☆宇宙人/ウズマキマズウ CD 2008年 (AGOGA-001)

☆ウズマキマズウ:小川美潮・大川俊司・板倉文・Banana-U.G.・Ma*To・Whacho・Mac清水・青山純
ゲスト:小林“オイラー”武史(Tabla on
7)
1)7月 (小川美潮)
2)良心力学 (小川美潮)
3)ENSO (大川俊司/小川美潮)
4)Forget me
not (板倉文)
5)12月21日 (大川俊司/小川美潮)
6)やっとだね (小川美潮)
7)私は宝 (大川俊司/小川美潮)
※全作詞:小川美潮
ソロアルバム「檸檬の月」から15年,細野晴臣のユニット「Love, Peace
& Trance」から13年,インディーズで発売された宮城純子とのデュオ作「夢が眠る場所/SECRET
BOOK」から9年。待ちに待った小川美潮さんのフル・アルバムが2008年2月23日,とうとう発売されました。
ウズマキマズウが産声をあげたのは1996年のライブ「Making
Music」の頃でしょうか。以来何度となくメンバー・チェンジや改名,解散を経て,現在のメンバーに固定したのが2007年の頭の頃でしょうか。
アルバムに収録された7曲のうち,6)7)は早くからライブで演奏されていたナンバー。2)4)5)は中期から,1)は比較的新しい曲です。
ライブ演奏を重ねて作り上げていったものを土台に,スタジオ録音ならではスタイルを持った粒ぞろいの曲達が揃いました。
1)は軽快でちょっとファンキーでユーモラスな楽しい曲。ブチブチ言わせるシュンちゃんのベース,おかしくて,でもここにはこれっきゃないね!と感じるWhachoの笛とULT-Sound(^^; そしてカワイらしい美潮さんのボーカル。
2)は以前「辻褄無実だったか辻褄の実だったか?」というタイトルが付いたスローテンポのナンバー。美潮さん自身による世界中で一番美しいコーラス・ワークが奏でられる,スタジオ録音ならではアレンジ。うっとりして鳥肌が立ちます。間奏ではBananaのプロフェット5によるシンセ・ソロが美しい。
3)もゆったりとして,スケールが大きなナンバー。印象的な歌詞です。WhachoのULT-Sound,ビシバシと的確な青山さんのドラムス,ここでも終盤にコーラスが冴えます。
4)は電車の通過する効果音から始まる,文ちゃんならでは不思議なメロディとリズムを持つ難曲。この効果音は打楽器の音を加工して作っているそうです。低音から超高音まで駆使したボーカル。ちょっとシュールな雰囲気を持つ曲です。肉声を楽器の様に奏でます。ボーカルはライブよりも軽めに歌っている感じでした。
5)はULT-Soundが大活躍する軽快な曲。途中,転調する部分がかっこ良く,難しいメロディを完璧な音程とリズム感で歌い上げます。文ちゃんのギターソロもカッコイイ。最後はBananaのシンセとボーカルが絡んでゆきます。
6)は愉快で楽しく,ユーモラスでちょっとファンキーな曲。ライブではいつも盛り上がります。ここでもWhachoのドナルドなど,ライブと同様にソロ回しが聴かれます。美潮さん,この曲の歌詞の一説にある「青写真」はもう古い!なんてライブで言ってるけど,スタジオ盤にもそのまま収録されました(^^;
最後の7)はライブでは定番の曲ですが,このアルバムで始めて披露されたアレンジで演奏されています。アコースティック・ギターとタブラによるアンプラグドなもの。後半シンセが,終盤にはパーカッションも加わって盛り上げていき,珍しく速弾きのギターが加わって,美潮さんならではパーカッシブなスキャットと絡み合い,最後はカリンバの演奏で終わります。
シュンちゃんに話をうかがったところ,この曲は1995-6年頃に,美潮さんと二人で作ったとのこと。三拍子のリズムに乗せてポジティブな歌詞を持つ力強い名演,名唱は,たくさんの人の心に長く残るでしょう。
というわけで,簡単に一曲ことの紹介と感想を述べました。
ウズマキマズウのライブを体験したことのない人にとっても,体験したことのある人にとっても,感動を呼ぶ素晴らしい作品になったと思います。ここ十数年の想いを振り返ると,今後このアルバムを越える様な作品が出来たとしても,きっと忘れられないものになると感じています。
