大勢の大人達が自分を見つめてくるその視線は…カミーユにはどれを取っても不快以外の何物でもなかった。
「これはこれはカミーユ様っっ!本当にご立派になられて…」
「お誕生日、誠におめでとうございます!」
「我らのネオ・ジオンの今後の安泰が……」
掛けられる言葉がどれもこれも気に障る。アムロの側からピタリと離れずにカミーユは、ネオ・ジオンの政府高官達に対してほとんど睨みつける様な態度を取っていた。
……イヤなカンジは相変わらずだ……こいつらはキライだ……
一部の高官達をカミーユは「素直」に嫌っている。
「すみません…緊張している様なので…あまり騒がないでやってください」
「優しい」微笑みと共に次々と群がってくる彼等をアムロはやんわりと牽制した。
「いやいやアムロ様、我々はただカミーユ様をお祝いしたいだけで…」
「そのお気遣いは結構」
アムロの凛とした強い声と優しさが消えた表情に、親子の周囲は瞬時に静かになる。
「カミーユをこれ以上緊張させないでと…『お願い』しているのに聞こえなかったのですか?」
アムロのその声と視線は明らかに「冷たい」色を帯びている。常に慈愛に満ちた温かさを振りまいているだけに、この様な表情を見せる時のアムロには誰にも逆らう事さえ許さない様な…静かな威圧感があった。
その「女王様」の威光にすごすごと退散する様な態度の彼等に、最後に再び「優しい」笑顔を向けて、アムロはカミーユの背に手を添えてその場を後にする。

「…母さん…凄いね」
「お父様の位を駆っているだけだよ…俺も彼等は嫌いだから」
アムロの言い方には明らかに侮蔑の感情が入ってた。
「…それでも…あの狡猾さは…ある意味政治的には必要なんだよね…」
そう言って自分にはいつもと変わらぬ優しい笑顔を見せるアムロに…その複雑な心境を感じたカミーユは少しだけ胸が痛む。

 

控えの部屋に案内され、そこでアムロと2人で時間を過ごす。
そこに居る間もカミーユの不安と怯えは消えず…ずっと母アムロにほとんど抱き付く様に寄り添っていた。ドア付近に佇みそんな親子を見守っているギュネイも、いつも以上のその甘えぶりに…彼は『仕方ないだろうな』と心の中で「王子様」に同情の様なモノを感じている。
ナナイ大尉が2人の為に温かい飲み物を持ってきてくれたが、カミーユは手を付ける気にはなれなかった。
「本日のこれからの事…ご説明いたしますか?」
ナナイの言葉にアムロが静かに首を振った。
「いいよ…俺から説明する。悪いけどナナイ大尉と…ギュネイ中尉も部屋から出てくれるかな?」
2人は素直に頷き、外へと出て行く。
扉が静かに閉められたのを確認して、アムロはソファーの上に並んで座る息子に身体を向けて、その両肩に優しく自分の両手を乗せる。
「カミーユ…今からね…此処では貴方のお祖父様の生誕七十年を記念する式典の一つが行われるんだ」
それは知っている。カミーユは当然知らない、アムロでさえ会った事は無い祖父…ジオン・ズム・ダイクンは生きていれば今年その歳になるのだ、という事はイヤになるくらい聞かされているし、「勉強」でも習った。
「今日は多くの軍関係者が集まっているのだけど…その中でお父様が演説し…そして後継者である貴方のお披露目があります…」
「…ええっっ?!」
予想もしなかった事に思わず声が上がる。ただ式典に参加すれば良いのかと思っていた…!
「大丈夫…ただ姿を見せればいいだけ……そこで貴方はシャアの…父の立つ『あの』場所を知る事になる…」
母の表情が少しずつ不安を帯びてくる。不意にアムロはカミーユを自分の胸へと抱き寄せた。
「いいかい?カミーユ……とても……辛いかもしれないけれど…全部受け止めてはダメだ。怖いモノは『流す』って…そう考えて…」
「??…良く…解らないよ…それ」
「…そうだよね……うん、大丈夫…いざという時は俺がカミーユを守るから」
ますます疑問符が浮かぶ表情の息子の額に、アムロは優しいキスを幾度か送る。
その時ノックの音がして、ナナイが静かに扉を開けた。
ザワリとする気配と共に…緋色の式典用総帥服に身を包んだ父の姿が現れる。
その漂う迫力にカミーユは思わず息を呑んだ。
……違う……「父さん」じゃない……
此処にいるのは父ではない。
「ネオ・ジオン総帥シャア・アズナブル」なのだ…と、背中がゾクリとする。
「時間だ…アムロ、カミーユ…」
その冷静な声に、カミーユは他人の様なものさえ感じて……

