Z.支配欲

 

 

愛する者を永遠に傍に…という形で手に入れた。
そして自分も愛されている、というこの充足感…
やはり身も心も平穏にし、全てを優しくしてくれるのだ。

彼はSEXに置いても、元々相手に無理強いする様な抱き方はしない。抱く相手が自分の与える快楽に歓喜し、より自分を求めて乱れる姿に自分は快感を得る様なので。故に常に相手の方の悦楽を優先的に考えている。

愛する妻との甘い生活は、全てに置いて自分を最高に満足させてくれているが、やはり夜の愛の営みは一番それを感じているものだ。
SEXそのものに慣れていなかったその魅惑的な身体は、大変物覚えが良く、それは素直に自分の教える事を全て受け入れていった。それもほとんど無意識の行為の様で、自分の愛に更に愛で応えようとしてくれる妻の一生懸命な姿が…本当にあまりにも愛し過ぎるのだ。

アムロはこんなにも愛で応えようとしてくれる…
故に…この愛しい身体がもしも…
もしも…他の男になぞ……

そう考えるだけで、己の血が全て沸騰し逆流しそうだ。
他の男がそれを「考える」事だけでも当然許し難い。
しかし、だからといって、人の思考までも規制する事などは到底出来ない。
だから、そんな全く許せぬ不埒な感情を感じた時は、その絶対零度のプレッシャーで、有無を言わさぬ恐怖をその相手に与えてやるだけだ。

 

 

眩く光輝く古風なシャンデリア…前世紀風に時代がかった調度品も、其処に集うゲスト達の古風な雰囲気も、それが必要である場所は宇宙世紀になってもあるものなのだ。その一つである此処は…人々の喧噪にざわめく、ネオ・ジオンの迎賓館である。

久し振りにスウィート・ウォーター内でコロニー代表会議が行われた事もあり、スペースノイド達の中でも高い地位の者達…名誉職や経済界の重鎮達が招かれて、懇親目的のパーティーが開かれていた。主催はもちろんネオ・ジオン総帥シャア・アズナブルである。
故にアムロも総帥夫人としてゲスト達のお相手を務めていた。スウィート・ウォーター以外の場所では滅多に姿を見せないネオ・ジオン総帥夫人は、こういう場に現れれば当然人々の興味を惹く。そして多くのゲスト達のお相手を、「完璧な総帥夫人を作って」、その仕事をそつなくこなしているアムロの姿がそこにはあった。そんな妻の姿を時々気に止めて見つめながら、シャアは嬉しくもあり、色々と心配にもなっている…


「…総帥夫人は想像以上に魅惑的な方ですね」
そう呟いた隣に佇む男に、彼は強い視線だけを送る。その台詞そのものは良く言われる事なのだが…
「少年の様にも見えるし、ですが妙に大人の色気もある様にも見える…そして男性とも女性とも違う…何か別の性的な魅力をお持ちだ」
男の視線は少し離れた位置で他のゲストと談笑している妻…アムロの身体に熱く注がれている。何を考えているかなど明らか過ぎる視線だった。
「…それはありがとうございます……私も妻は宇宙一魅力的な存在だと思ってますよ」
「いや確かにそうでしょう…総帥閣下が実に羨ましいですなあ」
シャアの氷の視線を全く意に介さないオールドタイプ…ふとこの初老の男の「データ」…正妻以外に愛人が3人程居る、という事を思い出した。それなりの地位と経済力を手に入れれば愛欲に直ぐに結びつける…典型的な小人だな、とシャアは彼を判断している。外交的に表面上の付き合いはやむを得ないのだろうが、その愛人達を見るのと同じ様に、欲情に満ちた目で自分の愛しい大事な奥方を見つめている事は…全くもって耐え難い。

