《 いえない我侭 ・U 》

 

 

カミーユの予想に反して、ドアは遠慮がちなノックの後にそっと静かに開けられた。
…アムロの身体を気遣ってなのであろう。さすがにそこまで考え無しの男ではなかったか。

シャアがベッドに近付いてくるその気配を察したのか…アムロがゆっくりと目を開ける。
「……アムロ……」
彼の大きな手が頬に触れると、それだけでも安心したようにアムロは微笑んだ。
「…大丈夫…また少し熱が出ただけ……何て顔してるのさ…?」
「私に…心配するなというのか?それこそ残酷過ぎるぞ…」
アムロは上掛けから手を出して、自分の頬に添えられているシャアの手にそっと重ねる。
「ごめんね…でも本当に大丈夫だよ…カミーユもずっと付いててくれるし…」
その言葉にシャアは、ベッドの反対側に立っているカミーユをまさに「睨み付けた」。
彼の視線は戦場で敵に向けるものとほぼ同じものだ。そして『どういう事だ?』と静かな怒りを湛えている。こんな視線、自分でなければ絶対に目を反らすだろうな…と思いつつ
「…後で説明しますよ……」と溜息を付くように答えた。

暫くの間はアムロに付き添っていたシャアであったが…
やはり急な帰宅となったせいか、執事のマクレインを通して公務の件で何度も連絡が入ってくる。そんな状況を本当に腹ただしく思っているようだが…彼の今の立場上、仕方がない事なのだろう。
そんな苛ただしげなシャアの様子に苦笑して、アムロは優しく言う。
「…シャア…仕事してきてよ……そっちが落ち着いたらまた来てくれれば良いから」
「しかし……」
「今は落ち着いてますから、大丈夫ですよ」
カミーユの言葉と「ほら」と言うアムロに促されて、シャアは大きな溜息をつき…ゆっくりと椅子から立ち上がる。
「…分かった…書斎にいる。少し仕事を片付けてから来る事にしよう」
「うん…頑張ってね」
アムロの額と頬に幾度かのキスを落とし、シャアは名残惜しげに部屋を出て行った。
「…シャアの方が具合悪そうな顔してるよね…?」
「仕方ないと思いますよ…今、大尉の頭の中はアムロさんの事だけしかないようだし」
「…そう…だね…ごめんね……シャア…」
最愛の人の姿が消えたドアを見つめて、アムロは心底申し訳ない様に呟いた。

 

2時間程後…アムロの熱も大分下がってきた事に心底カミーユは安堵する。
「ああ…良かったですっアムロさん…どうですか?苦しくないですか?」
「…大丈夫だよカミーユ……それより…ね」
「?…何か?あ、お水とか欲しいですか?」
ゆっくりと頭を振り、ベッドの中から上目遣いでカミーユを見つめるアムロは…何故かバツが悪そうな子供の様に見えて…でも何故か艶めいていて、少し鼓動が早くなった。
「……あのさ…悪いけどシャアの様子…見てきてくれる?」
「ええ?!…何でですか?」
アムロのいきなりの提案に思わず声が大きくなってしまう。
「…うん…大分苛立っているみたいだし…熱下がったから大丈夫、って事と…後ね、呑み過ぎてないか…ちょっと心配なんだ」
ふと気配を探ってみれば…なる程、ある方向からかなりの機嫌悪さの感情…大尉の書斎の方向か。
「病人のアムロさんに逆に心配させるなんて、どうしようもない人ですね…解りました」
「すまないね…カミーユ」
アムロは柔らかい笑顔を向けて
「…喧嘩しちゃ駄目だよ?」
と念を押すように言う。その言葉にカミーユは苦笑せざるを得ない。
「そんな言い方…アムロさん、本当に母親みたいですよ?」
もっとも本当の母親からそんな心配をされた事は…一度も無かったけれど。

 

