Strawberry Kiss
その日は…
帰路へと向かうリムジンカーの中でも…
アムロ少佐はかなり険しく難しいその顔を崩さなかった。
かの上司は仕事な関わる物を此処に持ち込む事はないので、色々と思案をしているだけの状態だが…とにかくこの表情は今のMS隊の難しい課題と一致する。
パイロット候補生の訓育結果がアムロの予想以上に悪い報告となっていたので…久し振りに本気で小隊長達に雷を落とした。今回は自分が出来る限り関わらずに彼らに一任したのだが…その結果がこれかっこんなものかっ…と本当に腹だたしい。
それはアムロ総隊長の望むレベルがかなり高度な為…という理由もあるにはあるのだが…
自分が直接関われば短時間でもかなりの成果を上げられるものをっ…と解るだけに相当に頭に来ているらしい…。
-----ああ…こりゃ本気でご機嫌すこぶる悪い……
運転手を務めるギュネイ中尉は無言でそんな後部座席の様子を伺っていた。その強化されている能力のせいで、背中にアムロの放出する不機嫌プレッシャーをビンビンに感じて…先程から心臓がバクバクしている。
部下を持つ身でなくとも、小隊長クラスである自分もあの会議には出席した。そしてアムロの本気のお小言は本当に久し振りに聞いた。確かに結果を見れば怒りたくなる気持ちも解るのだが。普段あまり怒りの感情を隊員達にははっきりと見せないアムロ少佐なだけあって、不甲斐ない小隊長達にはかなり効いた事だろう。
全指揮権を委ねられている総隊長は優しいだけではダメなのだ。それはよく解る。
しかし…時間が経っても職場を離れてもここまで不機嫌というのは……公邸の人達も心配するんじゃあるまいか?…とそんな事を考える。
窓の外の流れゆく風景をムスっとした表情で見つめていたアムロが…いきなりハッとした。
「ギュネイっっっ!!…止めろっっっ!!」
「はあっ?!」いきなり発せられた大声に驚き、慌ててブレーキを踏んだ。案の定タイヤが嫌な音を響かせてくる。
「しょ…少佐っっ?!どうなさったんですっ?!」
と後部座席を振り向くと、アムロは既にドアのロックを解除して外に飛び出すトコロである。
「アムロ少佐っっ?!」
そのまま走り出すアムロを自分もリムジンカーを降りて慌てて追う。
あ、駐車禁止区域だヤバイっっと一瞬考えたギュネイは…案外真面目な性格の証拠だ。
とにかく急いで自分が警護しなければならない上司の後を追った。このスウィート・ウォーター内では他の組織等に狙われる危険度は少ないのだが…「ネオ・ジオン随一のアイドル」に対して何をしでかすか解らぬ命知らずも居ないとは限らないのだ。
アムロはそう遠くない場所に居た。街頭に色鮮やかな野菜やフルーツが並べている…青果店の出店の前に佇んでいる。
「しょ…少佐っっ…?」
それをじいぃぃ…と見つめて、再び声を上げた。
「…苺がっっ…!!…凄い安いっっっ!!」
己の並外れた動体視力が捕らえた事実に嬉々とした声を上げているアムロに……
コラ待てっ総帥夫人っっ!…と思わず心の中で不敬罪的なツッコミを入れるギュネイである……
ネオ・ジオン最高権力者の「妻」が…普通の主婦みたいな感動をしているとは!