「失礼…」
その無礼な男の脇から離れると、シャアはアムロに視線を送った。彼は直ぐに気が付き、夫の表情を見て傍にやってくる。そのまま無言でシャアは妻の細い腰に手を回し、総帥夫妻は会場を出て行った。
使用されていない部屋の扉を些か乱暴に開ける。そんな態度が気になったアムロは
「…怖い顔してるね…」
と少し困った表情を浮かべた。
「そうだな…」
とシャアは短く応えて、アムロの身体を抱き寄せる。そのまま強く抱き締めて、唇を重ねた。シャアにしては「乱暴」なキスだな、とアムロは感じたが、力を抜いて身を委ねる。口内を激しく彷徨い、自分の舌に強く絡まるその力強い彼の舌に翻弄された。大きな掌も自分の腰や尻を明かに官能的な動きで刺激してくる。
「…んっ…つっ…」
苦しげな声が漏れてしまったのは仕方がない。それでもシャアの舌も掌も相変わらずで……
長めの激しい口付けを交わし、やっと唇を離してアムロの顔をじっと見つめた。頬も目尻も赤く、涙さえ浮かべている。すっかり濡れて赤みを増した唇と顎を伝わる唾液…はぁはぁと小さく息を整えている奥から覗く舌と…全てが官能的過ぎた。
「…治まった?」
もう怖さは感じないシャアの表情を感じて、アムロは素直に尋ねてきた。
「ああ…悪かった」
もう一度強く抱き締められて、アムロはその胸の中でそっと瞳を伏せた。
「大丈夫だよ…俺で貴方が安心出来るなら…」
その言葉にシャアは口元を吊り上げた。
「確かに君は私の大事な精神安定剤なのだが…それと同時に起爆剤でもあるからな」
「…うっ……それは否定できないかも…」
シャアの言葉を素直に認めて、ゴメンと小さく呟くアムロを更に抱き締める。
「責めている訳ではないよ…君が魅力的過ぎるから私が困っているだけだ」
「…そんな変な事言うのはシャアくらいだよっ」
相変わらずっとアムロは呆れた口調で応えてみるが、逆にシャアがその言葉に呆れている。
「相変わらずなのは君の方だな…少しは自分について自覚してくれる様になったと思っていたのだが…」
「じっ自覚とっっ…そ、その変な褒め方は違うだろうっ?」
「違わない」
シャアはキッパリと言い放って腕の中のアムロを見つめると、案の上大変バツが悪そうな上目遣いをしてくるが…
「アムロは自分がいかに人を惹きつけて、支配欲を刺激する魅惑的な身体をしているのか…いい加減に自覚をするべきだと、私は何度言ったかな?」
そのアムロの瞳はますます複雑な色を含んでしまった。

 

 

シャワーの熱い刺激がとても心地良い。全身を纏っていた泡をそれで落としながら、自分の身体を何気なく触ってゆく。
……シャアはあんな事言うけどさ…どうやって自覚しろって言うんだ?
溜め息混じりに考えるのは先程の迎賓館でのやり取りだ。改めて自分の身体をしみじみ見ても、妙に細くて体毛が薄くて…貧相にしか思えない身体なのだが。
自分の身体に付加価値があるとしたら、それは「シャア・アズナブルの妻」だという事だ。以前ある男に言われた事がある…

『シャア・アズナブルの妻だから、男でも陵辱をしてみたくなる…』
『あの最高級スペックを持つ男の妻を穢すという事は、それだけでも最高の快感が得られるだろうよ…』

…俺にヘンな気を持つ奴は…シャアがどんな風に抱いているかが気になるんだろうなあ……
シャワーの下で髪の毛を思いっきりワシャワシャと掻き回したアムロは、どうしても自覚が出来そうもなかった。
そういう欲情は…シャアが関係しているから持たれるのであって…と考えるアムロは自分自身にそんな要素がある事を、本気で微塵にも考えていない。
それがアムロ自身にとっては幸運であり、周囲には大変な不幸な事実なのだ。
もちろん彼はシャア以外の男に…なぞ考える事を絶対に拒否している。自分はシャアを愛したから…彼から愛される事を選んだのだ。そう望んだのだ。
他の男に絶対に許さないと考えている故に…己の撒き散らかしている天然の特殊なフェロモンに気が付いていないのは…貞淑故?と考えて良いものなのかどうか……という処である。

