《  Can't Help Falling In Love 》

 

予期せぬ事態で再び地上に落ちて…いや降りて来てしまった。
あの瞬間、やはり死を覚悟した。
その時に心に浮かんだ人物の元に…と降りて来られたのは…「君にもう一度会いたい」と強く願ったからだろうか?
だからこうして再会出来て、私はとても嬉しかったというのに……

「貴方まで来るとはな」
…とは何という冷たさだっっ!
思わず嫌味を更に返してやったが…否定もされずに話題を変えられた。
ああアムロ…どうしてそんなに冷たい態度なのだ?私は一刻も早く君をこの手で抱き締めたいというのに…。

 

予期せぬ事態が起きてしまった……
それは突然入ってきた情報…エゥーゴのMSが…地上に墜ちてくる、と。
…一瞬過ぎる不安。誰の機体なのか、型式は…と上に居る連中に問い合わせれば…
クワトロ大尉の乗る百式……だと?!!
…そんな…そんな莫迦な……!!!
思わず凍り付いた…あまりの不安にたまらなくなり…ただひたすら彼の無事を祈る。
次に入ってきた情報ではZガンダムが追っていった…と。
…ならば…大丈夫かもしれない…Zのウェイブライダー形態に乗れば…大気圏を無事に突破出来るのではないか?あれはそういう機能を持つ機体なのだから。

……大丈夫……そんな…嫌な哀しい気配は感じない……彼は生きている…大丈夫だっっ

…だから…金色の機体をその姿をこの目に捕らえたときに……
嬉しくて…本当に嬉しくて……涙が出そうになったのに。
…口から出たのは…全然思っている事と逆の言葉。
ああ…何で……こうなっちゃうんだろう?!

 

----------------------------------------------

ふと…カミーユの姿が見えないな、と思っている処に部下から「ジープで誰かが出て行った」という報告が入った。まさか…と思い、一応今は彼の責任者であるだろうの男の姿を捜すと…上司の方はすぐに見付かった。天候がちょうど落ち着いてきて、外ももう吹雪いてはいないのだが…極寒である事には違いない。そんな中に何故か一人佇んでいるのだ…この男は。
「…クワトロ大尉…カミーユの姿が見えないんだが…何処に行ったか知っているか?」
声を掛けるが…返事も無いし振り向きもしない。
「クワトロ大尉っっ!」
声を荒げると…ゆっくりと振り向いてくる。
……あ…機嫌が悪いみたい……
大きめのスクリーングラスで表情は解らないハズだが…瞬時にアムロはそう感じた。
………何を怒っているんだ…カミーユの事でか?それとも先程の作戦の事で?
「…何か…気に入らない事でもありますか?クワトロ大尉…」
ワザとな言い回しをしてみると…ますます不機嫌オーラが強くなってくるのを感じる。
「大あり……だな」
スクリーングラスを外しながら彼は初めて口を開いた。やはり明らかに不機嫌これ極まりないという表情…。
「だから…何にです?」
何でこんな問答しなきゃいけないんだっ…と自分も不機嫌になりつつ…冷たく言い放った。
こちらに向かって歩いてくる彼の雪を踏む足音がキシキシと…響いてくる。
…ドクンっと心臓が鳴った。直ぐ目の前に立たれて…ああ、こんなに近付いたのは何ヶ月ぶりだろうか?…とふと思う。
「アムロ……」
自分の名を呼ぶその声に…喩えようもない甘い痺れを感じる。彼の腕が伸びてきて、手袋越しに感じる自分の頬を撫でるその掌…。
「…二人っきりの時はその名を呼ぶな、と言っただろう?」
「…………………やっぱり……だから機嫌悪いんだ……」
その予想は何となくついていたので………軽く溜息を付く。
「ったく…子供か?貴方は……」
「私にとっては大変重要な事だよ…アムロ」
片手で腰を引き寄せられ…防寒着越しの身体が密着した。アムロの心臓の鼓動はますます速くなる。そんな感情を誤魔化す様に…
「……本当に貴方って…莫迦じゃない…?」
…また冷たい態度を取ってしまうのだが。
「名前」
短く言い放つ。
「名前……まだ呼んで貰ってない」
駄々をこねる子供と同じだなっっ幾つになったんだよっっ?!…と呆れてしまう。
だいたいさ…これ本名じゃないんだろ?何でこの名を俺が呼ぶ事にそんなに拘るんだ…?
「………莫迦シャア……」
やはり面白くなさそうに眉を顰められて…眉間の傷がさらに深くなっている。
「…俺だって……凄く怒っているんだぞ?……あんなに…あんなに不安にさせてっっ」
「…アムロ……?」
「貴方ともあろう人が…あんな無茶するなよっっ!……百式が堕ちたって聞いた時…どれだけ俺が…どんな思いでっっ……!!」
ギュッと強く…力強い腕で抱き締められる。
「アムロ…すまなかった…本当に悪かった…反省している」
そのままアムロも…シャアの身体に抱きつく。
「も…もう…あんな思い……絶対に嫌だからなっっ!……莫迦シャアっ!…本当にっ…」
「アムロ……」
「…本当は…ずっと会いたかったよ………貴方に…」
身体が小刻みに震えてくるのは寒さのせいだけでない。こうして抱きついてないと…本気で泣いてしまいそうなくらいに自分も耐えていたのだ、と。
「…シャア……」
やっと呼んだ名前に…嬉しいのか首筋に埋められた顔が更に頬ずりしてきた。
「シャア……シャア……」
ああ…貴方は本当に此処に居るんだね…と確かめる様に強く抱き返す。
シャアが首筋から顔を離してアムロの顔を覗き込む。白い息が重なり、鼻先が何度も触れてくすぐったい感触…貴方の綺麗な顔を再びこんなに近くで見られて嬉しい…と素直に思う。
口付けをしようと近付いてくる唇を……慌ててアムロは止めた。
「だっダメだよっっシャア!こんな寒い場所でキスしてたら…唇がくっついちゃって…痛くて大変な事になるんだからねっっっ!!」
途端に再び不機嫌になる表情。
「…まるで経験済…の様な言い方だな」
「はあ?!…あっあのなあ…!誰と経験するんだっっ…こんな場所でっっ」
「今の君の周囲は…君に邪な感情を抱いている連中が多いしな…それも私を不機嫌にさせた原因の一つだ」
「…何だよっっその…邪…って?!きっキスの件はそう聞いただけだよっ!」
その時、突然2人を呼ぶ大声が近付いて来た。

