TITLE:「フランス軍中尉の女」のトリック 


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お名前: Nigel   
中国杭州周辺と上海を巡って5日間とっても
お得な値段でした。漢文や歴史好きな人にとっては
魅力的な旅行です。中国好きです。けれどもいろいろな
事件がありイメージが悪くなるのは残念です。
ぱとさん、「フランス軍中尉の女」を読むとフアウルズの語りを
参考にしてしまうのですが、それが要注意です。実際にあった史実を
自分が創作した、とあらゆる手練手管を使って主張する魔術師ですから。
Sarahが女性なのでエリザベス・シダルを連想しやすいですが、彼女は
Sarahのように独立旺盛でも複雑でも謎めいてもいませんでした。ラファエル
前派を巡る女性達に独立心旺盛な人はいませんでした。Sarahは一人ではなく
ラファエル前派の画家たち全体です。だから複雑で神秘的で謎めいた独特なヒロイン
になりました。当時の形式主義の美術界のモラルに反して
スキャンダラスと言われRuskinに助けてもらい、援助を受け、利用し、奥さんは
取ってしまうし、恩に報いずRuskinの美術的指示に従わない結構「悪女」でした。
Ruskinも本物の女性は愛せないという変な人格でしたし。事実は小説より奇なり。
ファウルズの華麗な魔術ショーを楽しみたい方は彼の語りを信じて下さい。
真実を知りたい方は、彼の魔術師の騙しの語りは一切排除して自分の目だけで
読んで下さい。何か証拠あるかって?はい、SarahとCharlesの話は、ラファエル前派と
Ruskinの間に起こった話に最初から終わりまでまったく同じであります。
[2008/04/06 10:50:34]

お名前: ぱと   
あらっ、書いている間にNigelさんの投稿が増えていたんですね!
びっくり。
[2008/04/05 22:41:08]

お名前: ぱと   
Nigelさん、こんばんは。
穏やかな旅程でしたか?大陸でのお花見も羨ましいかぎりです。
よい季節になりましたね。

ファウルズが作中演じていたのは読者との架け橋であるように感じました。
映画「アルフィー」でマイケル・ケイン演じるアルフィーが、スクリーンから
観客に向って語りかける(時には本心を耳打ちするように)ような……。
ロセッティの妻となったエリザベス・シダル、また彼女をモデルに「オフィーリア」を描いたミレーのような
ラファエル前派の芸術家たちとセアラに重なる部分はとても大きいと思います。
ジョン・ラスキンについてはまだよく知らずチャールズと重なるかどうかまでは考えが及びませんが、
私がこの小説でずっとひっかかってきたのは「アウトカースト」というセアラの言葉で、
他の世界を知るすべがないため当時の規範にあてはまらない自分自身をもてあまし、怒り、
まるで賤民のように称していますが、彼女こそがあの時代に現れた突然変異、
さらに進化した猿、もとい新しい種だったのではないかという気がするんですよね。

というわけで、きのうから同じファウルズのずばり「魔術師」を読み始めているんですよ。
もともと、訳者の小笠原豊樹さんの文体がとても好きなのでこれまた楽しいです。
[2008/04/05 22:15:51]

お名前: Nigel   
Sarahが求めている「自由」ですが、
Sarahはビクトリア時代に実在していた
若い画家達なので、その時代の社会と
同じく形式主義で、保守的な美術界で表現の
自由を求めて苦労していたのでした。複数の
若い画家達を一人の女性に変えた、というところが
最大のトリックなので、ちょっと風変わりな作品に
出来上がっているんですね。男女の恋愛ではなく
画家たち(Sarah)とそのパトロンの評論家(Charles)の愛憎
で、またこの評論家が本物の女性を愛することの出来かった
人物。謎めいた問答はつまり芸術問答なんです。作家の語り
はさも自分が創作した話みたいに装うのに始終し、自分の分身まで
登場させ読者を騙しています。作者の語りと分身の異常な干渉と
活躍の必要性がこれな訳です。
[2008/04/05 22:12:02]

お名前: Nigel   
ぱとさん、お疲れ様です。私は先週ずっと春の中国杭州周辺を
旅してました。魯迅の生家のある紹興、西湖、太湖等美しく
お花見もしました。ところで語り手のファウルズはもっともらしく
自分が話も登場人物も創造し、自由に出来るんだみたいに
言ってますが、全部嘘、魔術師の口上で読者を誤魔化すのに
始終してます。その証拠に一度だって人物の人生を変えて
ません、振りだけ。実際あったお話なので変えられません。
[2008/04/05 18:45:44]

