SAN-SYOKU-TEI
 
 
 
 
 

 
 
VSOP -2-

 


 
<洞窟・その1>

「これは、ちょっと無理かなあ」
周囲の状況を確認して、あたしはそう結論づけた。
お宝を探しに入ったダンジョンで、あたしたちは、閉じこめられてしまったのだ。
───間抜けなことに───。
外側からは簡単にあいた扉は、内側からは開かない作りになっていた。
扉の内側は、ご丁寧にオリハルコンで内張がされていて、あたしの魔法すらはじき返す。
まあ、別ルートを辿っている、アメリアとゼルが探し当ててくれるだろうが、そうすぐにというわけにもいかないかもしれない。
あたしはとりあえず腹をくくった。
一応換気はされてるようで、酸素不足の心配はいらいようだし。
とりあえずは気長に待つしかない。
よしっ。こうなればすることは一つ。
「ねね、ガウリイ」
あたしはガウリイににじり寄った。
あたりが暗いというのは、あたしにとっては好都合だった。
あたしの表情はガウリイからは見えない。
今は、それがとてもありがたかった。
「ねえ………ガウリイ………。こういう状態になったら、する事って、ひとつだけよね」
あたしはガウリイに囁きかけた。
「おい………リナ?」
不思議そうなガウリイの声。
「………鈍いわね、ガウリイ………」
あたしはじっとガウリイの目を覗き込む。
「………判らない? あたしの気持ち………」
あたしは吐息と共に、ガウリイの耳元に囁きかける。
そして、ゆっくりとのしかかるようにガウリイの方へと身を寄せた。
「お、おい、リナ………」
片方の手を首筋に、もう片方の手を、反射的にあたしの身体を受け止めたガウリイの、腰のあたりにするりと回す。
「ちょっと、待てよ、おい………」
驚いたようなガウリイの声。でも、その声に、わずかに含まれるのは………熱?
「………待たない………」
あたしは更に、身をすり寄せ、手を伸ばした。
ガウリイがびくんと身じろいだのが………触れた部分から伝わってきた。
でも───遅いっっ。
あたしは素早く手を動かした。
そして、ぱっと飛びずさる。
「ふふふっ。げっとぉ♪」
あたしの声にガウリイが慌てて自分の腰に手を回した。
そして、この世の終わりのような声を上げる。
「───あああああっっ。オレの食料っっ───」
ガウリイがうるうるとした瞳であたしを見た。
「食べ物をありがとう。ガウリイ。あなたの尊い犠牲はムダにはしないわね」
あたしは勝利者の余裕を持って微笑みかけた。
「───オニか───お前さんは───」
低い声でガウリイが唸る。
あたしは軽く自分の髪を払った。
「甘いわね。ガウリイ。所詮この世界はサバイバルなのよ」
「お前なあ───やり方がきたねーぞ」
「あらぁ、どーゆーふうに汚かったの?」
あたしは極力素直な声を出した。
ガウリイがぐっと返答に詰まる。
ふ………そーだろう、そーだろう。
言えるわけあるまい。
あたしがそーゆーことをしようとしたと誤解したなどど。
「弱肉強食ってね、ガウリイ」
ふふっとあたしは笑みを浮かべた。
ガウリイがじとっとあたしを睨む。
「年長者はいたわれって教わらなかったのか? リナ」
「あらあ、老い先短い人に譲ってどうしようってのよ。緊急時には、女子どもを優先させるのが、じょーしきでしょ、じょ・う・し・き」
「お前さんが女子どもの範疇にはいるかよ」
あたしの当然の主張にぼそりとガウリイが呟いた。
「失礼ね………。あんたがみたいなくらげが人間だって言い張るより無理はないわよ」
「おい、失礼なこと言ってるのは、どっち………」
あたしは最後までガウリイの台詞を聞いてなどいなかった。
「いずれにせよ、ムダよ。あんたの食料はあたしの手の中。もういい加減あきらめたらどう?」
手に持った食料をわざとらしく振ってみせる。
「ふっ」
ガウリイが低く笑った。
「こうなったら実力行使あるのみってか?」
「望むところよ」
あたしもつられて小さく笑う。
「………よく見ると、あんたの身体って、結構食べ甲斐ありそうよね、ねえ、ガウリイ?」
あたしは間合いを取って、呪文詠唱の準備に入った。
あたしの台詞にガウリイも物騒な笑みを浮かべる。
「お前さんも、ちょっと筋張っててちっこいのがなんだが………腹の足しにはなるだろうぜ」
ガウリイがかちゃりと剣を構える。
ふっ。
あたしたちは同時に微笑むと、戦闘状態に突入した。
 