はてさて,余談をもう少し。
美潮さんがときどき使う「なっちゃない!」とご笑納ください(笑)
まず音ですが,ボーカルが非常に鮮明で,歌詞が容易に聴き取れる感じ。自宅のオーディオ,ヘッドフォン,カーステレオの3つで聞きくらべたところ,カーステレオで聴いた印象が一番良かった。家のオーディオだとボーカルや中低音の量感がちょっと足りないかな?と感じました。
次に全体の印象。ChakraやWha-ha-haに始まって,ソロデビュー作,ラジオクラブ,そして平成再デビュー後と比べて,美潮さんのシンガーソングライター的な部分が前面に出てきた様な気がしました。これは時間をかけて歌詞を練り上げ,熟成していったからかもしれませんが,スプラゥトゥラプスの曲ともだいぶ違います。
最後に,ウズマキマズウにはずいぶんたくさん埋もれている曲(アルバムに収録されなかった)があり,おそらく今後も良い曲がたくさん出来ていくことでしょう。
「宇宙人」は会心の出来だけど,ウズマキマズウのバンドとしてのサウンドは,まだまだ先があると思っています。Macが大活躍する“人星間”のようなナンバー,Bananaのピアノが美しく響くナンバー,打楽器隊が縦横無尽に走り回る演奏,まだ見ぬ新たなウズマキ・サウンドを発展させていって欲しいと思います。
小川美潮の新世紀が,いま始まりました!
☆起きてください/小川美潮スプラゥトゥラプス CD 2011年 AGOGA-002
☆スプラゥトゥラプス:小川美潮・吉森信・大川俊司・小林武文・Whacho
1)A
Sprout
2)雨上がり
3)あノいちばん
4)Make
Oureselves
5)3時の見て見ぬふり
6)ハケノミチ
7)月の裏側
8)ホビットの夢
9)起きてください
小川美潮さんは歌の上手い人です。広い音域,クリーンで清楚な声質,そして圧倒的なリズム感を持った歌い手です。
同時に独特の音楽センスを持っています。どこそこの様にとか,誰々の様にという具合に比較対象になるシンガーはほとんど思い浮かびません。ロックシンガーなのか,ジャズシンガーなのか。ポップシンガーではありますが,ジャンル分けしづらい音楽性を持っています。ユーモアのセンスもユニーク。
さて,メジャーレーベルから離れて初のアルバムになった“ウズマキマズウ”の「宇宙人」は,美潮さんのソングライターとしての側面が表れたアルバムでした。スプラゥトゥラプスとしてのデビュー・アルバムになった最新作「起きてください」は,どんな感じでしょうか。
全9曲のうち,吉森信さん作曲が7曲。1曲は小林武文さん,もう1曲は大川俊司さんによるもの。作詞は工藤順子さんの1曲を除いて,全て美潮さんによるものです。今回スキャットが多用されていて,美潮さんの詞は,多弁だった宇宙人と違って言葉を連ねた短いものばかりです。
演奏はよくあるロックバンドのスタイルと違って,ギタリストがいません。ギターやシンセサイザーがコードをキープするのに慣れている人には,コード感を得るのが難しいと思えるほどカラオケ的でなく,極めてパーカッシブな演奏です。こういう演奏スタイルはポップなロックではなく,ジャズに近いかもしれません。
吉森さんのピアノは,リズムをキープする役目とメロディ&コードを作り出すもので,スプラウト・サウンドの核になっています。
ドラムスとベースが対になるスタイルの演奏がお馴染みですが,かなりテクニカルになった大川さんのベースは,小林さんのドラムスよりもむしろ吉森さんのピアノと対になっている感じがします。
演奏面でのもう一つの核は小林さんのドラムスで,ロック・ドラムというよりかなりパーカッション寄りの演奏スタイルで,これにWhachoさんによる装飾的なトイカッション&ULT-SOUNDが彩りを与え,時にギター的に,時にシンセ的なサウンドが加わります。
美潮さんのボーカルは,これまでになく,あるいは他に例がないほど陰影・コントラストが強く,ハイトーン気味に歌うシーンが多く聴かれました。