 

風呂上がりのアムロの身体は温かく柔らかくて…そして良い香りがする。アムロの素の体臭も大好きではあるが…こんな時は自分の為に用意された高級なデザートである様な…そう考えると気分も自ずと高揚してくるものだ。だからじっくりとゆっくりと、舌と指で味わい尽くす様に…
「…ぁあ……やっ…つっ…」
自分の妻がこんなに甘い喘ぎ声を出す事は誰も知らない。
「そっ…そこばかり…舐めるなっばかっっ…ぁあっ…!」
こんなに欲情に満ちた瞳で、濡れた唇で、恥ずかしがる事は誰も知らない。
普段の彼はその幼さを残す表情で、しっかりとしている様でもどことなく危うげな雰囲気を醸し出している。そんな雰囲気が男達の扇情を誘い、女達の保護欲をそそる…という。(情報局&某戦術士官の分析)
「やっ…も…もうっっ…あぁっ…シャ…アっっっ」
こんなに悦楽に耐える表情で許しを請い、甘い痺れに耐えている姿を…想像はしているだろうが…誰も本当の姿は知らない。
そして自覚が無い分、逆に禁欲的にさえ感じる部分でもある。
細いウエストから形良く双丘へ…そして独特の柔らかさを持つ太腿へと…この絶妙なラインを一度は撫でてみたいと思う輩が多くいても…それが実現出来るのは自分だけだ。そしてそれをするとアムロがこんなにも感じてくれるのを…その身体の全てを知り尽くしているのも自分だけなのだから。
勿論ここまでの身体に育てたのも自分、という自負も当然ある。

こんなにも君の身体は、私の独占欲と支配欲を刺激する…
いったい他の誰が…此処まで私を余裕無くさせる程に…追い詰められると?
アムロ…君だけだ…
愛しき白い悪魔であった君に…
私は身も心も君の中に……墜ちたのだな……

 

激しい情事の後の微睡みの中…
「……自覚…しろって俺に言うけどさ…」
ふとアムロが体勢を変えて自分を見上げてきた。
「シャアの方こそ…あるのか?」
「何がだ?」
柔らかい巻き毛を指で弄びながら、全くその意味が解らずに応える。アムロの琥珀の瞳は相変わらず、じいっと自分を見上げているが…
「……シャアが思っている以上に…俺って嫉妬深いんだぞ?」
一瞬だけその指が止まったが…直ぐに満面の笑みを浮かべて愛しい妻を見つめてきた。
「それは嬉しい事を言ってくれるね…君の独占欲に支配されるのは最高の気分だよ」
シャアはそのまま顔を近付けてアムロに優しいキスを一つ贈る。
「私は君しか見ていないからな…周囲の感情など全く意味は成さないし興味はない」
「…だったら…俺だってそうなんだけど…」
シャアの表情がますます柔らかくなった。
「それも最高に嬉しい言葉だが…君は駄目だよ…私を心配させないでくれ」
「……ホントよく解らないなあ…ソレ」
そう呆れた物言いをしながらも、アムロはそのままシャアの首へと腕を掛けた。そして自分から軽くキスをする。
「いいよ…じゃあ俺はずぅーーーっっっと…貴方を愛で支配しちゃうからねっっ」
「愛しい奥様のお望みのままに…」

シャアは大変満足した様子で笑い、そしてアムロはとびきりの綺麗な笑顔を見せるのである……

 

 

THE END

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深く甘く…にだんだん頑張れるよーになってきたかな…?
(2011/2/11 UP)