《  Our Lady、 Our Sunshine 》

 

現在のネオ・ジオン軍に置いて…モビルスーツ部隊の存在は憧れの「エリート集団」という扱いになる。宇宙軍のみで形成されているこの軍隊の中では、軍籍にするなら地味な艦隊勤務などよりは華々しいMS隊所属の方が良い、と思う輩も多いようだ。
しかし実際の戦場では…機動歩兵であるMSに搭乗していち早く出撃せねばならない。常に前線に出て敵の艦船やMSと戦う…軍籍の「エリート」位置はそれ即ち危険度が高く生存率が低いという事だ。しかしながら個人の技能が最も表に出てくるものなので、「憧れの集団」となるのは当然であろう。
所属している彼らにもその意識はかなり強く、自身のプライドが高く一筋縄では行かない連中が多い。ガラが悪いとかその部類の態度ではないのだが、気にいらない事、納得できない事には上司だろうが何だろうが直ぐに食って掛かる。向上心が強い連中…と言えば聞こえが良いが、協調性と柔軟性には少々乏しいとも言える。
ネオ・ジオン軍発足当時のMS部隊は総帥であるシャア・アズナブル大佐が、総隊長兼任としてそんな連中を統括をしていた。ネオ・ジオン軍最高司令官である…シャア大佐の命令ならば彼らも素直に聞くからである。逆にシャア大佐の命令でしか動かない。
まだまだ人材不足の軍隊である為に仕方のない事であるのだが…総帥でありパイロットだけに専念出来ないシャアが、そんな癖のある92名のパイロット達全てを纏めるのはやはり難儀な事ではあった。

そんな中で……
見事に自身の愛が大願成就(苦笑)し、シャア総帥の元に「宇宙一の花嫁」がやってきた。
家事全般は出来なくとも、MSパイロットとしての操縦技術は超最高レペルを持つ花嫁が…。
そうとなればもちろんMS隊を任せたいトコロなのだが…あの一癖も二癖もある問題な連中を「妻」に預けるのは「夫」として大変不安でもある。
しかも事も有ろうに元「連邦の白い悪魔」…ジオン軍の仇敵なのだからして。
当然本人も…
「連邦から亡命してきた俺がいきなり総隊長なんて…無理有り過ぎだよ!」
と当初はかなり嫌がっていた。しかしながらどう考えてもこの軍に他に適任者は居らず、加えてナナイ大尉の「大丈夫です。問題なく行けますわ」という妙な自信に満ちた発言もあり…何とか妻(実際はまだ婚約中)を説き伏せて、MS隊を任せる事にしたのである。

しかしながらいざ就任してみると…驚くべきスムーズさで総帥の婚約者アムロ・レイ少佐はMS隊を纏め上げていった。危惧していた不平不満は何処からも誰からも出ずに…艦隊勤務の者からは「連中は随分とお行儀良くなった」と聞かされて、整備スタッフのメカニックマン達からは「もの凄く上手く行ってます。彼らに理不尽に怒鳴られる事もありません!」と感謝された。
流石は我が花嫁!…と絶賛するデレデレ婚約期間中のシャア総帥閣下であったが…ある日いったいどんな戦術を使ったのか?…とナナイ戦術士官大尉に聞いてみたのだが…
「大した事などしてませんわ…全員に一度シミュレーション対戦させただけです」
「確かにかなり効果的だろうな…」
「それから少佐自身の出すオーラに…皆ヤラれちゃっているだけですわね…ほほほほ」
「……それは『夫』として少々聞き捨てならんのだが…」
「クドいようですが…実際に手を出せる程の命知らずは我が軍には居りません」
「そんな邪な感情で見られる事だけでも許し難いがな…」
「大佐…それはアムロ少佐の存在そのものを否定する事になりますわよ…?」
「…………………」
この副官兼戦術士官に少々好きにやらせ過ぎただろうか…とそんな考えが一瞬過ぎる。
ナナイ大尉の「アムロ・レイ超アイドル化計画」はその戦略が着々と成功を収めているようであった…。

そんなこんなでアムロ・レイ少佐…ネオ・ジオン軍MS隊総隊長は、MS隊全体の「偶像、そして崇拝・敬愛される存在」という真の意味での「アイドル」になったワケである。

 