初期のスプラウトのライブでは,これまで“あノいちばん”〜“Make
Ourselves”の展開ではじまるのが定番でした。アルバムでは“A
Sprout”ではじまっているので,最初に聴いたときには少し違和感を憶えましたが,今はこの曲順に馴染んでいます。それでは1曲ごとに感想を書いていきます。
“A
Sprout”は,印象的なピアノのフレーズが繰り返されるイントロからはじまり,伸びやかなボーカル。そしてスキャットとピアノが駆け回り,終盤はスタッカートでメロディラインが繰り返されます。爽やかで瑞々しい歌と演奏。
“雨上がり”は美しいバラード。定評のあるバック・コーラスも挿入されています。シンプルだけど,6/8拍子を基調にした?ポリリズミックなメロディ・ラインは新鮮。
“あノいちばん”は,細胞分裂を思い浮かべる歌詞がついた曲。Aメロは単音のボーカルと全員の打撃音がスタッカートで奏でられるややこしい演奏。この様なスタイルでは,演奏に歌を合わせるが普通だと思うけど,ここではむしろボーカルに演奏を合わせている感じ。面白い曲。パーカッションも痛快。中盤でトリッキーなフックも入って楽しい。
“Make
Ourselves”は,ピアノのリフが繰り返されるイントロからはじまるスキャット・ナンバー。中盤でパーカッション・ソロが挿入されるダンサブルなナンバー。本作で一番気持ちが良い曲。自由で痛快な美潮さんのボーカルが炸裂します。
続いて本作中最大の問題曲“3時の見て見ぬふり”。ドラマチックでシュール,かなり危ない歌詞。そして狂気と笑気,感情の起伏が交差するボーカル。演奏する側は開放感を味わうのでしょうか?
“ハケノミチ”は小林さんによるややこしくも楽しい曲。何拍子? カルガモーズでも演奏されてますね。大好きです。この超難曲を軽やかに。
“月の裏側”は,これまで見られなかった小川美潮の姿が見られる日本的なメロディを持つ感動的な曲。芸歴?年で数百曲をレコーディングしていますが,過去これほど声を張り上げる熱唱はありませんでした。2011年に相応しい名唱です。必聴!
“ホビットの夢”は美潮さんによると「箸休め」の曲(笑) トールキンの“指輪物語”に登場する妖精をモチーフにしています。ちょっと吾妻ひでお的かな(^^;) 初期のライブでは炸裂する狂気の演奏もありましたが,ここでは静かな流れで。
ラストのタイトルナンバー“起きてください”は,一番新しい曲。ボサノバ調のリズムにジャズ的なノート,パーカッシブなボーカル。やたらテクニカルな歌と演奏ですが,そうは感じさせずに明るく楽しく軽快。メンバー全員が一体になった演奏が楽しめます。
最初に聴いたときには,いやいやいや・・・?!と少し違和感を憶えましたが,繰り返し聴いていくうちに,愛聴盤になりました。
傑作でしょう!
でもこれが全てではない。まだ先があると,少し物足りなさも感じました。
誰もが傑作と認める“4 to
3”を聴いたあとにも同じ様な感情を抱きました。
次はなに? どんなになるの?
ファンは欲張りなのです(^^;)
☆FEB Special
Live at Blues Alley Japan 2007

2月生まれのミュージシャンが集合したセッション・バンド。今年で10周年を迎えました。
そのFEB,昨年のライブを収録したカンパCD-Rがライブ会場限定で発表されました。
全6曲と少なめですが,美潮さんが歌う[Smoke
Gets in Your
Eyes]が収録されています。
練習不足ということですが,これがなかなか良いです。とっても美しいボイスが聴かれます。
曲毎の演奏者のクレジットはありませんが,たぶん次の通りだと記憶しております。間違ってたらゴメンネ!
青山純(Dr)・森園勝敏(Gt)・杉山卓夫(Key)・岡沢茂(Bass)・Max清水(Perc)・Whacho(Perc)・ホッピー神山(Sampler)・矢壁篤信(Perc)・大川俊司(Perc)
あと「ケセラセラ」も収録されていて,美潮さんも参加していますけど,残念ながらフェイドイン&フェイドアウトになっています。
最終更新:11/11/23