◇◇ HEAVEN KNOWS 3 ◇◇
ラウンジには、まさしく「しいぃぃぃぃん…」という静寂、そして緊張感が流れている。
カミーユは本当に必至の形相、というカンジだ。
あーあ、そんなに強く握りしめたらアムロさんも痛いだろーて。クロトロ大尉が好きなんだろう…と言われたのが余程ショックなのかいな……ある意味間違ってない気もしなくないんだけど…?
本当にジュドーは可愛くない聡い子供だ。
そして沈黙を破ったのはアムロの言葉。
「そう…ありがとう、カミーユ。俺も君の事が好きだよ」
「何ぃぃっっ??!!!!」
「ええっっっ??!!!」
「ウソぉぉっ??!!!」
驚愕と驚喜と驚悸…それぞれの感情が放たれた。アムロ以外の3人は一様に信じられない、といった表情でアムロを見つめる。
「あっあ…ア…アムロさんっっっっ!!!!!!!!!…そっそれっっ本当ですかあぁっっ??!!!!!」
両手で握りしめたアムロの左手を勢いよく自分の胸元に更に引き寄せてカミーユは問う。
ホントに?本当なんですかーっ?!…アムロさんが僕のコト好きって好きって…好きって言ったあぁぁーーっっ!!!!!神様、ありがとーっっっ!!!!!こんなに嬉しいコトはないっっっ…てヤツだーっ!!!!!
…というカミーユのぐんぐん持ち上がる桃色幸福オーラと比例して、当然の如くシャアの眼光はどんどん鋭くなっていくのだった…。うわっやっぱり怖っっ…その迫力と言ったら…ジュドーでさえも背中に冷たいモノが流れる感触である。…一番敏感に感じるハズのカミーユは完全無視であるが。必至の愛はニュータイプ能力まで麻痺させるのか…いや故意に無視しているに違いない。だってカミーユさんは…羽が生えてて今すぐでも飛んでっちゃいそーな勢いですから……。
「本当だよ」
ニッコリと柔らかな天使の笑みを浮かべる憧れのヒト…。
「だってカミーユは俺の大事な弟みたいなものだからね。もちろん大好きだよ」……………………………………おとーと…ですか……そーですか………
…………………………そんな…残酷な一言………
…やっぱりアナタは…悪魔…かも、です……アムロさあぁぁぁん……!!!
ああ…っっっ!!!!俺の心は今、血の涙を流しているぜっっ!!!
桃色幸福オーラが可哀想なくらいどんどん縮んでいく…。対してシャアは当然可笑しくてたまらない様子であり、クックックと笑う声を全く抑えない。
「ど、どうしたんだい?カミーユ…?」
さすがに目の前の若者が自分の左手を握りしめたままで俯き、ずぅーーんっっっ…と落ち込んでいればいくら鈍感なアムロでさえも気付く。
「…い、いえ……何でも……こ、これからも…ヨロシクお願いしますっっアムロさんっっ!」
そーだっっ!まだ諦めるのは早いっっっ!涙を拭いて立ち上がれっっカミーユっ!…弟ってポジションも全然美味しいしっ!これからまだまだチャンスはあるハズっっ!俺は絶対に諦めないっ!……カミーユ…強くなったのね…いや元から強気かアンタは。
「…取り敢えず…手を離してもらえるかな?…ちょっと痛い…かも」
笑顔のアムロではあるが、カミーユの両手に強く握りしめられた左手はすっかり白く…力を込められている所は赤くなっていた。わーっすみませんっ!と慌てて手を離したカミーユだが、右手はソファの上でシャアがそっと握っているまま、と視界に入ってくる。
…くっそーっっっ!負けんっっ俺は負けないっっ!