MS隊所属の彼らは日々厳しい訓練に勤しみひたすら己を鍛え上げているのだが…
戦時下でない現在…休憩時間内…いやそれ以外の時間でもそれぞれの隊の詰め所でのんぴりとした時間を過ごす事が出来た。
第一小隊は8つに分けられている部隊の中でも選りすぐりの精鋭部隊である。一番の冠を付けられるだけあって、有事下は総隊長直轄の指揮を仰ぐことになる上に…これまた偶然か選りすぐりの「アムロ少佐熱烈信奉者」が集まっていた。故に別名「アムロ・レイ少佐親衛隊」と、ほぼ公式扱い?で呼ばれている事となる。
そんな彼らが休憩中の出来事だった。
「おい…今日はお前達にイイモノを見せて差し上げようっっ」
「はあ?何だよ、いったい…」
自慢げなクリフ少尉に周囲がさほど期待しない訝しむ表情で応える。
「見て驚くなよ……コレを見ろっっ!!」
そのクリフ少尉が高らかに掲げて皆に見せたもの…紙媒体の一冊の雑誌であった。
…途端に数人が驚愕の表情に変化する。
「そっ…それはあぁっっ!!GR社が出した幻のアングラ雑誌…『連邦軍時代アムロ・レイ特集号』じゃないかあぁぁっ!!」
「なっ…何だってぇぇーっっっ??!!」
「本物かよっっ?!!」
部屋にいた全員がどどっっと群がる。
「…間違いないっっ!…本物だぜっっ!!…良く手に入ったなっっお前!」
「アマ○ンUCでも入荷途端にどんなに高価でも即売れてしまうし…オクでも凄い値段ついてんだぞっっ!!」
次々と興奮した声が上がる中、クリフ少尉はへへんっと自慢げに話す。
「ちょっとな…詳しく言えない闇ルートで手に入れたのさ…月の方から回ってきたらしいがな」
「…凄い高かったんだろう…?」
「……まあな……しかしっ!懐は氷河だがっっ俺の心の中はもう熱い幸せに満ち満ちているんだぜっ!!」
おおっお前は立派だーっ…と拍手が上がる。
「しかしホント…たかが12ハイトの雑誌がトンデモナイ高価なシロモノになっちまったな…」
「まあな…コレ婚約時期に出たヤツだろう?…発行後にGR社が突然の倒産だしな…あんなにアングラ系でかなり儲けていた会社がなあ」
「……我が軍の情報部に潰されたって都市伝説もあるぜ…?」
…しーん……と静寂が訪れた……。
「とっ…とにかくだっっっ…俺達にも見せてくれるんだなっっ?!クリフ少尉っっ!!」
「あ…ああっっ!…俺の幸せを皆にも分けてやるぞっっ!!」
斯くして一冊の雑誌を、15人程の大柄な軍人達が固唾を呑んで見つめる事になる…。

「おおお……連邦軍の…ロンドベル隊の軍服か?!…なっ…なんというっ!」
「何でこんなに上着が短いんだっ!セクハラかよっっ?!」
「うわあ…白だから余計にラインが…こう…エロいよなあ?」
「見ろーっっ!!…やっぱり後ろ姿でクッキりとラインがあーっっ!!」
眼福ですっっ…と数人が拝んだりしているのだった……

「…カラバ所属時代…?…少佐は22歳かよ…今と全然変わらないよなあっ」
「今がとても…もうすぐ30だなんて思えないんだよなあ…この時代って何かこう…憂い顔が色気あるよなあ…ホント」
「隠し撮りっぽいのが多いのがまた…ああ…ジーンズ姿なんて…なんて…」
「なんてなんて色っぽいんだーっっ!…もうこの時から宇宙一のヒップラインだなっ!」
一生ついて行きますーっっ…と涙する連中多数……

「…おい…次のページ……覚悟して見ろよ?」
「は?なんで?」
「とにかくっっ!全員深呼吸してからなっっ!落ち着けよっっ」
クリフ少尉の提案に全員がすーはーと深呼吸を始めた。
「では…捲るぞっっ」
凄まじい緊張感の中に現れたそれは………

ぐわあああぁぁぁーっっっっ!!…なっ…なんだよっっ!これはっっ!!」
ぎゃああぁぁぁーーっっっ!!……しょっ…少佐っ…のっ…これっ…!」
「じゅっっ…10代っっ…まだ10代なのかあっっっ?!」
15歳のノーマルスーツ姿に阿鼻叫喚の図…なのである……

