〜推理小説の部屋〜

今まで読んだ作品の簡単な紹介や感想を書いてあります(ネタバレなし)。


我孫子武丸
8の殺人 0の殺人
綾辻行人
十角館の殺人 迷路館の殺人 時計館の殺人
有栖川有栖
月光ゲーム
西澤保彦
人格転移の殺人 死者は黄泉が得る 麦酒の家の冒険 完全無欠の名探偵  NEW! 瞬間移動死体
法月綸太郎
一の悲劇
東野圭吾
名探偵の掟
倉知淳
星降り山荘の殺人
小栗虫太郎
黒死館殺人事件



8の殺人


 我孫子武丸先生のデビュー作ですね。とにかく読みやすい。全編通じて肩に力を入れずに楽しめる文体で、活字の山は苦手という人でもすんなり入り込めると思います。なんせ、犯人指摘の瞬間すら笑いが入ってますから(こういう所がいいんです)。
 僕自身の話をすれば、メイントリックは分かったものの、もう一つの方は分かりませんでした。まあ、一つだけでも分かっただけよかったですけど。どちらも非常に大胆で面白いトリックだったと思います。
 繰り返すようですが、この作品、もしくはこの著者の良いところはとっつきやすい軽いタッチの書き方であるように思います。さらにその上に安定した実力が備わっているとくれば、言うことなしでしょう。「我孫子武丸」を知ったきっかけとしてとても(「かまいたち」は別として)印象深い作品です。

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0の殺人


 我孫子武丸さんの作品の中ではこれが一番好きです。とにかくやり方が大胆。最後には妙に納得させられてしまいます。
 まだミステリというものを読み慣れてない時期に読んだもので、「おいおい、そんなんありかよ?」と思ったんですが、“あること”に気付いて「あっ、そうかそうかそういうことか!」ととても感心したことを覚えています。何が言いたいかよく分かんないですか? しかしこればっかりは実際に読んでいただかないことには説明のしようがありません。気になった方はぜひ本屋に走って下さい。
 果たしてあなたは「百人に一人」になれる(なれた)でしょうか? ちなみに僕はなれませんでした……。

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十角館の殺人


 新本格の旗手と呼ばれる綾辻さんのデビュー作です。A・クリスティの「そして誰もいなくなった」を意識して書かれています。しかし……多分、こっち(十角)の方が面白いです。僕は「そして〜」の方を後に読んだからなおさら感じるのかもしれませんが、こっちの方がより純粋に『ミステリ』してる作品といえるでしょう。
 この作品の最大の見所は、終盤でのある人物の「たった一言」のインパクトの強烈さに尽きるでしょう。そこまで普通に読み進んでいたら、そりゃあもうびっくりすると思います。僕なんぞの場合は、あまりにも意外だったんでその強烈さがはっきり掴めなかったほどです。まあ、僕が鈍いだけだったという気もしますけど……。とにかく、びっくりしたい人にはお薦めですね。

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迷路館の殺人


 僕が綾辻さんの作品の中で一番好きなのがこれです(ちなみに一番「凄い」と思うのは時計館)。
 この本、非常に凝ったつくりになっていまして、何と本の中に本があるのです(「作中作」とかいうらしい)。その上、目次からあとがきから奥付までついているという念の入れ様です。まあ、見てもらうのが最もわかりやすいでしょうから、本屋に行ったら探して目を通してみて下さい。
 僕の場合、まず「え! そうなの!?」と頭を抱え、そのあと「ウソーーッ! そんな、ホントに!?」と度肝を抜かれ、最後に「えぇ! そんなあ!」と驚き、読み終えるまでに三回もビックリさせられてしまいました。……え? わけが分かんない? ふふ、そう思ってもらえれば、もう僕の思うツボです(笑)。さあ、あなたもぜひ実際に読んでみて下さい。
 とにかく、やられた! と強烈に感じ、それでいて後味はいいという、僕にとって素晴らしい作品でした。もう手放しでおすすめです。

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時計館の殺人


 「迷路館」の冒頭でも書きましたが、綾辻作品の中で僕が一番「凄い」と思うのがこの時計館なのです。
 どのあたりにそれを感じるかというと、もうとにかく『謎』が多いのです。読み進むうちに次から次へと新しい謎が提示され、「おいおい、こんなにたくさんの謎が残り少ないページ数で解決できるわけないだろ」と、読んでいた時は思ったものです。
 しかし! 解決の部分を読んだら、それはもう見事としか言いようのない鮮やかさであれだけたくさんあった謎が一つ残らず解決してしまったのです。素直に「凄い!」と感じられるものでした。いい意味でとても「ミステリらしい」作品だと思います。
 ページ数は多いですが、読み始めたら全く気になりませんでしたし、それだけ読んだかいがあったと思えた一冊です。いいですよ!