お名前: ぱと   
ふ〜っ、ようやく読み終えました!
難しいところはよくわかりませんが、
ファウルズがチェスの駒(セアラ)をひょいとつまみあげヴィクトリア朝へ置いてしまう。
セアラは「ここは自分のいるべき場所じゃない」ことだけはわかっているけど
さてどこへ帰属するのかわからない。
彼女が海で見ている、見ようとしている、見つけようとしているのは、
どこかにあるはずなのにどこにも見当たらない「自由」なのでは?
なーんて感想を持ったりしたんでした。
[2008/04/04 20:23:32]

お名前: Nigel   
このサイトに書かせて頂いて気持ちが固まって英文にし、投稿
する決心が出来ました。何の得になるというのではありません。
正しく理解したもらいたい、それだけですね。英米人よりも
英語を母国語としない日本人が英文学をより解釈する?案外
灯台もと暗しなのかもですね。
[2008/03/19 09:56:28]

お名前: Nigel   
ぱとさん
御報告です。Fowlesのファンは英国より米国に多く、マニアの専門
サイトがあります。で投稿してみました。一応審査が
あるんですよ。でも直ぐ掲載OKになって下記のところに掲載
されています。御覧下さい。一応loginしなくてなりませんが
簡単です。
http://www.fowlesbooks.com/forum/index.php
作家の語り手は、魔術ショーの魔術師だから誤魔化しの口上
ですから嘘を楽しんでも信じる観客はいません。Fowlesは実際ビクトリア
時代にあった若い画家たちとラスキンのお話をさも自分が創作したように
語っているだけですから。ぱとさんの今お読みになっているところは第一次
ラファエル前派が解散した(Sarahが突然消えた)ところでしょうか?
「ラファエル前派」という本、そうそうネットでも調べられます。何かの記事で東京都の石原知事がFowlesのファンだったらしく、「フランス軍中尉の女」のことを
変な小説だけど一応一貫性はあるね」と言っていました。もじり(パロディ)ですから。
[2008/03/19 09:48:40]

お名前: ぱと   
Nigelさん、こんにちは。
15章まで読んだところです。
チャールズとセアラは書き手である「私」の手を離れ、自由に振舞い始めましたよ。
[2008/03/19 08:21:12]

お名前: Nigel   
私たちが手品や魔術ショーを観劇する時、手品師や魔術師が
「タネも仕掛けもないですよ〜」と言っても「絶対あるよね」
と決して信じないのに、魔術ショーが物語、文章で行われると
信じられないくらい素直に、盲目的に読者も批評家も信じるのですね。
ここではラファエル前派とJohn Ruskinを知らないとトリックを
解けませんが、この作品が読んだ通りの男女の恋愛話なら、作者の分身
の魔術師はまったく不要ではありませんか。何で魔術師がはしゃいで
大活躍するのかを考えなくてはでしょう。Fowlesがここで描きたかった
のは偉大なビクトリア人のRuskinの人間としての側面だと推測しています。
Fowles没後まだ2年、この作品の魔術師を解明することはFowles研究に
重要な一石を投じるものだと期待しています。作品と映画化は別物と
割り切ってらっしゃったみたいですが、劇中劇は不要だったと思います。
[2008/03/12 01:29:28]

お名前: Nigel   
ぱとさん、改行して頂けたんですね、有難うございます。書き込みが下手で
すみません。
>ひとつの作品にこれほど深く関われて、本当に幸せな読書体験ですね。
卒論でしたから。楽しく書けたし、お手紙までもらえて幸運でした。
でもいつまで気が付かないの!ちょっと腹が立っていて、英語で米国
のFowlesマニアのサイトにちょっと投稿したりしてます。証拠は
たくさんあります。日本にも結構Fowles研究者方いらっしゃるのですね。
このサイトにぜひ来て頂きたいです。ぱとさん、その2段の上、つまり
筋に関係ない資料は無視ですよ。作者の解説も絶対信じちゃ駄目ですよ。
ひたすらSarahとCharlesの展開とラファエル前とRuskinの軌跡を比較する。
Ruskinという人は今で言うロリコンで当時2度大きなスキャンダルを
起こしています。何故この作品が凄く凝っているかと言うと、登場人物
と筋はもうあるので考える労力は不要だから魔術ショーなので誤魔化す
必要もあったけど、余裕もあったんでしょうね。
[2008/03/11 18:50:20]

お名前: ぱと   
とりあえず、通勤用バッグを大きめのものに替えて
「フランス軍中尉の女」を今日から読み始めることにしました。
おお、活字が小さいうえに二段組ですよ……
[2008/03/11 17:44:28]