「う…うう…なんて…子供のクセにっっ…いや子供故の…危うい色気が有り過ぎだあぁぁっっっっ…!!」
「こっこの細い腰っっとかあぁぁぁ!…この太股とかがあぁぁ…危険過ぎるっ!」
室内はかなりムンムンとした熱気を帯びてきた……
「………俺………コレ……使えるぞ……」
「おっおいっっウィル少尉っっ?!…何て事言うんだっっ!…皆が明確な表現を避けているのにぃぃっっ…!」
「いっいや…ウィル少尉の言う通りですっ!…おっ俺もコレで充分イケる……使えますっっ!!」
俺も俺もっっ…とか俺は22歳でもっっ……という大変危険な意見が飛び交いまくる。それはそれは興奮しまくっている隊員達なのだが…
こんなんで…大丈夫かっっ?!MS第一小隊っっ!
「ああっもうたまらんっっ……クリフ少尉っっ!!コレっっ俺に譲ってくれっっ!いくらでも払うぞぉぉーーっっ!!」
「ああっ…抜け駆けないで下さいっっっ!!ラーズ中尉っっ…いくら上官だからといっても…俺だってっっ…!!」
「俺だって欲しいぞっっ…!!」
「…くそおっ譲るかあっっ!!」
「わわあぁーっっっっ?!バカっお前らっっ!……大事な本がああっっ!…わあっっ!!引っ張るなっっ…破けるうぅぅっ!!」
椅子の倒れる音とか机を蹴り倒す音とか…響き渡る詰め所の中では取っ組み合いの喧嘩が始まってしまったのであーる……あーあ……

 

その頃のウワサのアムロ少佐は……
MSドッグに居た。ヤクト・ドーガの調整をギュネイ中尉と行っていた。
ギュネイの立場は他のMS隊員から見れば本当に縛り首モノなのだが…護衛であるし副官候補でもあるので…歯ぎしりして我慢するしかない。ある意味ギュネイは、総帥の次にアムロの側に居る事を許されている大変幸福な立場の士官なのである…。
「よしギュネイ、こんなもので…L値はどう?」
「122…正常値ですねー。後は実際動かしてみて感じを確かめるしかないかも…ですねえ」
それが一番かも、と答えようとした時に…下から自分の名を呼ぶ叫び声がするのに気付く。
下に視線を落とすと…レズン中尉が叫びながら走ってくる姿が見えた。
「あっ…アムロ少佐ーっっっっ!大変っっ…!大変ですーっっっ!!」
「…?…どうした?レズン中尉…」
副隊長のあまりの慌てぶりにアムロも急激な不安を覚える。
「第一小隊の連中がっっ!…喧嘩…始めてしまってっっ…凄い大騒ぎにっっ!」
「…何だってっっ?!」

 

「……で?…この騒ぎの原因はいったい何なんだ?」
全員ボロボロ状態の直轄部隊の連中を前に…腕組み仁王立ちのアムロ少佐は怒りと呆れの混じった表情を彼らに向けている。
しかしながら彼らはただ俯いて…確かに言いにくそうな様子だが。
「ラーズ副隊長…報告したまえ」
アムロ少佐の当然なご指名に小隊長でもあるラーズ中尉は直立不動の身体をビクッと強ばらせた。
「あ…その…少佐……正確な報告は…そのっっ何と言いますかっっ…」
全く意を得ない答え方にアムロは軽く溜息を付いた。そんな困っている上官の様子を見かねたレズンが声を挟む。
「アンタ達…ちゃんと報告しないと…騒ぎの責任は全てアムロ少佐に行くんだよ?解ってんのっ?!」
ううっ!!…それは我らの意ではないっ!…と全員が反応を示す。
「…そ…その…画像というか…写真……がですね…」
相変わらず言いにくそうだが…ラーズ中尉が説明をし出した。
「…写真?」
「そっ…そのっっ……少佐殿のっっ…昔の写真が……」
「??…は?…俺の…?」
どういう意味だ?ますますワケ解らないんだが……
キョトンと首を傾げるアムロとは正反対に、ギュネイとレズンは「あちゃーっっ!」と心の中で叫んでいる。
「しょっ少佐のっっ!15歳の時のお姿の写真を巡ってっ……争ってしまいましたっっ!!…申し訳ございませんっっっ!!」
深々と頭を下げたラーズ中尉を皮切りにして、すみませんーっっと口々に叫びながら皆が次々と頭を下げ始める。
「……は?…な…何で俺のそんな…子供の時の……で??」
全然意味解らないよっ…とアムロの頭の中は疑問符だらけだ。
そんな総隊長の側に控えているギュネイは---本当にアンタらヤバ過ぎだっっ!と呆れより怒りの方が勝ってしまっている。
…しかーし…その気持ちも充分に解っちゃうオレもヤバいだろうーっ同類だあぁぁーっっ!…と自身も叱咤するのだが…。
「だいたいさ…15歳の時の俺なんて…今よりもっとチビだったし…顔もぷくっとしててさ…いつもスネた顔してたんだよ?」
ソコがねっっ…そんなトコロがねっっ…またいいんですよぉーっっ!!
…と第一小隊メンバー全員が心の中で叫んでいる。
アムロは顎に指をかけて暫し考え込んでいた。
「………その時の…俺の写真があれば……喧嘩しないのか?」
「…ええまあそうですね……って?…え?…
ええーーっっ?!!
思いがけない言葉に全員が目を見開いてアムロを凝視する。
「…そんなのでいいんだったら用意するよ?」
「ちょっ…ダメですよっっ少佐っっ!!」
慌てて止めに入ったのはギュネイ。しかしアムロは続ける。
「ただ…俺もそんな時代の自分で持ってないからさ……」
彼はふと閃いた様にポンっと手を打った。
「ああ…多分ね情報部にはあるかもしれないから……
総帥に頼んでみようか?」