 

普段は軍港として使われる広いスペースに、ネオ・ジオン軍人のほとんどの者が集結していた。其処に漂う独特の異様な高揚感と熱気……それをカミーユは生まれて初めて体験する。
この様な光景は映像で何度も観たことがある。その度にも「不快」は感じていた。それを今は生で体験しているわけなのだが……
……な…に?…この…渦巻いてる……コレは……
本気で怖い、と思い、傍らに座るアムロの手をギュッと握り締めた。
……大丈夫だよ…カミーユ…
握り替えしてくれた母の手からは温かい波動を感じる…それに浸ってると落ち着くことが出来た。
式典は何事もなく進んでいき…そしてシャア総帥がついに姿を現す。
瞬間、人々の高揚感が最高点に達し、沸き上がるのはもの凄い大歓声…である。
……なっ……何だっっ?!コレっっっ!!
シャアが手を挙げると、軍港全体を揺るがす彼等の歓声…そして「ジーク・ジオン」の大合唱、とでも言うべきか?その興奮状態の人々から、シャアに向けられる凄まじい感情の嵐……カミーユは一気にそれを感じて吐き気を覚えた。ガダガタと身体が震え出す。そんな息子の様子にアムロは握る手の力を更に強めた…。
再度シャアが手を挙げると、途端にその興奮状態が波が退く様に静かになり…彼の演説が始まる。その巧みで力強く時折激しさを見せる彼の演説を皆が聞き入っている。しかしその間にもずっと父に向けられている…あの嵐の様に激しい感情の渦に……本気で「恐怖」を感じた。
やがて…彼等の敬愛する総帥閣下の演説は終わり、カミーユの名が呼ばれた。母がそっと自分を立たせてくれるが…頭の中が真っ白の状態だ。ほぼ無意識で歩いてゆき、シャアの側に立つ……その特設のスペースから下を見下ろす形となり…其処に渦巻く群衆を感覚が捉えた。
一瞬にして今度は「自分」へと向けられてくる、その激しい感情の波に身体が完全に硬直した。凄まじい興奮と歓声に様々な感情が交ざって、嵐の様にカミーユを襲ってくる。
……なっ…んだよ…コレ……イヤだ…イヤだーっっ!!来るなっっ来るなよっっ!!
呼吸する事さえ出来ない程に「何か」に全身を押さえ付けられている気がした。あまりの辛さに…本気で意識を失いかける。
…嫌だっっ……怖いっっっ!!……助けてっっ…母さんっっ……!!
もう無理だっ…と感じた瞬間、自分の腕を強く掴むアムロの気配を感じる。そこから白く温かい波動が自分を包み…「何か」が外れていく、と思った。人々の興奮と歓声がより一層高くなる。…母が現れたからなのだろうか…?大歓声の「ジーク・ジオン」もカミーユの耳には既に遠くに聞こえる気がした……

 

 

 

