HEAVEN IS A PLACE ON EARTH

 

 

空が高い……と感じる。

アムロが言うには、夏から秋に移り変わる時の現象なのだそうだ。
そういえば街並みの街路樹の木々も葉が赤や黄色に色付き始めている。
「地球」という「地上」に降りて、この季節とやらも2廻りほど経ったか…。
人生のそのほとんどの時間を「宇宙」で過ごしていた自分には、「地球」の自然な季節感というものに対して未だに馴染み難い。まだ過ごし易い季節は良いが…極端に熱かったり寒かったりする快適とはお世辞にも言えない季節は、とても不自由を感じるのだ。
「その不自由さが良いんじゃないか」
…と…「地球」で暮らす時間が自分よりも長くあるアムロはそう言うのだが…。
もっともこんなに季節を肌で感じられるのも、此処が相当の自然が残る田舎だからで。
大都会や一部の大地は季節を全く感じられぬ程に…「地球」は悲鳴を上げているわけだが。
嘆かわしい事だ…と少しでも論じるかの様な話をしようものならば「また変な事を考えてる…」と、アムロがそれはとてもコワイ顔をするので…それ以上の話題は御法度である。
取り敢えず今は季節感を感じる事にそうそう時間を割いている時ではない。
シャアは自宅で待っている彼の為に家路を急いだ。

「帰ったよ…アムロ」
…返事は「予想通り」無い。
居間に入ると、「予想通り」に件のアムロはソファーに身体を投げ出して…眠っていた。その様子に軽く溜息を付いてから取り敢えず荷物をキッチンに置き、食料品や何やらをそれぞれ冷蔵庫や食料庫に仕舞い込む。
一仕事終えてから居間のソファーに戻り、アムロの手から落ちたと思われる雑誌を拾い上げて、テーブルの上にきちんと置いた。規則正しい寝息が聞こえる。
「…ったく…人に仕事を頼んでおいて君は…」
呑気なものだ。
シャアとて別にこんなに買い物をするつもりで出掛けたワケではない。すぐ近くの歩いて行ける本屋に注文していた本を取りに行く…と言っただけだ。
「あ、じゃあついでにコレよろしく」
…と、アムロに買い物メモを渡された。
「…これらを買う為には車を出さねばならんのだが…」
「別にいいじゃん。貴方、運転好きでしょう?」
「…一緒には行かない…のかね?」
「コレ読みかけで面白いので行かない。あ、最後のヤツ、忘れずに買ってきてよ!」
メモの最後には『アンナ・レーテルの新作マロンタルト!←絶対忘れるな!』…とあった。

眠っているアムロの顔を覆い被さる様に覗き込む。
アムロの寝顔は宇宙一可愛いしずっと見ていたいとも思うが、今は起こさねばどうも面白くない。その柔らかい頬を指先で優しくツンツンと突く。こういう刺激の方が大抵彼は目を覚ますので…。
「ん……」
うっすらと瞳を開けるアムロ。ボンヤリとシャアを見つめて…途端にハッとした驚いた表情になった。
「えっっ…!…シャア…?!あっ…あれ…??!」
かなり驚いた様子で一瞬ソファーから落ちそうになる。小さく叫んだ上にキョロキョロと辺りを見回す様子に、シャアもそれなりに驚いた。
「どうした?…アムロ」
「あ…いや……夢か……何でもない…」
「夢…?」
アムロは何故かシャアから視線を外し…少し頬を赤らめている。そんな仕草が気にならないわけはない。
「…どんな夢を見たのかな?私の眠り姫は…」
「からかうなよっっ…何でも無いっって!!」
相変わらずあちらを向いて視線を戻さないアムロに…ふむ、コレは何としても聞き出さねば…という悪戯心が沸き起こる。
「…私に話せない様な内容なのかな…?」
「……………」
黙秘権を行使するアムロに…シャアは右手を彼の内股に忍び込ませて、いきなりソコを撫で上げた。ビクリっと大きく彼の身体は震える。
「わ…わわ…っっ!な、何するんだよっっ…」
「言わねばもっと恥ずかしいコトをするぞ…?」
シャアはとても楽しげな表情をしている…これは言わねば絶対にソレを有言実行確実だ…。
降参、とばかりにアムロは両手を挙げる。
「……笑わない……?」
「笑わないとも」
不安げに上目遣いで自分を見つめて、本当に言いたく無い様子なのであるが…そんな恥ずかしげなアムロもとてもソソるな、と不謹慎な事を考えた。
「…あのさ……スゴイ…夢…だったんだ……」
「ほう…どんな?」
恥ずかしい、例えば性的な夢なのだろうか?…と面白く想像する。
「……俺……と…貴方が…」
「ふむ、私と君が…?」
「…………………けっ…こん……」
「…は?」
……こん?…良く聞き取れない。もっと大きな声で…アムロ。
「……けっ…
結婚…してたのっっっ!」