「アムロ大尉っっクワトロ大尉っっ…ティターンズ基地の方で何か動きがあったようですっっ……てっ…?!…わあぁっっっ!…しっ失礼致しましたあぁーーっっ!!」
…2人が抱き合っていたものだから…伝令に来た士官は慌てて踵を返して行った。
「わっわわわわわ…っっ!ちょっ…!ちょっと待てっっ!こっコレはなっ…!!」
慌てるのはこっちだとばかりに焦るのだが…自分の身体に巻き付いている逞しい腕は全くもって力は緩まない。
「シャアっっ…離せよっっ!…ヤバイだろうっっ?!」
「何がヤバイと?この際君の部下達にもハッキリさせておいた方が良い。君には私という恋人の存在が居るという事な」
「な…何でそーなるんだっっ?!そんなの認めた覚えはないぞっっ!!」
「…先程の言葉は嘘だったのか?アムロ…」
「そっ…それは………で、でも…やっぱりマズイよ……そのベルとの事とかもあるし…」
「……君は本当に私を不愉快にさせるのが上手のようだな…アムロ」
抱き締められた腕が更に強く…痛い程になる。
「っつ…!シャアっっ…!いいかげんにっっ……!」

「…あ、あのぉぉ……大尉………指令は…その…」
先程の士官が、再び顔を覗かせて心底困った様子でおずおずと声を掛けてくる。
「そっ総員出撃に決まっているっっ…!!ほらっっ貴方も早く…っっ!!」
「…指揮権は私にあるのでは無かったのか?アムロ大尉」
怒りがMAX状態になったアムロはグイッと思いっきり…やっとシャアの身体を押し退けると、いきなり彼の尻を叩いた。
「エロボケ大尉の命令なんて聞いてられるかっっ!ほらっ早くZをウェイブライダーにしてっ!!それに乗っていくっっ!百式からならコントロール出来るだろっ?!」
「…いきなり大胆な事をするな…アムロ…どうせなら私が君の……」
「クドいーーっっっっ!!もういいからっっ!5分で出るっっ!!貴方なら楽勝だよねっ?!」

そんな2人のやり取りを見ていたカラバの隊員達は…
「…アムロ大尉…本当に旦那のケツ叩く奥さんのようだ…似合っている…」
「……某彼女から習ったんじゃねぇの?」
「なあ…アムロ大尉…クワトロ大尉と本当にそーゆー関係なワケ?」
「認めねーぞぉぉ!!…俺はぁっっ!!」
などという会話を繰り返していたのだった……

---------------------------------------------------------

 