…公邸に戻ってからも、あの「恐怖」は消えずに…ずっと母の膝の上に頭を乗せている。自分の頭や肩を撫でてくれるその手がとても温かく気持ち良いからだ。
「…いい加減、甘え過ぎだな」
そんな様子にシャアが呆れた口調で言い放つ。
「今日は仕方ないと思ってよ…気絶しなかっただけ凄いと褒めてあげて」
「私の息子なら耐えて当然だ」
「またそんな言い方する…まあ確かに貴方に似て強い子だけど…」
アムロは膝の上のカミーユに優しい視線を送っている。
「カミーユは…貴方や俺より遥かに感応力が強いんだよ?…あんな凄まじい感情を一気に向けられて、どんな怖かった事か…せめて…もう少し自分でコントロール出来る歳になってからの方が良かったのに…」
「…だからこそ次期総帥として逃げてはいけない…カミーユにもそれは解るはずだ」
……勝手な事ばかり言うなよっっ…!!
頭の上に飛び交うそんな両親の会話を聞いていて…カミーユは父の発言に苛立ってくる。
「……解らない…よ…」
顔を母の膝に埋めたままで呟いた声に、両親はすぐに気付いた様だった。
「…カミーユ?」
心配そうな母の声を受けて、ゆっくりと顔を上げ身体を起こした。そのまま向かい側のソファーに座っているシャアを睨み付ける。
「解らないよっ…そんな事っっ!…次期総帥なんて…僕は知らないっっ!!」
「…カミーユっっ…?!」
驚きの声を上げるアムロとは全く対照的にシャアは表情を変えてはいない。
「…逃げてはいけないと…先程言ったが?」
相変わらずの父の口調に、カミーユは感情が爆発してしまう。
「もう…嫌なんだっっ!!…僕は…総帥…なんてっっ…総帥になんてならないっっ!!絶対に嫌だっっっ!!」
傍らの母からかなりの戸惑いの感情が感じられたが…父に訴える自分の感情はもう止まらなかった。
「…お前が産まれた時点で既に決まっている道だ…13にもなってそんな我が儘を言うものではない」
「…っっ?!…好きで産まれたワケじゃないっっ!!」
ズキンと心が痛んだ。
「僕はっっ好きで此処に産まれたんじゃないよっっ!!産まれたくなんかなかった…!…こんなっ…ダイクンの血なんか要らなかったっっ!!」

…絶対に言ってはいけない言葉なのだ…とは解っていたはずなのに……

胸を裂かれる様な哀しみの感情が感じ取られて、ハッとする。
思わずアムロの方に振り返ると、青ざめ全身を震わせて口を手で覆っていた。しまった!と後悔しても…もう遅過ぎる。
「……ご…ごめん……ごめんね…カミーユ…」
アムロの大きめの瞳からポロポロと涙が溢れ始めた。母が泣いている姿など初めて見たカミーユはますます動揺する。
「わ…解って…いたけど……それは…解っていたのだけど…俺はどうしても…あなたを……」
母から感じるのは激しい哀しみと後悔と…謝罪の言葉。
アムロを泣かせるつもりなどなかったのにっっ!そんなつもりはなかったのに…!!
激しく動揺するカミーユは、傍らにシャアの気配を感じた……その瞬間。

パシンッッ…!!

乾いた肌の音が響く。
…父に頬を叩かれたのは初めてである…。
「……?!…シャアっっ!!」
アムロは驚き、思わず涙が止まってしまう。呆然としているカミーユに、シャアは射貫くような視線を容赦なく向けた。
「カミーユ…お前がダイクンの血をどんなに疎んじようと…私は構わん…だが…アムロを泣かせる事は許さんぞ!」
カミーユの表情が歪み、鼻を啜り…ついに泣き出してしまう。
……ずっと心が痛かった……本当に痛かったのは……
解っている…自分の言葉が一番誰を傷付けたのかという事も…。
自分よりも、そして母よりもずっと………

声を出して泣き出したカミーユを、アムロはしっかりと胸に抱き止めた。そして傍らに佇むシャアに優しく呟く。
「…そんな顔しないで……俺はもう大丈夫だから……」
シャアは応えずに顔を背け…そのまま踵を返して家族の居間から静かに出て行った…

