ミシュランガイド(赤ミシュラン)とは?

(概 要)
 ミシュランガイドとは、フランスのタイヤメーカー、ミシュラン社が、1900年以来毎年発行しているホテル・レストランガイドブックのことです100年以上の歴史があるわけですが、途中、1921年と二回の大戦中(1915年-1918年,1940年-1944年)の合計10年間は発行されていないので、2008年版で99冊目ということになります。表紙の色が赤いことから、我が国では「赤ミシュラン」とも称されてきました。現在、フランスをはじめ20以上のの国・地域版が出版されています。07年11月に東京版が発刊され、ひとしきり話題になったことは記憶に新しいところです。なお、特に国名・地域名を付さない場合はフランス版のことを指していると理解してよいでしょう (本サイトの用法もそうなっています)。フランスでは、"Le GUIDE ROUGE" (ギッド・ルージュ[赤ガイド])という書名で親しまれていましたが、2004年版からはオリジナルの名前である"Le GUIDE MICHELIN"(ギッド・ミシュラン/ミシュラン・ガイド)という名称になり、書名からROUGE(赤)という言葉がなくなっています。また、この"Le GUIDE MICHELIN"という書名自体も裏表紙下方に小さい文字で記されているだけであり、表紙表面や背表紙には"FRANCE"と言う文字が大きく記載され、それに商標である"MICHELIN"という文字が付されるという体裁になっています。もっとも、表紙の色は赤色のまま変わっていませんので、「赤ミシュラン」あるいは「ギッド・ルージュ」という呼び名は今後も当分の間は使われるのではないかと思います。

 「赤ミシュラン」は、ミシュラン社がモーターリゼーションの振興という観点から、自動車旅行者の利便を図るためのガイドブックとしてスタートさせたものですが、星マーク(実際には☆ではなく1star2.gif(993 byte)マーク)によるレストラン評価が人気を呼び、現在フランス料理の世界で圧倒的権威を誇っているのは周知の通りです。特にフランス版については毎年2月末から3月初に改訂版が出る度、新しい格付けはひとしきりマスコミの話題になり、実際に客足に与える影響も大きいといわれています。

(記載内容)
 赤ミシュラン自体は、1900年からの発行ですが、星マークでレストランを評価するようになったのは1926年からです(当初は一つ星のみ。31年から二つ星及び、33年から三つ星を導入[訂正:三つ星は、31年に地方のレストランに登場し、パリに初登場が33年というのが正しいようです。])。2008年版では、フランス全土に3つ星26軒、2つ星68軒、1つ星435軒となっています。赤ミシュランは、多くのガイドブックと異なり、星、フォーク(後述)による評価以外はレストランの所在地、営業時間、価格帯等の基本データのみを掲載しており、個別の論評を行ってきませんでした。しかし、近年になって、より多くの情報を盛り込もうとする傾向にあります。例えば、1998年版からは、いわゆる高級レストランではないが、リーズナブルな価格で良質の食事が楽しめるレストランを"Bib Gourmand"として掲載しており、2008年版では510軒が取りあげられています。"BIb"というのは、ミシュラン社のマスコットキャラクターであるタイヤ男ビバンダムのことであり、"Bib Gourmand"のレストランはビバンダムの顔のマークで表示されています。また、2000年版からは、各店について簡単な2〜3行のコメントが付されるようになりました。この他にも、読者の参考になる様々な表示が付加されてきており、情報量は徐々に増加しています。

(調査の仕組み)
 赤ミシュランの評価は匿名の調査員が行います。この匿名調査主義がミシュランの権威を形作ってきた最大の特徴です。といっても調査は匿名だけで行われるわけではありません。レストランの評価は匿名による「試食調査(test meal)」による評価と身分を明示し店に対し様々なヒアリングを行う「訪問調査(inspection visit)」による評価が組み合わされる形で行われます。赤ミシュランではレストランの他にホテルの評価も行われていますが、これについても同様に匿名の「宿泊調査(full overnight inspection)」による評価と身分を明示する「訪問調査」による評価の組み合わせで行われます。「訪問調査」はそれだけ独立に行われることもありますが、匿名の「試食調査」や「宿泊調査」を行った後、その場で調査員が身分を明かして引き続き「訪問調査」を行う場合もあります。すべての店は少なくとも18ヶ月に1度、星付きレストランについてはそれより頻繁に匿名調査が行われているということです。調査員はフランスだけで約20名、欧州全体で約70名。一人の調査員は、1年間に平均して、240回の「試食調査」、130泊の「宿泊調査」、ホテル・レストラン合わせて800回の「訪問調査」を行うということです。体力と胃袋がよほど頑強でないとつとまりそうにない仕事ですね。