 

「………あの………。リナさん? ガウリイさん?」
控えめに、アメリアの呼ぶ声が聞こえた。
勿論、あたしもガウリイも振り向かない。
隙を見せるのは敗北を意味する。
「あの………助けに来ました………って………だから………あの………」
アメリアが再び控えめに声をかける。
あいかわらず、あたしとガウリイの戦闘は続いていた。
アメリアが、困ったようにゼルガディスを見た。
ゼルガディスがぽんっと、アメリアの肩を軽く叩く。
「………放っておけ………」
そして、二人はそろって深々とため息をついた───。
 
 

<洞窟・その2>

「これは、ちょっと無理かなあ」
周囲の状況を確認して、あたしはそう結論づけた。
お宝を探しに入ったダンジョンで、あたしたちは、閉じこめられてしまったのだ。
───間抜けなことに───。
外側からは簡単にあいた扉は、内側からは開かない作りになっていた。
扉の内側は、ご丁寧にオリハルコンで内張がされていて、あたしの魔法すらはじき返す。
まあ、別ルートを辿っている、アメリアとゼルが探し当ててくれるだろうが、そうすぐにというわけにもいかないかもしれない。
あたしはとりあえず腹をくくった。
一応換気はされてるようで、酸素不足の心配はいらいようだし。
とりあえずは気長に待つしかない。
やれやれ。
あたしは深くため息をついた。
閉じこめられたこと自体はあまり心配していないが、あたしには困ったことがひとつあった。
ちょっとガウリイの方を見て思案する。
………どうしよう………。
でも、背に腹は代えられないし………。
あたしは、するりとガウリイの方に身を寄せた。
「よいしょ」
情けないかけ声と共に、重い腕を持ち上げて、ガウリイの腕を肩に乗せる。
そして、そのままガウリイの胸に寄りかかるような姿勢になった。
あ、やっぱり暖かい。
「おいおい、リナ」
苦笑しながらガウリイが言った。
ただ、たしなめる響きはそこにはない。
「………何やってんだよ、お前さん………」
あたしはじろりとガウリイを見上げた。
「何ってね、カイロのかわりよ、カイロのかわり。あたし寒いのきらいなのに、この部屋結構寒いじゃない」
あたしはじぶんの両肩を抱きながら、ガウリイに答えた。
ガウリイが小さくため息をつく。
「何もオレをカイロ代わりにしなくったって、火の魔法が使えただろうが、お前さん」
「酸素がなくなりそうだからやだ」
「………何だ、その『さんそ』って?………」
ガウリイがきょとんとあたしを見る。
まあ、ガウリイに判ってるとは思ってないけど。
しかし………どうやってガウリイに説明しよう。
「うーん。酸素なくなるとどうなるか………試してみる? ガウリイ」
あたしはとりあえず言ってみた。
ぶんぶんぶん。
酸素の意味もしらないはずのガウリイが、蒼白な顔でかぶりを振った。
どうやら、野生動物そのもののカンの良さはあいかわらず健在らしい。
あたしはくすっと小さく笑った。
「まあ、魔法使う以前に、燃やす何かが必要よね」
そう言ってあたしははたっとあることに気がついた。
雄弁なあたしの瞳に、ガウリイが引きつった表情になる。
「おい………オレは燃やすなよ。頼むから」
あたしはへらへら笑ってみせる。
「やだ。やらないわよ、そんなこと………、ま、とりあえずはね」
「………とりあえず………?」
ガウリイがあたしに疑わしそうな視線を向ける。
あたしはくすくす笑ったまま、ガウリイに身を持たせかけた。
そして、そのまましばらく沈黙が落ちる。
あたしが無理矢理自分の身体に引き寄せたガウリイの手は、結局あたしから離れていくことはなかった。
引き寄せられることもまた、なかったけれど───。
やがて、ぽつりとガウリイが呟いた。
「襲うぞ、そんなにひっついてると」
「襲うって………誰が、誰を?」
あたしはきょとんとガウリイを見上げた。
ガウリイが深くため息をついて、空いてる方の手で自分の髪をかき回した。
「………お前さんは忘れてるのかもしんないけど、オレだって、一応男なんだが」
「それは見れば判るけど………。だって、ガウリイは保護者なんでしょ? 意味ないじゃん」
あたしはガウリイを覗き込む。
「それとも他に何かあるの?」
いたずらっぽく覗いたあたしから、ガウリイが何故か視線をそらす。
「保護者だろうがなんだろうが………こんなにひっついてたら、普通、そーゆーことになったって、文句なんて言えないんだぞ」
