※後半に入ってますます痛々しいやおひワールドで暴走中…
…ある程度のお覚悟でお読み下さいませっっ

 

Can't Help Falling in Love

 

 

大好きな兄のアムロは…本当に自分の親代わりだ。
どれ程に大きな愛情を注いで育ててくれたかなんて、子供の自分にだって痛いほどに解る。
だからそんな兄を泣かせてしまうのはとてもとても辛い。
…でも…キャスバルと会えなくなってしまうのも…とても辛いのだ。
兄弟は無言のままで自宅に戻り…2階の自室に行こうとしている弟の背に、兄は沈痛な想いで声を掛ける。
「…アムロ…もう…キャスバル君と会わないって…約束してくれ…」
暫く兄の顔を見つめていた小さいアムロは…やはり泣き出しそうな表情となって階段を駆け上がっていった。
そんな様子を見て兄のアムロも…内心とても辛いのだが…これは絶対に譲れないのだ。
あの一族にはもう二度と拘わらない…それがアムロの強い決心である。
…あんな辛い想いをするのは…自分だけで充分だっっ
愛する大事な弟にまでなんて………絶対に許せないっっ…

自室のベッドに突っ伏して、小さいアムロは…やはり溢れてくる涙を止める事が出来なかった。
お兄ちゃんもキャスバルも大好きで…大切で…もうどうしたら良いのか解らない…
キャスバルに会えないなんてっっ…絶対に嫌だっっ!
だけど…だけど…お兄ちゃんの事も……
どうしてこんな事になってしまったのだろう…?
どうして…みんなで幸せになれないの…?
自分が子供だから幼過ぎるから……その方法が解らないのだろうか…?
そう考えるとますます涙が止まらなくなるのだ…

 

本家の邸に戻って来るのは本当に久し振りである。
「これはキャスバル様っっ…いきなりのお帰りで…」
ほとんど音信不通となっていた末弟の突然の帰宅に、常に冷静な老執事も流石に驚いた様子を見せた。
「…兄上は…在宅か?」
「あ、はい…旦那様でしたら本日はいらっしゃいますが…」
だろうな、とは考えたが。事前に今日はどのオフィスにも出社してない事は確認済だった。そのまま広い邸の奥にある、兄の書斎へと足を運ぶ。
重厚な造りの黒い木製の扉をノックすると、自分のと良く似た声が返ってくる。
『…誰だ?』
「……キャスバルです…兄上」
『キャスバルか?…珍しいな…開いているぞ』
兄の書斎は相変わらず、名家の一族の長に相応しい広さと洗練された豪華さがある。
そして其処には、この部屋にもその身分にも相応し過ぎる程の容姿と威厳を持つ男が、その豪奢な黒い机に座り何事かの作業していた。
軽く頭を下げるキャスバルに、彼は口元を少しだけ吊り上げた表情を向ける。
「大学が楽し過ぎて家にも寄りつかん真面目なお前が…今日は何の用かな?」
半分は嫌味なのだろうが…そんな事を今は気にしている時ではない。
「昨日……久し振りにアムロさんとお会いしました…」
一瞬だけ、兄の書類を持つその手が止まったのを見逃さない。
「…そうか…元気そうだったかね?」
「恍けないでくださいっ…貴方が時々会いに行っている事は私も知ってますよ」
「………」
無言で返さない兄の机にツカツカと歩み寄り、やや強い音を立てて机に両手を置いた。
「兄上っ…何故アムロさんと別れたんですかっ?アムロさんの態度は尋常じゃない…まだ貴方を恨んでいる様にさえ思う…貴方が全ての元凶なんですかっ?!」
「…元夫婦の間に何があったのかを問い糾すなど…無粋過ぎるぞ」
シャアは厳しい視線を目の前の末弟に向けるが、彼は全く怯む様子は無い。
「…無粋も何も…無関係ではいられなくなりました。はっきりとした説明を求めます…我々の今後に大きく拘わる事なのでね」
ふと訝しむ長兄に、キャスバルは弟のアムロとの関係も正直に全てを話し始めた……

「…そういう事か…全く血は争えんというか…」
何も兄弟で同じ顔を愛する事はないだろうよ、と苦笑せざるを得ない。
「アムロが…7年前に此処を出て行った理由だが…」
シャアは組んだ手を静かに机の上に置いた。
「…私も未だに解らない…『もう無理だ』…と一言だけの書き置きがあったが」
「……それだけで?兄上には何の検討も付かないのですか?」
「そうだ。だから私はアムロに理由の説明を求める為に…ずっと彼を訪ねているのだがね…」
「アムロさんは話してはくれない、と?」
「いつも自分の胸に聞けよ、と門前払いだな…少しだけ心を開いて、身体に触れさせてくれる時があっても…相変わらず理由は話してはくれんのだ」
その応えに「…もしかして別れた後でも身体の関係はあるのか?」とふと気付いたのだが、敢えて口には出さず更に詰め寄る。
「ではどうしたら良いんです?…私まで小さいアムロと別れなければならないとは……認められませんよっ…こんな理不尽な事はね」
「…全てはアムロ次第だよ…」
ふと、兄の机の上のフォトスタンドは結婚式の場面や幸せに二人で寄り添っているものばかり…という事に気が付いた。
「私は勿論今でもアムロを愛している…今すぐにでもアムロとはやり直すつもりだ…それは変わらない」
写真の中から明るく優しく自分に微笑みかけるアムロを、シャアは愛しげに見つめているのだった。

