※「そんな僕らの総帥夫人・4」・Sample※

 

 

一般医師から正式に軍属医師となった、カミーユ・ビダンの日常は相変わらず忙しい。軍医務局の病院は平時の今は一般住民に開放しており、それなりに患者数は多いのだ。彼は医務局で一番若い医者として、また出来る限りの臨床に立ち会いたい、という本人の希望もあり、日々一番走り回っている状態である。このネオ・ジオンで働く先輩医師の多くは、シャアが起つ前からスウィート・ウォーターで医者をしていた者達だ。ある意味、志はかなり高い。そして厳しい。故に色々な意味で自分が成長出来る場所だとカミーユは真摯に思う。
アムロが居るから…というのが一番の理由で選んだ此の場所だけれども、それ以外でも最良の選択だったかな…と今は思い始めている。
宿舎は軍属になった時に、別の専用の部屋が与えられたので、今までの場所とは差ほど離れていないその部屋に移った。これまでの宿舎よりやや上等か、というカンジの部屋である。独り身故、その差はあまり気にはならないが。何せ彼はかなり贅沢なセカンドハウス?を持っているので…
『今夜は夕飯を一緒にね…待っているよ』
週末の午後3時の休憩時…そのメールを確認した。今日は医務局内勤の日なのでほぼ定時で帰れるハズだ。カミーユの顔に自然と笑みが浮かぶ。
「恋人からのお誘いかね?ドクター・ビダン」
同僚医師がからかい気味の口調で声を掛ける。医務局で一番女性に人気のあるカミーユに対しては、あまり気が利かない台詞かな、とか考えながら。
「恋人より…もっと大切な人からですよ」
キッパリと言い切って彼はもっとあからさまな笑顔を見せた。


ミッドナイトブルー色の小型のエレカが総帥公邸の門を潜って玄関前に到着する。
ドアを開けて降り立つと、此処の使用人の一人がいつもの様に立っていた。
「いらっしゃいませ、カミーユ様、今日はお早いですね」
既に顔馴染みとなっている彼は明るい笑顔で迎えてくれる。キーを渡しながらカミーユは
「今日は定時だったからね…アムロさんは帰ってきている?」
と尋ねた。使用人は引き続きの笑顔で大きく頷いた。
「はい、アムロ様も今日はお早かったですね」
エレカを移動する彼にありがとう、と軽く礼を言ってカミーユは公邸の玄関へと向かった。広いエントランスホールでは数人の使用人が、いつもの様に総帥夫妻の大事なお客を出迎える。そして…
「いらっしゃい、カミーユも早かったね」
カミーユのこの地で最も大切な存在が笑顔で出迎えてくれる…これもいつも事。
「はい、わざわざお誘いをありがとうございます、アムロさん」
「最近連絡しないと来てくれないからさ…カミーユだったら予告無しにいつ来てもいいんだよ?」
そう言って自分を見上げて、更に優しい笑顔を見せてくれる…そんなアムロの細い身体を軽くハグしてその柔らかい赤毛に唇を寄せた。あくまでも親愛の挨拶で…しかしカミーユはこの瞬間が本当に幸せだとしみじみと感じている。本来ならば、その柔らかそうで艶めく唇にキスをして…もっと親愛の情を示したいのだけれどもっっ
さすがに此処でそれはヤバ過ぎるだろう……
アムロの旦那の前だけでならしてもいいが…とか考えてはいるが。
ふと目の前のアムロが少し申し訳なさそうな表情となっている。
「カミーユ、今夜シャアは遅くなるみたいなんだ、俺だけのお相手になっちゃうんだけど…悪いね」
「悪くなんか全然ないですよっ寧ろ俺は嬉しいですっ」
間髪入れずに彼が応えたので、アムロは苦笑した。
「お酒のお相手出来ないから、申し訳ないなーと思うけど?」
「アムロさんと二人だけなら、ゆっくりお茶を楽しみたいですよ」


相変わらずの大変満足出来る公邸のディナーを堪能して…カミーユはこれもありがたい事だとは思っている。此処の食事は決して思いきり贅沢ではないが、その材料も調理の仕方もその作法も、当然地位の高い人間向けである事は間違いないので。地球の前世代旧貴族風の仕来りが公然のこの場所は、カミーユも随分と慣れてきた。使用人が全員、自分の事を「様」付けで呼ぶのに最初は妙にくすぐったかったのだが…まあ客人として気楽に過ごせる様にはなっている。アムロはもっと自然に此処に溶け込んでいる。公邸の「奥方」らしく、立ち振る舞いも随分と様になってきているよな…とカミーユも時々感じるのだ。
「もーーっっ最初はホントに大変だったっっ!毎日逃げ出したかったんだよーっ」
と言うが、それも今では笑い話で済ませられるのだろう。
逃げ出さなかったは偏に旦那様のお陰…という話はもうこれ以上聞きたくはないが。

 

※続きは「そんな僕らの総帥夫人・4」でどうぞ…