「大尉…じゃなくてシャア大佐、入りますよ」
不機嫌さを撒き散らかしながらデスクワークに徹していたシャアは、いきなり現れたカミーユの姿に露骨に眉を顰めた。
「…ミセス・フォーンに代わりについて貰ってます…熱は下がりましたし」
一番聞きたいだろうの情報を先制するよう答える。
「…そうか…」
彼の安堵の気持ちが伝わってくる。広い書斎の中に足を踏み入れて、シャアの座る机の近くにあるサイドボードの上をふと見やる。そこに用意されているモルトウィスキーの酒瓶に気付き、手に取ってみた。
「…あの30年モノだ…やっぱり高いの呑んでるんですねぇ」
一度は呑んでみたいと思っていたシングルモルトではないか。ご相伴に与らない手はない。そこに用意されているグラスにそのまま注ぎ入れ、立ったまま味わう。芳潤な香りと舌の上でそのキツさを堪能していると…ふとシャアの視線に気付いた。彼は…何故かしみじみとこちらを見つめている。
「…何ですか?呑ませる気は無かった、なんてケチくさい事は言わないでくださいよ」
「いや、そうではない……そうか、酒が呑める年齢だったのだな」
「あのですねぇーっ…自分の歳を考えてくださいよっ!俺ももうすぐ25です」
「ああそうだな、失敬…あの坊やがね…と感慨深いモノがあったのでな」
くくく…と苦笑しているその姿を見て、何だか気恥ずかしいものを感じてしまった。立ってるのも何かと思い…グラスを手にしたまま部屋の中央に置かれている革張りのソファに身を沈める。
「…で?後で説明すると言っていたな…その事か?」
「ええ…まあ…」
シャアはゆっくりと椅子から立ち上がると机の上に置いてあったグラスを手にして、カミーユの反対側のソファに腰掛け、彼を正面から見据えた。当然の如くその視線は厳しい。、
「何故、再び発熱したのだ?…血液検査の結果は?」
「…結果はウィルス感染症ではない事は確かです。ただ…一部数値が異常だったので…ウォルトン先生も『ストレスが原因ではないか?』とおっしゃってましたが…詳細はまだ解りません。一度精密検査を受けてみる事をお勧めすると、先生が…」
「……解った…その点はアムロと話し合ってみよう」
あまり芳しいとは言えない報告に、やはり深刻な表情だ。
「ストレス…か…思い当たる事が多過ぎて心が痛むな…」
「…もしかしたら…アムロさんは決して…絶対に大尉に言えない、何かがあるんじゃないかな…」
「?どういう意味だ?」
「詳しく説明出来ないんですけど…勝手に思っているだけかも、ですから」
ふと自分の爪を噛みかけて止める。とっくの昔に治ったハズの癖なのに…。
「君の能力がそう感じさせる、という事か…私の罪が深いとでも?」
「いいえ…大尉のせいだけじゃない、と思いますよ……俺も…つい…」
カミーユから出た意外な言葉に眉を顰める。普段の彼なら「貴方がどれだけ負担をかけているかっっ」…と食って掛かってきそうなのだが…
「…どうやら私に報告しなければならぬ事があるようだな…カミーユ」
その声色に心の中で覚悟を決めながら、若い青年医師は昼間の出来事を話し始めた…。

 