(星の評価)
 赤ミシュランの最大の売り物はいうまでもなく「星」ですが、三つ星はそのレストランを目的にわざわざ出かけていく価値のある店、二つ星は近くへ行く機会があれば回り道をしてでも訪れる価値のある店、一つ星はそのカテゴリーにおける質の高い料理を出す店というのが評価基準です。星マークは、料理のみによって判断され、店の快適さや内装は考慮されていないというのがミシュラン社の公式見解ですが、額面通りに受け止めていいかやや疑問な面もあります。少なくとも、快適さの重要な要素であるサービスレベルが全く考慮されていないとは考えにくいと思います。また、内装については、レストラン経営者の間ではある程度のレベルの内装を整えた方が星をとりやすいとの考えが根強くあります。現に有力な二つ星レストランが競って三つ星を目指して店の改修を行い、ミシュランは過大投資を誘発しているとの批判がなされたこともあります。ミシュラン社が評価対象は「料理のみ」という点を強く主張しているのはこのような批判を気にしているためでしょう。

(フォークの評価)
 赤ミシュランでは、星マーク以外にフォークの本数でレストランの雰囲気の評価も行っています。フォーク5本が豪華で伝統的、4本が最高に快適、3本がたいへん快適、2本が快適、1本が割に快適といった具合です。また、環境面で特に推奨できる店は赤色のフォークで記載されています。  例えば、パリの3つ星は9軒(2008年版)ありますが、アラン・デュカス、ルドワイヤンは赤色の5本フォーク、アンブロワジーは赤色の4本、アルページュ、ギー・サヴォワ、ピエール・ギャネイは黒色の4本となっています。一般的にいって、内装が伝統的で豪華な場合又は周辺も含めた立地環境が極めて良い場合に赤色フォークとなっているようです。

 なお、何のマークもついていないレストランでも、赤ミシュランに掲載されているということは一定のレベルがクリアされていると思ってまず間違いありません。また、上述のように赤ミシュランは、ホテルについても最高級ホテルからプチホテルまで多数掲載されており、レストラン同様一定レベルはクリアされているので、旅行の際は非常に役に立ちます。

(批 判)
 このように、赤ミシュランはレストランガイドとして相当の権威を持っているわけですが、権威に対しては批判があるのが世の常です。特に赤ミシュランは覆面調査員による公正な評価を標榜しつつ、伝統的に評価に関わる情報をほとんど開示してこなかった経緯があり、その不透明性の故に評価の手法や妥当性を巡って様々な噂がとびかい、また批判もなされてきました。最近では、2004年2月に元覆面調査員のパスカル・レミ氏が「三つ星の1/3は水準に達していないがしがらみで降格できない」「調査員は少人数しかおらず1年間にガイド掲載の店の1割程度しか回れない」等の趣旨の暴露を行いフランスでは大きな騒ぎになるという事件もありました(ミシュラン側は、暴露内容は事実と異なると強い反論をしています)。なお、レミ氏の著書は「裏ミシュラン」という表題で邦訳されています。  また、そもそも星の獲得に一喜一憂するような状況自体が好ましくないとして、事実上三つ星を返上する有力シェフも出て来ました。まず、口火を切ったのがアラン・サンドランス。"アルケストラート"、"ルカ・カルトン"の二つの店を通じて78年以来30年近く三つ星を維持してきた現代フランス料理を代表するシェフの一人です。2005年夏に"ルカ・カルトン"を閉店・改装してカジュアルなレストランとして再出発したのは記憶に新しいところです。これに続くのはストラスブールの"ビュルイーゼル"。94年以来の三つ星レストランですが、オーナーシェフのアントワーヌ・ヴェスタマンが2006年に引退。息子のエリック・ヴェスタマンは店を引き継ぐのに合わせて、コンセプトを変更し、よりカジュアルに食事のできる店に模様替えをして2007年2月に再スタートしました。基本にある考え方はアラン・サンドランスと同様といえるでしょう。これらの動きは、いわば「格付け」という行為自体への批判を含むものですが、今後このような動きがどのような広がりを見せるのか(あるいは部分的なものにとどまるのか)は注目されるところです。