 

 

どのくらいアムロの胸の中で泣いていたのだろう?
ミセス・フォーンが持ってきてくれたホットミルクにも、カミーユの大好物の菓子にも全く気が付かずに…ずっと母に抱かれて泣いていた。
アムロは何も言わずに、ただ優しく自分を抱き締めて、その手で頭や身体を撫でてくれるだけだ。それでも彼から自分に流れ込んでくるような…温かく心地良い優しい波が…カミーユの身体と心にゆっくりと満ちてゆき、徐々に落ち着かせてくれる……
その気配を感じて、やっとアムロは口を開き息子に優しく声を掛けた。
「……カミーユ…もう遅いから…お風呂に入って寝ちゃおうか?」

この公邸には父母のどちらの趣味かは判らないのだが…「ニホンシキ」の広い浴室がある。広い洗い場と浴槽がある浴室は、物心ついた時から此処にあり、カミーユはこれが当たり前なのだとずっと思っていたのだが。普通の家には無いモノらしい。
「久し振りだねー…カミーユとお風呂に入るの」
「…………う…ん……」
「…ふうん…やっぱりカラテ習っているせいかな?カミーユってば年の割には結構筋肉が固いよね…びっくり」
「………そ…うかな…?」
「はい背中終わりーー、じゃあ次は前向いて」
「ええっ?!…じっっ…自分で洗うからいいよーっっ!!」
風呂に入って全裸を見ても…やはりアムロはちゃんと「男」であるが…何故かとても恥ずかしいっっ!…何でだーっっ?!とカミーユは赤くなっている。
身体の大事な部分?は死守したが…髪の毛は母が洗ってくれる事になる。
「うん…本当に久し振りだね…カミーユの髪を洗ってあげるのも…」
後ろを向いたまま、頭だけでなく心もくすぐったい気分でアムロのされるがままになっている。
「カミーユはお風呂が大好きな子だったからねー…その点は手がかからなかったし…お風呂で遊ぶのが好きだっただけ…なのかなあ?シャアと入ると湯中りするまで遊んでいたから…注意が必要だったけど」
「えっ?…そ、そう…だったっけ…?」
「あの浴槽にいっぱい色々な玩具浮かべちゃってね…ずっと遊んでいるんだから…ホントに困った父親と息子でしたけれど?」
そう言いながらも母の笑顔は、あまり困っている様に見えないな…とカミーユは横目で見つめてそう思った。
確かにうっすらと記憶が残っている。自分の我が儘だったのか…入浴時以外でもとにかく遊ぶ時は、父は時間の許す限りずっと付き合ってくれていたのだ。普段忙しい彼になかなか遊んで貰えない分…その時は全力で甘えていたんだ、と思う。
シャンプーの泡をアムロがシャワーで流してくれる時、目を閉じたカミーユの脳裏には…幼い日の記憶に残る、父親の笑顔が浮かんでいた。

アムロがタオルで濡れた髪を拭いてくれる。その後にカミーユの頭に優しくタオルを掛けると、額をコツンと己のと合わせてきた。
「…ん……もう大丈夫かな?」
「……何でいつもそんなふうに解るの?」
素直な疑問を口にするカミーユにアムロはいつもの優しい微笑みで返す。
「親子だからだよ?それが一番の原因」
額を合わせたままで少しだけ上目遣い気味に自分に視線を合わせてくる母に…思わずドキリとした。
「今のカミーユがね、俺に対して素直に何でもオープンにしてくれるからだよ…ああでも…もう少し大きくなったら…俺に隠す事をいっぱい覚えちゃうんだろうなー…そう考えると少し寂しいかな」
本当に寂しげな表情をアムロが作ったので、カミーユはついムキになってしまう。
「僕は母さんに隠し事なんてしないよっっ」
「さあ…どうかなあ?」
そんな息子の様子がとても嬉しくて、アムロはまだ自分より小さいその身体をギュッと抱き締めた。

