※「そんな僕らの総帥夫人」・Sample……※※

 

◇ Deffender of The Faith ◇

 

人には…何が何でもどんな事があっても絶対に譲れない「自分の信念」というものがある。
それは喩え永遠の愛と引き替えであっても…これだけは決して譲れない!
と主張するものだ。

 

「アムロ…お土産だよ」
帰宅するなり、この上もない上機嫌笑顔でネオ・ジオン軍最高司令官、シャア・アズナブル総帥は、プラスチック製のそれなりに大きな箱を婚約者に手渡した。
「…?何?コレ……」
ご丁寧に赤いリボンまで付けられているその箱は予想に反してそう重くはない。
「MS隊総隊長就任のお祝い…かな?」
「?…お祝いって?」
シャアはその質問には答えずにただ微笑している…が、相当機嫌の良い表情だ。訝しみながらもそれをそのまま二人の専用居間へと持っていく。

 

箱を開けた瞬間、それが何かは直ぐに理解出来た。思わず「あっ」と声が上がる。
その白い物体を両手で持ち上げて、アムロは「一応」訊ねてみた。
「……これ…ノーマルスーツ…?」
「ああ、軍服と一緒に作らせていたのでね…君専用のノーマルスーツだよ」
「これも…もしかして貴方のと全く同じデザインなのか?」
頷きながら、床に直接座って箱の中身を確かめていたアムロのすぐ側にシャアもしゃがみ込む。
「そうだ。これも色違いなだけだ。『MS隊総隊長兼総帥夫人』には他の者とは差次が必要なのだよ?アムロ…」
「…ううん…まあそれは此処のルールに従うけどさ……でも…何も白にしなくても、ね」
「白は君のパーソナルカラーだろう?…軍服の方は譲歩したが、こちらは譲れない」
きっぱりと言い切るシャアが何をそんなに拘っているのかワカラン、と心の中で溜息を付きながら、そのネオ・ジオン総帥夫妻専用デザインとなるノーマルスーツをしみじみと観察してみる。
甲冑を彷彿させるデザインは確かにシャアには良く似合いそうだ、と思った。関節部分から覗く内側の柔らかい部分の色は「赤」…シャアは「君の髪の色に合わせてみた」と言うが…この赤はどう見てもかの有名な彼のパーソナルカラーである。何だかもうすぐ自分の「夫」になるこの男の拘りを此処にしっかりと感じてしまった。
「結構…ピッタリとしたデザインなんだね」
「しかし動き易いし快適だ。同じ『ピッタリ』でも、君が一年戦争の時に着ていたあのスーツよりは遥かにマシなはずだが」
「……あ…そう…」
その言い方、ちょっとイヤらしいよ…とさり気なく呟き、ネオ・ジオン軍技術開発部門のレベルの高さを思い浮かべる。AEグラナダと綿密に連携し、MS部門以外でも様々な技術を送り出しているそのイメージは、世の工業技術系の関連部門を完全に圧倒している。実はその事が自称半エンジニア&半MSパイロットのアムロ・レイを、このネオ・ジオンに無意識に呼び寄せた原因の一つ…という本人も気が付いてないだろうの真実なのだが。
「…乗るモビルスーツもまだ決まっていないのに…専用ノーマルスーツか」
「その件だが…実は格納庫の奥にもう一機のヤクト・ドーガがある。君用にメンテナンスして取り敢えず使うのはどうかな?」
「へえ…ヤクトがもう一機あるの?…あ、もしかして貴方がサザビー以前に乗ってた…のかな?」
シャアはその通り、と軽く頷いた。
「訓練程度にしか使用してないがな…あれはニュータイプ専用試作機MS故、乗りこなせるのは君しかおるまい?」
「ううん……まあ考えてみる……」
あまり気乗りしない返事でアムロはノーマルスーツを箱に仕舞う。
と、シャアの手が伸びてそれを制して来た。
「今、此処で着てみたまえ…サイズが合わない場合は直ぐに作り直させないとな」
「ええーっ?!な…なんで家の中でノーマルスーツを着なくちゃならないんだよっ?!」
「サイズ調整の為だと言っただろう?」
そう言い切るシャアの瞳はどこか楽しげである。ふとアムロは閃いた。
「……もしかして…貴方……見たかった…の?」
わざわざこんなモノをこの公邸までっ家まで持ってきたワケはっ!!
「君の艶姿を一番最初に自分だけで眺められる特権は…『夫』には与えられるものだ」
ニッコリ笑って悪びれもせずに堂々と言い放つシャアに、アムロは思わず立ち上がり怒鳴りつけた。
「なーにがっっ特権だよっっ!!もうっっ!この助平親父――っっっ!!」
耳まで真っ赤になって怒ってみせるが、目の前の男には全く通じてない様子である。
「…見せてくれないのか…?アムロ…」
心底寂しそうな感情をその蒼氷色の双眸に映して、アムロを見上げるその彼の仕草に…何故かドキリとし心がざわめく。
「君のどんな姿であろうとも…この私が一番に確認して確かめたい、この目に焼き付けたいと思うだけだ…それ程にも君に魅入られている愚かな男なのだよ…私は」
跪いたままでシャアはそっとアムロの右手を取り、その手の甲に唇を優しく押し当てる。

------だっ…騙されるなっっ俺っっ!!コレはこの男の狡い常套手段だっっっ!!
必死で自分自身に警鐘を鳴らすのだが、相反して更に心臓の鼓動は早くなり体温は上昇する。
「君がこれから…そのネオ・ジオン軍のノーマルスーツで戦ってくれるのだ…という事実にどれ程に私が喜びを感じているか…解るかい?その事実を今直ぐに確かめたいだけなのだ…アムロ…」
自分の手をしっかりと取ったまま、まるで許しを請う信者の様に切々と訴えてくる「婚約者」に…結局アムロは降参せざるを得ないのだ。
「…わ…解ったよっっ!…確かに…サイズ合わないと困るからさっ」
その言葉に明るい喜びに満ちた表情になり、再びアムロの手に口付けを落とすシャアである。
全く狡い常套手段でも…どんなに気障な歯が浮く様な台詞でも…想いは本気で嘘を吐いてないから困るのだ。
「じゃあ…隣で着替えてくるから…」
この専用居間は寝室と続き部屋になっており、その出入り口のドアをアムロは指差した。
「此処で着替えても別に良いのに」
「…俺は貴方と違って『慎み』ってスキルを持っているからねっっ」
やっぱり助平親父だっっ…と毒突きながら箱を手にして寝室へと移動しようとするアムロにシャアは
「アムロ…その中には一式揃っている。全て身に付けてくる事…いいね?」
と念を押すように伝えた。
「…??…うん…解ったよ」
何か引っ掛かる言い方するなあ、と思いながらアムロは寝室へと消えた。

 

 

※※続きは「そんな僕らの総帥夫人」で…☆☆