※※ Angelic Egg vol.3 Sample ※※

 

アムロは微かに震えている自分のその身体を…恐る恐ると抱き締めてみる。

しかし内から溢れる「その嫌な予感」が全く消えずに…寧ろじわじわと広がるばかりで、益々彼を不安にさせていった。
 頭の中で「もしかしたら…」というある予想がついている…しかしそれは絶対に考えたくもなく、確かめる事も絶対に嫌で…別の結論へと辿り着く思考を必死で絞り出している様な…そんな状態だ。
シーツの中で胎児の様に丸まって…ギュッと瞳を閉じた。
……シャア……
 やはりどうしてもその名を呼んでしまう……
女々しいと思われても、無性に今は彼に抱き締めて欲しいと願う。彼の腕の中に居れば…自分は何もかも全てが安心出来るのだから……
……早く…戻って来いって……あっ…!
 ハッとした瞬間と同時に扉をノックする音が響いてきた。勢いよく上半身を起こし扉の方を見ると、静かに木製のそれが開かれて、待ち侘びた愛しい男が再びその姿を現す。そしてその後方にカミーユの姿も見えた。
 こちらをじっと見つめてくるアムロの表情が、あまりにも頼りなく切なくも見えて、思わずシャアは足早にベッドへと近付く。そして無言のままで、その頼りなげな上半身を抱き締めた。言葉に出さずとも自分の今一番の望みをちゃんと解ってくれる夫に…ただ嬉しくてただ切なくて…アムロも強く抱き締め返す。
そんな抱擁を交わす夫婦に静かに近付き、カミーユは医者らしい表情と口調で尋ねた。
「アムロさん……取り敢えず体温と血圧を測らせていただきたいのですが…」
 その言葉にシャアがゆっくりとアムロの身体を自分から離す。アムロも無言でカミーユに左手を差し出した。
検査の器具を当てて、カミーユは真剣な表情で数値を確認し…その後に脈拍も確かめてみる。
「気分はどうです?…今は痛い処はないですか?」
「…痛みは全然平気になったよ…でも少し…身体がまだ熱い気がするけど…」
「そうですね…微熱は未だあります…他は正常値のようですが」
 シャアはベッドの端に腰掛けて、アムロの右手にそっと自分の掌を絡ませる。そこからの感触はやはり普段よりは温かく感じた。立ったままで暫く何事が思案するポーズをとっていたカミーユは、徐に二人に意見を述べる。
「…アムロさん…出来るだけ早いうちに詳しい検査をした方が良いです…少しでも解る事がないと…今後どうしたら良いか決められませんからね…」
 その琥珀色の大きめの瞳でカミーユを暫くじっと見つめてから、そしてその後に傍らのシャアへと視線を移すが、彼にも静かに大きく頷かれた。アムロは自然と大きな溜息を吐いてしまう。
「…やっぱり…俺の身体は…何かがおかしいんだね…」
「おかしい…とは違うと思うんですが…何と言ったらいいのかな?」
 どう言ったらアムロに出来る限りショックを与えないで済むだろうか…?
カミーユがそう悩んだ矢先、シャアが静かに口を開く。
「アムロ…君は自分の身体について、何かが変だとは感じないか?」
 そんなストレートな言い方をしてっっ…と内心舌打ちをしたが、下手に誤魔化すよりはある意味、その方が良策かもしれない…とも瞬時に考えた。
自分を真剣に見つめているシャアに対して、幾分戸惑いながらも…アムロはポツリと漏らす。
「………痩せた……みたいなカンジ?……肩幅とか腹回りとか…細くなった気がする…」
「…それから?」
「……でも……変な処に……脂肪が付いた…ような…
そんなカンジも…」
「他には…?」
「……………言いたくない……」
「アムロ……」
 少し顔を赤らめて俯いてしまった妻に、シャアは問い糾す様な声色を向けてしまったのだが…
「大尉っ…焦る気持ちは解りますがっっ」
 カミーユに窘められて、自分の嫌な感情に彼は気が付いた。
「ああ…すまなかったアムロ…つい君の気持ちを考えずに……許してくれ」
 謝罪の気持ちを込めて、そっとその柔らかい赤毛にキスを贈る。そんな様子の中にも、シャアが自分と同じくらいに不安を感じているのだ…という心情が良く理解出来るアムロであった。
「…俺もゴメン……シャアは本当に心配してくれているのにね…」
 そっとシャアに擦り寄る様にして上半身を彼に委ねる。肩をしっかりと抱き寄せられて、アムロは彼の優しさを感じられる事に安堵した。
「…ちゃんと言うよ……あのさ……」
 一呼吸置いてからアムロは呟き始めた。
「や…やっぱり…その……っっ…下半身が…何だかヘン…だと思う……」
 頬を微かに染めながらも…隠しきれない不安の色を瞳に色濃く映して、自分が絶対に認めたくなかった、その言葉をアムロは口にした。
「そうだな…それは私も先程感じたよ…」
 ああ…やっぱりシャアも気が付いたんだな…と思わず瞳を閉じてしまった。
 寝室内に暫しの沈黙が流れる。三人とも気が付き始めている、ある「事実」を誰も口に出せずにいる…そんな気まずい空気があった。
「…アムロさん…その…思うにですね……」
 沈黙を破ったのはカミーユであったが、アムロは首を振ってその先を止めた。
「大丈夫、俺が言うよ…カミーユ……俺の身体に起きている事だから…」
 微かな笑顔を造って…そして深い深呼吸をした。
シャアが握ってくれている掌から一際心強さを感じる。

「……俺の身体が……女性…みたいに…なってきているんだろう……?」
それを受けてカミーユはゆっくりと大きく頷いた。


「本当に『女性』化しているのかは未だ解りませんよ…今はあくまでも見た目の判断です。当然色々と検査してみないと…結論は出せないかと」
「……うん…」
 アムロはパジャマの上から両手をそっと胸へと這わす。
「…見た目は俺も…ちょっとココはさ…何だろう?何だか変…って思っていた…」
 そしてさわさわと掌を動かしてみる。
「あ…あれっ…?…何だかっ……また大きくなってきた様な…??」
 掌から感じるその感触に驚くアムロに対してシャアは淡々として応える。
「そうだな…昨夜よりは確実に膨らんだ様だ」
「少々目立ってきたかもしれませんね」
 カミーユもそれに続いた。その二人の言葉にきょとん?とした表情を一瞬見せたアムロは…やがて段々と眉間に皺を寄せて険しい顔つきになっていく。
「……二人ともさ……何でそんな…良く知ってるみたいな言い方する…?」
 アムロから放たれる強いプレッシャーをしっかりと感じて、二人は自分達の失言に気が付いた。
「いやアムロ…私も気になってな……その仕方なく、なのだよ」
「大尉からの強い要望だったんですっっアムロさん!…俺はただ医者として触れただけですからっっ」
 そんなデカい図体した大の男二人が必死に自分に言い訳をしている姿は、確かに可笑しくもあるが…しかしっ
「…やっぱり昨夜はクスリか何か仕込んだなっ?!…俺の寝ている間にそんな変態みたいな真似してっ!…二人ともっ…もうっもうーっっ……莫迦かっっ?!」
 顔を真っ赤にして、思いっきり率直な文句を言い放ったアムロに…
「…アムロ……すまない」
「ごめんなさい…アムロさん…」
 昔は師弟の様な関係にあった二人の男は…彼らが「敵わない」と感じるこの宇宙で唯一無二の存在に、こちらもまた素直に頭を下げるのであった。


※※…続きは「Angelic Egg vol.3」でどうぞ…