《  漆黒の夜 --As You Like it -- 1 》

 

 

ネオ・ジオン総帥シャア・アズナブル大佐が「愛妻家である」…という事実は、今や宇宙で暮らす全コロニーのスペースノイド達が、普通に知っているであろう程度のごくごく普通の情報だ。
それがネオ・ジオン統治下にあるスウィート・ウォーター周辺に来ると「大変な愛妻家だ」となる。
更にこれが軍内部の一部の機関になると「時々限度を超えた愛妻家だ」となる…。
…そして総帥夫妻を良く知る、ごく一部の周囲の人間に至っては
「猛省を促す程の呆れる愛妻家だ」と言うらしいが……。

 

シャア・アズナブル大佐の日常は多忙である。
現在「正式な独立国家となる為に日々奮闘中」であるネオ・ジオンは、目下の処かなりの制限付きながらも連邦政府から「半自治権」を認められている。現在の情勢では破格の待遇とも言えるこの条件をもぎ取れたのも、全ては総帥閣下を始めとする政府側ブレーン達の尽力の賜物であった。
「独立国家」を目指す以上、準備する事やるべき事…そして問題も山積みである。
元来ネオ・ジオンの「総帥」という立場は軍部統括と象徴だけでも良かった。つまり「お飾り」的な立場で居れば内政に関わる必要は無かったのだが、彼の才能と性格がそれを素直に受け入れる事は出来なかったらしい。
軍部の最高司令官が行政機関の最高長官も兼ねている状況は、明らかな「独裁」色が見え隠れするのであるが、新しい国家の礎には、逆にその方向で推し進めないと半自治権でさえも保てないという不安定さがある。故に安定した基盤を作り上げるまでには、喩え目指す処が「共和国」という形であっても、今はたった一人の「カリスマ」に頼らざるを得ない。だがその「カリスマ」によって全ての機関が上手く連動し、優れた連携を保っているのが現実だ。

シャアは現在のその情勢を良く理解している。己が正式な「国家元首」となるまでは…今は明らかに独裁的な集権体制であっても、その絶大な政治手腕を発揮して全てを安定させていかねばならない。…いや「国家元首」となってもこの体制をすぐに変える事は難しいかもしれない。しかし基盤と体制が安定すれば、それぞれの部署での後継人を育てる事にも集中できよう。その為にも今は自分を経由する全ての事柄に置いて、一切の妥協も許す事は出来ない。

しかし、総帥シャア・アズナブルとて当初からその崇高な主義を持っていたわけではない。
彼には「どうでも良い」時期があった。「ダイクン」という名前の餌に群がる俗物共に、また腐り切り何の変革も起こらない連邦政府に、そしてそれを自らは何の行動せずにただ受け入れ支持する愚民共に…心底辟易し…あの時の自分はその全てが絶望と虚無の中を漂い、身も心も凍り付いていたのだった。
たった一つの熱い想いだけを心の奥底に残して…。
己の最大の望みが叶い、その想いがこの身と心を溶かし、生涯の半身をこの手に得た時に、彼は全ての思想と主義を変えたのだ。
その半身と歩む人生の為に。

その半身が自分に告げた言葉を、彼はただ守っているだけだ。
「貴方に今出来る事を思う存分やってみて…道を誤らないようにちゃんと見ててあげるよ」
「革命」や「世直し」などそんなご大層な思想ではなく、ただ「愛する者の為」に、彼は独立国家の元首になろうとしている。とんでもない「真実」だ。その「真実」が万が一彼の口から公表されたとしたら、多くの者が呆れて怒り出すだろう。そのカリスマ性も失うかもしれない。
だがその「想い」と「願い」が彼にとてつもない力を与えているのも「真実」。
つまり…解り易く言えば「愛の力は絶大だ」という事である…。
愛する者との幸せな生活を維持しその人生を共に過ごす為に…ただそれだけなのだ。
その真実には果たして後生の歴史家であっても気付く事が出来るかどうか…。

 