「…哀しまないで……って言ってたの…俺も聞こえてたよ?」
自分の胸に顔を埋めている彼の頭を何度も撫でてやりながら……
「彼女は永遠に君の中に居るって…もうカミーユも解っているんだろう?」
ね?と優しく言い聞かせるように言葉を掛けると…顔を埋めたままで、うんうんと頷くカミーユの背中もあやすようにぽんぽんと叩いてやる。
「……フォウっっ……フォウ……!…ひっくっっ……ア…ムロさん……アムロさんっっっ…ううう…ごめんよ…フォウっ…」
永遠の眠りに付いてしまった彼女と…自分の名を交互に呼びながらカミーユは、アムロにしがみついてずっと泣いている。
まだ17歳の子供なのだし…ましてや感受性の強いNTの彼だ…仕方ないだろうと、先程からずっと母親役をかってやる。
…そんな自分達を先程からもの凄い形相で睨み付けているシャアに時々「もうっっ」と怒りの視線を送りながら。
これも仕方ない事…なのだろうか?と心の中で溜息をついた…。

やはり精神的にもかなり疲れていたのだろう…
カミーユはそのままアムロの膝に頭を乗せて眠りに落ちてしまった。
「…眠っちゃったね………あのさ…もうそんな怖い顔で睨み付けるの止めてくれる?」
彼はベッドの前の椅子に腕を組み足を組んで座り…全身から湧き出ている不機嫌オーラに心底呆れてしまう。
「今のこの状況を見て…私に怒るなというのか?無理過ぎる相談だ」
「…貴方はどっちに怒っているのさ?…カミーユのキリマンジャロでの行動?…それとも今?」
「それはどちらもだが…怒りは遥かに『今』だな。やっと君と2人の時間が過ごせるかと部屋を訪ねてみれば…先客が居て、そいつは君にしがみついていて…胸に顔を埋めるわ強く抱きつくわやりたい放題で…しかも今は膝枕だ……この私もそれはまだ君にして貰った事は無いのだぞっっ!!」
「…貴方ねっ…絶対怒りのベクトル間違えてますっっ!!」
ああっホントにもうっっ…と眩暈がする頭をぶんぶんと振ってから…ベッドのカミーユが乗っている側と逆の方を…ポンポンと叩いた。
「もう…いいよ……貴方も此処に来て…」
シャアは顰めっ面のままで椅子から立ち上がり指定された場所に腰を下ろす。3人の体重を受けてギシっと大きくベッドは沈んだ。
「もっとさ…子供のする事に寛大になれないのか?貴方…カミーユの父親代わりみたいなものだろう?」
「…そんな大きな子供の…父親代わりだと…?反抗期の子供を持つ苦労は解った気がするがな」
実際…父親代わりの宣言した子供の方は完全放置だし…。
「この子には…俺みたくなって欲しくないんだよ…だからさ…貴方がちゃんと見ててあげて欲しいんだ…シャア…」
アムロの左手はずっとカミーユの髪や肩を優しく撫でている。それがやはり気に入らないシャアはアムロの頬に手を掛けて自分の方に向かせた。
「…この場所なら…キスは禁止ではないだろうな?」
「…………うん……」
微かに頬を染めた彼の表情に満足してそのまま唇を重ねる。
最初はただ優しく…角度を変えながら何度も柔らかい唇の感触を確かめるだけのように…。
だがやはり回数を重ねる事に徐々に激しさを増してきてしまう。
「…んっっ……ん………ダメだ……カミーユ…起きちゃうよ……っっん…」
「熟睡している…大丈夫だ…」
「ん……はぁ………つっっ………貴方…やっぱり…キスが上手だね……」
「……誰と比べている…?…こんな時に無粋過ぎるぞ……悪い子だ…」
「……っつ!……………はぁ…っっ…や…だ……ヘンなトコ…舐めないでって………んっっ…あぁ……」

絶対にカミーユは起きてしまって寝たフリをしているのが2人とも解ったのだが……
それでも長い長い甘い恋人達のキスの時間は続くのだった……

 