お名前: ぱと   
『フランス軍中尉の女』は映画化されているので、そちらから先に鑑賞しようかと
思っていたのですが、少しお預けにしておいてやはり小説から読むほうがよさそうですね
(映画には映画のよさがあると思いますけれども)
ひとつの作品にこれほど深く関われて、本当に幸せな読書体験ですね。
積読ばかりのわが身がお恥ずかしいかぎりです。
実際に読み始めてみないとついてゆけない部分も多いのですが、Nigelさんの気のむいた時に
どうぞ遠慮なく書き込んで下さいね。
[2008/03/10 23:54:19]

お名前: Nigel   
 ここで、幾ら美術史に造詣が深いFowlesでも、Pre-Raphaelite Brotherhoodの若き画家たちを
「Sarahという女性」にして小説を書いたのかな?と考えてみると、John Ruskinという人物がまた興味深いんです。
お坊ちゃまで潔癖で大人の女性は愛せない、、。
「運命の女」Femme fataleという言葉がありますが、これは何も
女性だけではなく、人生を狂わせさせられる何か、、人によっては。
それにラファエル前派の絵は、謎めいた美人画が多い(私はバーン・ジョーンズが好きです、特に天使シリーズ)
英国のあちこちの美術館、米国の美術館でも目にします。
ラファエル前派の美人画と女性を愛せないRuskin、こんなところからアイデアを
Fowlesは得たのかな?それにしても「事実は小説より奇なり」、残念というか創作では
こんな複雑で奇妙なストリーの展開は思いつかないかも。
ぱとさん、長年どうして皆気がつかないの?と溜まった不満を書かせて頂いて
有難う。
[2008/03/10 23:53:13]

お名前: Nigel   
>『フランス軍中尉の女』は積読のままなんですよ。
ですから、ラファエル前派の画家たちとSarah、そのあたりを含みながら読み解くのを
楽しみにしておきますね。

 トリック解明を中心にお読みになるなら、先ず各章のエピグラフ
(ダーウイン等の論文からの引用とかの資料)は無視して下さい。
魔術ショーの照明、音楽、煙幕の類です。
次に作者の語りと文中にはしゃいで登場してくる作者の分身の魔術師の言うことは絶対信じないで疑って下さい。
Fowlesは魔術師で、魔法使いではありません。
ですから必ず「タネと仕掛け」があります。登場人物は私の想像の中にだけ存在する、
小説家は神のように、自分の創作した人物の運命を好きなように出来る、、これらは
魔術師が「皆様、どうぞ見て下さい、タネも仕掛けもないでしょう?」と実は仕掛け
のある空っぽの箱を見せていることと同じです。ただSarahとCharlesの出会い、展開
とラファエル前派とRuskinの軌跡を追って比較して下さい。Ruskinは妻をその画家の
一人に取られちゃうし、ラファエル前派も一回解散する(これぞ第一回の結末)し、
助けてあげたRuskinが押し付けがましいこと、思想の違いから画家たちとRuskinは次第に疎遠になって行くのです。
で、ぼやけた終わり方となります。まったくの創作より
事実をもじった方が複雑で謎めいた魅力的な作品になるかもね、というのが私の感想です。
この作品、英語の論文見ても気が付いてないようなんですよね。ちょっとボタンを
掛け違えるとこういうことになるのでしょうか。
[2008/03/10 09:17:46]

お名前: Nigel   
<ご本人宛にお手紙も書かれたんですか?

はい。住所が分からなかったので、Mr. John Fowles,
 Lyme Regis Englandと書いて出しましたら、
直ぐお返事を頂きました。最初は絵葉書、2通目は封書で、
Oxfordにある有名文房具店(著名人が自分の名前入りの便箋を
作るので有名)製の便箋で、だったと思います。もちろん大切に
保管してあります。大学院留学の際、私はOxfordに六週間ほど滞在し
モリスの家やラファエル前派(RPB)の壁画等を訪れたり、見たことも
あります。何故投稿したかというと、いつまで経ってもFLWの本来の姿
に多くの人が気が付いてくれないからです。私は文学者ではないので発表の機会も
ありませんし、これからも機会があれば投稿したいと思います。RPBもRuskinも
魅力的な人物ですよ。それにFowlesは美術史、評論に造詣が深いと知られています
から。
[2008/03/09 23:45:33]

お名前: ぱと   
Nigelさん、改行後再投稿いただきましてお手数をおかけしました。
ジョン・ファウルズのファンでいらっしゃるんですね。
ご本人宛にお手紙も書かれたんですか?
私はまだまともに読んだのが『コレクター(上下)』だけで、『フランス軍中尉の女』は積読のままなんですよ。
ですから、ラファエル前派の画家たちとSarah、そのあたりを含みながら読み解くのを
楽しみにしておきますね。
[2008/03/09 23:17:36]