 

一週間、キャスバルと会ってない……
今までもそういう事はあったが、携帯やパソコンのメールのやり取りでさえしてないのだ。
キャスバルからは何度も連絡は来たが、アムロは敢えて全てそれを無視、という形を取っている。……もちろん兄の為に。
だが、それを続けるのはもう限界かもしれない…
キャスバルに会いたくてたまらない…心が潰れそうになる。
辛くて切なくて…再び涙が溢れそうになったその時に…アムロにとってはあまりにも馴染み深い着信音が響いた。

ここ一週間、アムロはハイスクールからも真っ直ぐに帰宅して、大抵は店の方を手伝い、自宅に自分と一緒に帰っている。
彼と会っている気配は全く無かった。
自分の言葉に素直に従っていてくれる弟に安堵すると共に…明らかにわざと作る元気な様子が…やはり兄のアムロの心を痛ませる。
本当に心からすまないとは思う…でも…でも…彼等は駄目なんだよ……

その日はお店が定休日であったので、アムロは弟の為に彼の大好きなアーモンドパイを焼いてあげた。お茶の用意を整えてから、2階へと上がり弟の部屋をコンコンコン、とノックする。
「アムロ…大好きなパイを焼いたよ?お茶にしようか」
しかし返事は無い。
「…アムロ…?」
不審に思い、ドアノブに手を掛けると…鍵は開いていた。
「アムロっっ?!」
慌てて入り込んでみるが、悪い予感の通りに弟の姿は無い。
そして机の上に残されたメモを発見し…兄のアムロは蒼白となる。

『彼と駆け落ちします…ごめんね、お兄ちゃん』

 

彼の人からだけの着信音を耳にして、シャアは慌てて携帯電話に手を伸ばした。
「…アムロ…どうしたのかね?」
努めて冷静に対応しているが、心の中は歓喜で踊り狂っている。
しかし、電話の向こうの…愛しい人のあまりの取り乱した様子に、瞬時に切り替わった。
「……何だって?…そうか…解った…今すぐに行くから…落ち着くんだ…ああ、大丈夫だから…アムロ」
そして今でも自分を頼ってくれているこの事実に、心から感謝しながら。

よくパトカーに捕まらなかったな、というスピードで愛車をかっ飛ばし、シャアはアムロ達の自宅へと辿り着いた。
玄関のインターフォンを押すと、直ぐに扉が開かれてアムロがその姿を現す。
「アムロ…大丈夫か?」
「シャ…ア…っっ…」
そのまま元夫にヒシッと抱き付いた。シャアはその身体をしっかりと抱き締め返して、そのまま家の中へと入る。
「…お…俺の…せいだっっ!……あの子を追い詰めて……まだ子供なのにっっ…もしアムロに何かあったら…!俺はっ…どうしたらっっ…!」
自分の胸の中で取り乱して涙さえ浮かべている元妻の、柔らかい髪やその身体をやさしく撫でてやる。
「大丈夫だよアムロ…キャスバルの居場所なら直ぐに解る…アムロ君も見付かるよ」
「でっでも…もしっ…もし思い詰めてたり…したらっっ……」
「キャスバルと一緒なら大丈夫だ。最悪の事は無い。安心するんだ…アムロ」
自分を見上げてくるアムロの不安な表情をそれは優しく包み込むように見つめて…シャアはそっと口付けをする。アムロは全く拒まなかった。
「……だからアムロ…今日こそ聞かせて貰うよ」
「…………」
「今回の事件の原因とも言える、その理由をだ……何故君は私の元を去ったのだ?」
「……だ…だって……」
再び涙が溢れそうになる彼の目元にシャアは優しくキスを落とす。そのままリビングのソファーに座り、アムロの身体を膝の上へと乗せる。
何度も優しいキスを贈っていると…ポツリポツリとアムロが話し始めた。
「…俺は……必要無かった…んだろう?」
「?!…そんな事があるかっ…私の愛情を疑っていたのか?アムロ」
「…だ、だって……貴方…には…他に……愛人が…居るって…」
「…!!…何の話だっ?!…それは…!」
初めて聞く元妻の告白の言葉は、シャアをただ驚かせるばかりである。
「だから…俺が……子供…産めなくても…大丈夫だって……何度も言われた…俺はシャアの…気まぐれで結婚した男だから…って…」
「それは……誰が言ったのだ…?」
アムロの口から聞かされた相手は、一族の体面と格式と繁栄だけを気にする輩で、シャア自身がかなり疎んじて遠ざけている親類の者達であった。奴等は昔から気に入らなかったが、まさかアムロまでを傷付けていたとは!…と激しい怒りが湧いてくる。
「…何故…私に言わなかったのだ?…アムロ」
「だ、だって…っっっ!…あの頃…シャアは凄く忙しそうだったし…だから貴方に本当なのかって…ずっと聞けなくて……」
確かにアムロと結婚したすぐ後に、父の跡を正式に継いだ家長として…日々忙しく過ごしていたのは事実だ。
「…やっぱり…俺にあんな凄い名家の奥さんなんて…絶対に無理だったんだよっ……俺は何も考えないで…シャアが大好きだったから…シャアの処に嫁いだけど…」
「アムロ……」
「だから…母さんが亡くなって…弟アムロの面倒も見なきゃいけないって考えた時……あの家に居るのがもう何もかも嫌になって……俺は…」
シャアの腕がただ強くアムロの身体を抱き締める。
「アムロ…すまない…本当に私のせいだな…」
そのままアムロの髪に目に頬に…そして唇へと幾度も幾度もキスをした。
「忙しかったと理由付けるのも最低だが…君をただ悩ませて傷付けてしまった…そして君のそんな様子に気が付かないとは…本当に最低の夫だったよ」
「……シャア…」
アムロの琥珀色の瞳が揺らいでいる。
「…ほんと…に……愛人なんて……居なかったの…?」
ずっと聞けなかった…ずっと傷付いていた事……
「私が愛しているのは今も昔も君…たった一人だよ…アムロ…その真実は今も解って貰えないのか?」
その大きめの瞳からはポロポロと涙が溢れてきた。
「…おっ俺だってっ!…今だって…ずっと…シャアの事っっ…でもっっ…でも……」
ずっと素直になれなかった優しい元妻を、シャアは心から愛しく思う。
「愛しているよ…アムロ……だから帰ってきてくれ…私の元に」
「…あぁっっ……シャ…アっっっ…!!」
二人はやっと…7年ぶりに心からの熱い抱擁を交わす事が出来たのだった…

