下がりで銀行に多額の不良債権を残し、信用収縮による税収の落ち込みは政府、地方自治体に返済不能の巨額の債務を累積させてしまった。

2.土地本位制からの脱却

 日本では「土地本位制」がいまだに機能していることも大きな問題だ。金本位制は過去のものになったが、「土地」が「信用」の基礎となっているため、日本銀行が金融緩和をしても担保価値の下落で貸し出しは増えず、土地価格の値下がりで1990年以降日本経済は1000兆円を超える巨額の信用収縮を発生させてしまった。ダイエーの破綻や巨大銀行の統廃合は土地を担保にした経済の破綻であり信用収縮の結末なのだ。アメリカや欧州各国の土地総額はいずれもGDPと同額のレベルにある。欧米の土地価格はすべて収益還元法で評価され、土地の付加価値を正しく反映しているからである。現在、日本の土地総額は1500兆円とされているが、この額は日本のGDPの3倍もある。土地本位制から脱却し、土地に依存した金融・経済システムを改革しないかぎり、更なる信用収縮をきたす可能性は大きく、デフレ経済からの脱却を難しくするだろう。

長期に亙り低迷するデフレ経済を克服するために「土地」と「信用」の関係を断ち切り、土地価格下落による信用収縮を阻止しなければならない。道州制導入で設立される新しい「州政府」に、住民の同意を得て用途を限定した地域通貨の発行を許し、地域経済の活性化で新たな「信用」を創造することは検討に値するのではなかろうか?

 1971年8月15日のニクソンショック以来、「通貨」は兌換性のないバーチャルな存在となった。「担保」となる原資が無くても「信用」の裏づけがあれば、いくらでも発行できる。信用こそ無形の財産なのだ。米国は経常収支の赤字を意に介することなく、ドルが基軸通貨となっている強い立場を利用してドルの増刷を続けている。日本政府が政府貨幣の発行で巨額債務の解消を図ることも不可能ではない。しかし、借金漬けの政府への「信用」が失墜すれば、間違いなく貨幣価値の下落とモラルハザードを来たすだろう。「通貨」は国民の「信用」で支えられる国民共有の公共財と考えるべきで、GDPで評価される経済活動が生む付加価値に見合うように配分されるべきだ。「通貨」を扱う金融機関は国民の信託に応えることが重要であり、利潤追求を目的とする株式会社の形態は問題だ。年利20%を超える暴利を貪り、貧者を苦しめる消費者金融の行為などは殆ど犯罪に等しい。

 日本経済の持続的成長と公正、公平な経済社会を構築するために、財産権の定義を改め、公共財の有効利用を促進するように民法と税制を改める必要がある。日本の農村では少子高齢化で耕作地が放棄され、利用されない土地が増えつつある。地方経済の活性化のため、土地の流動化を促進し放任される土地の付加価値を高めることができるように、農地法、借地法の改正など土地に関する諸制度の改革を急ぐべきだろう。

文京区 松井孝司


生活者通信第117 号(2005年5月1日発行)から転載