念の為の警告です※※
今回のお話の内容はアムロがかなり精神的にも辛い状況…です。
そして性的な意味合いでの、暗い部分が含まれておりますので…
それが少しでも無理だ、という方は閲覧をご遠慮下さい。
※以下の閲覧は申し訳御座いませんが自己責任でお願いいたします※※

 

 

沈黙は星々の輝き   4

 

 

良く解らない機械類ばかりが並ぶ白い無機質な部屋…
冷たい…ただ此処は寒い。
「このサイコミュのテストマシーンは、公国軍の『ジオング』というMSの設計図を分析して1年掛けてようやく完成させたものだよ…このMSは知っているかね?」
「……ええ…最後に闘ったヤツです…MSいうよりはMA…モビルアーマーですよ…」
「そうなのかね?まあ我々にはどうでも良いことだが…」
「サイコミュに関するジオンの技術はかなり高いな…増幅装置としても此処まで開発が進んでいたとは…」
「何、直ぐに我々が追い抜かしてみせるさ…アムロ中尉の協力があれば容易いとも!」
ただ寒いだけの此処では…自分の意志は全く無いのだ。
「…君の協力で、今後戦争を無くす兵器が作れるのだよ…本当に素晴らしい事だと思わないかね?アムロ中尉…」
検査衣のみを着せられている剥き出しの太腿を、無遠慮な手が撫で上げる。
この感触は心から嫌悪するものだ…
-----ああ…冷たい……自分の身体も心も凍っていく……
強く瞼を閉じると無意識に長い睫毛が震えた

-----あの人…の乗っていたジオングの…か…
-----どんな気持ちで…あの人は…あの時に……

そう考えているだけでも……
この寒さが少しだけは和らぐような…そんな気がした。

 

 

 

温かい唇……そして浮かぶビジョンは…
黄金の輝きに満ちていて…力強く、そして優しい。
あの時、貴方の中に見えたあの冷たさが随分と消えている様に思う。
でも同じモノ、あの時と同じ……彼独特の波動とオーラだ。
微かな水音を立てて、唇がゆっくりと離れていく。未だ至近距離にある、彼のその端正な顔を、美しい蒼氷色の瞳を、そして眉間に残るあの傷痕を…アムロはしみじみと見つめた。
「…やっぱり…同じなんですね…」
妹さんの瞳の色と…という言葉は口には出さなかった。そのアムロの視線を受けて、シャアは苦笑じみた笑みを浮かべる。誰も見ていないとはいえ、こんな場所でいきなり男にキスをされても、大して驚かないとは……まさか慣れているのか?
「想像通りでご満足かな?」
「…だんだん思い出してきましたよ…貴方のその声も…」
-----僕はちゃんと知っていたはずだから…
「覚えてくれていたのか…嬉しいよ、アムロ君」
もう一度軽く唇を重ねる。やはり彼は拒まない。
「どうして…貴方が…こんな場所に?」
ごく自然な疑問を口にする。
「君らしき人物を此処で見掛けた、と聞いてね…君に会いたくて地上に降りてきてしまったよ」
アムロはその言葉に怪訝な表情を見せる。
「…またニュータイプが必要になったんですか…?」
「アムロ君…」
言われても仕方がない台詞だが、やはり充分に堪える言葉だ。
シャアの複雑な表情を見て、アムロは口元を少しだけ緩ませた。
「冗談ですよ……貴方を虐めたらまた彼女に叱られるかな…」
年齢にもその童顔にも似つかわしくない、妙に擦れた大人の表情を見せる彼に…何か違和感を感じた。
「…がっかりしましたか?」
「…?何がだ?」
更にその表情は嘲るような笑いを作ってる。
「貴方と死闘を演じた連邦兵士が…『英雄扱い』もされずにこんな場所で燻っている事を…」
…夢の中での、泣いているあの姿が今の彼と重なる。
「僕自身は…扱いなんてどうでもいいんですけれどね……軍を辞める事さえ出来たら…それで良かったんだから」