 

自分のベッドは一人で眠るには確かに広いのだけども…
こうして母と眠るのはとても久し振りだ。初めて「独りで眠りなさい」と言われた夜…本当に哀しくて怖くて…結局泣きながら両親の寝室に戻ったあの夜の事をふと思い出した。
「…今日は疲れたよね……ゆっくりお休み」
アムロの手が自分の頭を優しくを撫でてくれる。今なら素直に言えるだろうか……
「母さん……ごめんね…僕…酷いこと言った……」
変わらぬ優しい眼差しを自分に向けてくれるアムロに…本当にすまない気持ちでいっぱいになる。
「いいんだよ…カミーユがあんな風に言いたくなるのは当然…だよね……だって…」
母の瞳が少し伏せられて…寂しげな表情となった。
「…シャアも…同じ気持ちだったはずだから…」
「??…父さんも?…なんで?」
素直な疑問を口にする息子の頬に、アムロはそっと口付けを落とした。
「いつか…あの人が自分からちゃんと話してくれるよ…カミーユが大きくなる前に…必ず」
さあおやすみ…とアムロに囁かれて、カミーユの瞼は重くなってゆく……

 

 

ふと目が覚めた。
ある気配を感じて。
驚く程はっきりと覚醒したカミーユは…傍らで静かな寝息を立てているアムロを起こさぬよう…細心の注意を払ってベッドから降りる。
自室の扉をそっと開けて廊下へと出る。昼間は太陽を演出する光が、今は柔らかな月の光を作り上げて、長い廊下のある部分に窓の影を落としていた。窓の一つのカーテンを開けて外を眺めているガウン姿の人物に、カミーユはゆっくりと近付いてゆく。
「…起こしてしまったか?」
「……うん…呼ばれた気がしたから…」
シャアはゆっくりと自分の息子の方へと向き直る。人工の月明かりが照らす父の端正な顔をカミーユは見上げていた。身体を屈めてシャアはそっとカミーユの左頬に触れる。
「すまなかったな…子供に手を上げるなど…私は父親失格だ」
その手から感じる優しさに、今なら父親の心情が良く理解出来る様な気がした。
「ううん…僕の方こそ……ごめんなさい……」
自分の前で素直な態度を取る息子は…久し振りに見るな、とシャアは眼を細めた。
「…ねえ父さん……」
「何だ?」
「…父さんも………少しは…怖かった?」
シャアはしゃがみ込んでカミーユと目線を合わせる。そして静かにカミーユの肩に手を置いた。
「アムロとお前が居なかったら…私は当に気が狂っていただろうな…」
優しく、だが偽りのない真摯な父の瞳に…カミーユは背筋が無意識に伸びてしまった。
「お前に向けられる様々な『期待』や『好奇心』や『羨望』に…今はただ恐怖を感じるだけだろう…だがそれを克服して、その感情をお前はある意味利用して上手に扱わねばならん…それがお前の使命だ」
その言葉は再びカミーユに重くのし掛かる。
「…そんなの……無理だよ……だって僕は…」
思わず父から廊下に映る影へと視線を逸らしてしまった。
「……父さんの様にはなれない…なれるわけないよっっ」
今の自分にだって父の持つカリスマ性の凄さは解る。カミーユは「シャア・アズナブルの息子」として生きる辛さを…ある意味もう肌で感じているのだ。
「私とて最初はそう思っていたさ」
意外にも微笑を浮かべて、シャアはカミーユの顔を覗き込む。
「だが…そのままで良いのか?カミーユ…もし私が居なくなった時に、誰がアムロを守るというのだ?」
その名前に反射的に父の顔を見つめる。
「母さんを守れるのは自分しか居ないのだと…自覚しろ。それなら解るか?」
「……………」
その優しい視線も自分の肩に置かれた手からも…偽りの無い強い信頼を感じた。
…父さんはちゃんと僕を…認めてくれているの?
そう意識した途端に何故かくすぐったい気分が湧いてくる。
「父さんって……何でも母さんの事が一番なんだねっっ」
照れ隠しの意味でつい嘯いてみた。
「ああ、そうだ。アムロは私の全てだからな…お前だって母さんが一番の存在なのだろう?」
「勿論だよっっ…父さんより僕の方がずっと母さんを愛しているんだからねっっ!」
シャアはその言葉に思わず声を上げて笑いだしてしまう。
「その生意気さと大胆さは誰に似たのやら…だな」
「…父さんに決まっているじゃないか…」
少しだけ顔を赤らめて口を尖らせるカミーユを…シャアは優しく抱き締めた。
「お前だけに頼む事だ……アムロを守ってくれよ…カミーユ」
「……うん……」
父に抱き締められたのは久し振りだけれども……自分はちゃんと知っている。
父さんも母さんと同じ様に…温かく優しく自分を包み込んでいてくれているという事……
本当はずっとずっと前から……ちゃんと解っていたのだから……

