木々の間に見え隠れする明かりを頼りに森を進む。
最初オレの目にしか映らなかった明かりは、進むにつれて、リナにもはっきりと判るようになった。
どうやら、たき火ではなさそうだった。
全く揺らめくことのないその明かりは、決して自然の炎ではない。
それは、リナのよく作る火炎球のように───魔法の匂いを感じさせた。
しかも、地面より高い位置にある明かりは、人家があるのではないかという期待を膨らませる。
もっとも、人家があるとして、それがまともなものであるとは限らない。
盗賊の住処になっているくらいならいいが、もし───。
オレは歩きながらそっとリナの様子を窺った。
オレの考えつくことぐらい、リナなら当然判っているだろうに、その歩調に全く迷いはない。
リナは疑いもしないのだろう───オレがその後ろについてこないなどど。
だから、オレはただ黙々とリナの後ろを歩いていく。
せめてその無防備な背中くらいは守ることができるように、剣を握りしめながら。
歩くことしばし―――。
オレ達が見つけたそれは、思っていたより遙かにまともだった。
猟師小屋か炭焼き小屋のようなものでも見つかれば上等だと思っていたのだが───。
その建物は家というより、屋敷に近かった。
かなりな大きさの建物の周りを、ぐるりと生け垣が取り囲んでいる。
オレ達の目にしたのは、その生け垣の門にあたるところに置かれたランプの明かりだった。
建物の中からも、暖かみのある光が漏れている。
暗闇の中を歩いてきた目には、とても心の落ち着く輝きだった。
建物も、こんな森の中にあるだけあって、作りはそれなりに重厚だが、すさんだ雰囲気や荒れ果てている様子はない。
正直、かなり感じのいい建物だった。
人が住んでいるのは、まず間違いない。
人が住んでいない建物は、自然と荒れた雰囲気になってくるものだが、ここにはそれがなかった。
暗闇なのでわかりにくいが、辺りには柔らかな芳香すら漂っている。
周囲に、香りの良い植物でも植えてあるのだろう。
ここに住み着いているのがどういう人物であれ、かなり余裕のある人の住まいに見えた。
生け垣を区切るように立っている門は、扉が閉まるようになってはいるが、まだ閉ざされてはいなかった。
オレとリナは、一瞬ちらっと視線をかわす。
屋敷のたたずまいに比べてみると、その不用心さは不似合いだった。
「こんな森の中にこんな建物があるのはヘンよね」
リナが呟く。
「やめるか?」
「まさか」
リナが即答する。
「せっかくあったかいご飯が食べられるかもしれないってのに」
「まともな人が住んでるとは限らないぞ」
「まあね」
リナがぽんっとオレの背中を叩いた。
「そのときは、期待してるからね。ガウリイ」
「こういう時だけはそうだよな」
オレはぼやいた。
オレ達は並んで歩いたまま、開かれた門をくぐる。
辺りの気配に気を配るのは忘れない。
ふと、門をくぐった瞬間、何かが首筋に触れたような気がした。
ちりちりとした何かが焦げるような感覚。
だが、それは一瞬で消えた。
「………気のせいか?」
オレは首筋に手をあてて呟いた。
「どうかした? ガウリイ」
低く潜めた声でリナが聞く。
「………いや………」
オレは再びさっきの感覚を捉えようとしたが、何も感じ取ることはできなかった。
オレは軽く首を振る。
さっきのあれは気のせいだったのだろうか。
オレは再び首を振り、リナを促して歩き始めた。
玄関とおぼしき扉に近づいていく。
リナは扉の正面を少し避けた位置に立った。
打ち合わせも何もしなくても、言葉を重ねる必要はない。
視線だけで合図を送る。
オレの視線に軽く頷くと、リナはいっそ無造作な仕草で扉を叩いた。
こん、こん、こん。
重々しくノッカーの音が響く。
静けさになれた耳にはその音は妙に大きく響いた。
リナは、何かあったときすぐに飛び退けるように、油断無く気を配っている。
オレもいつでも剣を抜けるようにさり気なく構え、ドアの方をじっと見た。
「はい?」
待つことしばし。
扉の中から返答があった。
かなり若い、女性の声だ。
こんな森の中にある屋敷の中にあって、その声は異質なくらい明るく響いた。
リナが唇を湿して応対する。
「あの………旅の者なんですけど………。ちょっと道に迷ってしまいまして。できれば一晩宿をお借りできればと思ったんですけど」
リナが普段の言動からは想像できないくらいしおらしげな声を出す。
普段もこれくらい大人しければと、つい思ってしまうんだが───駄目だ、やっぱり想像できない。
口に出しては何も言わなかったが、視線に何かが出ていたらしい。
こちらを向いたリナが、ぎりっとオレを睨み付けた。
リナが、いかにもわざとらしくオレの足を踏む。
無言の攻防を足下で続けていると―――。
かちりと………小さな音とともに玄関の扉が開かれた。
鍵の音がしなかったのは………屋敷の警備に自信があるのか、それとも単に不用心なのか?
「旅の方?」
扉の中から現れた姿は、オレの予想をかなり外していた。
確かに、声の印象から若そうだとは思ったが―――。
甘いハニーブロンドの髪を結い上げた小柄な女性は、リナよりも少し年上なだけだった。
ランプを片手に、やわらかい笑みをオレ達に向けた。
「道に迷われたのですか? では、ここにたどり着かれてようございました。大したことはできませんが―――どうぞお入りくださいませ」
そして、大きく扉が開かれた。
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