……まあ…それも庶民的で良いのかもしれないが。
「いらっしゃいっ確かに苺は安いですよっっ……って?アレ?…あ…?!もしかしてっっ…あなたはアムロ少佐っ?!」
思わず指を差して声を上げた店主にギュネイは人差し指を口元に立てて、しいぃぃーっと「騒ぐな」の合図を送る。思わず狼狽えた店主もコクコクと頷いたが…何せそれなりに人通りが多い街中である。背後から「あれ?もしかして…」「あれ総帥夫人じゃないか?」という声が間違いなく聞こえてきて…あまり長居はしたくない気分となった。
「安いし…随分種類があるんですねっ」
ギュネイの焦りなどお構いなしに、アムロは店主の男に話しかけている。
「あっ…は、はいっ…最近は農業プラントからの供給もかなり充実してますからね…新しい契約プラントもどんどん入ってきていて…1年前とはホント比べ物にもなりませんよ…これも総帥閣下のお陰ですな」
笑顔を向けてくる店主に、「夫」を褒められたアムロは思わず顔を赤らめた。
そのまま何気なく視線を再びその鮮やかな果物達に戻し…あれ?と呟く。
「この苺……」
「あ、はい、それはちょっと珍しい蔓付きの苺ですよ。バインベリーと言います」
「…このサザビー色の苺…そういう名前だったんだ…」
少佐らしい喩えするなあ、と思いながらギュネイは後ろからヒョイと覗いてみる。
確かに一番サザビーの色に近いその大粒の苺は、どれも蔓が3センチ程付いたままだ…珍しいと思った。そして他の苺よりは値段が幾分高めである。
アムロはそれと他の苺を交互に見つめて、うーん…と何か迷っている様子だった。
そのうちギュネイの予想通りに…結構な人々が立ち止まって此方を見ている気配がする。
『アムロ総帥夫人だー』
『…苺を買ってるの?』
『えっ!苺をっっ?!』
ああ…何だかヤバイ雰囲気、と感じてギュネイはアムロを促す。
「少佐…あまり長居すると店の人に迷惑かかりますんで…」
「あっ!…そ、そうだねっすみませんでしたっ…えっと…それじゃコレ…」
アムロはその総帥専用MSと同じ色の苺をそっと指差した。
「…贅沢しているとか…思われないかなあ?」
その高めの苺を大量に購入した総帥夫人は、本気で心配している様子であった。
「そーですか?そんな苺くらいじゃ…そうは思われませんよーっ…別に何千足の靴とかドレスとか買ってるワケじゃないし…それに少佐は最新型MSの製造だって我慢しているじゃないですかーっっ!もう全然慎ましいですっ控えめですっっ!」
力強く言い切ってくれる部下の言葉に…つい甘える気分になる。
「そ…そうかな?…ならいいんだけど」
相変わらず謙虚だな…と思いつつ…ギュネイは全く別の事に対しての不安が過ぎる。
-----『総帥夫人、街中で苺を大量購入』か……別のネタでまた騒ぎが起きそうだ…
軽く溜息を付きかけたので…
「…どうかした?ギュネイ?」
そんな様子に敏感な彼が声を掛けてきたので、慌てて首を振る。
「あっ…いえいえっ!…えっとっっ…少佐は苺がお好きだったんですねっっ」
「うーん…好きってワケじゃないけど……あると凄く嬉しい」
それを『好き』っていうんですよーっ、とギュネイは再びツッコミを入れる。
事実…アムロからはもうあの超不機嫌オーラは全く感じられない…大量の苺が入った袋を横目に見て、かなりのご機嫌の雰囲気じゃないかっっ
---少佐のそんなところは……やっぱり可愛いよな…
…そうだ…こーゆーのが『萌え』って言うんだよなっっ!
思いっきり納得できた自分の心情にギュネイは心の中でグッと親指を立てるのであった……
「まあ…アムロ様っっ…お申し付け下さればこちらでご用意しましたものを…」
公邸で出迎えた女中頭に大量の苺の入った袋を渡すと、やはり予想通りの答えが返ってきた。
「帰り道でたまたま安いのを見つけたんで…皆にも分けてください」
この1時間前にはかなりの怒りと不機嫌の表情を見せていたとは思えない…穏やかな笑顔をである。まあその事実はお裾分けをしっかり貰ったギュネイだけが知っていれば良いのであるが……
「今夜のお茶ウケがソレなわけか……」
大きめのガラスの器に大量に盛られ、美しいルビーの様な輝きを見せている果実に向かってシャアはポツリと呟いた。
「どおりで君のディナーが少食だったわけだな」
苦笑して嬉々とした笑顔でそれを食している様子の細君を優しく眺める。そして何気なくその器に視線を戻して…ふと何かに気付いた様な表情を垣間見せた。
それを確認してアムロは苺を一つ取り…蔓の部分を持ってシャアに指し出す。
「…覚えている…みたいだね」
「ああ…特徴のある形だからな」
「バインベリー…っていうんだって」
「成る程…『蔓の苺』か」
そのまま口元に持ってこられたそれをシャアは素直に口に含む。
とても甘い…あの時と同じ様に……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ネオ・ジオンに「亡命」をしたその日から1週間……アムロは総帥公邸を出る事は出来なかった。
安全面を考えて…とその処遇が正式に決定されるまで、という事である。
「君の立場の件でまだ色々と決定されていない事が多くてね…不自由をかけるが今暫くだけ…待っていてくれ」
優しくそう言って自分にキスを落とすネオ・ジオン総帥閣下を見つめて「そりゃそーだろーな…」としみじみ思うアムロである。
地球連邦軍の1年戦争の英雄兼現エースパイロットが亡命してきただけでも苦労だろうに…
その「男」と総帥閣下が「結婚する」とまで宣言してまったのだから…ネオ・ジオンの中枢部はさぞかし阿鼻叫喚のパニック状態な事であろう。
…年寄りも多いって聞いているのに…大丈夫なのかなあ?