お名前: Nigel   
先日久し振りに本棚を整理していたら、バインダーが半分壊れた、
16年前の我が大学時代の卒業論文が出て来ました。
テーマはその時お気に入りだった『フランス軍中尉の女The French Lieutenant's Woman』(指導教官にも大変誉められました)。
久し振りに目を通して見るとやはりかなり面白い!
さて卒論として研究を始めた頃、ちょうどビクトリア時代に
起きた若き画家たちPre-Raphaelite Brotherhoodの当時の
保守的な美術界(Royal Academy)への反抗的な運動、
そしてそれを助けた美術批評家のJohn Ruskinについて
学ぶ機会がありました。Pre-Raphaelite Brotherhoodの
魅力的な絵画集、そしてそのモデルたちとのエピソード、興味はつきませんでした。
それにこのThe French Lieutenant's Woman(以下FLW)のヒロインSarahは
最後Pre-Raphaelite Brotherhoodの中心人物Dante Gabriel Rossettiのところに
突然現れるのです。ここに私は?????でした。自立、自由志向のSarahが
何故突然Pre-Raphaelite Brotherhoodのところに?実のところ、ラファエル前派の
女性たち;エリザベス・シダル等はその時代に逆行するほど自立、自由志向でもなかったのに。
何故SarahはPre-Raphaelite Brotherhoodに帰結するのか?
それはSarah自身がPre-Raphaelite Brotherhoodの画家たちだからです。
パロディ(もじり)は必ず矛盾が生じるそうです。
そしてこの結末こそがその「パロディの矛盾」なのです。
若き画家たちは絵画の自由を求めました。
ですから彼らをSarahという女性に変えると皮肉なことに、
画家たちを巡るモデルや愛人の女性たちとは正反対の女性になったのです。
ここで全てが見えたような気がして私はSarahとCharlesの物語とPre-Raphaelite BrotherhoodとJohn Ruskinの軌跡を丁寧に比べてみました。
すると見事に一致!誰もが魅了される冒頭シーン、Lyme Regisの荒々し海に
突き出した防波堤に佇むフランス軍中尉の女と蔑まれるスキャンダラスな女Sarahは、
保守的なRoyal Academyで反抗的な絵画を描き、スキャンダラスと蔑まれ苦境に立ち、
そして荒々しい時代の変革の海に突き出た先端で、フランスの美術運動とも一時繋がりを持ったPre-Raphaelite Brotherhoodの若き画家たちなのです。
その若き画家たちを助けて世の中に出したのはRuskinで、大人の女性を愛せなかった
彼の人生にとって、この若き画家たちはまるで「運命の女」のように絡んで行きました。(そんなこと信じられない、荒唐無稽だと思われる方は、
どうぞPre-Raphaelite Brotherhood とJohn Ruskinについてお調べ頂き、
前者を一人の女性に変えてみて下さい。)ここまでトリックが分かると、
もう論文を仕上げることが楽しくてなりませんでした。なるほど各章の冒頭を
飾る膨大な資料のエピグラフは魔術の照明や音楽や煙幕のような小道具であり、
魔術の興行師としてしゃしゃり出てはしゃぎ回る作者の分身も魔術のテクニック。Fowlesは、「小説は、作者と読者のhide and see(かくれんぼ)」と言っています。
登場人物は私の想像の中にだけ存在する、「神の隣の小説家」論を振り回し、
登場人物の運命なんて私の自由自在さ、コイン投げで決めよっかな、
あっCharlesに見られたからやめたとか。Charlesの運命を操る振りだけをしています。でもこの作品はnon-fictionなので作者は運命を自由自在には一切出来ませんし、
してません。以上ですが、あれから16年、私は文学とは関係ない大学院に進み、
関係ない仕事をしています。今でもFLWを、映画の影響からか、20世紀の男性作家が
ビクトリア小説をまねた書いた作品!、化石収集の女性がモデル!?という固定観念が強く根付いてしまい、本来のこの作品の意味と魔術師Fowlesが理解されていません。
トリック自体はそんなに難解ではなく、CharlesはRuskin ほぼそのままですし、
ただPre-Raphaelite Brotherhoodの若き画家複数を一人の女性にもじったので、
複雑で謎めいた魅力的なヒロインとなったからでしょうか。最後に作者と読者のかくれんぼ、Fowlesさん、見つけましたよ!
無論あなたは16年前に遠い日本からの一人の学生の手紙でそのことは御存知でしたよね!
[2008/03/09 21:18:54]

このメッセージに返事をかく(適当に改行してね)
おなまえ
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