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月光ゲーム


 ミステリというと、どうしても一人くらいは「変な人物」が出ているものです。その変人の存在を中心に話が進んでいくというのがよくあるパターンのように思います。
 しかし、この作品にはそういう変人がいません。みなさんとても自然で、どこにでもいそうな雰囲気です。では存在感がないかというとまったくそんなことはなく、どの人物も生き生きと描かれています。推理小説には珍しいくらい(失礼)、人物描写がしっかりしているという印象があります。
 副題“Yの悲劇'88”からも分かるようにエラリー・クイーンのスタイルを意識されているようで、終盤に「読者への挑戦状」が挿入されています。謎解きの形式が好きな方にはよりお薦めです(ちなみに僕は半分くらいは解けました)。

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人格転移の殺人


 「人格転移装置」なるものが存在します。そこに入った人間たちの間で、他者の肉体への人格の入れ替わりが一定の規則に従って起こります。そんな状況下で連続殺人が発生します。さあ、犯人は誰(の人格)なのでしょう……というのがこの作品の大まかな筋です。
 はっきりいって、相当にブッ飛んだ設定です。少なくとも現代の科学ではこんな状況有り得ないですし。しかし、そういう設定だからこその面白さがそこにはあります。
 殺意を抱くのは「人格」、しかしそれを実行に移すのはあくまでその人格の宿る「肉体」……なんとも不可思議なシチュエーションではありますが、その中にあっても犯人捜し自体はあくまで論理的に行われます。SF的素材とミステリ的論理が上手く融合した一作です。ノーマルなものに飽きている方にもお薦めかと。

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死者は黄泉が得る


 死体を生ける屍に変える機械があり、それによって造られた屍人が仲間を増やしながら住む屋敷。そしてその隣町で起こる連続殺人。この2つの話が交互に進んでいきます。ぱっと見何の関係もないようで、それでいて微かな接点を見せながら進行する2つのエピソード……果たしてその間にはどんな因果関係があるのか。そして殺人犯とはいったい誰なのか……。
 ブッ飛んだ設定という意味では、上で紹介した「人格転移の殺人」同様です。死者が蘇ってしまうのですから。でもだからといって話の筋に変な矛盾が生じたりはしません。あくまでもフェアに話は展開していきますのでご安心を。
 漫然と読んでいると、ラストの一行で目を剥くことになります。くれぐれも最後まで油断なきよう。

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麦酒の家の冒険


 「麦酒」。もちろんビールのことです。ある日突然、ビールが大量にあるだけで他には何一つない家に迷い込んでしまったら、あなたはどうしますか?
 四人の大学生がそんな「麦酒の家」に迷い込み、ビールを飲み、酔い、そして推理する。この家はいったい何のためにあるのか。その裏に隠された事情・思惑とは何なのか。様々な仮説が飛び交い、消えていく。そして最後に辿り着く結論とは……。
 不可解な状況に納得のいく説明をつけるために、あれこれと推論が展開される。完璧に辻褄が合う結論でなければ――それが真実なのかどうかはともかくとして――納得して議論を終われない。実にミステリ的な葛藤に満ちた一作です。
 ビール好きの方はひとつ傍らにヱビ○ビールを置いて楽しんでみてはいかがでしょうか。

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完全無欠の名探偵


 その男と言葉を交わすだけで、心の奥底に眠っていた記憶が引き出される。そしてそれらの一見何気ない記憶の断片から、思いもよらなかった過去の真実が見えてくる……。
 そんな能力を持つ山吹みはるという男ですが、彼自身にはその能力に対する自覚も推理する意志もまったくありません。あくまでその相手自身が気付くよう導くだけ、という変わった探偵役なのです。そんな彼がある富豪の孫娘の真意を探るため高知へと派遣されます。そこで様々な者たちが彼の力によって過去と向き合い、ときには良いことを、ときには悪いことを知っていく。そしてそれらの事実はいつしかあるひとつの事件に繋がっていくのです。
 短編が集まってひとつの物語になっているので、読みやすい一冊だと思います。事件の真実とは、そして孫娘の真意とはいったい何なのでしょうか……?

