最終更新: 1 Mar. 98
私の本棚
(※1998.3以前の旧版です。)
私の推薦本(or非推薦本)です。比較的最近読んだ本を対象にしています。必ずしも新刊とは限りませんので御注意下さい。
なお、評価の目安は以下の通りです。
・★★★ 何をおいても読むべき本
・★★ できるだけ読んで欲しい本
・★ 好著
・? 気が向けばどうぞ
・× 他の本を買いましょう
いうまでもなく、極めて個人的嗜好が反映するものですので、読んでつまらないと思った場合でも何卒御容赦下さい。
表中の書名は上から評価順。下の短評は上から最近読んだ順です。
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[短 評]
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・突破者(宮崎学/南風社)★★
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遅ればせながら話題のベストセラーを読んでみた。
極めて痛快。もちろん、これは登場人物が彼らなりの独自の土俵で動いている人間で
あるという前提があるからであり、視点を少し変えていわゆる「市民社会」的観点で
みれば描かれているのはとんでもないことだらけである。(私も含め)この本をおも
しろがって読んでいる読者は、この本に描かれている世界を自分自身の住む世界とは
別種のものとして、いわば芝居をみるような感覚で読んでいるのかもしれない。しか
し、著者の描く世界はまさに我々が現に住むこの社会そのものであり、読者に突きつ
けられているのは、はたして"平和"で"清潔"な「市民社会」的価値観だけで世の中を
運営していくことができるのかという問なのである。
著者のウェブサイト<「キツネ目の男」宮崎学>は、一読に値する。
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・連鎖(真保裕一/講談社文庫)★
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現在のミステリ界で安定して高水準の作品を発表し続ける著者の実質的なデビュー作にして91年の江戸川乱歩賞受賞作。
その後続く、「取引」、「震源」等に比すると人物造詣等やや生硬い感じは
するものの、テーマの斬新さ(汚染食物の輸入という題材は、本書で取り上げられた
チェルノブイリ事故を離れても十分に今日性がある)と取材の綿密さの上に立つ力強いストーリー展開は
読者を引き込んで離さない力を持つ。まだあまり板についていないハードボイルド調と(巻末解説でも触れられているように)
最後のややごちゃごちゃした展開を割り引いても十分読むに値する作品。
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講談社の「ヴューズ」連載の「インターネットはどこでもドア」を中心に、
情報通信関係者との対談を加えて一冊にまとめたもの。
前著「インターネット探検」の続編的性格。例によって、興味深いウェブサイトが
いろいろ紹介されており、インターネットに関心を持つ向きは一読の価値がある。
ただ、異説リンク集の紹介の章の記述の仕方は疑問である。例えば、スフィンクスの建造年代に関する異説を紹介する箇所で、米の学者ウェストの唱えた水による浸食説が「世界の岩石学者、地質学者の認めるところとなり、いまやスフィンクスのつくられた時期は、これまでよりずっと古いものと考えられるようになってきたのである」(P136下段)との記述があるが、この箇所だけ読むとそれが事実であり、立花隆もそのことを認めているように誤解する人間がでてくるのではないか。事実は、「水による浸食説」は全くの少数説で通説は「塩化による風化説」である。「水による浸食説」を「世界の岩石学者、地質学者が認めるところ」となった事実はないし、スフィンクスの建造年代について「これまでよりずっと古いものと考えられるようになってきた」という事実もない。もとより、「異説」を頭から排斥するようなことはすべきではないが、結果として異説肯定的に読めるのは問題。世に立花信者が多いことを考えると異説についてはもう少し懐疑的記述で紹介してもよいのではなかろうか。
なお、巻末のビル・ゲイツとの対談では議論が見事なくらいにすれ違っておりゲイツ君のリアリストぶりがよくわかっておもしろい。
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・特捜検察(魚住昭/岩波新書) ?
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東京地検特捜部創設50周年記念に合わせた出版時期がよかったのか結構売れている様子。ただ、内容は明らかな切り込み不足。特捜部の正の面のみが強調されており、負の面は「苦悩」というトーンでしかかかれていない。もちろん、何でも批判すればよいとは思わないが、少なくともヤメ検弁護士と現役検事の関係や、法務官僚と一線捜査検事の確執など負の面への切り込み方はいろいろあるはず。司法記者歴が長いことがかえって災いしたのかなという印象を受ける。
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・クーデター(楡周平/宝島社)★
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構想の大きさと大部を一気に読ませる筆力を評価し、サスペンス系統の作品 に興味がある者であれば十分読む価値はあることを前提とした上で、あえて注文
をつけたい。まず、前半のクーデター計画部分に比して後半の展開部分が物足りない。
また、物語の都合上、偶然性に依拠する部分があっても構わないのだが、ややそれに
頼りすぎるきらいがある。ディテイルの書き込みをもう少ししっかりしてほしい。
全体としてページ数と内容の割には読了後の充足感がないのはそのためと思う。
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待望の新宿鮫シリーズの新刊(97.10)。公安警察の秘密を軸に例によって骨太の
ストーリーが展開され期待を裏切らない出来。興味深いのはこれまで単にイヤな奴だった香田に重要な役回りが与えられている点。また、鮫島と晶の関係も重大な転機を迎えつつあり、次回作は目を離せない。強いて難をいえば、中心人物である
杉田江見里の人物造詣がやや希薄。
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出版時、各書評で軒並みとりあげられた話題作。オウム真理教に関連して出版されたおびただしい
書物の中でおそらくは最良の書。読むべし。
