※※「Outbreak Z」…Sample……※※

 

◆◆  Fatal  Attraction  ◆◆

 

そのあまりにも鮮やかな夕陽がこの世の全てを橙色に染めていく様に……
人工の太陽光を持つコロニーでは有り得ない、これも地球ならではの光景だ。
その夕陽の中で、上官の搭乗するモビルスーツは至近距離で更に金色に深く輝いている。反射する光を眩し過ぎると感じているが…カミーユは目を逸らす事が出来なかった。
スラスターの調整で幾分重力に逆らっていると言えども…ゆっくりと下降している二機のMS…そのどちらもコクピットを開けて、二人のパイロットはある人物を凝視している。
Mk-Uのマニピュレーター…掌の中に受け止められたその人物は…ただ目の前の「百式」のコクピットをひたすらに見つめて…そしていきなり立ち上がった。
…危ないっっ!とカミーユは素直に思ったが、その瞬間全ての思考を吹き飛ばす言葉が響き渡った。

「シャアアァァーーッッ……」

…つい先日、自分がそれを名乗らぬ事で上官を責めた…
あの…名前だ……
思わず百式のコクピットに目を向ける。クワトロ大尉と掌の中の男はただ見つめ合って…完全に二人だけの世界を作っている様に思えた。
そして…
……アムロ………
頭の中に響いたのはその叫び声に応える声……その声はなんという……
そのあまりの甘さに思わず身震いした。
…なっなんてっっ……そっそんな…愛おしそうな声で呼び掛けるんだよっっ!!
 際に聞こえたのはクワトロの「思考」なのであるが…まだ複雑なお年頃の自分には、あまりにも刺激が強すぎる声に感じる。

……やっぱり大尉は「シャア・アズナブル」…なんだな……そしてこの人は…
あの…「アムロ・レイ」…なんだ……

ふと気が付くと、クワトロがコクピットから手招きをしていた。「アムロ」に対して。
「…無茶を要求しないでくださいっっ…そんな危険な事出来るワケないでしょっ!!」
思わずカッとなり、カミーユは勢いよくシートに座り直すと、Mk-Uの掌を開いている「自分の方の」コクピットへと近付ける操作をする。再びシートから立ち上がり、掌の上の「アムロ」の腕を掴んで思いっきりコクピット内へと連れ込んだ。
些か乱暴な動作だったので、そのまま「アムロ」の身体は反動で勢いよく自分の上へと倒れ込んで来る。
「わっ?!…あっ…す、すみませんっっ!」
 両腕で抱き止めたその身体は…

………軽いっっ…!…やっぱり痩せている……?
「アムロ」は少し上半身を上げて、カミーユの顔を覗き込むようにして…
「…こちらこそ……」

ほんの微かに笑った様な……その顔をカミーユはマジマジと見つめてしまう。
以前手に入れたアングラ雑誌の情報が正しければ…
アムロは自分より五つ年上のハズ…なのに。
この生の「アムロ・レイ」は…何だ?凄く幼い顔付きなんだけど…俺と同年代、と言っても通じるかもしれないぞ?しかしこの顔…まるで……
……人形の様な……??
機械の様にさえ感じてしまう、アムロのその雰囲気には…「何か」が欠けている様な気がした。
「…えっと……もう離していいけど…」
その言葉に自分がアムロの身体の、腰の辺りをしっかりと抱き止めたままであった事に気が付く。
「あっ…?!あわわっっ…失礼しましたっっ!!」
慌てて手を話すとアムロはゆっくりとカミーユの上から起き上がり、コクピットシートの横へと立った。そしてコクピット内に何気なく視線を泳がせている。
「……ガンダム…Mk-U…か…」
小さく呟いたその言葉に込められた想いは、今、出逢ったばかりのカミーユには…何も捉える事は出来なかった。

アウドムラのモビルスーツデッキに無事に収容されて、コクピットからクレーンリフトでアムロと二人で下降していく…と、カミーユの予想通りにクワトロ大尉が待っていた。ふと傍らのアムロに視線を移すと、固い…怖いくらいの表情で彼の姿を見つめている。
カラバのクルーが「伝説のパイロット」を一目見ようとしてか、わらわらと野次馬根性で集まってきていた。そんなこのクルー達の「ノリ」は、未だ少年という年代のカミーユを素直に不快にさせる。クレーンから降り立ち、クワトロの側まで二人は静かに歩いていった。

至近距離まで来るとクワトロはいきなりアムロの左手首を掴み、そのまま其処から引きずり出す様にして…彼を連れて行ってしまった。
あまりにも突然なその行動に、残されたカミーユも、他のクルー達と同じように…ただ呆然とその二人の後ろ姿を見つめて佇んでいるしかなかったのだが…。

かなり強い力で引っ張られて、格納庫から出て行く事になる。全く訳が解らず、目の前の広い背中に抗議の声をぶつける。
「ちょっ……!ど、どこへっっ!」
アムロのそんな声には全く耳を貸さずの雰囲気で、クワトロは無言でズンズンと大股で歩いていく。その歩幅の違いで、アムロは小走りに彼に付いていく格好になってしまっていた。
人気の無い通路の更に奥まで来るとクワトロはやっと止まってくれて、ゆっくりとこちらを振り向いてくる。そしてアムロの手首は握りしめたまま…もう片方の手で掛けていたスクリーングラスを外す。
先程…夕陽の中で見つめたあの顔があった。あの時、彼の素顔を見たのは初めてであったはずなのに「この男はシャアだ」と認識出来た。それは何故なのだろう?
その端正な顔立ちは、昔の自分の憧れであった…彼の妹にやはり似ているな、と感じる。髪の色と瞳の色が全く同じ…のせいか?
彼はその見事に蒼い瞳で、自分の顔をただじっと見つめている。その視線の強さに耐えきれずにアムロは
「……な…何の用…なんですかっ?……いったい…」
と目の前の「シャア」に問い掛ける。その言葉に今まで強張っていた彼のその表情が少し緩んだ。
いや…本当にあの『アムロ・レイ』なのだな、と思うとな……」
そう呟いてからの彼の表情が…やけに感慨深い懐かしささえも帯びたものへと変わっていくのに…アムロは背中に何かこそばゆさを感じてしまった。
ふっと視線を逸らす。
「…だったら……何です?…そんな……」
そんな目で見つめられる様な関係では無かっただろう、とアムロは思う。ましてや自分達の最後は「本気で殺すつもり」での死闘を演じたのだ。そして…ほんの少しだけの共鳴……それで別れたのに。
「私はずっと君を捜していたのでね…だからこの再会が感慨深い…」
えっ?とその言葉に弾かれる様に、「シャア」へと視線が戻る。
…探していたって…?…この俺を…?
そんな言葉は今のアムロには到底信じ難い。
「……な…ぜ…?…だって…貴方は…」
素直にその言葉が紡がれたアムロの表情には、ほとんど色がない。その様子にクワトロは訝しむ。

※続きは「Outbreak Z」でどうぞ…※※