まあ取り敢えず…
そういう理由で、日々会議に会談に交渉に、はたまた書類決裁に忙殺される日常を送っていても…総帥閣下は仕事を完璧にそれは見事にこなしている。
それも高い矜持を持つ性格が良い方向に働いているともいえよう。
…しかし、だ。
その完璧な仕事ぶりを誇れる総帥閣下に…唯一その矜持を忘れさせてしまうモノがある。
前述の彼の半身である彼の妻…ネオ・ジオン軍MS隊総隊長のアムロ・レイ少佐。
その存在でこの宇宙の平和が保たれているという…とてつもない価値の唯一無二の総帥閣下の「女神」だ。
総帥閣下はその妻の身を常に案じている。最初はやはり「連邦軍からの亡命者」という立場と「総帥の婚約者」という身分を単純に心配していたのたが…最近は違う。特に結婚し正式な夫婦となってからは、夫の立場としてもかなりの心配事が出て来た。
ナナイ戦術士官のイメージ戦略?のせいもあってか、アムロはこのネオ・ジオンに於いて大変な人気がある。シャアの持つカリスマ性とはまた違うイメージで多くの住民を惹きつけている。それが軍内部となると、その感情が殊更に増大されているのだ。実際に彼を目にしたり、一度でも会話をすれば彼の持つ不思議なオーラに気付くだろう。その優しく温かいモノに触れれば、性別は関係為しにますます彼のファンになる者、ますますもって憧憬の感情を抱く者が大多数…いや漏れなく全員が、かもしれない。
ただの「アイドル扱い」で「憧れの存在」ぐらいの立場であればまだ良い。
その限度を超えてアムロに対して「不埒な感情」を持つ輩が多い事実に、シャアはしっかりと気付いている。
アムロには確かに無自覚に醸し出している妙な色気があるのだ。完璧な顔の造形や容姿を持つわけでもなく(それは寧ろシャアの方が所有している)、また媚びている様子なども一切無い。それなのに…その身体の様々な部位に、その一挙一動に心がときめくらしい。
シャアは何故かその「あまり優れていない」と自己評価するNT能力が「アムロに向けられる感情」には妙に過敏に反応する。アムロを愛するあまり無意識にそういう方向に向けたのかは不明なのだが…正直呆れて自嘲してしまう事実だ。とんでもない「独占欲」が生んだNT能力なのかもしれない…。
だがお陰様で例えば…会談やレセプションパーティーの席などで、自分の隣に立つ連邦政府の高官や資本家達が、妻をどんな目で見ているかは直ぐに解る。そして自分達の周囲に居る人々に対しても…。そして様々なゴシップ記事や所謂「裏サイト」での発言の数々…シャア自身も此程までにとは予想していなかったので、本気で再び心が凍り付きそうであった。

「俺をそんなイヤラシイ目で見るのは、シャアくらいだからねっ」
と、何故かアムロ本人は全く無自覚で気付いていない。君の能力でなら充分感じうるであろうに!…いや…もしかしたら無意識に閉じてしまっているのかもしれないが。こんな不埒な欲望の感情を全て受け入れたら…確かにとんでもない事になるかもしれない。だから尚更に自分の不安が増大するのだ。
「『シャア・アズナブル』を夫に持つ総帥夫人に手を出せるような強者はこのネオ・ジオンにはおりませんわよ…もし居たらその勇気と無謀さを返って褒めてあげたいくらいですわ」
とナナイ戦術士官はあっけらかんと言うのであるが…魅力的な妻を持つ夫として不安を感じて何が悪いのだっ…と逆に開き直っている。
故に実はアムロには内緒で数人の監視を付けているのだ。…直ぐに本人にバレて怒られたが、絶対にこれを止めるつもりは無い。お陰でいきなり現れたカミーユの行動阻止や(失敗したカンあり…)、MS隊員達の身の程知らずな要求に対する牽制が出来た。
「総帥夫人に対して不埒な言葉を発すると人知れずに消される」という噂が真しやかにひっそりと囁かれているようだが…シャアにとっては寧ろ好都合の噂である。まあ実際に消したりなぞはしないが…それなりの「制裁」を加える時はある。…全て情報部の判断に任せている、というのが表向きの事情だが。

 