あたしから顔を背けたままでガウリイが答えた。
冗談と判る口調。
でもその中にわずかに………違う色が混ざっている。
あたしはそれを知りつつ断言した。
「襲わないわよ、ガウリイは」
「あのなあ、リナ。お前さんがどう思ってるかてのは知らないが、男ってえのは………」
むっとしたようにガウリイがあたしを覗き込む。
「無理よ」
あたしは途中でガウリイの台詞を遮った。
そして、ガウリイを見上げたままで、あたしはゆっくりと繰り返した。
「───ガウリイには無理よ───。誰かの信頼裏切るなんて、そんなこと」
「わからんぞ?」
ガウリイがあたしの顔を覗き込む。
あたしの肩にまわされた腕に、わずかに力がこもったような気がした。
「今は他には誰もいないし、胸がないとは言え、一応リナだって妙齢の女性だし?」
「そう?」
あたしは小さく笑ってみせた。
笑って自分の身体にまわされた手に、自分自身の手を重ねてみる。
「でもね、ガウリイって、人の信頼を裏切れるような性格じゃないでしょ? あたしがそう信じたら、信じたもののままでいてくれる………。ね、ガウリイ?」
確信を込めてあたしはガウリイを覗き込んだ。
「そういう性格だと思ってなかったら、出会った時に、きれいさっぱり捨ててきてるわよ」
じっとガウリイがあたしの瞳を覗き込む。
「あの時?」
「あたしの部屋が襲撃されて、ガウリイの部屋で寝てた時」
つかの間の沈黙。
そして、ガウリイがふっと苦笑した。
あたしの肩にまわされた腕から、静かにそっと力が抜ける。
「ずいぶん懐かしい話だな」
「あら、ガウリイが覚えてるの? 珍しい」
あたしはガウリイに笑いかけた。
「あのなあ」
ガウリイがため息をついた。
「いくらオレだって忘れんぞ」
「そう?」
あたしはガウリイの返事を軽くいなした。
「あの時だって、あたしに手出しするどころか、意地はって床の上で寝たりしてたもんね、ガウリイは」
「だってなあ………あの時は、お前さん本当にお子様だったろうが」
渋い表情でガウリイがあたしを見た。
「ふーん。『あの時は』ってことは、今は違うってことよね、ガウリイ。じゃあ、今は………?」
あたしは下からガウリイを覗き込む。
しまったという表情を貼り付けたまま、ガウリイが天井に視線を流した。
「ほらほら」
あたしは肘でつんつんとガウリイをつついた。
「言っちゃいなさいよ。どうせなら。どうせあたししか聞いてる人なんていないんだし」
うりうりうり。
あたしの攻撃はしばらく続いた。
やげて小さくガウリイがため息をつく。
天井を見上げたままで、ぼそっとガウリイが呟くのが聞こえた。
「だから、言ったろ。襲われたって文句言えないんだぞ、って。………それでいいのか?」
あたしの唇に笑みが浮かぶ。
でも、それは多分ガウリイからは見えなかった。
「ま、今のところはね」
あたしは笑って、ぱしんっとガウリイの背中を叩いた。
「やれやれ」
あきらめたように視線を戻したガウリイが、あたしに向かって尋ねかけた。
「なあ………聞いてみようと思ってたんだが………。もし、あの時オレが襲ってたらどうしてたんだ?」
あたしは2、3度瞬きをしてガウリイに答えた。
「どうした………って、別に? だって、それってあたしに人を見る目がなかったって、唯それだけのことでしょ? 信じたあたしが間抜けなんであって、それって相手のせいじゃないわ」
ガウリイがあきれたようにあたしを見た。
「………強いな、リナは………」
あたしはガウリイにウインクしてみせる。
「まあ、あんたを半殺し………は流石にまずいから、袋だたきぐらいにはしてたかもしれないけど」
「おいおい」
ガウリイが苦笑した。
「でも、正しかったでしょ? あたしの判断」
「オレの判断も正しかったわけだ」
「勿論よ。人を見る目にだけは自信あるもの」
胸をはってあたしはガウリイに答えた。
ガウリイが再び天井を見上げる。
「全くほんとにお前さんは………」
「惚れ直しちゃった?」
あたしはガウリイに笑いかけた。
「ばーか」
ガウリイが軽くあたしの頭を小突いた。
そして、肩に乗せた方の手であたしの髪を梳き下ろす。
その仕草はいつもとは違って………でも、とても心地よい。
あたしは静かに目を閉じてみた。
寒いはずの室温は、もう、あまり感じられなかった。