 

「ところでカミーユ…お前が要求したきたプレゼントだがな…」
「あ、うんっっ!!」
急に期待に満ちた表情へと切り替わる息子にシャアは厳しく釘を刺す。
「無論却下だ。専用モビルスーツなど…それこそ早過ぎる」
「ええーっっっ?!……そんなあ…」
思いっきり落胆した顔をする息子に、少し意地悪く言ってやる。
「まあ…総帥になれば、自分の思い通りに専用のMSがそれはそれは思いっきりっっ…いくらでも造れるのだがなあ」
「……父さん……それ凄く…大人気ないよっっっ!」
13歳の子供からの図星であるが、息子からの抗議はまるで気にしない様子のシャアだった。
「だから今は別の物を考えたまえ…何か他に欲しい物は無いのか?」
その言葉にカミーユは何故か少しソワソワとした様子となる。
「………ずっと前から欲しいものが…一つ有るんだけど……言ってもいい?」
「何かね?」
カミーユは遠慮がちにそっと…シャアに耳打ちをした……

 

 

「では行ってきますっっ…父さん母さんっっ!」
翌朝、学校へと向かうカミーユを両親が揃って仲良く並んで見送る。
「気をつけてねカミーユ…いってらっしゃい」
軽く手を振ってアムロはその様子を見守った。カミーユはさほど遠くない距離を歩いて通学しているが、当然影からSP達が警護をしている。
カミーユの姿が見えなくなるまで、2人は公邸の玄関ポーチに立っていた。
「貴方が遅れて出庁なんて珍しいね…」
「まあ…たまには息子を見送るもの良いだろう」
「仲直りして良かったよ…ありがとうシャア」
そっと自然にキスを幾度か交わす。2人の間に流れるものは、いつもと同じく穏やかで優しかった。
「ところでアムロ…カミーユがな」
「?カミーユが…なに?」
アムロを抱き寄せたまま、シャアはその耳元にそっと囁く。
「来年の誕生日には…弟か妹が欲しい、と言うのだが」
「……えっ……えええーっっっっ?!!」
思いっきり驚いたアムロの顔は…その後赤らんでいった。
「…だ、だって…カミーユだって…どーやって何で出来たのか……解らないのに…さ」
「そうだな…だが試してみる価値はあるぞ?」
「…どう試すんだよっっ!…もうっっ…」
そう言いながらも、シャアからのキスは拒まずにアムロも自らそれを返す。
「早速頑張ってみようか?…奥様」
朝から貴方ねっ…と呆れて小さく呟きながらも、アムロはその表情とは逆に……
もう一度、最愛の夫に優しいキスを送った。

 

 

THE END

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ああ…本当に…可哀想な(←作者が)爛れ妄想話でごめんなさいっっ…!!
こんなのでも勿論愛を込めて!…HAPPYBIRTHDAYカミーユっっなのだっ☆
(2009/11/11 UP)