※Angelic Agg Vol.2  --Sample-- 

 

シャア総帥は、本気で何かに迷っている様である。

……本当に珍しい。
執務机の上に組んだ自分の手を所在なげに見つめている彼を、しみじみと見つめてカミーユは考えた。恐らくこれも…今は家族同然の付き合いをする自分の前だからか?と少し自惚れるが。確かにシャアはプライベートな付き合いの時には、カミーユの前ではその感情を普通に素直に見せてくる。その表情や態度は、ネオ・ジオン臣民には決して見せられぬだろう…有る意味「大人気ない」とも言える。特に総帥夫人が絡むとなると尚更なのだ。
「アムロさんの身体の…いったい何が気になると言うのですか?」
取り敢えず、率直にカミーユは訊ねてみた。
うむ、と小さく頷いてシャアは組んだ手を解き、椅子に深く座り直すかの様に背を預ける仕草をする。
「何と言ったら良いのだろうか…何かの…妙な違和感を感じるのだ」
「…違和感…?」
カミーユは微かにその秀麗な眉を顰めた。
「…はっきり何処かが違う、という訳ではないが…その全てがアムロ自身である事は間違いないのだからな」
「どういう意味ですか?」
「間違いない筈なのに…昨夜も抱いている時に何かが違う様な気がした…それが『何か』が解らん」
カミーユの表情はますます不可解に…不機嫌に近い方向の表情へと変化する。
「おっしゃっている意味が全く想像つかないのですが…?とにかくアムロさんの身体が変だ、という事ですか?」
「だから変と言う訳では無い…だが何かを感じる」
…ますます解らないわいっっ、とカミーユには苛つく感情も出て来たが…とにかくシャアが「何か」を感じている事は間違いないのだろう。
何せこの男はアムロの事になると、その全能力がフル回転する様な男なのだから。
「では、アムロさんの身体を診察させていただきますよ…先ず診てみないと、何も言えませんから」
途端にシャアは明らかに不機嫌なオーラを漂わせて、目の前に佇むカミーユを見上げる。
「……仕方がない…だがアムロにはくれぐれも内密に診察、でだ」
「…本当に無理難題を押し付けますよね…」
さも面白くないという表情で互いを見つめ合う二人であった……



その夜、夕飯のご相伴に与るいつもの通りの様子で、カミーユは総帥公邸を訪れた。
「いらっしゃい、カミーユ…今日も一日ご苦労様」
アムロもいつも通りに柔らかい笑顔と共にカミーユを歓迎してくれた。
------あれ…?
ふとカミーユも「何か」を感じてしまう。
軍医務局への配属のせいでバタバタしていた為、アムロと会うのは一週間ぶりである。
------何だ?…確かに何か……
「…どうした?カミーユ」
自分を無言でしみじみと見つめてくる様子のカミーユに、アムロは自然と首を傾げてくる。
「あ…いえ、何でもるアムロさんと会うのが久し振りなので感動して…」
「何だよ、それ」
声を出して笑うアムロの変わらぬいつもの笑顔……
だけれども。
------大尉もこのモヤモヤを感じていた…のか…?
自分にもしっかり移ったな、とカミーユは心の中で軽く溜息を吐いた。

ディナータイムにはシャアも帰ってきたので、三人で久し振りの晩餐となった。
「カミーユが此処に来ると何だか皆、張り切るんだよね…特に若い女の子達が」
悪戯っぽくアムロは笑った。
「MS隊後方部の女の子達もさ…新しいハンサム軍医の君の噂をきゃあきゃあ♪…っカンジでしていたよ?」
その当事者は明らかに不機嫌な表情を作っている。
「…別に関係ないです…俺は此処でアムロさんに会えればそれだけでいいんですから」
「その夫の前で随分と大胆な発言をしてくれるものだな…カミーユ」
これもいつも通りの三人のやり取りではあった。



ディナーの後は、自然と酒の席へと移る。これも普段と同じく。
気心が知れた同士での話題が続き、酒と肴を楽しむ。
そんな楽しい雰囲気の中で、ふとアムロが無言となった。
「…大丈夫か?アムロ」
 シャアが優しく肩を抱き、自分へと引き寄せる。アムロはその仕草に大人しく身を任せていた。
「…ん……何だ…ろ?…ちょっと酔った…かな…」
「少しペースが早かったかもですね…アムロさん…無理しなくていいですよ」
「……ん……そ……だ…ね……」
程なくしてアムロはシャアの胸に頭を預けた格好のまま…寝息を立て始めた。
そんな彼の様子を二人の男がじっと見つめる。
「…効果は抜群だな」
「そりゃもう…医療用の強いのですから」
シャアは胸の中のアムロの柔らかい髪に、そっとキスを落として、ゆっくりと細心の注意を払う様に、出来るだけ優しくアムロの身体を抱き上げた。



夫婦の主寝室へと入るのは二度目か…
その能力のせいか、余計に感じてしまう…相変わらず此処の実に艶めかしい雰囲気に…流されない様にとカミーユは己の気を引き締める。
シャアはアムロを中央の大きなベッドの上に優しく横たえる。シルクの淡い光沢を放つワインレッドのシーツの上で、アムロの身体が微かに身動いだ。
「…途中で目を覚まさないのか?」
「朝まで大丈夫ですよ…明日は休暇と聞いたので、結構強いのを使用しました」
「性悪医者だな」
「誰の指示ですかっっ!全くっ」
すっかり熟睡して意識無く横たわるアムロの姿は、本当に何と艶めかしいのか…とカミーユは素直に感嘆しながら見つめている。シャアは傍らの青年のその様子に内心舌打ちしているのだが、目の前の妻の寝姿にそんな欲情は抱いても仕方がないな、とも思う。
「…で?お前の見た感じで…どうだ?」
「確かに…何か違和感の様なモノを感じますよね…大尉の言いたい事は解りました」
二人は暫く無言でその寝姿を見つめる。
「…身体を…診せて貰いたいのですが」
「……『見せる』だけだぞ」
「医者に言う言葉ですかっ…貴方の提案ですよ?」
心底仕方がない、といった様子でシャアはベッドの端に腰を下ろし、その身体へと軽く覆い被さる様にして、アムロの着ているコットンシャツへと手を伸ばした。襟元からゆっくりとその釦を外してゆく。全てを外し終えると、ほんの少しだけその前を広げた……

※※続きはAngelic Agg vol.2 本編でどうぞ※※