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NEW!
瞬間移動死体


 人気作家である妻のヒモ同然の男。ある理由で妻に殺意を抱いた男は自らの「特殊能力」による妻の殺害を企てる。しかしことは思うように運ばず、更には謎の死体まで現れる。その人物はなぜ殺されたのか、そして犯人は誰なのか?
 この物語の主人公は確かに超常的能力を持ってはいますし、それをうまく使えば絶対に確実なアリバイを確保することが可能です。が、この能力にはかなり制約が多く扱いが難しいのが実情。それに加えて想定外の事態がいくつも重なってしまい、あげく身に覚えのない死体まで出てきて妻の殺害どころではなくなってしまいます。やがてその殺人事件を自力で解決すべく行動を始めるのですが、前述の制約により今度は自身が窮地に陥ってしまうことに。凄い力の持ち主のはずなのに、なんとも頼りない男のあがきを見ることになります。
 はたしてこの苦境をどう乗り切るのか? 殺意と特殊能力に踊らされた男の運命やいかに……。

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一の悲劇


 探偵・法月綸太郎シリーズの中の一作です。
 自分の息子と間違えて同級生の子供が誘拐され、死体となって発見される。しかもその子供の本当の父親は自分であった……。誘拐犯は誰なのか? そしてこの事件の本当の姿とは?
 法月綸太郎お得意の、非常にドロドロした人間関係が描かれています。過去のひとつの過ちが、後々になって何倍にも膨れ上がって自分や周囲の人間に返ってくるさまは、まさに夢も希望もないと言うに相応しい救いのなさです。まあ、非常に法月綸太郎らしいといえばその通りなんですが。しかしその一方で事件の謎解きの部分も確実に進んでゆきますので、暗い気分ばかりになってしまうことはありませんからご安心を。
 果たして全ての謎が解けた時、そこに残るものは絶望でしょうか、それとも光明でしょうか……?

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名探偵の掟


 名探偵天下一大五郎と大河原番三警部による本格推理短編集……なのです、が。
 とんでもないです。とんでもないです、この本。「どうして吹雪の山荘で殺さなくちゃいけないのか」「なぜ死体をバラバラにしなければいけないのか」「なぜ多大なリスクを背負ってまで見立て殺人は行われるのか」等のいわゆるミステリにおける『お約束』について掘り下げるという、ある種タブーと言ってもいいようなスタンスで書かれているのです。使われているトリックの種類やその必然性などについて、探偵と警部が唐突に作中の役を離れて楽屋話ふうに論議を始めてしまうのですから凄いです(こういうのをメタ・ミステリとでもいうのでしょうか?)。
 探偵が全く別人(しかも女)になって出てきたり嫌々謎解きをしたり、その他にもかなり際どいことをやっています。ミステリ好きな方ほど面白く読める一品だと思います。

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星降り山荘の殺人


 社内の芸能部門に左遷された主人公が、やけに洞察力の優れたタレント先生の付き人として共に山中のキャンプ場へ向かう。そこに集まった様々な人々と共に一夜を過ごすが、朝になると一人が死体となって発見される。さらに下山のための道が閉ざされてしまい、一同は正体の分からぬ殺人者と共に閉じ込められることになるのだが……。
 実に典型的な「吹雪の山荘」のシチュエーションで事件が展開していきます。しかし時間が経ってもなかなか容疑者は絞られず、状況は悪くなるばかり。やきもきし始めた頃にようやく先生の謎解きが始まるのですが……その後の展開はぜひご自分の眼でお確かめください。
 果たして、満天の星の下で起きた殺人事件はどんな形の結末を迎えるのでしょうか?

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黒死館殺人事件


 「黒死館」と呼ばれる館で過去に起きた変死事件とそこに住む異様な家族。そしてまた事件は起こり、刑事弁護士・法水麟太郎の前に現れたのはあまりに常軌を逸した死体。そしてそれは世にも不可思議な惨劇の始まりでもあった。
 探偵作家・小栗虫太郎が生み出した衒学的と称される作品群の中でもその極みに位置し、世にいう「三大奇書」の一角に数えられる作品です。巻き起こる現象も飛び交う言葉も参照される文献等もひたすら難解であり、作中の情景を頭に描くことさえも容易ではないでしょう。一方で毒殺、足跡、密室、暗号などの推理小説的要素も様々に盛り込まれ、いつしか読み手をその世界に引き込んでいく妖しい魅力を持った怪作であるのも確かです。犯人に、そして法水に振り回され翻弄され続けるのもそのうち楽しめるようになってゆく……かも。
 黒死館の家族たちに秘められた謎とは? そしてファウスト博士の手による奇怪な殺人と異常な現象の積み重なった果てに、ようやく法水がたどり着く終幕とは?

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