U.朝から晩まで

 

朝昼晩と問わず、一日中四六時中…
君を傍に置いて君の体温を確かめながら…
「愛している」とずっと囁き続けたいよ…

 

「…では、本当に良いのだな?アムロ」
「当たり前だろう?今更聞かなくても大丈夫だよ」
そう言って、シャア・アズナブルの愛しい婚約者は、とても綺麗な笑顔を見せてくれた。
「このネオ・ジオンを生まれ変わらせようとしている貴方に全てを任せて…ただの傍観者で居るなんて、パートナーとしての意味がないじゃないか…俺は俺の出来る事で全力で貴方を全力でサポートするよ」
その細い身体をただ強く抱き締める。
「ありがとうアムロ…君のその決意は私にとって素晴らしい福音だよ…」
アムロもその広い背中に腕を廻して、彼をしっかりと抱き止めた。
「逆に…俺にちゃんと居場所をくれて…ありがとうシャア…」
先日、全地球圏に向けて正式な婚約を発表した二人である。その場でアムロは、ネオ・ジオン軍の一員として貢献したい、と応えてはいたが、地位がどうなるかは未定であった。
そして今…アムロの決意をしっかりと受け止めて、シャア総帥はネオ・ジオン軍モビルスーツ部隊総隊長、という正式な役職の辞令を下したという事になる。

「君の階級は…大尉だったな?」
「そうだよ」
「…君の実績から考えれば、随分と低いと感じるが」
渋面のシャアにアムロは逆に不思議そうな顔をした。
「だって俺、15歳の時に民間からの志願兵扱いで軍籍になったんだよ?だったら22歳で大尉…は妥当じゃないか?」
「そこから昇級してないという事だろう?」
ああ、それはね…とアムロは苦笑じみた表情を浮かべた。
「カラバに参加していた時は脱走兵扱いだったからね…ロンド・ベルに戻った時は、その罪を帳消しにする代わりに、昇進は無しだったんだよ…ちゃっかりしているよな、連邦軍も」
シャアの表情はやっと少しは納得した様にも思えた。
「では、ネオ・ジオン軍では少佐として迎えよう…MS隊総隊長を務める者ならば佐官が当然だろうからな」
「そういうもの…なのか?」
「そういうものだ」
まあ此処は逆らわずに全てをネオ・ジオン総帥閣下に任せるのが一番良いのだろう。
「ああそうだ、明日は此処に君の軍服を採寸するスタッフ達が来るぞ」
「軍服の…?既製のじゃないのか?」
「総帥夫人にそんなものを着せられるかね?普段の軍服と礼服…そして当然ノーマルスーツも必要だな」
嬉々とした様子のシャアに、特別扱いしなくても…と言い掛けたが、特別扱いせざるを得ない地位になる事をうっかり忘れていた……
「本来ならば君専用のデザインの物を用意しようと考えていたのだが…私と全く同じデザインにしたらどうかと言われてね…」
…ナナイさん辺りにか?…ああつまり…ペアルック…ね……
彼があまりにもそれはそれは嬉しそうに…素晴らしく笑顔で話すので…そんな恥ずかしいのヤダとはもう言えない。シャア・アズナブルもこんな顔するんだな…と今更ながら、アムロは気恥ずかしくも思う。
「…あのさ…一応聞くけど…色は同じってコトない…よな?」
「私は別に同じでも良いと思うが?」
それは思いっきり否定したいアムロである。
「ダメだろうがっっ…あの赤は貴方専用の色なんだからさっっ…だいたい俺に赤は似合わないぞっ!」
「私はそうは思わないがね…君の髪の色を考えれば充分似合うぞ」
意外そうな表情でシャアはアムロを見つめてきた。
「私専用の色であれば…尚更愛しい君に着せたくなるではないか…」
あ、やっぱりそれが一番の理由かっっ!とアムロは軽く頭痛を覚えた。いくらこの男の妻になるとはいえ…そんな堂々と誰もが想像する「専用色で染められる」のは…ただひたすら恥ずかしいだけではないかっっ
「…とにかくっっ!貴方は総帥なんだからっ…オンリーカラーの専用色でなきゃダメだよっっ」
もっともらしい理由で必死で抵抗を見せると…シャアは暫くそんなアムロをじっと見つめていたが、やがて軽く溜め息を吐く。
「…解った…軍服は譲歩しよう…だが礼服とノーマルスーツは絶対に白だ。それは譲れない」
…アムロも仕方ないとそれは諦める事にした。それまで拒んだら今度は絶対に凄く哀しい顔をするに違いないし…シャアのそんな表情は見たくないから…
これもまた惚れた弱みである。
「逆に…希望の色があるのかね?好きな色とか…」
そこまで言い掛けて、シャアは婚約者の好きな色も知らない自分は…情け無いな、とも考えたが。
アムロは顎に指を掛けて考え込むポーズを取った。
「ん…好きなのかどうか解らないけど…俺って青色の服…選ぶ事が多いんだよな」
その言葉にシャアは、そういえばニュー・マデラで再会した時も青いスーツだったな、と思い出す。
「ロンド・ベル隊のMS隊専用軍服も、青に指定したの俺だしね」
確かにアムロは他の私服も青いものが多い気がする。そして…
「…その様だな…君の下着はいつも青系の色だ」
と頷いた。その言葉にアムロの顔は、みるみる真っ赤になって
「…なんでそっちだけで思い出すわけ…?このスケベっっ!」
目の前のシャアの厚い胸板をぽかすかと叩いた。そんな妙に可愛らしい様子のアムロに笑いながら、シャアは彼の額と頬にとキスを贈る。
「いいだろう?私だけが知る特権だからな」
「……知るかっっ!…もうっっ」
「明日、君の好きな色を選ぶと良い…そう伝えておこう」
シャアは一度アムロの唇を己のそれで塞いでから、そのまま軽々とその身体を抱き上げた。幾度もキスを贈りながらベッドへと移動する。
「…ん…ね…シャ…ア…」
何事が言いたげな愛しい婚約者の表情を覗き込む。
「何かな?」
「…あっ明日っ…採寸来るって言ってたろっ?…目立つトコ…痕をつけるな…って…んんっ…」
「努力はしよう…」
「っっ…努力じゃなくてっ約束っ!…ぁあっ…やっ…」
…結局いつもの様に流されてしまうのだけれども…

