FLY ME TO THE MOON ----Sample-----

 

あーあ…やはり此処も諦めないと駄目か…」

現在の愛機となるRGZ−91リ・ガズィのコクピットの中で、調整を行っていたアムロ・レイ大尉は必要以上に大袈裟な溜息をついた。
「こんな反応値じゃ不安だけど…仕方ないよな」
ブツブツと呟いていると、下の方から自分を呼ぶ大声がする。
「アムロ大尉――…まだやってるんですかー?人間諦めが肝心ですよー」
そう言いながらコクピットまでフワリと上がってきたのはチーフメカニックマンのアストナージである。
「あのZ3号機と比べたくなる気持ちも解りますけどねー…量産型試作機としてはかなり高性能ですけど…さすがにバイオセンサーは付いてませんしー…後は大尉の操縦技術でカバーするっきゃないですよっ!」
「まあ…ね…この機体を廻して貰えただけでも感謝しろって事なんだろうけどさ…こうなってくるともうバックウェポンシステムなんかさ、ただ余計だよなあ…って思うよ」
「…改造しちゃいます?大尉なら構想あるんでしょ?」
ふむ、と顎に手を当てて考えるフリをしてからアストナージに向き直る。完全に悪戯を計画する様な子供の瞳だ。わざと声を低くして言う。
「…イオタ製のファイバー・ケーブルが大量に要るけどね…それが手に入るなら」
「…本気でちとコネ使ってみますかね?」
ヒソヒソと悪事を計画する二人であったが…やがて顔を見合わせてプッと吹き出した。その瞬間、リ・ガズィの通信システムからコール音が響く。
ブライト艦長からの呼び出しであった。


「何なんだ?それは…」
机の上にあるのは、ブライトが差し出した一通の白い封筒…金色のクラッシックな縁取りがしてあり、いかにもいかにも、な雰囲気を出している。通信技術が発達している今では、逆に貴重性を持たせようとしてか「秘密」や「高級」めいた物にはこういった紙媒体をわざわざ使用する事例が多い。
何気なくそれを手に取り、訝しむ様に目の前の上官兼友人を見つめるアムロである。
「アナハイム・エレクトロニクス社グラナダ工場主催式典パーティーの招待状だそうだ」
「…グラナダ工場だって?…元ジオニック社の方か」
「ああ…エゥーゴ時代も随分と御世話になった処だがな」
「そうだった…な」
Zガンダム、ZZガンダムを始めとするエゥーゴの機体は全てこちらの工場で作られていた。それはエゥーゴの二代目の代表が、元ジオン系企業とかなり強力なパイプを持っていたという理由からでもある。
「…旧ジオニック社の株を結構な数でそのまま所有しているから…かなりの発言権がある…って言ってたな…そういえば」
「誰が」という主語も無しにポツリと呟くアムロであるが、誰の事を言っているかなどは当然ブライトに対しても必要はない。
「本人から直接聞いた情報なら正確だな。まあ名前と血統が一番効果的なんだろうが…」
その発言に何気なくキツい視線を送りながら
「…で?この招待状が何だというわけ?」
と多少の苛ついた感情を言葉に乗せる。
「うむ…そのパーティーな……その本人が来るらしい。ほぼ確実に、な」
「…えっっ?!」
思いがけない情報に思わず声が上がる。
「元ジオニック社の主催となれば当然だろう。…最近はその身を隠さずにあちこちに出没しているという話だしな」
「……………」
黙ってその招待状を手に取り、しみじみと眺めてみた。
……シャアに……会えるのか……
行方不明だったクワトロ・バジーナ=シャア・アズナブルは、新生ネオ・ジオンのリーダーになっている…という情報は既にこのロンド・ベル隊にも入っている。その情報を元に彼が用意しているだろうの軍備の実態を探索調査しているのだが…一向にそれが掴めない。

「しかし…よくこんな貴重なモノが手に入ったな」
「連邦軍の情報部がわざわざ送ってよこしてきた。『潜入捜査にお役立てください』とさ」
「…ふん…相変わらず俺達に丸投げで…真剣に探す気も無いのか」
封筒をヒラヒラとさせながらアムロは、何故か眉間に皺を寄せてかなり厳しい表情のブライトに問い掛ける。
「……これで…ほぼ確実に会える…というわけか?」
「ああ…そうなるが……お前が行く気はあるのか?アムロ…」
「…直接本人に会って聞いてやりたい事は山程あるからな…艦長の許可が貰えれば、当然行きたいところだ」
その言葉を聞いて何故かブライトの表情はホッとした様子に変化した。
「そうか…それはもちろん許可するが……取り敢えずその中身を見てくれ」
言われるがままに既に一度開封してあるその封筒の中身を見てみる。中には案内状と銀色に輝く薄い金属カードが入っていた。
「…このIDカードを持参しろ…ね。セキュリティは万全です、と言いたいのか」
「多くの著名人や政府高官も集まるから当然だろう。それが無いと会場には当然入れないし、招待客の個人情報や身体的特徴も記録されているから、偽装も難しいらしい」
「…身体的特徴…?…俺が使って大丈夫なのか?」
「…うむ…情報部が言うには、この招待状の持ち主は『年齢23歳・髪は赤毛・瞳は濃い青・身長170センチで華奢な体つき』という事だ」
突然アムロの片眉がピクンっと上がる。
「…………ちょっと待て……」
「確かにお前に使ってくれと言わんばかりの情報だなっっ…まあ良かったじゃないかーアムロ!」
「……………だから…待て…と言っているっっ…絶対に無理だぞ……」
そのIDカードをじいぃぃっと見つめるアムロの顔がどんどん険しくなってゆく。
「ロンド・ベル隊の中でもその特徴はお前しか持ってないしな…うんうん」
「……無理だ……ぜーったいに無理っっっ!!」
「アムロっっ…みすみすこのチャンスを捨てるのか?!」
「無理だっ!ってっ!……この招待状はっっ!」
大きく一呼吸置いてから、それをブライトの目の前に突き付けた。

「ミス・クラウディア・ウォーディン……って女性宛だろうがーっっ!!」

…一瞬の沈黙が流れたが、ブライトはそれこそいかにも作りましたの笑顔をアムロに向ける。
「……まあ…些細な事だ……ちょっと変装すれば済む事だろう…うん」
「…最初から知ってて俺に持ちかけたなっっ…ブライト――っっ!!」

 

※※続きは「invisivle hand of God」…をご覧くださいませ※※