「「「「「
…そっ、それだけは止めてくださいーーっっっっ!!!!」」」」」
瞬時に青ざめて泣き顔の様な表情の全員が綺麗にユニゾンで叫んだ。
………当然である………

 

「…では全員、今回の始末書を明日までに提出する事で……写真も要らないんだね?」
「いっ要りませんっっ…!!もう大丈夫ですっっ…!!」
ラーズ中尉の言葉に続いてうんうんっと力強く頷き合うメンバーであった。
「そう…とにかく隊内だけで済んで大事にならなくて良かったよ…ああ、慌てて来たから…作業ツナギのままですまなかったね」
着替える時間がなかったアムロは実はずっと作業着のままだった。…この姿も新鮮かもっっ…と懲りない連中はウットリと眺めている…。
「では皆、解散っっ!…それぞれの午後の勤務に就くこと!」
「はっっ…!!」
全員が敬礼で総隊長を見送る。アムロは踵を返して歩きながら…作業着の襟のトコロをもってクンクンと匂いを嗅いでいた。その動作にその後に続いた同じく作業着のままのギュネイが
「どうかなさいましたか?」と声を掛ける。
「…冷や汗かいたからかな…何か匂う気がする…でももうちょっと平気かなあ?」
「……少佐…面倒くさがらずにちゃんと着替えてくださいよっっ」
「…うん解った…そんなに睨むなよーっ」
苦笑して歩きながら……アムロはいきなり作業着の上の釦を外してバサリっっ…とノースリーブ姿となった。
--あーあ…また歩きながらそんな格好して…汗かいてる分…ちょっと刺激的だな……
まあ…俺はもう見慣れたけど…他の連中が見たら…見たら…あれ…??
………
ってえぇぇぇぇーっっっっっっ??!!
超危険信号を感じてギュネイは思いっきり振り返る……

……興奮して鼻血出す人間を…一度にこーんなに見たのは彼も初めてなのであった………

 

思わぬ十字勲章モノの恩恵を受けてしまったMS第一小隊のメンバーは……
ますますのド強い忠誠をアムロ総隊長に誓っている様子だ。
取り敢えず全員がアムロの為なら命を賭ける事に免じて…総帥閣下にも宇宙の平和の為にも、少しだけ目を瞑っていただきたいトコロである。

 

THE END

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リクエストは「スイートパラダイスinネオジオですが、たまにはチョッとカッコいい旦那様が見てみたいですvもしくは「MS部隊の楽しい面々、再び」を!」…でした。
…「カッコ良い旦那様」というのが私には大変難しいのでした…本当にごめんなさいごめんなさいっっ(号泣っ)こんなのでも30000の方に捧げさせていただきます。
ついでにいつも旦那様が全然カッコ良くなくてごめんなさいなのですっっ…!…彼をもの凄く愛しているんだけどなあ…(2009/3/29UP)