 

その5日後に、アムロ専用のネオ・ジオン軍服は公邸に届けられた。礼服とノーマルスーツはもう少し時間が掛かるらしい。
オーダーメイドの軍服を箱から取り出して、シャアは初めてアムロが選んだ色を見た。落ち着いた深い青…軍服らしい色合いと言えばそうだが、もう少し明るめでも良かったのではないか?とシャアは考えた。その上にはカードが同封されていた。何気なく眺めたがそこに書かれている文章に、シャアの口元が微かに上がる。
「ほう…成る程…」
「…何を笑っているんだ?」
彼の表情に不審なモノを感じながら、アムロが身を乗り出してきた。。そのカードは素早く隠して見せない様に…そして箱から新品の軍服を取り出す。

「良い仕上がりだな…早速着てみるかい?」
「あ…そうだね」
「では私が着せてあげよう」
へ?という表情をするアムロに、シャアはにっこりと笑い掛ける。
「まあそう複雑な形ではないがな…取り敢えず慣れている者に任せたまえ」

「…で、それからココを止める」
「あ、その順番か……こんなカッチリした軍服毎日着ていて…肩凝らない?」
「見た目より軽いぞ?それに慣れ、だな」
そんな会話を続けながらアムロは着せ替え人形よろしく状態で為すがままにされている。ご丁寧にブーツまでもシャアが恭しく手に取って、である。
「……貴方に着せて貰うのって…何だかヘンな気分だな」
「いつも脱がせるばかりだからか?」
上着の最後の釦を止めながらシャアが顔を上げてニヤリと笑ったので、アムロはその頭を軽く小突いた。
全てを着せ終えて…良く見える様に、とシャアは少しアムロから身体を離した。そして、新しい軍服に包まれたその細身の全身をじいっと見つめている。
その視線があまりにも強く感じて、アムロは思わず
「…えっと…似合わない…かな?…大丈夫?」
と聞いてしまった。その問いに強く首を振るシャアである。
「いや本当に良く似合っているよ……だから感動した」
そして再び近付いて、愛しい婚約者の左手を恭しく取って、手の甲に幾度も口付けをする。アムロの全身がビクンっと震えるの感じながら…
「ネオ・ジオンの軍服を着た君を見て…改めて君が私と共にある事を実感出来た…とても幸せに感じるよ」
「シャア…」
暫く見つめ合っていた二人は、やがてアムロからシャアの胸へと身体を寄せた。
「うん…俺もこれでやっとネオ・ジオンの一員になれるって…やっと貴方の傍にずっと居られるんだって思ったよ」
「そうだなアムロ…これからもずっと一緒だ…君が朝も夜もいつでも私の傍に居てくれる…何という幸福か!」