「本当に…大丈夫なのか?シャア…」
「何も案ずる事は無い」
不安の感情を漂わせる琥珀色の瞳を安心させるように再びのキスを送り、その細い身体を抱き締めた。その広い背中に手を回しながら、あまりに強く断言するその勝算は…この身の内にあるのだろうか?…と考える。
「…俺は…別に…いいんだよ?」
「アムロ…?」
伏せた睫毛を微かに震わせてアムロは呟く。
「シャアの側に居られるのなら…『正式』じゃなくとも…い…ふんんっ…?!」
その長い指で思いっきり唇を抑えられた。思わず寄り目がちでその指を見つめてから…そっと上目で彼の表情を見やる。
「…二度とその言葉を言ってはいけないよ…アムロ」
能面の様に何もない表情と静かな声…怒っているのか哀しんでいるのか……その指をそっと外してアムロは素直に謝罪した。
「ごめん…」
そして少しだけ背伸びをして、自らそっと愛しい男の唇に己のそれを重ねた……
この公邸で最初はのんびり過ごしていたアムロも…さすがに1週間も経てば身の置き場に困ってきた気がする。
此処の使用人達は、執事と女中頭を始めとして全員最初から男であるアムロを、自分達の主人の正式なパートナーとして扱っている。その彼らの自分に対する態度もこそばゆいというか…
とにかく全く慣れる事が出来ない。故になるべく彼らの誰とも接触しないように…と避けてしまう。つまり部屋に閉じ籠もる、という事だ。
しかし部屋にはシャアが用意してくれた本と数冊の技術系雑誌はあるが…その他の情報を確認出来るモノを彼は一切与えてくれなかった。つまり今、外で何が起こっているかという事もさっぱり解らない状態なのである。
夜遅くシャアが帰ってきて…恋人同士の時間を持つが、彼はただ「心配するな」と言うだけで…相変わらず今の状況は何も話してはくれない。
それが次第に彼を不安にさせていったのは…ごく当然と言える。
人生最大の「賭け」をして此処に来たようなものだ…なのにこの先の事が何も見えない。
精神的にも肉体的にも疲れているのは事実だ。
…何だかもう……本当にどーでも良くなるよ……
不安な心がアムロから健常な思考さえも奪っていく………
アムロが此処に来て10日目……
その日久し振りに早めの帰宅となったシャアは、女中頭からある報告を受けた。
「…アムロが何も食べていない…だと?」
「はい…もう2日間飲み物くらいしか…食欲が無いとおっしゃって…今夜も夕食は要らないとおっしゃられて…既にお休みになっておられます」
ここ最近は朝も夜も一緒に食事が出来なかったので…自分は全く気が付かなかった。
内心かなり焦りを感じている。
「せめて何か…お元気になっていただきたいと思いまして…アムロ様のお好きな物をお出ししたいのですが…」
我々には何も話してくださらなくて…と心底哀しげな、常に厳しくメイド達を指導している彼女とは到底思えない表情で呟いた。
「アムロ様は明らかに私達を避けておいでなのです…やはり私達のお仕え方に問題があるのでしょうか…?」
深々と頭を下げる彼女に労いの言葉を優しく掛けるシャアである。
「…そう気にするな、ミセス・フォーン…アムロは未だ此処に慣れていないだけだよ…もう少しだけ彼にも時間を与えてやってくれないか?」
主人のその言葉に彼女の表情にもやっと安堵感が表れた。
「しかし…アムロの好きなものか……」
それが直ぐに思いつかないとは!その事実に本気で驚愕した。
確かに今まで過去のアムロと過ごした日々は…あまりにも短すぎるし、生活に絡むような付き合いはしてなかった…とは言えど、だ。
ああ…なんとも情け無い自分が腹ただしい。
そんな苛ついた感情の中…ふっっと上がってきた記憶がある。
「…いや待て…そう言えば一つだけ…」
木製の重い扉をノックをする音が響く。