-----冷たい…此処はただ寒いだけ…

「でもそれさえも許されなくて……ただこうして…檻の中に閉じこめられているだけだ…」
シャアから視線を外して、アムロは吐き捨てるように言う。
そんな彼の様子から、シャアは大凡の彼の今の立場は理解出来た。
NT基礎研究所のデータにあった「被験者」としての名前…そして今居るこの辺境の場所…
「此処だけでは自由」という発言…
内から静かな怒りが湧いてきたが、それは表には出さずにシャアは努めて優しい声で話し掛ける。
「私は…君と会えて…ただ嬉しいだけだよ」
その声に惹かれる様にアムロはシャアへと視線を戻した。驚く程に優しい表情と感情を自分に向けてきている…それを。
「君が生きていてくれた…そして今私の目の前に居る…それだけで充分だ」
大きく見開かれたその琥珀色の瞳が、揺らいでくるのが解った。ああ綺麗だ、とシャアは素直に思う。
「……な…んで……」

-----ただ寒いだけ…だけど…あの人の事を考えると…ほんの少し…

「そ…んなに……優しい……んですか…?」

-----冷たさが和らぐ…気がしていたんだ……

琥珀の瞳から一筋流れたそれに…シャアは温かい唇をそっと押し当てた。
「…優しく…しないでくださ…い」
「どうして?」
シャアは唇を滑らすのを止めずに小さく尋ねる。
「…優し…くされたら…期待…してしまうから…」
「期待してくれても…構わないよ」
そのままもう一度、とアムロの唇を優しく己のそれで覆った。

 

-----冷たい……此処はただ寒いだけ…
-----それでも…今は……

 

 

その後二人はほとんど会話する事はなく…ただ寄り添うように座って時間を過ごしていた。
そろそろ時間となり、司令室へと向かうと告げるシャアに対しても、アムロは何の言葉も掛けてはこなかった。
シャアはマーティン中佐と一通りの形式通りな挨拶を交わす。
「…君は…本当はあの子に会いに来たのかね?」
苦笑いする様な彼のその表情で、老齢の司令官は応えは正しかったのだ、と判断した。
「あの子には…この基地の中だけでは監視が付いていない……その代わり此処から逃げ出すことも絶対に出来ないがね」
「…この広大な敷地が彼一人の為の檻…とでも?」
「そうじゃな…此処と与えられた屋敷だけをただ往復するだけの生活を繰り返す…それがあの子に今ある『自由』なんじゃよ…」
マーティン中佐は掛けていた己の眼鏡を外し、机の上に置いてあった布でそれを拭く動作を何気なく繰り返している。
「『使えないニュータイプ』と解っても上層部はどうやっても手放す気はないらしい…何をそんなに怖れているのかね…」
「使えない…ニュータイプ?」
全くシャアの顔を見ようとせずにマーティン中佐は、ただ眼鏡にはあっと息を吹き掛けてまたレンズを拭いている。
「……『NT基礎研究所』では無く……『新兵器開発技術部門』を調べた方が解る事もあるじゃろうなあ…」
ある意味「アムロ・レイの秘密」を語る老司令官を、シャアはサングラス越しに何気なく見つめている。
「…そんな事まで私に話して良いのですか?…司令」
「何のことかね?…ぜーんぶ年寄りの独り言じゃよ」
その言葉にシャアは薄く笑った。取り敢えず…彼の立場の理解者が一人でも居るのなら、未だ安心できる。
「本当にお世話になりました…近いうちにまた司令を取材に来ても…宜しいですかな?」
「こんな辺鄙な基地にそうそう取材に来ても見るモノもないじゃろうて」
シャアの差し出す右手を取って、マーティン司令は笑顔を見せた。
「…それより街の方には良い酒場も多いぞ?美味い酒を呑みたかったら『サールン』という店でワシの名前を出したらの…一杯くらいは奢ってくれるだろうな」
さも老獪なその笑顔にはシャアも苦笑いで返すしかない。

基地を去る時間…最後にもう一度だけ、とアムロに会いに来た。
再び作業着に着替えて、戦闘用ヘリの整備紛いな事をしている彼にシャアは近付く。意外にもアムロから声を掛けてきた。
「…帰るんですね…」
「ああ…」
「そうですか……もう二度と会う事は無いでしょうけれど…お元気で」
何とも言えない表情で自分を見ているアムロを、シャアは思いっきり抱き締めたい衝動に駆られたが…努めて冷静に応える。
「私は…再び君に会いに来るよ」
アムロは無言で暫くの間シャアをじっと見つめていたが、やがて静かに呟いた。
「……困ります……そういうの…」
「アムロ君……」
「優しくしないでください…って言ったでしょう?…もう僕に拘わらないでください」
再び彼は戦闘用ヘリの下部へと潜り込んでいった。
冷たく閉ざされてしまう彼の心…だが本当は…本当の君の心はおそらく……

