《ヒトメボレ》

 

……彼の第一印象は当に“衝撃“であったとも……

 

何とも嫌なパイロットだ、と思った。
機体の性能の良さに助けられているとはいえ、恐ろしい程のスピードで自分に追い付いてくる。
何という学習能力の早さとその操縦センス…
此方側から見れば最悪の機体に最凶のパイロットが乗り込んでいるとしか思えない。
しかも情報局からの僅かばかりのデータによると、そのパイロットは正規の訓練を受けた軍人では無い…
…らしいと。あのコロニーにたまたま居た民間人の可能性が高い…と。
そんなあまりにも馬鹿げた話だ。連邦側がワザと流布している撹乱データか?
…だが…万が一…それが真実ならば。
-----私のMS乗りとしての矜持はズタズタだったよ…全く。

軍人として、戦士としてのごく当たり前な感情でその敵に興味を持った。
もちろんいつか倒す、自分の手で仕留める…という意味でだ。
自分が此処にいる目的を有利に進める上で…。

-------そして真実は更なる衝撃を私に与えた。

彼は本当にごく平凡な少年であった…。
見た目は。
------こんな普通の子供に私は散々煮え湯を飲まされてきたワケか?
ごく自然に身勝手な苛立ちが沸き起こる。

何か際だった特徴もなく、小柄で細い身体のどこにでも居る様な普通の少年。
見た目もしゃべり方もおそらく性格も…ごくごく平凡で取り立てて目立った所も無い。
そんな普通の子供なのに……

何故か私は…
その「瞳」が忘れられなかった……。

 

その出逢いからは全く最悪で、もう更に憎み合う事しか出来なくなる。
無意識に安らぎの存在としていた女性を「精神的に」寝取られ、殺され、連れて行かれた。
私の一番の怒りは、彼女を殺された事より…寧ろその事実からこの身に突き付けられた
自分の甘さと弱さを…彼に暴露された事だ。
彼の剥き出しの感情がぶつけられる度に、私はその激しさを受け止めきれなくなる。
その度に仮面で覆っていた筈の偽りのない私の「中身」が曝されてしまう。
互いに本音を叩き付け合って、大きな傷を受ける…。血を流し合いながら殺し合う。

何故だ…?
何故、お前の前ではこうも私の全てが無防備になってしまうのだ…?
ニュータイプだから、という簡単な理由ではない……
もっと別の何が……我々の間には存在するのか……?

…確かめたい……
もし……殺し合うのでなく…触れ合うのなら…
…解るのだろうか………?

差しだした手は、もちろんこの上もなく強烈に拒否されたが……

だが私は決して彼を忘れなかった。
寧ろ彼への想いはどんどん強くなっていったのだから……。
紆余曲折を経て自由の身になってから、彼の行方を探したが何故か一向に掴めない。
あれ程のパイロットが…いやあれ程のパイロットだから、か……。
連邦側に放った同志から何処ぞに軟禁されているらしい、という情報は掴んだ。
相変わらずアースノイドの稚拙で傲慢な発想には反吐が出る。
もしあの能力のせいで奴等の「道具」にされていたら…何としても早く彼を此処に……
その思いは日々強くなっていく一方だった。

 

そして漸く……
少し大人になった彼と再会を果たした。
間違いない彼のその姿をこの目で認めたとき、言い様もない歓喜の震えが全身を貫いた。
あの「瞳」が自分を見つめている、というただそれだけで。

--------私は当の昔に気が付いていたのだ……この感情が何か、を……

彼はもうあの少年の日とは違い、私に感情を曝さない。
そして……触れようとする手を拒まなかった。
だが……
どんなに身体に触れ熱さを感じようとも、その隠された本音を見つける事が出来なくて…
何度も何度も……出来る限りに彼を求めた。
…どんなに身体を開こうとも、あの時の様に彼は自分に何もぶつけては来ない。
私を見ようと、見つけようとはしない。手を取ろうとしない。
…それどころか、自分の手を取るべき相手は別にあるのだ、と私を突き放した。

自分の中でゆっくりと冷えてゆく固まりの中に、私はあの「感情」を閉じ込める。
固まりの名前は…差詰め「狂気」…とでも名付けようか…?

--------君は私の残酷な天使…
----------君が犠牲になって、と言うのなら……
-------------私は喜んでこの身を捧げよう……
---------------何故なら今は…君は私を「見ている」…その「瞳」で…

 

更に冷たくなる固まりを抱えて……私は宇宙で君を待った。
もうこの「狂気」ではあの「感情」を抑えきれない。
…さあ……こうすれば君は私を「見て」「感じて」…そして「殺しに来て」くれるだろう。
この「狂気」に閉じこめたまま、この「感情」ごと、私を殺してくれ。

そう…私の告死天使が来るのだ。
白い羽を持つ機体に乗った君が……私を……全てを終わらせてくれる…

 

 

--------勝手な事ばかり言うなーーーーっっっ!!!!!!!!
--------独りで楽になろうなんて…絶対に許さないからなっっっ!!!!!!

--------いいよ…「代わり」でいいよ……「代わり」に貴方を…俺が……
--------だから……もう……だから……

 

 

モウ…ナカナイデ………
アイシテイル…カラ……オレガズットアイシテ…アゲルカラ……

 

 

 

----そんな「殺し方」は…本当に狡いな…………

 

 

…そして間違いなく私は「彼に殺された」のだ…………

 

 

「一目惚れだった…って信じるかい?」
ホラまた来た…という顔で君はウンザリした顔をする。
そんな君を抱き寄せて、その温かさを確かめる……生きている事を。
「あのさー…もう何度も聞き飽きたから…いーよーもう…」
「そうか?私はまだまだ告白し足りないぞ。何故なら君が折角『生み直して』くれたのだからな」
耳まで赤くなっている彼が愛しくて愛しくて堪らない。沢山の口吻をその顔のあちこちに与えた。
「…言っとくケド…俺は『一目惚れ』じゃないからなっ」
「解っているよ」
口付けを一つ…そして彼の腰を軽々と抱き上げ、その腹部あたりに彼のシャツの上から顔を埋める。
「…本当は私もだな…君を『見る度に惚れて』いるので…一目惚れだけではないな」
「……ううう…ホントにもうっっ」
彼は私の頭を抱えて優しく撫でてくれる。…全く本当に甘やかしてくれるな…
「もういいよ…好きに言ってて…」
溜息を付きながら私の髪に接吻を…。
「俺はそんな貴方が好きになっちゃったんだし…ね」

「君は…そんなに私を嬉しがらせてどうするつもりだ?」

そして笑う君の綺麗な瞳には私だけが映し出されていた。

 

FIN

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乙女チック総帥?…でした…はははは…(2008/7/11)