BLOW BY BLOW 2
即今相対して
歓を尽くさずんば
別後相思うも
復た何の益かあらん…
つい先程まで戦場となっていた、遺跡群を仰ぎ見る。しみじみと観察すれば、成る程…実に感嘆に値する遺跡ではないか…誰がいつ何の目的でこんな大層なモノを建造したのやら。別にこの手の過去の遺物に普段から興味があるわけではないのだが、今はじっくりと観察してみたい気分が湧いてきた。快勝故の余裕か?
撤退を始める盟軍に、遺跡を少し観察していくから後程合流する旨を伝えると、何故かシャアが「では私も付き合おう」と言い出した。「貴方、指揮官のクセに」と不満気に呟くアムロに「私が居ないだけで指揮系統が乱れる柔な鍛え方はしとらんよ」と一蹴する。
砂漠の中にひっそりと佇む神殿のような建造物の前で、2人はモビルスーツから降りた。
「へえ…降りて見上げるとかなり大きい建物だね」
アムロは素直に感嘆した。「確かに…」隣に立つシャアも同じ感想を持っているようだった。
神殿の中に入ろうと一歩踏み出したアムロの腕をシャアが掴む。銃に手を掛けていた。
「…大丈夫…気配は無いよ。この後現れたとしても、すぐに解るし…」
「それは頼もしい事だ」
便利屋のように扱うな、という視線でむくれたアムロの頬を「悪かった」と優しく撫でる。
石造りの建造物の中にはかなり広い空間があった。巨大な柱が高い天井まで何本も伸びており、天窓から注ぐ光がより荘厳な雰囲気を醸し出す。奥の一段高い場所には台座の様にも見えるものもある。
「…此処は…やっぱり神殿…みたいだね」
「解る…のか?」
2人の足音や会話が反響する空間のほぼ中央に立ち、アムロは顎に手を当て軽く首をかしげた。
「…うん…こう…何というか…祈りの様な意識が…漂っている様に感じるんだ…集団の…多くの人の…」
誰が何の神様を信仰していたかは解らないけれどね、と付け加える。
「成る程…例え何百、何千年経とうと、他の存在に縋るだけの身勝手な思想は澱んで残るか…」
「…また捻くれた事言う…貴方らしいけど」
アムロは軽く溜息を付いた。自分も無神論者ではあるけれど、シャアはそれに輪を掛けて宗教そのものを侮蔑している感がある。彼は他人に頼り切る人間が嫌いだ。相手が神様であっても同じ事である。「信じる者は救われる」などという言葉には虫唾が走るそうだ。誰かが何かをしてくれるまで待っている人間なぞ!…と。たとえ信仰があっても、自分で道を切り開いている人間は認知の範囲内ではあるのだろうが…。その強い嫌悪感を知ったアムロは、今まで彼が幼少の頃より見てきたモノ…感じてきたモノがどれ程に彼を頑なにさせたのだろうか…と思い胸が少しだけ痛む。
そんなアムロの思惑とは全く別の事をシャアは考えていた。
…相変わらずアムロの感覚は優れている。アムロ自身は常に自分のニュータイプ能力に懐疑的ではあるが、周囲から見れば「普通では感じない事」を「普通に感じる」事に「普通でない」と結論付けるのだ。事、戦闘に関してはその能力が更に研ぎ澄まされる。この能力が自身のMS操縦技術の成長にどこまで影響を与えてきたのか…少しは理解はしているのだろうか。元々メカに強い知識があった…という点を差し引いても、だ。例えば「普通」の人間が10年かかる所を、シャアなら3年で習得するとする。そしてアムロなら1年…で済むのだ。そう…あの1年で。
……だから君は恐ろしいのだ……そして手に入れたくなる……
アムロというパイロットが一人居ればどれ程に戦術的に楽になるのか、など既に身を持って知っている。本当の意味で彼は「一騎当千」なのだ。「完全なる最高のニュータイプパイロット」なのである。
……だがこんな事ばかりを考えていれば……
『貴方は僕のニュータイプの部分しか要らないんだ…』
昔、そう言われた事を思い出す。その時の彼の泣き顔までも…。そんなつもりは無い。そんな能力が無くとも、君自身の全てが私は欲しいのだ…と理解ってもらうまで何年かかった事だろうか。あの時は自分も青二才でアムロも未だ少年だった。だが今は大人の考えで向き合える。アムロも解ってくれている、と自分では信じている。…なのにアムロの能力を考える時に、戦略家としての思考がどうしてもその方向に首を擡げてしまうのだ。
……度し難いな…我ながら…