 

「あっ…アムロは…?!」
抱き合い熱い抱擁を散々交わしてから…今更ながら慌てた様子の元妻の言葉を受けて、シャアはニッコリと笑った。
「大丈夫だと言っただろう…?一緒に来たまえ」
「…え…??」

アムロが本当に久し振りに訪れたダイクン家の邸で…キャスバルと小さいアムロが二人を出迎えてくれる。
「アムロっっ…!!」
「ごめん…なさい…お兄ちゃん…」
弟の小さいその身体を強く抱き締めて、やっと安堵感が満ちてくる。
「…もうっ心配掛けてっっ……いや……」
弟の不安そうな瑠璃色の瞳を覗き込む様にして、アムロは微かな笑顔を見せた。
「謝らなきゃいけないのは…俺の方だよな…ごめんよアムロ…」
そしてコツンと額を合わせる。
「俺が素直じゃなかったばっかりに…お前にも…辛くあたってしまったね…」
「お兄ちゃん…」
小さなアムロは大好きな兄に今度は自分からぎゅっと抱き付いた。
「お兄ちゃんっ…僕は…お兄ちゃんが幸せになってくれないと…どんなに彼が好きでも…幸せだって思わないんだよっっ」
「…うん…アムロ…ありがとう……」
だから今は本当に幸せなんだ…と、二人のアムロは互いの中に満ち溢れる喜びをしみじみと感じ取っていた。

「…じゃあ…認めてくれるんですね?アムロさん」
「そうだね…キャスバル君はシャアよりも遥かに素直で誠実の様だし…アムロの事を考えると二人の事は認めるしかないよね…」
「…言ってくれるな…アムロ」
そう言いながらも…寄り添うシャアと兄アムロの間には、今までにない優しい雰囲気があって、小さいアムロもとても嬉しく思う。
「でさ…念の為に聞くけれど…」
その続ける言葉に、若い二人の間に一瞬緊張が走った。
「…君達……まだ『誠実で清らかなお付き合い』…なんだろうな?」
じーっとアムロがキャスバルの顔を見つめる。
途端にキャスバルの表情は少し照れた様になり…弟のアムロの方は…それはそれは大変な真っ赤…となっていた。
「…『誠実』な付き合いはしてます……」
「ご…ごめんなさい…お兄ちゃん……」
…やっぱりな、と言う諦めた表情を作って、兄のアムロは大袈裟に溜息を吐いた。
「……アムロはまだ15だぞっっ!ったく…手が早過ぎるトコロはそっくりだなっっ!もうーっっ!」
「そうか…君と同じ時期か…あの頃のアムロもとても魅力的だったからな…仕方あるまい」
「ひ、人のせいにするなーっっ!…ばっバラすなよっっ…ばかーっ!!」

 

相変わらずお兄ちゃんは怒鳴っているけれど…
それでも全然幸せそうで…シャアさんもとても幸せそうで……
僕もね…もの凄く嬉しくなるよ…

ずっとずーっと…みんなで幸せにいようね……ね?お兄ちゃん☆☆

 

 

THE END☆

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結局3429メイン?…イッちゃってるアレな世界でもうもうっ…ですがっ
…キリリクして下さった方は喜んでいただけた様で…良かったです☆
こんな恥ずかしい世界ですが…40000の貴女に捧げます…★★
(2010/2/6 UP)