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陶磁器を中心に古美術鑑定に関する個々の話はそれなりに興味深いのだが、エピソードの羅列で一冊の書物として
ややまとまりを欠く印象。私が一番驚いたのは「佐野乾山」についての記述。
とうの昔に贋作で決着しているものと思いこんでいたら、実は本物の可能性があるとのこと。
いやはや美術鑑定は奧が深い。
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砂時計、卓上塩、高速道路渋滞など日常生活の様々な事象を題材に「粉流体」
の不思議なふるまいを解説しつつ、物理における「理解」とは何であるかについて
洞察する。興味深い内容を平易な言葉で述べる好著。
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・イエスとは誰か(高尾利数/NHKブックス)★
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人間イエスを論じる意欲的な試み。マルコ福音書を中心に他の福音書を批判的
に読む試みは、聖書の記載順にマタイ福音書を中心に読んでいるため、目から鱗とまではいかなくとも、なるほどと思うところが多々あり、刺激的でおもしろい読み物。
人間イエスを読む試みとしては、本書の著者が翻訳している「イエスのミステリー」(バーバラ・スィーリング/NHK出版)という本があり、内容的にはいわゆるトンデモ本の類に属するものであるがなかなかおもしろく一読の価値はある。
・星に憑かれた男(ウィリアム・エチクソン/青山出版社)★
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表題の「星」とはレストランガイドブックとして有名な赤ミシュランの評価 マークのこと。パリから南へ二百数十Kmのところにあるブルゴーニュのソーリュー
という田舎町のレストラン "La Cote d'Or"のオーナーシェフであるベルナール・ロワゾーがミシュランの三ツ星を獲得するまでの奮戦記である。ロワゾー本人はもとよりレストランスタッフ、地元の食材提供事業者、ワイン事業者等の描写も含め、一流レストランがどのように運営されているかが語られており興味深い。 また、この十数年のフランス料理の流れ、ミシュランの審査方法、ゴー=ミヨーの変遷等フランス料理界の話題にも触れられている。実は、この本は "La Cote d'Or"に行った際にフロントに置いてあったものを
買ったのだが、ロワゾーはこちらから頼む前ににサインをしてくれる 等サービス精神は旺盛。
なお、フランス料理に関心ある向きは、時代背景はやや古くなっているが、 日本に本格的フランス料理を紹介した辻静夫の半生を小説仕
立てで記した「美味礼賛」(海老沢泰久/文春文庫)は必読でしょう。
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8人の大統領が交代する間、48年間FBI長官として君臨した伝説的存在エドガー
・J・フーバーの伝記。本書では、この極めて反共色の強い 人物の下でFBIが捜査機関としてよりはむしろ治安維持機関として、
サッコ=ヴァンゼッティ事件、エルズバーグ事件、マッカーシーの赤狩り、ローゼンバーグ事件、ケネディ兄弟暗殺、
キング牧師暗殺など著名事件に如何に関与してきたかというが明らかにされるがこれ
は一般に持たれているFBIのイメージを覆すのに十分であろう。
フーバーは、政治家、マスコミ関係者等のスキャンダル情報のファイルを作成し、
このファイルの威力故に大統領といえども手出しできない文字通りアンタッチャブル
の存在となったわけであるが、ただ、ファイルだけがフーバーの地位を保証していた
わけではなく、フーバーの反共、反公民権的行動を容認する空気が米国社会に
厳に存在していたということを忘れてはいけないと思う。 なお、本書にはフーバーの内部メモを含むFBIに不利な内容の公文書が資料として
豊富に引用されており、この点では情報公開法というものの重要性を認識させられる。
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この手の科学最前線ものをレベルをおとさずにしかもわかりやすく書くことに
かけては、著者の右に出るものはなし。実は定価2200円のこの本をパリで買うと
約5000円になるので、先に買った同僚に借りて読もうと思っていたのだが、本屋で
パラパラめくっているうちにどうしてもすぐに読みたくなって買ってしまった。
人間も訓練次第で犬並みの嗅覚になれる、鳩は印象派とピカソの絵の 区別ができるなど興味深い話題が満載されています。
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この著者も新著がでる度に買ってしまうのだが、裏切られた試しがない。
世評高かった前著に続 き、本著も目ウロコ本(注:目からウロコが落ちる思いをする本のことです)の面目躍如たるものがある。歴史に埋もれた非農業民の役割 (本書では近時の著者の関心が向いている「海」が中心)を掘り起こしていく手際には
いつもながらわくわくしてしまう。最後で、飢饉について興味深い仮説が述べられているがこれはやや?。いずれにしてもおすすめ。
・ソフィーの世界(ヨースタイン・ゴルデル/NHK出版)?
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それなりにおもしろく読めました。設定やストーリーテリングがさほどすぐれているとは思わないけども、
わかりやすい哲学史だと思えばよくかけていると思います。
・漫画の時間(いしかわじゅん/晶文社)★
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漫画界屈指の漫画読みの待望の評論集。私も結構な量の漫画を過去において読んできたつもりではあるが、本書のカバーする範囲の広さには全然ついていけない。
頑張ってフォローしなくては。でも、田亀源五郎の「嬲り者」を買いに行くのは少し躊躇するなあ。
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上記「漫画の時間」でいしかわじゅんもとりあげており、私も全巻(現在、19巻まででている)
読んでいるお気に入りの作品。現在、連載中の漫画で何か1作推薦するとすれば、躊躇無く
本書をを推す。確か関川夏央の漫画評論に、
30代のホワイトカラーの男性に隠れファンが多い(私もその一人だな)と書いてあったと記憶している。
なお、前から思っているのだが、作者は中島みゆきの曲をよく聞いていると思う。