10月頃から2週間に一度のペースでバイオリンをもって南松本へ行っている。もちろん、売りにいっている訳ではなく練習のためである。子どものころから習い事一つしたことのない自分が、そのような暇人的暴挙に至るまでの経緯について書いてみる。
学生の時にはギターを真剣に練習し、60年代のフォークソング、ベンチャーズなどから90年代始めごろのロックなどまで広く(浅く)聞いていた。また、友達と楽器を持ち寄ってスタジオで一晩中練習(暇つぶしと同義)をしてみたり、とりあえず音楽については人並みくらいには好きだったと思う。しかし、ぼくの中のバイオリンのイメージはというと、『甲高く、うるさく』、けっしてよいものとはいえなかった。もちろん、これまでバイオリンという楽器に憬れたことも多分なかったように思う。ただ一つ、子どものころの体験として印象に残っていることがある。
前後の状況ははっきり思い出せないが、その時はたまたま一人で校内の音楽室にいた。今の数十倍好奇心旺盛だった子社納は、あたりのものをごちゃごちゃと触っていて、変わった形の楽器を見つけた。「なんだなんだ、これはなんだ」しばらく観察してみて弦をはじいて音を出すものに違いないという結論にたっした。しかし、何度試してみてもとても小さくなさけない音しか出ない。さらにいろいろ観察して、同じケースに弓(当時は何かわからなかったが)が入っているのを見つけた。たぶん音を出すためにこれを使うんじゃないかなと、すごくさえていた子社納は思い、何気なく毛で弦を擦ってみたところ、突然のいきなり、びっくりするような大きな音が出た。その時どれくらいびっくりしたかはあまり覚えていないが、後でこの楽器がバイオリンであるということを知った。これがバイオリンを初めて見た(意識した)体験であり、このようなことをなぜかしっかり記憶していることを思うと、その後も何となく気にかけていたのかもしれない。
そして最近、たまたまラジオで視覚障害のバイオリニストが演奏をしている様子が放送された。バイオリンをウッドベースにあわせて演奏していて、ジャンルはブルースのようなものだったと思う。そしてなぜかこの演奏がとても気に入ったぼくは、あろう事かこれなら自分にもできるんじゃないかなと、いつもながら何の根拠にも裏打ちされない自信のようなものを感じた。もちろん自信だけで練習を始めてみようということにはならない。なぜならバイオリンは気まぐれで始めるにしては高い楽器なのである。
ここに偶然が重なる訳で、時期を同じくして東京に研修に行った際、たまたまとある楽器店に行った。目的は別にあったのだが、そこでたまたま、練習用バイオリンセット \9800(特売) というものを見つけてしまった。ちなみにこの \9800 のセットは、バイオリン本体、弓、松脂、肩当、顎当、徴士笛、教則ビデオ、そしてハードケースまで付いている、大変怪しげかつ魅力的なセットである。(今でもしっかり音がでていることから、けっして欠陥品ではなかったと思う)。これなら仮に気が変わってもあまり後悔することもないなーとかなりいい加減なことを考えつつ、日本中のどこにでも転がっているような衝動買いをしてしまった。さっそく家に帰って、さてちゃんと音がでるのかなということで、弓で弦を擦ってみた。しかし、押せども引けどもスースー、シューシュー、まったくバイオリンの音が出ないのである。弓の毛に松脂を付けなければ音が出ないということすら知らなかったぼくは、やっぱり\9800のセットってのがそもそも怪しかったなーと完全に楽器のせいにして、ケースに封じ手しまった。その後2ヶ月この状態が続き、まったく省みられることなく部屋に放置されていたかわいそうなバイオリンであったが、松脂を付けなければ音が出ないことを知った持ち主によって2ヶ月ぶりにケースから出され、ようやく音を出してもらうことができた。
そんな訳で何とか楽器の音が出るまでにこぎ着けたが、それ以上のことは何もわからない状態である。ここでようやく、ちゃんとバイオリンの先生に教えてもらうのがいいだろうと考え、タウンページを使って今のバイオリン教室を探したのである。一応ブルースを弾けるようになるのが目的なのであるが、現在の所最初の難関であるきらきら星、蝶々などの童謡シリーズを練習している。
このような文章からとても一生懸命練習している姿が想像されるかもしれないが、実は2週間に1度の練習以外にはほとんど触りもしないかなりの体たらくであって、もちろん今なお『ぎざぎざぼじ』である。