「…成る程……そういう事か」
手にしたグラスの中の酒を何気なく揺らしながら、シャアは呟いた。
「……怒らないんですか…?殴られる覚悟は出来てますよ?」
「お前の軽率さには怒っても良いだろうが、その指摘は一部事実でもある…殴るまでにはいかんだろうな。アムロにも叱られる」
「……引っ掛かる言い方しますね…」
シャアはグラスを呷ると、静かにテーブルの上にそれを置く。
「確かにこのスウィート・ウォーターは旧公国系住民が多く、キャスバル・レム・ダイクンの名を彼らは無条件で受け入れた。だがそれも抑圧された難民の立場から解放を求める、英雄待望論に重なった結果でもあるだろう」
「…だから貴方には都合の良い場所だったんでしょう?」
「確かにその通りだ…全て計算の上で此処を選んだがな」
「既に…あの戦役の頃から用意周到だった…って言われてますよ?はっきり言って騙されてた気分です」
カミーユの遠慮の無い厳しい言葉にシャアは口元を歪ませる。
「まあ…とにかく此処の民衆の本音は、決して『血の継承』を求めているわけではないのだ。自分達の生活の安定とスペースノイドとしてのアイデンティティーを保ってくれる指導者ならば…おそらく誰でも良いのだよ」
カミーユが見つめるシャアの今の表情は…明らかに自嘲気味だ。
「父の唱えたコントリズムとて正確に理解出来ずともよい。あれは今や一種の宗教のようなものだ。強制移民の子孫というコンプレックスから解放してくれる…呪文のように唱えるもの…そんなところだろう」
何だろう…その投げ遣りとも言える口調にもイライラしてきた。
「……大尉……」
いきなりカミーユは自分のグラスを一気に呷ると、立ち上がって再びグラスにその琥珀色の液体を満たす。ふと思い立ったようにその酒瓶も掴んで戻ってくると、テーブルの上に置いてあるシャアのグラスにも遠慮無く、それを注いだ。そしてやや乱暴に瓶を置く。
「…そのご意見だと…随分と貴方は此処の住民と…そして貴方自身を過小評価し過ぎですっ!…本音を言って下さいよ…俺が聞きたいのは、そんな連邦軍のクソ幹部共も言いくるめられるような上っ面の説明じゃありませんっっ!」
「…ふむ……確かに少しは成長している様だな」
そんなカミーユの様子を実に楽しそうに見つめてくる…ああ、何だかまた気恥ずかしくなってきたぞ?…何なんだ?この感情は…
「俺をもう子供だと思っていないなら…ちゃんと本音で話してくださいっっ!…アムロさんの今後に関わる事なんですからっっ!」
「…アムロの…か…」
自分のグラスを再び手に取り一口含む。
「ところで…2杯目はチェイサーで薄めたまえ。お前にはまだキツ過ぎる」
「…言われなくとも…呑み方くらいは知ってますっっ」
再び立ち上がりながら、アムロが呑み過ぎてないか心配してる事を思い出した。
…全然役に立ってないなあ…俺……でも滅多にお目にかかれないオールドビンテージなんですよっっ!
ごめんなさいっっ!…アムロさんっっっ

 

「過小評価でなくとも…大方、大衆というのは流され易いものなのだよ」
「それは解ります…が」
「例えば父の思想だが…人類は進化するために宇宙に上がったのだ、などと宣言されては、当時のスペースノイド達にとっては当に福音だろう。植え付けられた劣等感を払拭しフラストレーションの捌け口が独立思想へと向かう…その熱狂振りが容易く目に浮かぶようだ」
その革命家の嫡子である男は淡々と語っている。
「その思想はある意味…あまりにも単純でも有り、あまりにも複雑で有るが故に、その後サビ家の輩に利用され、またアクシズ派の様に歪んだ思想をも生む。そしてその度に大部分の大衆はそれに煽られ熱狂的に支持をしてきたのだ」
「ですが…それも一部の人間の思想ではないのですか?ダイクン派としてずっと貴方を待っていた人達が居たからこそ…」
「その連中こそが当に『血の継承』に拘る輩だな」
シャアの口元に浮かぶ笑いが…カミーユをふと不安にさせた。
「『シャア・アズナブル』という男は…そのダイクン派とやらの『ザビ家に復讐を果たす』怨念を具象化させる為に生まれたようなものだ…」
「…大尉…それは……」
「故に目的を果たしてしまった後は…彼はそのまま消えてしまっても良かったのだ。…だが…それを許してくれぬ人間が、意外にあちこちに多かったのでな…」
昔を思い出している表情は、やはり幾分厳しい。
「…私に人を導くのが『義務』だと言う『ご意見』は、名を変えても付き纏った…」
「それだけの実力がある、と皆が認めていた、という事でしょう?…大尉は最初から『全てを持っている人』だったから…ですよ」
「相変わらず言ってくれるな…先程言っただろう?私は自身の存在を人に作られた感が多く…本当の自分を見いだせなかったのだよ…未だ、その時はな」
優雅な仕草でグラスを傾ける。その琥珀色の液体を味合うペースはやはりカミーユよりも遥かに早い。
「…臆病者だ卑怯者だと言われても…私は未だ明確な道を見い出せずに正直自信が無かったのだ…」
ふと彼の厳しい表情が少し緩んできたように感じた。
「それでも周囲が煩い。やれ大統領になれだの指導者として起てだの…何故そんなにも私の名に拘ってそれを担ごうとするのか、正直かなり鬱陶しかったぞ?アムロなど『人身御供の家系だ』と可愛い顔してとんでもなく残酷な言葉で私を傷付けてくれたし」
…可愛い顔…ねぇ…これも一種の惚気だな。確かに当時のアムロさんは年上に見えなかったけど。
「…でも結局は…貴方は新生ネオ・ジオンの総帥として起った…結局ダイクンの意思を継ぐ事にしたんじゃないですか」
「私は父の思想を受け継ぐ為に起った、というだけではない」
あまりにも断言的であったので、訝しんだ視線を向ける。
「…当時の私は…全てに絶望していたからな。其程までに、この名がこの血が欲しいのならば貴様等等にくれてやろう、その代わりに…人身御供として相応しい大罪を背負い、その罪の一環も同様に味わせてやる、とまで考えていた」
確かにこの手の純粋過ぎる男が、捻くれて極端に走る事が一番恐ろしいのだ。
「…ホントに自己破滅型の性格してますよねっっ…ああ…アムロさんが止めてくれなかったらっっ!」
「そう…そんな私を救ってくれたのが…アムロだ」
彼はソファに深く座り直すように体勢を変える。
「アムロは…私にもう自分の事だけを考えて生きて良いのだと言ってくれた…誰に作られたわけでもない自分だけの人生を送ってくれ、と。そして…その私の人生の中に自分を置いて欲しい…と」
今までにない優し過ぎる瞳に、カミーユはふと不愉快さを覚える。
「アムロさんの…自己犠牲愛が炸裂、じゃあないですかっ」
「まあ何とでも言いたまえ。アムロが今の世界全てを作っている…のは確かだろう」
やはりカミーユの嫌味など全く気にしてない様子…もうこれ以上の惚気は聞きたくない。