---------------------------------------------------------

翌朝……アウドムラの食堂で誰から見てもスクリーングラスをしていても、上機嫌な様子が見て取れるクワトロ大尉……の隣の席に、ガシャンっと乱暴にトレイを置いてカミーユが座った。
「……おはようございます……クワトロ大尉……」
シャアとはまるで正反対の不機嫌不愉快そのものっっ…というカミーユ。
「おや早いなカミーユ……もうその名で私を呼ばないハズではなかったのかな?」
「…茶化さないでください……昨夜は……ホーーントに色々とお世話になりましたね…」
「そうかね?…私は何もしていないが…」
「……俺をわざわざ…一人で寝かせて下さって…しかもアムロさんの部屋にっっ…気を遣っていただきましたよっっ」
「ああ…アムロがよく寝ている君の頭を重たがっていたのでな…仕方なく君をベッドに寝かせて我々は出て行かざるを得なかったのだよ」
「ほーおおぉ…わざわざ貴方の部屋に……ですかっっ…本当に大人って姑息な汚い手を使いますよねえぇぇっっっ…」
ゴゴゴ…と立ち上る明らかに不穏な気配に…周囲の人間は大急ぎで朝食を済ませて慌てて席を立っていく。
「…こんなに傷付いているガラス細工の様な俺の心を…アムロさんは優しく包んでくれているというのに…それを横から貴方はぁぁぁっっっっ」
「…ほお…ガラスはガラスでも…特殊グラスファイバーという名の、ミサイル2、3発食らっても平気な心のようだがな」
「思いやりってモノが無いんですかっっ?!大尉にはっっ!!」
「彼女を失った後に直ぐにアムロに
発情する神経に対して言ったまでだが」
「はっ…
発情っってぇぇ…貴方と一緒にするなあぁぁぁっっっ!!」
カミーユは顔を真っ赤して立ち上がり、シャアに殴りかかろうとする。
「俺の想いは貴方と違って純粋なんですからあぁぁっっ!!」
今回は軽く難無くその鉄拳を交わしながら「これが若さか…」と同じ台詞を言っても笑う余裕のあるシャアに、カミーユはますます怒り度数が上がってしまうのだった。うきーっっっ!!と自分を見失いかけてしまったその耳に…

「…何の騒ぎ…?……って2人だけ?何で他に誰も居ないんだ…?」
不思議そうに食堂に入ってきたアムロの声が響く。
「あっ…アムロさんっっ!!!」
「…カミーユ…昨夜は悪かったね……」
少しバツが悪そうに…そして照れた様な笑顔のアムロを見て、カミーユはシャアを放って置いていきなりアムロの側へと駆け寄って行った。
「あ…アムロさんーっっ!…クワトロ大尉があっ…クワトロ大尉が
苛めるんですっっ!!!!
わああっっ…盛大な声を上げて……カミーユはアムロに抱きついた。
思わぬその先読み出来なかった行動に流石のシャアも驚く。
「俺っ…俺……まだ辛いのにっっ…クワトロ大尉があっ…酷い事言うんですよぉ……うううう……アムロさんっっ…アムロさぁん…俺…っっ」
「カミーユ…」
その身体を優しく抱き締め返してやりながら…アムロは呆然としているシャアを睨み付ける。
「…シャア……あれ程優しくしてあげてって…俺が頼んだのに……どうして子供に大人気ない事ばかり……もう見損なったっっっ!!」
「…アムロっっ?!…それは無いだろう?!…我々は朝まで愛し合っていた仲だと言うのにっっ!」
「……そっ、そーゆーデリカシー無いトコも
嫌いだっっっばかっっ!!」

嫌い………だと……?
…この私を…嫌い…と言ったのかっっっ?アムロっっ?!
ごーーんっっっ…!!という音が頭の中に盛大に響く。
「…取り敢えず…俺の部屋においで…カミーユ」
「はい…アムロさん……ぐすんっっ」
「待てっっアムロっっっ!!…カミーユはなっっっ!!」
「…シャア…少し反省していてね…絶対に部屋に来ちゃダメだよ…!」
ますますショックを受けた様子のシャアは…「クスリ」と笑うカミーユの暗黒オーラを感じ取る。
…どっちが姑息だあっ!何故コレに気付かないっっ?!アムロ!

傷心と怒りのクワトロ・バジーナ大尉=シャア・アズナブル…曾ては赤い彗星と呼ばれた男……
こんな調子でダカールは乗り切れるのかっっ?!!どうなるっっ?!!
アムロとの関係は修復出来るのか?!

…次回…君は刻の涙を見る………
ワケないです。ごめんなさい…

 

 

BACK

---------------------------------------------------------

…ドコにでもありそうな展開に…あああああ…っっっ!!
リクエストは…「カラバ時代のシャアム甘々話をお願いしたいと思います!アムロアイドルで!カミーユも参戦、みんなから好かれて奪い合い、でもそこをシャアが勿論奪って行くカンジだと嬉しいです!」…でした…。…全然ダメダメじゃんっ!!何だかあまりにも長くなりクワトロ大尉が勝利する場面まで書けず……続き書きたいのですがキリリクで前後編とか有り得ないっスよね…(涙…)…そして書いててめっちゃ楽しくて…困った困った……こんな不完全燃焼なモノでも…30001の方に捧げさせていただきますーm(__)m
(2009/4/1 UP)