…シャア?と感じてアムロは身体を起こした。ゆっくりと扉が開いて、既に軍服から着替えているその彼が長身の身を現した。
「アムロ…大丈夫か?」
「ん…平気…ちょっと眠いだけ…」
ベッドに近付きその縁に腰掛けて、上半身を起こした状態のアムロの髪を優しく撫でる。その明らかに冴えない表情を見つめて心底不安になった。
「全く平気で無い顔をしているではないか…」
「…うん……ゴメン…」
シャアはその逞しい胸にアムロの頭を抱き寄せて優しく抱き締めた。その温かさが嬉しくて、アムロは擦り寄るように顔を埋める。
その甘えるような仕草が…己が今、どんなに愛しいアムロを辛い立場に置いているか…を強く自覚させて、シャアは胸が痛んだ。暫し抱き合っていた後、ゆっくりと身体を離す。
「少し待っていたまえ」
「…シャア?」
優しい笑顔と額のキスを残すと、シャアは寝室を出て行った。程なくして彼は小さなトレイを片手に戻ってくる。そして優雅な仕草でその上の綺麗な透明の器に乗せられているものをアムロに差し出す。アムロは思わず目を見開いた。
「………苺…だ…」
「ああ…好きだったろう?」
「…そうだっけ…?」
シャアを見つめるアムロの表情は微妙に笑顔を作ってはいるが…今にも泣き出しそうだ。
貴方のその優しさがとても嬉しい…とそういう意思が伝わってくる。
「ちょっと変わっているね…蔓が付いたままだ」
「そうだな…だがとても美味しそうだぞ?」
その蔓を一つ手に取ってアムロの口元に運ぶ。アムロは素直に少しだけ口を開けて…それを受け取った。シャアの指が口内へと苺をそっと押し込む。
素直にそれを食べるアムロを見つめてシャアは微笑んだ。
「どうだ?」
「………美味しい…」
「それは良かった」
もう一つ…と食べさせる。黙って素直にそれに従うアムロ。
暫くそうしていたが…5つめの苺の時、苺を押し込むその指をアムロの舌がその果実と共にペロリと舐めた。それが合図で…。
次の苺は自ら口に含んで食べさせる。
「…んっ…ふ…ぅ……」
アムロが少し苦しげに呻いたが…その後は声など出せる余裕などない。
貪り合う唇と…舌と果実が混じり合い濡れて潰れ合う…そんな派手な水音が寝室に響く。どちらかが潰れたそれを食べてしまえば、更にもう一つ…とその淫猥とも言える行為を取り憑かれた様に幾度も繰り返した。
「…んん……すごく…汚れちゃった…けど…」
「気にするな…ああ、ここは綺麗にしてやる…」
「あっ!…やぁっ……そんなトコ……あぁっっ…」
「…ああ…とても甘いな……アムロ……」
一度熱を放った後の寝室は、かなりの濃密な雰囲気が漂っている。
アムロの身体をその身の上に乗せて、優しく髪を撫でていたシャアが優しく呟いた。
「…アムロ…明日は一緒に総帥府に行く事になる」
その言葉に弾かれる様にシャアの胸の上から顔を上げた。
「そ…それって…?」
シャアは微笑し、震える声色の愛しい恋人の頬を優しく撫で上げる。
「我々の婚約を正式に発表する事に決まったのだよ…明日から忙しくなるぞ?」
瞬時にパアァと輝く笑顔になってアムロはシャアに思いっきり抱き付いた。
「今まで寂しい想いをさせたな…本当にすまなかった」
「ううん…まあ正直…もうどーでも良くなった時期あったけど…でも…やっぱり嬉しいよ」
貴方が俺の為に頑張ってくれた事が…とシャアの頬に軽くキスをした。
「どうでも良くなった…か……私は少し傷付いたが…」
眉間の傷が見えなくなる程に皺を刻んだ愛しい男に「もう細かい事に拘らないのっ」と再びキスを送ってやる。
「……でも…やっぱり…周囲の反応が怖いな…って思うよ」
「大丈夫だ。どんな道化と言われようと…私が君を守る」
「…そんな言われ方したら…ホント逃げられないなあ」