「アムロ…私は……必ず君を此処から連れ出してみせる」

そう言い捨てて、シャアは踵を返す。
その発言に思わずアムロはヘリの下から姿を見せたが…遠くなっていくシャアの後ろ姿をただ見つめているしか出来なかった。
「…今……なんて……」
言ったのだ…と、アムロの唇は自然と震える……

 

基地敷地の外で迎えに来た車に乗り込んだ時も、シャアの表情は強張ったままで無言である。話し掛けてはならない雰囲気を、彼は空港で飛行機に乗り込むまで作っていた。
シャアはずっと考えている…どうやってアムロを自分の元へと連れ出せるのか…
ただそれだけを。
だか今は月へと戻らねばならない…
アムロが此処にいるのに、手を伸ばすと届く位置に居るのに……
今の自分は何も出来ず、ただ見ている事しか出来ない。
そんな状況の己を彼は最も嫌悪する。しかし今はどうする事も出来ないのだ。

 

 

アンマン市に戻ってからシャアは即座にキグナンを呼び出して、事の顛末と己の希望を単純明快に打ち明ける。
「…アムロ・レイを……同胞として迎え入れると…?」
キグナンとしては、いずれ彼がそう言い出すのではないか、と予想をしてはいたのだが…流石に実際に聞いてみるとそれなりに動揺はする。
「そうだ…彼もある意味、連邦軍の非道な戦略の犠牲者と言える。そういう意味では我々が保護するに充分価値ある人物だ」
「しかし…結局はシャイアン基地全体で彼を軟禁している様なものでしょう…救出は極めて難しそうです」
「だからこそ、やる価値はある…拘わった上層部は今のところティターンズだけに警戒をしている様だが…ならばそこを逆に利用させて貰おう」
シャアにはなら何やら考えがある様子…と見て、それならば反対する理由はない、とキグナンは深く頷いた。
「それから少し探って貰いたい事がある……連邦軍のここ数年の新兵器開発に関してだ…そこに隠されているだろうの、ある情報が知りたい」

 

 

夢の中で度々現れる赤毛の少年は、今夜ははっきりとアムロ・レイの形となって出て来た。
-----アムロ…ようやく「此処」でも私を見てくれるな……
きっちりと正面を向いて佇んでいる彼にそっと手を伸ばし…いつもの様にその柔らかい癖毛に触れる。
じっと自分を見つめる美しい琥珀色のその瞳に吸い込まれそうだ、と素直に感じた。
-----…貴方は……
「此処」で初めて彼の声を聞いた。
-----…そんなに「代わり」が必要なのか…?
再び君は酷な事を言うな…と夢の中で、そう考えた。
-----違うよ…アムロ……私は君に代わりなぞ求めていない…
髪からそっとその柔らかい頬へと指を滑らせる。
-----ならば…どうして…?…どうして貴方は僕を……
-----…それは…アムロ……私が君を……

 

 

「……僕を……?」
思わず呟き、それで目が醒める。
どうやらソファーで転た寝をしてしまった様だ…よくある事なのだが。
アムロは軽い溜息を吐いた。
「また…あの人の夢を見ちゃったんだな…」
そして「本物」に会えた…会えるはずも無いと思っていた彼に。
そんな彼がとんでも無い事を言った。
自分を「此処」から連れ出す、だなんて…そんな莫迦な事を。
そっとソファーの上で膝を抱えて頭を乗せる。
「…何を考えているんだか……あの人は…」
自分に…そんな「価値」はもう無いと言うのに。
あるとすれば…
アムロはちらりと時計に視線を送る。もうすぐ「時間」だ。
…今夜来るのは……男なんだろうか?女なんだろうか…?
もう自分にとっては、それさえもどうでも良い事なのであるが。

-----冷たい……此処はただ寒いだけ…

リビングのドアをノックする音がして「執事」が現れ、今夜の来客の名を告げてきた。その名前は何度か聞いた事があるな…とぼんやりと思う。しかしアムロには、その男の顔が全く思い出せないのだけれども。
アムロはのろのろとソファーを降りて、ゆっくりと寝室へと向かった……

 

 

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…かなり長ーいお話になりそうです……絶対に幸せにするんだからっ (2010/5/16 UP)