愛情たっぷりにギュッと

 

 

もっともっと沢山…母親から抱き締めて貰いたかった時代…
自分にはそれが叶わぬ現実があった。
その時代に母親から実質的に「捨てられた」ので。幼い自分を一人で育てた父親は今思えば…多分自分をちゃんと愛してくれていたのだろうけれど…研究に没頭している忙しい日々の身の上故、子供にスキンシップを与える事は本当に稀であったから。

もう母親の愛情は要らない歳になって…幾人かの女性と付き合い、抱き締めて、そして抱き締めて貰って身体を重ねたけれど…
ピッタリと身体を合わせても…どこか隙間が空いている?
そんな感覚がどうしても離れなかった。
そして肌が触れ合うと…自分のあの能力が弊害を生じさせる。意識せずとも感じてしまう相手の強い感情…大抵が同じで…
-----愛して…愛して欲しいの…私だけを強く愛してね…
どの相手に対しても、自分はその彼女達程には、強い愛情を持つ事が出来なかった。

そう、「あの」一件以来…自分の「愛」という感情は何処か壊れてしまっているのではないだろうか…と思う程に、どんな相手にも冷静な自分が居る。
とんでもないトラウマになった。
抱き締めても、相手の求める様な愛が与えられない。
抱き締めてもらっても、相手の愛情が苦痛に感じてしまう。
そして結局上手く行かなくなって別れて…また誰かと恋をしても、充分に愛が育てられずに…
そんな事の繰り返しで、誰とも上手く行かない。

それで良いのだろう、と思っていた。
誰とも添い遂げずに、誰も本気で愛さずに…独りで生きて行くのも。
両親が失敗した様に、自分も失敗するんだから、と。
温かな家庭なんて…

イラナイ…

イラナイ……
はずだったのに。
…「彼」に対してだけは違った。
自分にあのトラウマを間接的に与えた人物なのに。
憎んでいるんだ…俺はアイツを憎んでいるんだ…
憎んで……それがただ哀しくて…
どうしてこんなにも心が揺さ振られる?
どうしてこんなにも……貴様が……
貴方が……心に強く響く存在に…?
こんなにも強く、哀しく、切ない感情を感じる事が出来たのは、後にも先にも彼だけなのだ。
貴方に会いたくて…追って…探し続けて
再会出来れば、ただ哀しくて辛くて切なくて…
…貴方に…触れたくてどうしようもなくなる
どうしてこんなに苦しい想いを…?
どうして……俺は…貴方が……

それが愛だと気が付いて、それが解るまで…
長い年月が必要だったけど…

 

彼との熱い抱擁はもう、今はただの習慣だ。
朝にベッドの中で目覚めた時も、起きた時も…二人で何かをしている時も…それぞれの仕事に出掛けるまで、ずっと触れ合ってて…大抵が抱き合っていて……いっぱいいっぱいキスして…
…新婚夫婦って…こんなの普通だよな?

……他の新婚家庭を覗いたコト、ないけどね…

彼の身体が自分を抱き締める。包み込まれる様に…彼の身体の中にすっぽりと入ると、その感触が全身に伝わってくる。
温かい…そして力強い。
いつもいつもこうやって。愛情たっぷりにギュッとしてくれる。
ああ…これはなんて気持ちがイイんだろう。そのまま瞳を閉じて、背中に廻した腕に力を込める。その時、彼が笑ったのが解った。
「…何で笑っているんだ?」
何か可笑しい事したか?と少しだけ膨れっ面で聞いてみる。
「違うよ…君に抱き締め返されるのは、何とも幸せで…その幸せに溺れている自分は少々情けないかな?…とね」
肩口に埋めていた顔を離して、自分を覗き込んでくる蒼氷色の綺麗な瞳…金色の睫毛はやっぱり長めなんだよな…じっくり見てて気が付いたんだけど…彼は俺の睫毛の方が長いっていうけど。
彼の感情は…決して言葉でも嘘を吐かない。本当に幸せなのだと、その全身から…自分を慈しむ様に溢れるその感情が…
胸が熱くなった。
とうして貴方はそんなにも……
「お…俺も……」
腕に力がこもる。恥ずかしい表情を見られたくないから、その厚い胸板に顔を埋めた。
「…しあわせ……だから…」
彼の鼓動が耳に響く。少し速くなってきた…興奮しているの?
「アムロ…」
そうやってその声で名前を呼んでくれるのが好きだ。
もっと呼んで…俺の名前を。
「私もこの上もなく幸せだ…愛しているよ」

------愛している…愛している…
------愛しているんだ……君だけを愛している…

それしか考えられないくらいに…目一杯の愛情を全身で叫んでくれる。
更に胸が熱くなり、涙腺が緩む…
もうダメだ……

「…な…んで……」
そのまま涙は緋色の軍服に擦り付けた。
「……シャアは…それだけで…いいの?…俺は…どうしたら…?」
鼻水まで出て来てしまったけど…ああ、彼のは凄く高い軍服なのにな…そして公邸のクリーニング担当のヒト、ごめんなさい
「それだけ、とは?」
温かい大きな掌が自分の頭を撫でているのが解る。
「……シャアは…俺を…求めない…のかなって…」
「求めているに決まっているさ」
髪に柔らかい唇の感触…そっと顔を上げれば、瞳にも頬にもそれが降ってくる。
「だが今はアムロを愛するのが忙しすぎて、他が考えられない様だ」
彼はフッと綺麗な笑顔を作って、そのまま唇を重ねてきた。熱くて気持ち良くて…幸せで。

手に入らないと思っていたものが…此処にはたくさん有る。
こんなに幸せで…いいんだろうか?と思うくらいに。
もっと強く…もっと激しく……貴方の愛を受け止めたいから。

「…ね…シャア…」
やっと唇が離れた時に尋ねてみた。
「シャアも……ギュッとして…欲しかった?」
一瞬だけ彼の瞳が驚いた感情を見せたけれど…すぐに消えていつもの自分を見つめる優しい蒼になる。
「ああ…だが今はアムロがそれを私に与えてくれる」
「う…うん…俺もね、シャアがそれをしてくれるから…」

もう寂しくないんだよ?ずっと温かいんだよ?

「ああアムロ…作っていこう…二人で」

二人の住む永遠に優しく温かい場所を

「…うん…愛している…シャア…愛しているよ」

愛される事、愛する事……
初めて解ったから…
もう虚しさを感じるコトもないし、もちろん二人の間に隙間なんて全く感じないね…

だからこのままずっと…
いっぱいいっぱいギュッとして……
そして俺もいっぱいっぱい…ギュッとしてあげる

 

 

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Hold Me Tight…ギュッとし合う二人が大好きです★
だから似たよーのばかり書いてしまうけど…
(2011/8/27 UP)