「そしてこの世界はなかなか面白いものだ、と気付いた。父の提唱を元にスペースノイドを導く事も、政治的な公務も、連邦政府との面倒な交渉も…意外に遣り甲斐がある。…もちろん全てが『アムロが側に居るのなら』という前提で、だがな」

「アムロの手を取り、妻として娶ったという事で…今後の『血の継承』は有り得ない、と私が宣言しているようなものなのだが…」
「それは無理です」
間髪入れずの意見に「ほう?」とシャアは興味深げにカミーユを見つめた。
「…それでは納得出来ない輩が絶対に出て来ますよ…大尉は自分の名がどれ程に大きくなっているか…解らないんですか?気付いてないとは思えません」
「…先程の『過小評価』か…」
「今の貴方を支持しているスペースノイド達は『ダイクンの嫡子』だから…という理由じゃないんです。『シャア・アズナブル』自身を熱烈支持してるんですよ?」
カミーユは中の酒を薄くはしたが、まだ独特の香りを残すグラスを手にした。
「だからっっ…きっと貴方が死んだ後に誰かが跡を継いでも…『シャア・アズナブルのご落胤』とかいうのを担ぎ上げる輩と対立して…後継人のアムロさんが苦労する事になるんですよっっ!俺はそんなの認めませんからねっっっ!!」
酔った勢いなのか…自分でも「何故そこまで?」という想像だ…。
「…気に入らんな…何故、私が先に死んでアムロが残される、という予想なのかね?」
「そんな存在は絶対有り得ないっっ…とは言い切れないでしょうっっ?!」
「……確かに断言は難しいかもしれんが…可能性はかなり低いな」
「そんな意味深な笑いで誤魔化さないでくださいーっっっ!!」
思いっきりテーブルを叩いてしまったので…やはり手が痛くなった…。

「あまり先の事を考えても今は無駄のようにも思うが…だがお前の言う程に、此処の住民の拘りは厳しくはないかもしれんぞ?」
「……何故ですか?」
「さすが我々の婚姻をすんなり受け入れた連中だな…という事だ」
シャアはゆっくりと立ち上がり、机に戻って何やらキーボードを操作している。
「アムロが休んでいる理由……色々と想像しているらしい」
「…え…?」
カミーユも立ち上がって机に回り、シャアの見ているモニター画面を一緒に覗き込んだ。その中に多く躍っている記事に思わず驚愕してしまう。そして深い溜息…。
「…………確かに………脳天気な…人達ですね……」
「さすがに私も苦笑いしか出てこないな」
その手の品がない無責任なゴシップ系のニュースではあるのだが……

