※Living in your Side -----Sample-----------

 

「まだ怒っているのか?」
「別に怒ってなんかいないよ…たださ…」
「ただ何だ?」
「…そりゃ別に…エア・ユナのファーストクラスで行きたい、なんて我が儘も言わないけれどさ…」
0G用の室内履きを脱ぐとフワリと身体が宙に浮く。
「……戦艦で旅行に行く…ってのも考えモノだよなあ、と思って」
フワフワと浮きながら腕を組んで上から自分を見下ろしているアムロは、明らかにご機嫌斜めの様子だ。
「万が一、という事も考えてだ…アムロ…いい加減に機嫌を直して…側に来てくれないか?」
アムロはそのままの体制で相変わらず険しい視線をシャアに向けたままだ。
「…何でレウルーラで行く事になったのかは…想像つくんだけど…」
「アムロ…」
「…仕事…終わっていないんだろ?レウルーラ内なら総帥府本部と直結のネットワークが使えるし」
「………」
「別に貴方の能力の問題じゃなくて、貴方の総帥という立場のせいだ、と言う事は俺も理解してます。でもそういう事情ならさ…何も無理矢理に休暇を取る事は無かったんじゃないのか?俺は貴方のその行動に納得出来ないという事です」
丁寧な物言いの時は本気で怒っている証拠だ。だがシャアは真っ向から反論する。
「何を言うのだ!アムロ…!これは我々にはとても重大な旅行になるのだぞ?」
「…重大…ねえ……まあ…そうかもしれないけど……」
「解っているのか?アムロ…今我々はハネムーンに向かっているわけなのだが…」
「…そう…だね……新婚旅行…だね…でもさ…」
いざ口に出してみると恥ずかしいものだなあ、と思いつつ軽い溜息を付く。ネオ・ジオン軍旗艦で新婚旅行に行くハメになるなんて、公私混同の様な気もして自分には今ひとつ納得出来ない。
「…アムロ……」
自分を見つめるシャアは本気で哀しそうな表情をしている。…アムロはこの顔に弱いのだ。
ああ…全く、と心の中で舌打ちしてから、無重力状態の中を器用に流れるようにシャアの所までやってきた。シャアは手を拡げてその愛しい身体をしっかりと抱き締める。
「…そんなに嫌なのか…?アムロ…」
「嫌…ってワケじゃ…もちろん貴方と二人で旅行に行けるのは嬉しいよ」
忙しいシャアがこうやって自分との時間の為に、何とかしようとしてくれているのも…本当はとても嬉しいのだけれども……
「…でも…俺は…貴方の負担になっていない…?」
「それは愚問だ」
そのまま自分の妻の唇を己のそれで塞ぐ。思いの外激しいキスに、シャアの背中に廻したアムロの手がぎゅっと強くしがみついた

サイド6には多くのリゾートコロニーが点在している。
その中にある
---モルデルガン・コロニー。
高級避暑地コロニーの一つとしても有名であり、多くの富裕層や著名人が別荘を構えている。
その為か、此処のスペースポートはVIP専用ポートの方が一般用より遥かに広い。レウルーラは当然そちら側に接岸となる。入港チェック手続には時間がかかるだろうな…とぼんやり考えていたアムロは、ふと思いついた事を質問してみた。
「シャア……まさかと思うけど…サザビーは積んでないよね?」
「いや…万が一の事もあるのでそのまま持ってきたが?」
「………甘い雰囲気をぶち壊しているのは絶対そっちだよなあ……」
「…?…アムロ?」
……新婚旅行先にMS持ってくる男ってどう思いますか?
…ってちょっとだけ…どこぞの発言掲示板で相談したい気分だな…
と…アムロは何となく考えてしまうのだった。

入港手続きはアムロの予想を遥かに裏切る短時間で終了した。
「このコロニーに於いてはVIP待遇という免罪符が大変有効なのだよ」
不思議顔のアムロに優しく笑いかけながらシャアが説明した。
「ふーん…成る程ね…でもそれって逆にヤバくないか?」
「察しの通り『入港チェック』が甘いという事実は、危険な物資も人物も簡単に入り込んでくる、という事だからな。金持ちの道楽には多少の融通を利かせないと、観光コロニーとして成り立てない部分もある。致し方ないのだろう」
「…そういえば…此処って…最近テロ事件があったよな?」
「『富裕層』を狙った様々な事件ならこの5年間で16件ほど起きているな」
淡々とまるで情報だけを説明するような隣の男に段々と腹が立ってきた
「………何でそんな場所にわざわざ来たワケ…?
…しかも新婚旅行…なんだよな…(ぼそっ)
「私が此処の家を購入した時はそう危険でもなかったのだがな…致し方有るまい。つまりその為のレウルーラとサザビーだ。何の事件もなければ最高のリゾート地である事は確かだぞ?」
「……そーですか……」
何だかとってもモヤモヤするなっ…と考えながら、レウルーラからポートに降り立つと、数人の男達が出迎える様に立っている。その一人に朧気ながら記憶があった。
「…シャア…あの人はもしかして此処の…」
「そう、モルデルガン・コロニー代表のロジャース氏だ。3日前に式後のパーティーで会ったな」
色々と面倒な気もしてきたが、シャアの今の立場を考えると…これも当然なのかしれない。多くの各コロニー代表が若きネオ・ジオン総帥の手腕を相当高く評価しているのは事実だ。コロニー側がそんな思想で纏まってしまえば、連邦政府にとって一番やっかいな事態となるだろう。連邦側は本当にシャア・アズナブルの暗殺を虎視眈々と狙っているんじゃないか…とアムロは時々本気で心配になるのだ。
「モルデルガンにようこそ、シャア総帥。今話題の総帥夫妻にハネムーン先として選んでいただけるとは…!
当コロニーにとって素晴らしい経済効果をもたらす事になりますでしょう。ありがとうございます」
「…たまたま此処に家を持っておりましたのでね…私共は色々と微妙な立場故、このような物騒なモノで乗り入れました無礼をお詫び致します」
「いえいえ、確かに此処も最近無粋な事件が少しありましたが、低脳の莫迦者どもが少し暴れたりしただけで、それ以外は至って平和でありますが…総帥程のご身分でしたらこれぐらいのご用心は当然でありましょうな」
アムロはこの手の人物をあまり好きになれない。シャアも同じハズだと思うのだが…。
「アムロ様もようこそ。先日の結婚式では本当にお美しく…もう見とれるばかりでしたよ」
…それはこの間のパーティーでも聞いた。そしてそんなワケわからんお世辞は鳥肌が立つから止めてくれ…
しかも…何だっっ…この男の妙に助平ったらしい笑顔はっ?!それも鳥肌モノだっっ!
アムロは本気で頭痛がしてきた…。

「どう考えたって、此処のイメージ払拭に利用されてるだけじゃないかっっ…ああーっ!もう!
…気色悪いーったらありゃしないっっ!!」

 

※※続きは「Living in Your Side」本編でお楽しみくださいませ※※