「確かにアムロさんは昔から天然で無自覚過ぎますよね…俺もいつも不安です」
シャアの書斎で遠慮無く高級酒を味わいながら、カミーユがしみじみと呟く。
彼はSP達にはスルーパス、使用人達には歓迎される程に、総帥公邸に頻繁に出入りしていた。訪問の理由はもちろんアムロの体調管理の為…なのであるが、週一くらいのペースでこの書斎でシャアのご相伴に与って呑んでいる。「お前は此処をどこぞのバーと勘違いしているのではないか?」と呆れた様子で公邸の主人は言うのだが、出入り禁止にもしないし勝手に呑んでいる事も咎めない。寧ろ「呑み仲間が出来て貴方は嬉しそうだよ?」と妻には笑って言われた。
「アウドムラに居る時も…皆からあーんなにヤラシイ視線送られてても…ちっとも気付いてなかったですから…俺は子供心に心配でしたよっっ」
「まあ…お前が子供心にアムロのどういう姿でどう『こっそり』と処理していたのかは、咎めない事にしよう」
「…なーんて言い方するんですかっっ?!し、失礼なっっ!」
真っ赤になって怒るカミーユの様子を眺めて、否定しない事に苦笑せざるを得ない。
「……あんな…ピッチリとしたジーンズが…いけないんだと思います…」
「確かにそれは私も感じたな…今でもアレは宇宙一のラインだ」
「ですよねっっ?!…背中からのラインが…腰の括れといい本当に最高ですからっ!そしてやっぱり…あのっあの太股が危険過ぎなんですっ!」
「そうだな…ああ、ロンド・ベル隊の軍服姿を初めて見た時に…私は正直大変焦ったぞ」
「俺もですよっっ!あんな惜しげもなく下半身のラインを出させるなんてっっ…連邦軍は明らかにセクハラ行為ですよっ!連中がますますヤラシイ目で見るじゃないですかっ!」
…どーしよーもなく失礼な話題を肴に呑んでいる二人であった。アムロ自身がこの会話を聞いていたら間違いなく両人とも修正されるだろうが…それだけで済むかどうか。
「コトが起こってからでは遅いっていうのに…もう少しアムロさんには自覚して欲しいですよね…ホント暴走した奴等に拉致とかされたら………あ…!そーいえばニューホンコンでそういう事件があったぞっ!」
「…初耳だな…それは」
眉間に皺を寄せたシャアにカミーユは事の顛末を説明した。
「……そうか…成る程…聞き捨てならんな」
腕組みをして何事か考えているシャアを見つめて、どんなに昔の話であっても、万が一のアレとかあったら…この人は絶対に当事者を許さないんだろうなあ、と考えた。
「まあ…とにかく昔からあの人はアブナイんですから…俺は大尉に全面的に賛成しますね。アムロさんを危険から守る為なら『行き過ぎ』なんてのは無いですから」
「珍しく賛同してくれるわけか」
「全てはアムロさんの為っっ!…ですからねっっ」
シャアは苦笑した。喩えカミーユがアムロに対して疚しい妄想があっても、他の男共にその同じ妄想を抱かせる事でさえ許さない、という点では意見の一致をみているので。まあ本来ならば自分もそのカミーユの妄想は許し難いのではあるが…最近の自分はこの青年に対して、どうも寛大に為り過ぎているかもしれない。

「ところで大尉…俺は来月で無事に研修医期間を終えるんですが…」
「スウィート・ウォーターを出て行く事になるのかね?」
「…絶対そういう嬉しそうな顔すると思いましたよっ!…つまり正式採用してくれる処を見つけなければならないんです。もちろん今の病院も院長のDr.ウォルトンも大歓迎で受けて入れてくれる…って言うんですけど…」
「それならばそのまま正式に勤務すると良い。此のコロニーも医師が増える事は大歓迎だからな」
素直に賛成してくれるシャアにホッとするカミーユであった。しかし…今夜はそんな単純な相談をしに来たわけではない。
「一般の病院で働く事は確かに臨床的に医師として成長出来る事です……だけど…俺は最近色々と考えてしまって……」
シャアはカミーユをじっと見つめてから、手にしていたグラスをテーブルへと戻した。
「……軍医務局に入りたいのか」
ズバリと明確に言われた。まあとっくに予想は付いていたのだろうけど。
「そうです…」
「確かに我が軍の軍医は不足している…まあ現在の状況ならばそれでも組織として保っていられるがな。しかし…恒久的な平和が続くとは約束は出来ないぞ…それでも良いのか?」
「もちろんそれも覚悟の上ですから…そこまで甘い事は考えてませんよ」
真剣に自分を見つめ返す若者をシャアは素直に好ましく思った。
「…そうか…ならば私には反対する理由はないな……だが…」
一呼吸置いてから、少し意地悪な笑顔を作る。
「アムロは反対するぞ?」
「解ってますよ…だから先に貴方に相談したんじゃないですか」
「ほう…私を頼りにしてくれるとは…明日の天気は嵐かな?…カミーユ」
「…明日も晴れの『設定』だって、天気予報で言ってましたよっ…コロニー内で何を言ってるんだか」
少し照れくさそうに見える態度が、再びシャアを喜ばせた。…アルコールの所為か?などとは考えたが。
「…軍医務局の本部ってMS総本部のすぐ隣ですよね…アムロさんの為にその点は少しは役に立てるかも…って思って」
「大いに役立って貰いたいところだ」
ふとカミーユが顔を上げてドアの方を見た。シャアも同じようにドアを見つめている。
「…では出来る限りの援護射撃はしようか」
「はい…頼みます…」
程なくしてドアをノックをする音が響くのだった…。