まだ戦場においては、純粋に求め合う事は無理なのかもしれない…。
「あ…そうだ。聞きたい事があったんだ。2人きりになった時に、と思ってて…」
アムロの言葉がシャアの不遜な思考を遮った。
「…何だ?此処で『したい』、という話なら全然OKだぞ?」
「…………本気で殺されたいよーだね………」
「いや、外で『する』のは久し振りだ、と思ってな」
アムロにマイナス273.15℃の視線で睨み付けられて、シャアは肩をすくめ戯けたポーズを見せた。…先程の嫌な考えを気付かれたくはない…
「あのさ……戦闘が始まる前に言っていた噂話の事なんだけど…」
「…『この星を統一すれば全てを可能にする力が手に入る』…というヤツか?」
「そう………それ…本当に信じてないのか?」
「そんな御伽噺を信じる気にはなれない、と言ったのは君だろう?」
「俺は信じてないよ。…だから貴方は?…と聞いている」
アムロはコツコツと足音をさせてシャアに至近距離まで近付いた。じっと蒼氷色の瞳を見つめる。
「俺達に刃向かってくる奴等の目的はきっとそれなんだろう?…交渉に応じないなら戦うしかないけれど…そうやって戦い続けて、もし…もしこの星が統一出来てしまったら…貴方はどうするつもり?」
琥珀色の真っ直ぐな瞳を見つめ返し、シャアはすっと顔を寄せアムロの唇に軽いキスをした。
「…どうするか、という所までは考えてないな。思うに、この星は『欲望の頂点』を待っている存在が…どこかに居るのだろう」
「…うん…多分…ずっと感じる…不快な波動の正体かな?」
「『全てを可能にする力』を求めて戦う者の頂点に立てば、アラジンの魔法のランプよろしく『さあ、願いを叶えようぞ』…とでも現れるのか…いずれにしても胡散臭いがな」
微笑する自分を、アムロは先程から全く同じ表情でじっと見つめている。シャアは手を伸ばし、アムロの細い腰を抱き寄せた。体が密着しても顔を上げてシャアの瞳から視線を離さないのは…絶対に嘘を付くな、というアムロの意思表示だ。シャアは吐露するように静かに言葉を漏らす。
「……何を約束すればいい?」
「この小惑星は徐々に地球に接近しているんだ。もしこの後に地球に被害が及ぶようであれば、俺は何があってもそれを止めたい。…貴方は『俺がそう思っている』事を忘れないでいて欲しい…」
両手をシャアの首に絡ませ、アムロは自ら唇を重ねた。そのまま深く口付ける。舌をそっと差し入れて来たので遠慮無く絡ませ味わった。湿った音がいつもより大きく思えるのはこの空間のせいか?積極的なアムロは大変喜ばしいが…
「…君はずるいな…」
「どうして?」
ああ…まさしく悪魔の微笑だな…と冷静に判断する。その悪魔に身も心も囚われてしまったのだから仕方がない。
「心配は要らない。私の最大の望みは此処にある」
「…此処って…?」
「私の望みは君と共に戦い共に生きる事だ。だから…」
今度はシャアの方から口付ける。先程より更に激しくアムロの口内を味わい尽くす。アムロが少し苦しそうだったが構わずに続けた。
「だから君は私を愛していてくれれば…それで良い」
アムロの瞳は余韻で潤み、はぁ…と喘ぐ濡れた唇から覗く赤い舌が何とも扇情的だ。
「…ずるい…のはどっちだよ…」
シャアに抱き付く手に力が篭もる。彼の首筋に顔を埋めてアムロは呟いた。
「……ずっと…貴方を愛し続けるに…決まっているじゃないか…」
シャアも更にアムロの細い体を引き寄せ強く抱きしめる。
「私も永遠に愛しているよ…アムロ…」
もう決して離さない…やっと巡り会えたのだ。私だけを愛し続けてくれるアムロに。一番愛し合った時代のアムロに…。私の手を取り、理解してくれる…もう…二度と相反する事は無い…。「可能にする力」などとっくに手に入れたではないか。自分が強く望んだからこそ、この存在がこの世界にやってきたのだ。そう…私は願った。「アムロ、君と共に在りたい」と。…あの光の中で私は…あの時どれ程に強く……
「…私はどんな事があっても、命をかけて君という存在を守りぬく。絶対に死なせない…」
「え?逆に俺が貴方を守る方じゃないの?」
お互いの笑顔を確認し、再び唇を重ね合う。
アムロ……私はもう決して君のこの手を離しはしない……あんな想いはもう二度と……
(2008/5/18)
←BACK