流石のシャアも一瞬思考が止まったのだが…。
「…そうか…それは何とも素晴らしい良い夢ではないか」
「どこがっっ?!…何だかスゴイ派手な結婚式やって…俺ってば男のクセに『総帥夫人』とか呼ばれててっっ!…すっごい恥ずかしかったんだぞーーっっ!!」
「ほう…成る程…そういう選択肢もあったワケか…」
「どーゆー選択肢だよっっっ!」
真っ赤になって叫ぶアムロが本当に可愛い。
そうか…君はネオ・ジオンに来る夢を見たのか……それこそ、その頃の私がずっと「夢」に描いていた事だな…。君があの時、私の手を取ってくれたのであれば…そう、本当に君にプロポーズをする程の喜びであったろうよ……

「そんなに嫌がる事でも無いだろう」
シャアはソファーに座り直してアムロを起こし、膝に抱き寄せた。
「今の状況だって事実婚の様なモノなのだし…」
「…それとアレとは話が別っっっ!」
何もそんなに頭から否定しなくても良いのに…とシャアは残念がる。
「……ではアムロ…」
「…何…?」
訝し気なアムロに真剣な表情を向ける。
「私と…結婚してくれ」
「ヤダ」
即答である……。

「…少なからず傷付いたぞ…私は…」
眉間に思いっきり溝を作ってアムロを睨む。
「…そんなノリでするようなプロポーズ、誰が受けるかっての!…夢の中での貴方はさ…もっとちゃんと……」
と言いかけて口を噤む。
「…私は君に何と言ってプロポーズしたのかな?」
「言わないーっっっ!絶対に教えないーっっっっ!!」
そんな子供の様な物言いのアムロの細い身体を更に抱き寄せて、シャアはその柔らかい唇に軽くキスを送る。そしてそのまま彼の耳元にある言葉を囁いた。その言霊にとても驚いた表情をする彼がとても愛しい。
「…な…何で解った…の…?」
「私が君に贈る言葉…だろう?知っていて当たり前ではないか」
微笑んで今度はもう少し深い口吻をした。
「…返事は…?アムロ……」
また頬を赤らめて俯くアムロは…そっとシャアの首に抱きついて小さく呟く。
「………Yes…I will ……」

歓喜が頂点に達したシャアはそのままアムロの身体をソファーに押し倒した。
抱き締められてアムロは…自分の首すじに吸い付いているシャアにふと話しかける。
「…そう言えばシャア…アンナ・レーテルのタルト…買ってきてくれた?」
何もこれからって時に言わんでも…と少なからず脱力したシャアである。
「もちろん忘れてなどいないよ。だがそれはデザートだからな…後で、だ」
…そして直ぐに…アムロはそのデザートより甘い嬌声を漏らし始めた…。

 

Heaven Is A Place On Earth ………
此処は彼らの地上の楽園………

 

END

BACK

--------------------------------------------------------
※このベッタベタな話は「ADDICTED TO LOVE」という本をわざわざ通販して下さった方々に
ささやかなオマケとして公開していたモノです。2人も無事に結婚し(苦笑)本も完売して時間経ったので
…少し手直ししてサイトの方にもUPさせていただきました…季節が巡っちゃう前にっっ
通販して下さった皆様に深く感謝を込めて……(2008/8/27作・再UP2008/10/6)