「まだ呑んでいるの?もうこんな時間だよ」
呆れた顔をしながら部屋に入ってきたアムロは既に夜着姿であった。
薄い水色の光沢のある素材…シルクかな?似合っているなあ、アムロさん…動く度に何だか布の動きが妙に色っぽく見えるんですけど……
そんな思考は当然シャアには漏れていてしっかり睨まれた。そして彼は妻に対しては、いくらカミーユだけとはいえ他人にそんな格好を見せてくれるな…と嘆いている。
アムロはごく自然にシャアの隣に座り、ごく自然に彼とキスを交わす。最初は少し目のやり場に困った二人のキスシーンは、今ではカミーユにとってもごく普通の光景となりつつあるのが…ちょっと悔しい。
「貴方が遅いから先に風呂に入っちゃったからね」
その台詞にシャアが残念そうな顔をしたので…一緒に入るつもりだったのかよっこのエロ総帥っっ!…と「夫婦」に対しては少々失礼な感情を向けるカミーユだった。
「カミーユも寝室の用意は出来ているからね…いつもの部屋だけど」
アムロの優しい笑顔に「すみません」と頭を下げた。此処で呑んだ日は大抵泊まらせて貰っている。以前カミーユが一週間程滞在したあの部屋は、もう既に彼専門の部屋となっていた。
「アムロさん…あのですね……」
「?…何?」
カミーユは軽く深呼吸してから、グッと姿勢を正してアムロに話し始めた。

 

「……俺が賛成する、と思っているの?カミーユ…」
もの凄いキツい言い回しの言葉で返された。
「軍医になるって事は…軍籍を持つって事だよ?俺は…カミーユに二度と軍隊には関わらせたくない…それは何度も言ったはずだよね?」
アムロは厳しく言い放つ。当然表情は…怒っていた。
「それは…解っています…アムロさんが自分を心配してくれているのも凄く嬉しいし、凄くありがたいです……でも俺は…」
「俺の気持ちを解っているなら…軍医になるなんて言わないでくれ」
「アムロさん…」
「カミーユ…君は俺やシャアと違って、軍人ではない普通の道を…ただの民間人としての道をちゃんと歩いていけるんだよ?なのにどうして…わざわざ…また辛い道を…」
アムロは瞳を伏せた。泣きそうな顔をしている。アムロの気持ちは痛い程に解るのだが…それでも自分の決めた道をちゃんと認めて貰いたかった。
「…だったら…逆にアムロさんも俺の気持ちを解ってくださいっ……俺は…貴方達に置いていかれるのは…絶対に嫌なんですっ!」
「…カミーユ…?」
「駄目…なんですか…?少しでも役に立ちたいと…関わっていたいと思っては駄目なんですか?アムロさんの覚悟を…大尉の決意を知ってしまった今では…俺は……もし…その時がきたら…俺だけ何もしないで安穏としている事なんて出来ませんよっ!」
カミーユも泣きそうな顔で訴えてくる。そして彼の強い意志と想いが伝わってくるのも……
だからといっても、そう簡単に許せる程の問題ではない。
「で…も…カミーユ…俺は……」
「アムロ」
此処で初めてシャアが口を開いた。傍らのシャアに振り向くと穏やかな視線で自分を見つめている。
「カミーユはもう充分に大人だ。彼が自ら決めた道を君が反対しては駄目だろう?」
「で…でもっ…俺はカミーユの…後見人として……」
「心配する気持ちは良く解る…だが私はカミーユの…我々と共にありたい、という気持ちも良く解るのだ…それ程までに深く我々に関わってくれているのだからな」
「…………」
「そしてこれは総帥としての意見だが…彼の軍医としての能力には大いに期待する。MS搭乗経験があり、またあの戦役を生き延びた人間としての経験も高く評価する処だ」
「…そんなの…とって付けたような理屈…」
ゆっくりと視線を逸らしたアムロも…本当はもう納得しているのだ。
「カミーユなら大丈夫だ…君が寂しく思うのも解るが…」
「……………」
「いや、まだ『母離れ』とまではいかんな…カミーユは今後も『ママ』を頼りにするだろう?」
途端に真っ赤になった二人に同時に叫ばれた。
「なっなんですかっっ?!それーっっ!!」
「そ、そんな喩えはやめてよねっっ!!」
クスクスと笑い出すシャアをキツく睨み付けてから、アムロはカミーユを正面から見据える。
「……解ったよ…カミーユ……ただし今の病院…特にDr.ウォルトンの仕事も時々ちゃんと手伝う事。それが出来て軍属オンリーでないなら認めます。それでいいですね?総帥も…」
シャアは軽く頷いた。カミーユの表情がみるみる明るくなってゆく。
「は、はいっっ!アムロさんっっ!…俺なら出来ますっ!体力には自信あるし大丈夫ですっっ!!」
喜びでいっぱいといった様子のその表情を見ると…再び少しだけ胸が痛むのだが。
「ふむ…いざとなればMSにも搭乗できる軍医か…なかなか興味深いな」
「またそんな事を言ってっっ…俺はカミーユをMSに乗せるつもりはないからねっっ」
二人のそんなやり取りを聞いていたカミーユはポツリと言った。
「…まあ…MSは無理でも…アムロさんの作ったシミュレーションデータには少し興味あるんですよね…」
「カミーユ…医者の言う台詞じゃないよ…?」
呆れた顔で言うアムロに対して、シャアは逆に興味を持ったようである。
「ふむ…ならば一度対戦してみるか?」
「いいですねぇ…俺はブランクありますけど、隠居したパイロットとはちょうど良いハンデかもしれませんしー」
「…言ってくれるな…私は今でも現役なのだが…」
不穏なのか仲が良いのか解らない雰囲気で笑い合う二人を見つめながら「ったくもう…」とアムロは深い溜息を付いた…。