そんな強気のカミーユに、少しでも援護射撃的な話題を何か振ってやるべきだろーか?…とジュドーは考えた。自分はカミーユが好き、という立場だからホントは此処で「俺の胸で泣きなよっカミーユさんっっ」…となる方がいいのだろうけど…ソレをする為には自分はまだ色々足りない子供なんだ〜という点もちゃんと弁えている。カミーユとはもう少し時間をかけてそーゆー仲を目指すんだ、と計画があるからして。…ホントに14、5歳の子供とは思えん洞察力…シャアあたりが知ったら君は大物になるな、と褒めてくれるかもしれない。
まあそういうワケでジュドーはカミーユの援護を決め込んだのだが……
「…えーっと…それはそーとさー…カミーユさん、今までハマーンと一緒に居たんだよね?」
どうも自分も興味を持っていたこの話題しか考えられなかった…。
「それがどーした…?皆とはぐれてしまって、情報収集の為に仕方なかったんだよっっ!」
ギッ!とジュドーを睨むカミーユだったが、ハタッと思い出した様な表情をしたと思うと見る見る意地の悪い笑顔になった。その素晴らしい笑顔をゆっくりとシャアに向ける。
「そーいえばぁーーー大尉ってぇーーハマーンとは随分懇意にしてたよーですねぇぇ??」
「……昔の話だ…」
我関せずのクールな表情を保ってはいるが、とっくに冷めてしまったコーヒーを再び口元に運んでくるのは…少しばかりは動揺しているに違いないのである。有効取ったり!とカミーユは更にジャブ攻撃を続けた。
「昔の貴方はどれだけ優しかったかとか、将来を誓い合ったのに貴方は変わってしまった、とかぁー…色々と聞かされましたよ?」
もちろん思いっきり嘘ではあるが、シャアとハマーンの間に男女の何かがあったんじゃ…くらいはカミーユだって想像容易いものだ。現に…戦闘中に彼女の深層心理を覗いてしまった事あるのだし…。
「…そんな見え透いた嘘は感心せんな」
あの女狐がお前にそんな話をするものか…と睨む眼光を無視して、カミーユはアムロに視線を向けると、アムロは…静かな穏やかな表情をしていた。
「…ねえアムロさんっっ!どー思いますっっ?!この女ったらしが宇宙と人類の不幸を招いている事を!!」
その問いにシャアは更に不愉快そうに眉間に皺を寄せた。……それはずっとカミーユがアムロに聞きたかった事であった。確かにこれをアムロに問うのは卑怯な事なのかもしれない。でも今なら今しか言えないのではないか?
「…ううん…『宇宙と人類の不幸』は大袈裟なんじゃないかな…カミーユ」
アムロはその穏やかな表情のまま静かに答える。…いや、ある意味大袈裟ではない並行世界もあるのだが…まーそれは置いておいて。
「…まあ…過去の事なのだし…シャアにも色々とあったんだと思うし……俺はそのハマーンという女性の事もよく解らないけど……でも……」
そしてアムロは俯いてしまった。
「……ごめん…何だか…どう答えたらいいのか…判らなくて…」
「アムロ…」
シャアは握るアムロの手に力を込めたが、アムロはただ首を2、3度振るだけである。彼の戸惑いと哀しみが混ざったような複雑な感情は手を繋ぐシャアは元より、若い2人にも届いた。-------ぎゃーっっっっっ!!!!!…コ、コレは別の意味で効果アリ??!!!!
そんなアムロの感情に触れてカミーユとジュドーは焦った。クワトロ大尉…シャアを追い詰めてやろーかと思っていたのに、苦しそうなのは何故か我らがアムロさんの方ではないかっ!
『お、おいっっ!ジュドーっっ!何とかしろよっっ!!』
『ええっー?!な、何で俺っ?!』
『お前がこの話題振ったんだろうがあーーーっっっ!』
『…そんなムチャ言う……あーっもうっっ…!』「あっ…アムロさんっっ!だ、大丈夫ですってっっ!!!大尉とハマーンはそんな…えっちな関係はナイと思いますっっ…!!!!」
唐突に核心の回答をするジュドー。
「だ、だってハマーンってまだ若いしっっ!昔に大尉と何かあったって、彼女の方が未だ全然子供じゃないですかっっ?!…だ、だから大尉だって…色々と無理だと思いますーーっっっ!」
………やっぱりコイツ馬鹿…と思わずカミーユはこめかみを押さえた。
「……え…?」
しかしその言葉にアムロは顔を上げた。
「ハマーンって…そんなに若いの…?」
???…アムロさん、変なトコロに反応してないか?
「え…?ええ…確か……グリプス戦役の時…20歳くらい…だっけ?」
カミーユはジュドーに確かめるよう問うと、ジュドーもウンウン、と頷いた。
「……ふーん……という事は…シャアがアクシズに居た時……ふーん…成る程…」
アムロは空いてる左手の人差し指を唇に当てて、何かを計算しているようにブツブツと呟いている。……そしてゆっくりとシャアに向き直った。
「……シャア……貴方ね…」
「…何かな?…アムロ……」
引きつっている…あのクワトロ大尉が引きつった笑顔を浮かべているっっっ!!
凄い珍しいものを見たっっ!と思うのと同時に、アムロのそれはそれは…これ以上は見た事の無いだろうの清らかな美しい微笑み…も見た。周囲にはキラキラと美しい光彩さえ見える様な気がする。そうまるで宗教画に出てくる聖母の様な…何と美しいのだ……。
カミーユとジュドーは…そしてシャアさえもその表情に見とれた。
と、同時に。「………くぅっっ………!!!」
「……うわあぁぁぁぁ……!!!!!」
「…ぐわあぁぁーーっ!!!!!…何だぁ…っっ??!!」もの凄い凶悪な黒いプレッシャーが3人の脳天を突き破った。当然ヒドイ頭痛が襲う。頭を押さえ呻きながら周りを見回すと……
それは……その暗黒のプレッシャーを放出していたのは……やはりアムロであった。相変わらず聖母の美しい微笑みを浮かべながらそんなドス黒いオーラを放っているとは……怖い…なんて凄くて怖いんだっっ…アムロさんっっ!!