(情報開示)
 上記のような批判に応えてか、ここ数年、情報開示という点では少しずつ前進しているように思えます。特に、2004年版の発行に際してこれまでにない詳細な内容説明のプレスリリース(英語(PDFファイル))が出されました。また、編集に関わるQ&A(英語)も公表されています。これらは明らかに上述のレミー氏の暴露にみられるような批判に対応する意味合いがこめられているとみていいでしょう。なお、内容を詳述したプレスリリースを出す慣習はそれ以来定着しています(2008年版プレスリリースはココ)これらの文書には、赤ミシュランについての基本的な事項がほぼ網羅されています。(※本稿の内容もほとんどこれら文書に負っています。これらを読めば、本稿を読む必要がないということですね (^^)ゞ)。なお、ミシュラン社の日本法人のサイトにおいても、情報量はやや制限されていますが一定の説明を日本語でも読むことができます

(編集長)
 赤ミシュランの編集長は、2001年1月に永らく務めたフランス人のベルナール・ネジュラン氏から英国人のデレク・ブラウン氏に交代しました。英国人がフランス料理ガイドの最高権威の責任者になったということでかなりの話題を呼びました。上記のような情報開示が進んできたのは、この編集長交代以降のことであり、ブラウン氏のイニシアチブによるものと思われます。
 さらに2004年9月、編集長がブラウン氏からジャン・リュック・ナレ氏に交代しました。上記のレミー氏の暴露の件がこの編集長交代に影響しているかどうかはさだかではありません(ブラウン氏は影響を否定していました。まあ、当然ですね)。ナレ氏はそもそも後任編集長含みで昨年外部から招聘された人物ですので交代は既定路線といえますし、また、レミー氏の件が公になる前に編集長が夏に交代すること自体は公表されていました。しかし、レミー氏の件が、編集長の交代時期を早める方向に働いた可能性はあるのではないかと思います。ネジュラン氏もブラウン氏もミシュランガイドの調査員を務めたことのある生え抜きの編集長でしたが、ナレ氏はホテルチェーンのマネジメント行っていた外部の人間です。既に2005年版で"espoirs"という新しい評価カテゴリーを導入するなど新基軸を打ち出していますが、この編集長のもとで、どのように赤ミシュランが変わっていくのか(あるいは変わらないのか)引き続き注目されるところです。

(その他)
 ミシュランのガイドブックには、赤ミシュランの他に、観光ガイドブックの通称「緑ミシュラン(ギッド・ヴェール)」があり、国・地域別に多くの種類が出版されています(日本語版もあります)。赤ミシュランと同様、星マーク(こちらは本当の★印)の数で、三つ星はわざわざ出かけていく価値のある場所、二つ星は近くへいく機会があれば多少回り道をしても訪れる価値のある場所、一つ星は余裕があれば訪れた方がよい場所という評価となっています。  この赤・緑両方のミシュランと、同じくミシュラン社の道路地図(道路地図もミシュランのものが一番見やすいと個人的には思います)があれば、フランス中どこへいってもまあなんとかなるという優れもののシリーズです。  また、2005年3月には、新しい旅行ガイドとして「Michelin Voyager Pratique」というシリーズが創刊されました。2009年までに50タイトルが揃う予定ですが、そのうちの1冊として「日本(Japon)」が2007年4月に刊行される予定です。 



上記文章を整理するにあたって、ミシュラン社の公表している情報以外にも、「参考リンク」で紹介した様々なサイトやブログの情報を適宜参考にさせていただきました。ここに感謝の意を表します。