《ふと気がついたら》

 

俺達は互いに側にいる事など考えられない、そんな仲だった……。

彼との初めての遭遇は戦場で、敵同士で。出逢えば一触即発、殺し合う仲だ。
何度も何度も戦って殺し合って…そしてお互いの大事な大切なモノも失った。
悔しくて傷付いて泣いてどうしようもなく彼が憎くて……どうして彼と出逢ってしまったのか、と嘆いた。
それなのに…こんなに苦しくて辛いのに…当の彼は自分にその手を差し出して来たのだ。
ふざけるな、と当然の如くその手を振り払う。「代わり」はまっぴら御免だ、と…。
そんな彼の単純な想いは、子供の自分にだってすぐに解ったから…。

全てが終わって…もう二度と彼と出逢う事は無い…と思った。自分の道と彼の進む道は絶対に交わらない。
それなのに…何故かふとした弾みで彼の事を思い出してしまうのだ。
それはきっと…傷跡のせいだろう。自分の右肩には彼が傷付けた刻印が残っている。
だから着替える度に、腕に肩に手を回す度に、あの時の熱い想いを思い出すのだ。
それが彼に対しての…なのか、それとも大切な彼女に…の想いなのかは解らない…けれど。

あの屈辱的な軟禁生活の最中でも、空を見上げれば、ふと「…あの人はどうしているんだろう」と考えた。
死んではいない、という事だけはっきりと解る。そう…感じるのだ……宇宙にはあの人が居る、と。
…だから逆に自分はあそこへは行けない、と思う。行ってはいけないのだ…彼と再び出逢っては駄目なのだ。

そう…絶対に駄目だ、と解っていたのに………
解っていたのに…………

再び逢ってしまえば、もう止まらなかった…。
あの熱い想いがどうしようもなく身体を支配し、衝動を抑えきれず……
何も考えられずに、ただ自分の求めるがまま、彼の欲するがままにその身を差し出した。
それは「恋」でも「愛」では無いもの…。
互いの傷を嘗め合い、失った半身をその身の内に探し求める様な行為。
だからこれは「愛」では無い…この想いは「愛」では無いのだ。

だから……「また」差し出された彼の手を取らなかった……。
自分の「愛」は別の場所にあるのだから…と。
……本当にあの子供の時と同じ様に、ただ意地になっていたのかもしれない…。

 

そして次の再会は、本当にただの哀しい殺し合い…だった……。
もう貴方の声は聞こえない。自分の声も彼には届かない。
再び戦って戦って…お互いの身も心も全てを砕く程に憎み合って殺し合って………
最期に…やっと最期になって……自分はやっと解ったのだ。

-------貴方を此処まで追い詰めたのは…自分…俺自身だったのだ、という事を。

ああ…何という事だ……気が付くまでこんなに時間が掛かってしまうなんて…。
あの時、あのダカールの地で、自分は本当に無責任にも彼に道化をさせた。
彼の「本当の」過去も知らずに、彼の深い傷跡も知らずに…表舞台に無理矢理に押しやったのだ。
貴方に自由はない、人の為だけに生きろ、と…人身御供に差し出したのは自分。
たった独りで行け、と残酷にも突き放した。
共に歩む事をせず、貴方独りで犠牲になれ、と。

君が言うから私は此処に来た……此処に立っている…
君が指し示した道だから、私はそれを貫かねばならない……
これは私の意思ではなく、多くのスペースノイド達のただ純粋な願いなのだよ……
もう私に自我は無いのだから……人の思いをこの身に受け止めているだけだ……

…だが………

……ただ君を追い求める想いだけが……私の本当の………

 

------ごめんね…本当に俺は勝手だったね……
--------貴方をいっぱい傷付けてしまった…ずっと傷付けていた…
----------貴方が彼女に「生まれ変わりたい」と願うなら…俺が彼女の代わりに貴方を生み直すよ……
--------------だってやっと気付いたんだ……俺は…貴方の事を……
-----------------でも………もう遅いんだろうか………?

 

……ああ………なんて眩い光が…………

 

 

 

--------------光が眩しい……

「………ムロ…」
「…………………」
「…アムロ……起きないか…」
「……ん……んん?」
「なんて場所で昼寝をするのだ、君は」
「……シャ…ア…?」
「意識ははっきりしているようだな」
いきなりの浮遊感で、軽々と抱き上げられた事に気付いた。
「真っ昼間の日向の芝生の上で昼寝とはな…てっきり日射病で倒れたのかと思った」
腕の中で軽く延びをしながら、ああ楽だなあ…と思う。そのまま室内へと運ばれる。
「私の心臓は止まったぞ……慌てて駆け寄ったのに…なんと君は寝息を立てていた」
「…んーー……お日様があまりにもキモチ良くてさ」
屈託無い笑顔の彼の髪や頬に何度も軽い口吻を落としながら、シャアも微笑む。
「全く…日焼けしてしまう事も考えないのか、私の眠り姫は」
「いーよー…俺、女じゃないから気にしないし……あ、シャアは気にする?」
「焼けた肌が赤い熱い痛いーと、また騒がれるのが煩いだけだな」
「うーっ何だよぉ?…それ」
笑いながらシャアの首に腕を回し、唇を重ねる。
「……夢……見てた」
「…何の?」
「…忘れた…あまり良い夢じゃ無かったみたい…。でも…気が付いたらシャアが居たし…もういい」
「そうか…」
今度はシャアの方から口吻をした。…何度も何度も慈しむ様に。
「私もふと気が付くと君が側に居る幸せを…いつでも感じているよ」

ただ側に居るだけの幸せ……
共に歩んで行くだけの幸せ……
気付くまで随分と廻り道をしてしまったけれど………

---------俺は貴方の側にずっとずっと居るからね………

 

FIN 

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※※あー…どこにでもありがちネタですが…アムロにも責任を感じて欲しいかなって…(苦笑)<2008/7/10>