「…貴方さ……あの”プル”って子にも…変な誘い方したよね…?『いい子だ…』とか言って…ちゃんと聞こえてたんだよね…僕…」
離れていてもこの凄まじい頭痛と吐き気だ。手を握ったままのシャアは相当のダメージを受けるハズだが…流石だ。ちゃんと耐えてアムロと見つめ合っている。相当真っ青な顔色だけど…愛の力かしらん?と2人は嘔吐感と闘いながら妙に感心した。
「…いや…だから…アムロ……それはだな…」
「…思い出したくない事…何だかイッキに思い出しちゃったかも?……前の世界のあの事…とか…さ。あの時も…貴方、あーゆー事言ってなかった?」
ふふふ…とアムロが綺麗に笑った。一段と強烈なプレッシャーが放たれる。
「……貴方って……ホントはさ……貴方の嗜好…言ってもいい?」
「…くっ…!そ、それは誤解なのだっっ…アムロ…!」
「……ふーん…どの辺がどう誤解なのか…説明してくれる…?」
ニッコリと美しく微笑むその笑顔に比例してますます暗黒オーラが強くなる。ラウンジが一気にブラックホール化したとしか思えない。
ぎゃーっっっっ!!!死ぬかも〜〜ヤバイっ…これは非常にヤバイ〜〜〜!!!!!
さすが優秀ニュータイプ達故…何せ受け入れる許容量が半端でないからして。本気の恐怖にカミーユとジュドーは思わず抱き合ってしまうのだった。流石のジュドーも、カミーユさんに抱きつけてラッキー♪…とかはとても言ってられない状況なのである。
「…ア…ムロ……他人が居る時は…抑えろと言ったハズだが……」
苦しげに呟くシャアだが、その精神力の強さは尊敬に値するぜっっ…と2人は素直に思った。アンタスゲエよマジでっっ!!!そんなに愛しちゃっているんですねっっ?!!…だから早くコレ何とかしてくださいっっ…と泣きべそで縋る思いをシャアに向ける。
「…アムロ…っっ!」
やっとアムロは2人に視線を向け、ああ、と頷く。
「此処にこれ以上居るとカミーユとジュドーに迷惑かけちゃうね…シャア、部屋に戻ろうよ。
色々と……じーーっくりと話したい事があるし…ね?」
シャアの手を取り、そのまま引きずるようにラウンジを出る。シャアは無言で顔面蒼白のまま大人しく従っている。…色んな意味で蒼白なのだろーが。アムロはにこやかに微笑みながら「ごめんね〜2人とも〜」と手を振った。その表情は本当に美しい天使だ。…背中に悪魔の翼付いてるケド…。2人が出て行くと、離れた分だけ少しは楽になったが…相変わらず凶悪プレッシャーはアーガマ内を取り巻いている。オールドタイプの人間にもきっと気付く輩は居るだろう…そのくらい凄まじいのだ…死の天使の微笑&聖母の祝福は…。この宇宙で一番の破壊力かもしれない…。
2人はやっとの思いでサーバーから持ってきたミネラルウォーターをイッキに飲み干し、はーはーっ…とまだ荒い息を整えている。嘔吐感は消えたが頭痛はまだしているし。
「……アムロさん…って……本気で怒ると……ほーんと凄いんだ…」
ジュドーの第一声に、カミーユも不機嫌に答える。
「……まあ…大尉には…良いクスリ…だろ?…たまにはアムロさんで苦労してみろっての…」
そんな憎まれ口を叩いてみるものの……アムロさんがあんなに怒るのも…やっぱり……「……愛…なのかなあ…?」
「……うん、愛なんじゃ…ねーの?」
「…うーっっ…やっぱ悔しいっっ……アムロさんに嫉妬されるなんてさー!」
「……ヘタすりゃ精神だけ破壊されますがな…初めてじゃない…みたいだったなあ…マジでそんけーするねっ!クワトロ大尉…」
「せんでいーわっっ…あんな”ケダモノ”にはっっ」
……本当はカミーユもほんの少し……負けを認めていたのだったけれど…。
--------その後、シャアは単独で戦場に飛び出していくワケだが…自主的なのか、アムロに叩き出されたのかは…神のみぞ知る事であった…。
THE END
※たまには嫉妬するアムロも良いかな…と思って。お目汚しいたしましたーっっっ!! (2008/6/22)