 

 

シャアが浴室から出てくると、アムロはベッドの端に腰掛けてじっと俯いていた。やはり元気が無い。
「…そんなに寂しいのか?」
「寂しい…ってのと違う…と思うんだけど……」
軽く溜息を付いてから、そのまま上半身を後ろに倒す。ベッドのスプリングでアムロの身体は二、三度大きく上下した。
「カミーユには…本当に軍属になって欲しくなかったんだよ……でも…彼が此処に来ちゃった時点で予測出来た…事なんだけどさ…」
シャアはアムロのすぐ側に腰を下ろす。
「我々と深く関わっている時点で、一人だけ別の道を行け、という方が残酷だと思うが」
「…どっちにしても身勝手だよね…解ってはいるんだ…」
また泣きそうな顔をしたので、シャアはそのまま覆い被さるように顔を近付けて、その唇に軽いキスをした。
「やれやれ…君の方が『子離れ』出来ていないようだな」
「またその恥ずかしい言い方するっっ」
笑ってもう一度口付け、そのまま角度を変えて何度かその行為を繰り返し、左手で夜着の上からアムロの胸をゆっくりと撫で始める。その不埒な手をアムロが必死でどけようとしている。
「だ…駄目っ…だろ?…カミーユが…居るのに……」
「もういい加減にその遠慮は無しとしよう」
「貴方は良くてもっっ…俺はイヤなのっっ!」
キッと睨み付けてはくるが、先程のキスと少しの愛撫で既に感じてしまったのだろう。
…潤んだ目尻が実に官能的だ。シャアのお気に入りの瞳、である。
「いや…今夜中に君に確かめたい事がある…アムロ…私に秘密にしている事件があるだろう?」
やけに真剣な目で聞いてくるので、ドキリとした。しかし彼の質問の意味が全く思い当たらない。
「…?事件…って…?何の事か…解らないんだけど…」
シャアはそんなアムロのキョトンとした表情を暫くジッと見つめていたが…
「……7年前……ニューホンコン・シティ……」
とだけ告げた。
「……??……え……あれ…?…あ…あーっっ?!そ、そんな昔の話ーっ?!」
「思い出したようだな…さて何があったのかじっくりと聞かせて貰おうか」
「ちょっ…ちょっと…待って待ってーっっ!な、何もないからっっホント何もっっ…!!」
慌てて自分の身体の下から逃れようとするアムロを、その体重でしっかりと押さえ付ける。
「…や……シャア………ま…待って…本当に……」
「さあ…正直に全て話すね?奥様……」
その爽やかな夫の笑顔とは対称的な引きつり笑顔の妻は…背中にじんわりと滲む汗を感じた……。

 

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…中途半端な終わり方してしまってすみませんっ!続きは「裏」行きです…愛妻の日なのになあ…とほほ…
(2009/1/31)