※※「FAMILY COMBO!!」 Sample ※※

 

ネオ・ジオンの本拠地は「スウィート・ウォーター」という名のコロニーである。首都に認定される前は、旧公国首都のズム・シティに近いが、人口はさほど多くはない、閑静なコロニーであった。故に開発がし易かったという話もある。そして地球の昔の言葉で「スウィート・ウォーター」とは「家」という意味も有る…と囁かれていたのが現総帥の胸に響いたらしい、という噂もあった。
 現在は新興国としての全ての中枢機能が集められていて、驚くべき程にこのコロニーの内部は変わった。しかし中心部から離れた場所には閑静な場所が残されており、其処には政府高官や旧ジオン系貴族の要人が多く居を構えている。その中で更に奥まった…森に囲まれた自然豊かな場所に、総帥公邸があった。
 多忙な公務を終えて専用リムジンエレカで「家」に帰る。
この瞬間が、ネオ・ジオン総帥シャア・アズナブルにとっての至福の時間であった。昔の彼は「家族」の待つ「家」に帰るという行為が、こんなにも自分を幸せな気分にするなどとは考えてもいなかった。彼の愛すべき守るべき家族が自分を待っていてくれる…ただそれだけで、自分の一日の疲れが全て癒される。公邸に近づく事に温かい波動が自分を包み込んでくるのが解る。とても心地良い…これは愛する妻の優しい想いだ。そして何か急かす様に自分を求めてくる思惟…これは愛する息子の想いだ。何故かいつもより強く感じる。
------カミーユ……これに気が付いているのか?
 シャアは苦笑して、自分の脇に置いてある綺麗にラッピングされた袋にそっと触れた。今夜は息子に「お土産」があるのだ。あの子なら「パパが今日はおみやげを持ってくる」という事に「勘」で気が付いているかもしれない…純粋な子供である分、その能力が今は最強なのだ。それは時々若き総帥夫妻にとっては大きな悩みにもなったのだが。


 リムジンエレカを降りると、小さな影がこちらに走り寄ってくるのが直ぐに解った。
「おかえりなさいーっっっ!おとうさまっっ!」
 そのままジャンプして自分に抱き付いてくるその小さな身体を、シャアは身体を屈めて受け止め、勢いよく抱き上げてやる。わあっとカミーユは興奮した。父に抱き上げて貰うと視界が本当に大きく高く変わるので…彼はこれが大好きなのだ。
「ただいま、カミーユ…ママの言うことを訊いて良い子にしていたかな?」
「うんっしてたよっ…だからねーっっパパっっ」
「ああ、今夜はお土産があるよ。カミーユが良い子にしていた、とママが言ってくれたらプレゼントしよう」
「ええーっ?ちゃんといい子にしてたよおっ」
 シャアは微笑みながらカミーユの背中をポンポンと優しく叩き、玄関ポーチへと進む。彼の後を荷物を抱えた護衛士官が付いて行った。ポーチでは彼の妻が優しく微笑んで待っている。
「おかえりなさい、今日もお疲れ様でした」
「ああ…ただいまアムロ」
 そのまま軽いキスを幾度か交わす。この瞬間…無事に帰ってきて再びアムロの身体に触れる…それがシャアを一番安心させるものだった。
「ママっっ…パパがねっママが言わないとプレゼントくれないってーっっ!だからちゃんと言ってねっっ」
 シャアの肩の上から興奮して捲し立てるカミーユにアムロは優しく微笑んだ。
「何を言うのかな?…カミーユは今日もピーマンを嫌々しながら食べましたって言ってもいいのかなー?」
「えええーっ?!でもーちゃんとボク食べたよねっっ?
ママっ!」
 笑いながら邸の中へと入ってゆく…そんな総帥家族を見守る使用人達も、今夜も皆が優しい笑顔となっていくのだ……


 シャアの膝の上でカミーユは全く待ちきれない様子で、ガサガサと袋から箱を取り出している。これまた勢いよく開けた箱の中には、あるモビルスーツの模型が入っていた。
「…うわっ…パパのせんようきだっっ!」
その金色に輝く機体を正確に模したプラスチック製のそれを、カミーユは更に嬉々として取り上げ「ママっママっっ…これ見て見てっっ…パパのせんようきっ…ひゃくしきだよっっ!!」
「…ああそうだね……シャア…貴方ね」
 息子には優しい笑顔を、夫には厳しい視線を送ってアムロは応えた。
「特別に作らせたの?」
「いや、アナハイムからのプレゼントだよ…皇子に是非どうぞ、という事でね」
 MSN--00100…通称「百式」と呼ばれる新型MSは
「総帥専用機」として先日ロールアウトしたばかりである。
一般へのお披露目はニュース以外ではされておらず、当然子供用玩具などは未だ作られていない。
「もう…本当に甘いんだから…」
 自主的に向こうが言ってきた事は疑ってアムロは軽く溜息を付いたが、カミーユは本当に嬉しそうに遊び始めている。
「パパっ…ビームライフルはっっ?」
「ちゃんとあるさ…付けてあげよう、バズーカもあるぞ」
 父親の膝の上ではしゃいでいるカミーユと、息子の頭を優しく撫でながら色々と説明しているシャアを見つめていると…
やはりこれ以上の文句は言えなくなってしまう。アムロも瞳を細めて優しい視線を二人に送った。
「ところでアムロ…明日からの準備は終わっているのかな?」
「あ、うん…三日間だけだからね…そんなに手間じゃないし」
 嬉しそうに微笑むアムロにシャアも笑顔を見せた。
「悪いが今日用意した品がある。私から、と先方に渡してくれないかな」
「…うん、ありがとう…気を遣ってくれた?」
「そりゃ少しは悪かった、とくらいは思っているよ」
 正直なシャアの言葉にアムロは苦笑した。
明日からアムロは、月都市のフォン・ブラウン市に赴いて、そこで個人的に、ある人物に会う事になっている。
「でも本当にカミーユも連れて行っていいのか?」
 不安な表情を浮かべるアムロに対して、シャアは軽く首を振ってみせた。
「君と離す方が余程大変だろうに…なあ?カミーユ…」
 そして膝の上のカミーユの藍色の髪を撫でながら話し掛ける。カミーユはきょとん?と解らない、という表情を見せた。
「ママとお出掛けは嬉しいだろう…という事だよ」
 途端にカミーユの表情がぱああっっと明るくなる。
「うんっっ!ママと月にいくのっ!すーーごくうれしいっっ!…パパはおみやげっなにがいいっ?」
 もちろんシャアは公務でも各月都市には何度も訪れているのだが…
「お前とママが無事に帰ってきてくれるだけで、充分なお土産だよ?」
 優しく笑ってシャアはカミーユの額にキスを贈った。



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