アムロは笑って再びシャアに抱き付き、また何事か抗議しようとしたシャアの唇を自分で思いっきり塞いだのだった……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アムロ」
幸せそうに苺を頬張る傍らの妻に優しく声を掛ける。
「その様子なら…明日は優しい『総帥夫人』になって彼らを励ましてやる事が出来るかな?」
思わず苺を咥えたまま瞳を見開き…そのまま少し怪訝な視線で「夫」を見つめる。
「……もうご存じなんだ」
「まあ…いつもは優しいMS総隊長殿が部下をそれはそれはもの凄く怒鳴った…となれば、総帥府にも直ぐ噂は飛んでくるさ」
「…SPの誰かが報告したワケね」
さあ?という誤魔化す態度で微笑している彼に再び厳しい視線を送ったが…取り敢えずもう一つ苺を口に放り込んだ。
「私は君が怒りたくなる気持ちは充分に解るし、MS隊を厳しく指導する事に全く異論はない。
しかしな…クライヴ大尉が辞任を申し出さん勢いで私に謝罪してきたのが…少しだけ可哀想になってな」
「ええーっっっ?!…嘘っっっ!!」
思わず手にした苺を落としそうになった…クライヴ副隊長…そんなに落ち込んでいたのかっ?!
「君に見捨てられると嘆いていたぞ?…もう少しだけ彼らに任せてやってはどうかな?」
「……それは解ってるよ…見捨てるつもりなんて全くありませんから」
別にそんな事まで考えていたわけじゃない。彼らを信用していないわけでもない。当然、自分の大事な部下達なのだから…。
期待しているからこそ厳しくなるのは当然ではないか。
……しかしながらっっ!
旦那様に諭される形になっているのが本当に癪っっ!!
……という態度がありありの妻に苦笑しながら、その華奢な身体を引き寄せた。
苺を一つ取りそのまま咥えてアムロの唇へと近付ける。そのまま受け取る彼と熱く甘い濃厚な口付けを交わす。
コクリ…と喉を鳴らして、それを飲み込むアムロの表情があまりにも扇情的でたまらなくなった。
「…フルーツジュースキス…というらしいぞ…?」
「ふうん…そのままじゃないか…」
何の工夫も無いんだね…と呟きながら、アムロは今度は自ら果実を咥えてシャアへと促した……
翌朝……
朝の珈琲を入れながら、液晶画面から盛んに流れる話題を一応は確認している。もうあまりに予想通りで…ホーント聞き飽きたが……『アムロ・レイ総帥夫人…苺を大量購入する姿を目撃されるっっ!』
『今度こそ…本当にご懐妊なのか?!その真相に迫るっっ!!』ズズーッッ…と珈琲を冷静に一口…以前に比べて自分もかなり落ち着いてきた。
これくらいのネタでは、もう驚かないし焦らない。
「ああ…ホントもう…アンタ等は平和で良いよなあ……」
色々と呆れながらも、こんな冗談か本気か解らないよーなこのノリ…
結局そんな彼らが憎めなくなっているギュネイなのである。
このネオ・ジオンの住民達が願う望みが適えば……
…敬愛する上司を本当に幸せするもの…なのだろうか?
「でも…本当にそんな事になっちまったら…こんなノリで語ってられんわな…マジで」
そう呟くと何とも複雑な表情で画面を見つめるしかない…そんな朝……
「さあくだらぬ思考は終わりだっ…少佐をお迎えに行くぞーっ!」
ギュネイは立ち上がり、何かを振り払う様に軽く首を振ってから思いっきりの伸びをした。
THE END
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欧州では…妊娠→スッパイ物が食べたい→苺…というのは有名でしょうか?
バインベリーという地元特産の苺をネタに使うという…どーしよーもない…!
甘くてちょっと高目だけど絶品の苺なのだよ♪(2009/6/3 UP)