『総帥夫人、ついにご懐妊かっ?!』
『関係者よりの確かな証言を入手!!既に妊娠3ヶ月?!』

相変わらず此処のマスコミのノリの良さ(?)には眩暈がしそうだ。本気なのか冗談なのか判別不能な程に…真剣に論じ合ってるのがコワイ。
「こちらの方はもっと賑やかだ」
シャアが開いた画面は…いわゆるアングラ系の無法地帯な発言サイト…である。やはり「ご懐妊」ネタが随分と話題になっているようだが…。
「…大尉もこういう場所を覗いてるんですね…」
「情報収集の場として利用する場合もあるのでね」
「ココって……その…アムロさんに対して…凄く失礼な意見もあるんですよ?…悪くじゃなくて…その何というか…」
「詳しいなカミーユ…もちろんそれも情報として押さえてある」
「し、知ってたのはっ!たまたまですっっ!…怒らないんですか?…その…いかがわしい性的な意味でのアレなんですよ…?」
「私は独裁者ではないのでな…言論の自由は保障されるべきだろう」
アムロさんに対して「お前等なんて目で見てるんだっっ!なんつー恥知らずな事をっ!」って意見が山盛りなのに…なんでそんなに冷静に言うんだっ…とムカついた。
「…ただし…此処コロニーの情報管理システムは全て私の手の内にあるのでな…誰が何処でネットワークに侵入し発言してるかなどは、容易く判別出来てしまうのだが」
ニッコリと笑顔を向けてくるが当然目は笑ってない。
「まあ…全てをチェックしている情報部が『危険人物』と判断して、たまたま偶然不幸な事故に見舞われる輩も多く居るようだが…私の管轄外の事だな」
「………その性格の悪さは…独裁者並ですよ…」

この『ノリ』を持っている住民をシャアは本当の所はどう思っているのだろう?先程はかなり辛辣な意見を述べていたが…カミーユには今の「シャア・アズナブル」は、ネオ・ジオン総帥としての地位も指導者としての立場も、そして政治家としての策謀も…結構楽しんでいるように思えるのだが。ただのMSパイロットで居るよりは遥かに似合っている、と青年は素直に思う。

 

就寝時間の頃、シャアはミセス・フォーンを下がらせて2人だけになった。
「一緒に寝ても大丈夫か…?」
「…うん大丈夫だよ…でも狭いベッドだから…貴方はいつもの寝室の方が…」
「それこそこちらも病気になる」
その憮然とした言葉に笑顔を見せて、アムロはベッドに潜り込んできたシャアにそっとすり寄った。その身体を優しく抱き寄せてみてやはり少し熱っぽいのを感じる。
「…カミーユに伝言頼んだのに……結構呑んだね?」
「その様な話は聞いてないな…一緒に呑んだのだし」
「へえ…2人でね…そうなんだ……シャアのペースに付き合えるなんて、やっぱりカミーユも大人になったんだなあ…」
その厚い胸板に顔を埋めて、クスクスと笑う声が聞こえる。ふと顔を上げてきて上目遣いで自分をじっと見つめる綺麗な瞳…。
「…俺は…大丈夫だから……貴方は心穏やかに…ね?」
「……今の君に言われるのは余計に辛くなるぞ?」
「うん…ごめん…」
そんな切ないアムロの髪を優しく撫でながら、同じ様に優しい声色で囁く。
「もう寝なさい…大丈夫…朝までちゃんと側に居るから」
「…うん……」

程なくして聞こえる寝息の規則正しさに安堵する。
「不甲斐ないな…私は…決して君を傷付けないと誓ったのに……」
シャアはその愛しい寝顔を見つめながら自嘲した。

『アムロさんは決して…絶対に大尉に言えない…何かがあるんだと思います…』

ふとカミーユが呟いた言葉を思い出す。それは…いったい何なのだ?
「…アムロ……私の側に居る事に…負担を感じているのか…?」
その細い身体を抱き締める腕に少し力が入った。
「…私は君を愛している…決して君を離さない……喩え君が私から……」

心の中にざわめく…何故今更こんな…という不安な感情を消し去りたくて、シャアはアムロの髪に額に頬に、と幾度と無く接吻を繰り返した。

 

 

END

BACK

----------------------------------------------------------
…何だか無駄に長くて申し訳ないです……(2008/10/30)