※※「FAMILY COMBO!! 2」・Sample※※

 

 

ネオ・ジオン共和国総本拠地、スウィート・ウォーター
その中心市街の、本来は軍組織用の病院…その最奥にある特別室…此処は数ヶ月前にある目的の為に改装された。壁紙は淡い草色、柱は白のみで統一されて、カーテンも全て落ち着く安らぎの緑色である。中央のベッドも最高の寝心地と安らぎを与えるモノにと。此処に入院する者に一切のストレスを与えてはいけない、とばかりに徹底した気配りが執り行われた病室は、総帥夫人の出産の為だけに改装されたのだ。
 病院の外には未だに多くの住民が集まっており、祝勝ムード一色で盛り上がり、大変な喧噪ではあるが…防音も保安もしっかりとなされたこの部屋は、とても静かで最高の居心地はあった。アムロはベッドの上に上半身を起こし、腕の中でスヤスヤと眠る自分の息子をずっと眺めている。

……本当に産まれちゃったんだなあ…

 もう何十回も繰り返しているその想い…アムロは未だ僅かな赤ん坊の柔らかい髪をそっと撫でる。
予定日より二ヶ月近くも早い出産であったのに、彼は全くの極普通の新生児・超健康体で産まれてきた。計算を間違えたのかもしれない、と医師団は大変不思議がったのだが。ただアムロはそれも別に驚かなかった。自分のお腹に居る時から、『早く出たい、ママに会いたい』といつも語りかけてきた子なので…。そのために自分で成長を早めちゃったんじゃないかっ?…とさえ思う程に。こうして腕に抱いているだけでもアムロは嫌でも感じる。…この子は間違いなく、そしてとてつもなくNT因子が高いという事を。NT能力はそんな便利なモノではない事が解っていても…この子ならそれくらいやりかねないんじゃ…とさえ思う程に強いのだ。
…自分とシャアの間に産まれた子なのだから…やっぱり
仕方がないのか……
未だ若いアムロは、その不安を「持つ事」を怖れた。
そしてもう一つの不安は…
…この子は…シャアの正式な後継ぎで次期ネオ・ジオン総帥となる子供……
 そんな運命を背負った子供を自分は産んでしまって…そしてこの子の母親として立派に育て上げなければならない。
自分にそんな大役が果たせるだろうか?とアムロはただとにかく不安だった。ずっと平凡に生きてきて、十五歳になったばかりの頃に成り行きでMSパイロットになって…そこからはパイロットとしてしか生きてこなかった。あまりにも自分の人生経験は浅過ぎる。そんな自分がネオ・ジオンの皇子をちゃんと育てられるのだろうか…?
 じっと見つめている息子が微かに身動いた。アムロがそっとそのとても小さい手に指を伸ばすと…自分の人差し指をぎゅっと握り替えしてくる。その無意識の赤ん坊の行為に、訳もなく涙が浮かんできた。嬉しさと不安と驚きと期待と…全ての感情が入り交じっていて、今の自分はとても不安定だ。アムロ付きの看護師達は「お母さんは皆さん誰もそうですよ」と若い自分を慰めてくれるが…

 そろそろ脇のベビーベッドに息子を戻そうか…と考えていた時に、ある気配を感じ、それを止めてアムロはベッドの上で待つ事にする。ノックの音と共に扉が開かれて、緋色の軍服姿の…赤ん坊の父親が姿を現した。
「元気かな?私の天使達…」
 満面の笑顔で、やや足早にベッドへと近付いてくる。そしてアムロに幾度かの接吻を贈り、その腕の中の息子の頬にも優しく口付けた。
「とても元気だよ…さっきまでいっぱいお乳も飲んでたから…今はお腹いっぱいだよねー?」
とアムロは腕の中の存在に微笑みかける。
「そうか…それは少し妬けるな」
「…何言ってるんだよっ…もう」
 朱を増したその頬に、シャアは微笑してもう一度口付けた。
「息子というものは、産まれた時から父親のライバルだと言うからな」
 ベッドの端に腰掛けて、シャアは妻の肩を抱くように引き寄せ、そして子供の頬を優しく突いた。
日々多忙を極める総帥職の仕事を、今は超人的スピードでこなし、そして早めに此処へとやってきて、その後はずっと家族と共に過ごしている。それがシャア総帥の今の日課だ。
自分の息子を見つめるシャアの表情は、とても穏やかで優しく…アムロもそれは幸せになるのだが。
そして今度はアムロを見つめて、そっとキスを贈って…
「私はとても幸せだよ…ありがとうアムロ…」
 これも何十回も繰り返される台詞だ。
「僕も凄く幸せ……貴方が居て…この子が居て…」
 ふいに涙が一筋零れてしまった。
「アムロ…」
 シャアはもう一度優しいキスをする。
「大丈夫だよ…不安なのは私も同じだ…だが二人ならば何でも乗り越えられるだろう?」
「うん…うん…」
 若い夫婦はそんな繰り返しで、互いの絆を深めているのだ…


「皇子の名前だが…君が気になるという、例の名前を発表しようと思うのだが…どうかな?」
「いいの?…どちらかというと女の子に多い名前だけれど…」
「女の子に見える程可愛いからな…『今』は」
 シャアは予言の様な発言をして苦笑した。
「…それに二人で『見た』事だ…無視は出来まい」
 子供の名前はずっと決めかねていたのだが、アムロは出産した後直ぐに見た夢の事をシャアに話したのだ。
------ガンダムみたいなタイプのMSを濃紺の髪と瞳の少年が操縦して闘っていたんだ…その少年はああこの子だ…って直ぐに解ったんだよ…僕の事「アムロさん」って呼んで懐いてくれてさ…何故か貴方の事は「クワトロ大尉」って呼んでいたんだよ?
そして…僕達はその子の事を「カミーユ」って呼んでたんだ…
 そう笑って話すアムロだったが…シャアはそれがとても気になり…そして彼もその夜、同じ夢を見たのだ。
 生意気盛りの少年「カミーユ」が自分を「クワトロ大尉」と呼んで…闘って迷って怒って笑って悩んでたくさん傷付いて…自分にたくさんの不満と不安の感情をぶつけてくる。
この子はアムロと私の息子なのだと、シャアは夢の中でも確信していた。
-----この子を…カミーユとアムロを幸せにするのは私の使命なのだ……
 夢の中では抱き締められなかった自分の息子を、シャアはその手に抱いて頬擦りをし…そう誓った。

ミドルネームは髪色と共に祖父から受け継ぎ、ネオ・ジオン次期総帥カミーユ・ズム・ダイクンは此処に正式に誕生した事となる……

 

※※続きは「FAMILY COMBO!! 2」本誌で……※※