偽りにない言葉と抱擁…
アムロは目元が熱くなってくるのを感じる。あの時…勇気を出して、たった一言の自分の本当の望みを…
貴方と一緒に居たいよ……
という言葉を…貴方に伝えられて本当に良かった…
その言葉に貴方はちゃんと応えてくれて…自分も愛していると言ってくれた
これからもずっとずっと…貴方の傍に居られる…
それがこんなにも嬉しい…こんなにもただ幸せで……
「…ありがとう…アムロ…」
自分のそんな思惟はちゃんとシャアに届いたらしい。更に強く強く抱き締められて、そのまま熱い口付けを幾度も交わした。
舌を絡ませ合いそのまま欲情を誘うキスとなる。口付けをしたままシャアの手がアムロの身体を目的を持って不埒に彷徨う。唇が離れた時に漏れる甘い吐息…それに呼応するかの様にシャアの愛撫が強くなり、軍服の詰め襟を強く剥がそうとした…その時。

いきなりアムロがシャアの身体をグイっと押し退けた。
「…シャアっ…ダメだっ!…軍服っっ…新品なんだからっちゃんと丁寧に扱ってよっっ!」
いきなり思いっきり現実的な事を言われて、ガックリときてしまったシャア総帥であるが…
「明日コレ着てMS隊の皆に挨拶するんだからさっっ」
ちゃんと別に何着か用意してあるのに、と思いながらも仰せのままに…と先程キッチリ着せた上着を、今度はゆっくりと脱がしていくシャアである。
「ああそういえば…アムロは何故この色を選んだのかな?」
唐突にシャアが聞いてきた。
「え?…ううんー…色々と見せて貰った中で一番落ち着く青に見えたから…かなあ?」
突然の質問にアムロは「それがどうかした?」と付け加えて応える。
「そうか…いや、仕立てた者がメッセージを付けてくれていてね」
シャアは優しい笑顔を浮かべた。
「この青だが…ACの古い時代はある鉱石を削って作られていた色なのだそうだよ…その鉱石は大変貴重で実に高価なモノだったらしい」
「……へえ…そうなんだ」
知らない知識であったので、アムロも素直に興味を持つ表情を見せた。
「故にこの貴重な青は顔料として、昔盛んに描かれた宗教画では、ある高貴な者の衣服を塗る時に特別に使われたそうだ…その為にある別名が付いた」
…聞いているうちに…何だか変なモヤモヤ感が沸き上がってきた…何の予感だ?とアムロは考えた。
「別名…って?」
「マドンナブルー…聖母の青、だそうだ。アムロにはとても相応しい色だろう、と彼は告げてきたよ」
「……………………は……??」
一瞬…思考停止したアムロは……
「…………な…なんだよーーーっっっ?!その名前ーーっっっっ!!…なっなんでそれでっっ男の俺に相応しいって言うかーっっっ?!」
真っ赤になって思いっきり否定する。そんな彼をシャアはますます可愛いと思いつつ、再び強く抱き締めた。その髪や頬に優しいキスを幾度も贈りながら…
「私も大変相応しいと思うぞ?何せ君は私の女神でマドンナで…それと同じ存在なのだからね…」
「そっ…そういう喩えはするなーっっ!!」
シャアは本気でそう言っている、と解るだけに思いっきり否定してはマズイのか、とか考える複雑な想いで…ただ恥ずかしくて仕方がないアムロなのである……

 

しかしながら…結局本人が知らずのうちに
総帥夫人は性別を超えた何かを感じる、とか噂されて…ネオ・ジオンの女神だとか聖母だとか…皆にそう言われて崇められて、憧れの存在になってしまうのだが…

故にアムロの着ている軍服の青が、ネオ・ジオンでは「マドンナブルー」と公式で言われる様になるのも、もちろん言うまでもない。

 

THE END☆

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裏に置くまでもない…全くエロくなくて申し訳ないですっっ…
アムロの階級については全くの想像ナリ…
(2011/1/19UP)