「ふぁーあ」
あたしの隣でガウリイが大きなあくびをした。
「さて、寝るか」
ガウリイのつぶやきが聞こえてくる。
「寝る?」
あたしの返事は、多分すこし甲高かった。
にやっと笑ったガウリイが、あたしの鼻先を指先でぴんっと弾く。
「何か勘違いしてないか? お前さん。今のは、文字どおりの意味だからな」
「あのねえ」
あたしはガウリイにそっぽを向いた。
なだめるように、ガウリイがあたしの頭に手を乗せる。
「どうせ、することなんてないんだろ?」
「ま、それはそうなんだけど」
あたしはぼやく。
「でも、いくらなんでもこの環境で寝るっていうのは………」
そういって振り向いたあたしの視線の先には、もう安らかな寝息を立てたガウリイの姿。
こいつは全く………。
でも、そう思いながらも、何故か唇は淡い笑みを形作る。
「ま、いいか」
居心地のいいように、ガウリイに身体を持たせかけた。
そして、そのまま睡魔に身を任せ………。
 

寝こけていたあたし達を、アメリア達が発見して唖然とするのは、しばらくあとのことになる………。
 
 
 

<洞窟・その3>
 

あたしたちは、洞窟の中に閉じこめられてしまっていた。
「あーあ」
あたしの背後で、ガウリイが大きなため息をつく。
「仕方ないじゃないの、落盤事故だったんだから」
あたしはガウリイを睨み付けた。
「で、今日は、魔法はだめなんだよな?」
「………生憎ね………」
あたしは極力ガウリイの顔を見ないようにして頷いてみせた。
運が悪かったが、こればっかりはあたしが女性であるかぎりしかたがない。
ガウリイががっくりと肩を落とした。
「じゃ、やっぱりだめだよなあ………」
「まあ、ちょっと抜け出せないわね。でもすぐにアメリア達が見つけてくれると思うから」
落ち込んだ様子のガウリイに、あたしはとりあえずの慰めの言葉を掛ける。
「いや………そーゆーんじゃなくってさ」
ガウリイがぽりぽりと鼻の頭を指先で掻いた。
「せっかく二人っきりになったってのに………やっぱ、襲えないよなあ、『あの日』じゃなあ………」
そして、再びため息ひとつ。
「あーあ。オレってついてねーよなあ」
「………ガウリイ………?」
あたしは静かにガウリイを振り返った。
右手にしっかりとスリッパを握りしめたまま───。
 

───その日、洞窟で起こった落盤事故から、女性ひとりと、重傷の男性が1名救助されたと言う───。
 
 






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