<CASE・ 1 G→L>
オレは目の前にいるリナを見つめていた。
何かしゃべっているが、その内容はほとんど耳を素通りしていくだけだ。
それはそうだろう。この部屋にいるのはオレ達だけ。
しかも目の前にいるのは惚れた女。
これでおかしくならない男がいたら、そっちのほうがよほどおかしい。
愛らしい唇が、柔らかな栗色の髪が、オレを誘う。
「リナ」
オレは思い切ってリナをぐいっと引きよせた。
思いのほか軽くリナが倒れ込んで来る。
引き寄せた方の手を腰にあて、至近距離から、リナの大きな瞳を覗き込む。
「オレが今、何を考えているか、わかるか? リナ」
オレはリナの顔にそっと手を這わせた。
「わかるわ………」
リナがオレの耳元で囁いた。
その声が耳に甘い。
「で、敵はどこなの、ガウリイ」
「へ?」
オレはほけっとリナを見た。
「あんたがこーゆーことするときは、どこかに何かが潜んでるときだもんね。で、暗殺者? それとも魔族?」
リナが真剣な顔でオレを見る。
「あれ? どうかしたの? ガウリイ?」
「………いや………別に………」
オレは肩を落としてため息をついた。
<CASE・ 2 L→G>
「あのね、ガウリイ………その………」
「なんだ?」
言いよどむあたしに、ガウリイがくるっとこちらを振り返った。
───真面目な顔で、手にに鳥さんの足のフライを握りしめながら───。
うっっ。これから人がシリアスな話をしようとしてるのに。
ま、まあ、仕方ないんだけど。これがガウリイって言えばガウリイだし。
あたしは気を取り直した。
「あの………今夜………あたしの部屋の鍵、あけとくから………その………」
「へ?」
ガウリイがまじまじとあたしの顔を見た。
「なんだ? 剣の練習か?」
「………そうじゃなくて………」
「じゃあ、盗賊いぢめの手伝いかなんか」
「………それも違う………」
あたしは拳を握りしめた。
ガウリイが更にまじまじとあたしの顔を見た。
ざっとその顔から血の気が引く。
「え? えええええっっ?」
こら、どーしてそこで青ざめるかなっっ。
「…………それって………まさか………その………つまり………?」
あたしは頬に血の気をのぼらせてかすかに頷いた。
そのまま顔を上げることができない。
ガウリイがごくりと喉を慣らす音が、妙に大きく耳に響いた。
ガウリイの服がたてる衣擦れの音。
そして、大きな手があたしの肩に載せられる。
あたしは思い切ってガウリイを見上げた。
こっちを覗き込んでいるガウリイと視線が合う。
「リナ………」
ガウリイがそっと呟いた。
そして、静かに首を振る。
真剣な瞳があたしを覗き込んだ。
「ダメだぞ、リナ………。オレはまだ死にたくない………」
「………………………」
あたしは微笑んでガウリイを見た。
じっと見た。
見つめ続けた。
そして。
「炸弾陣ぉぉぉぉっっ」
部屋の中に力あることばが解き放たれた。
その後ガウリイがどうなったのか………それを知るものはない………。
<CASE・ 3>
あたしはぼーっと窓の外を眺めていた。
既に日は暮れている。
宿の窓から見える景色は、闇の中に沈んでいた。
すでに家々の窓には明かりが灯り、家路を急ぐ人たちが目の前の街路を通っていく。
それがとても暖かそうに見えて、なんとなく唇に微笑を浮かべてしまう。
でも───。
あたしは少し視線をずらす。
本当に見ていたいものは景色じゃない。
あたしが見ていたいものは家の中───このガラスのこっち側にあった。
沈んでしまった太陽よりももっと鮮やかな黄金───。
長い髪を豊かに波打たせた青年が一人、テーブルに向かってなにやら考え込んでいる。
小さな石を右手に、台座を左手に───。
大きな体で小さな石を睨み付けながら、なんとかその石をはめ込もうと奮戦している。
その光景が、窓にはめ込まれたガラスに、淡く写しこまれていた。
青年はあたしに見られていることに気づいてない。
さっきから同じ失敗を何度も繰り返しては、その度に首をひねっている。
どうということはない光景なのに………心の中に広がっていくものがある。
それは、名前すらない………名前を付けることになんて意味がない、きっとそういう感情だった。
ここにこうしていることが、ただ、嬉しい。
青年に見えないのをいいことに、そっと言葉を唇にのせてみる。
淡くガラスに映し込まれたあたしの影が、同じ言葉を無言で呟いた。
ガラスの中のあたしが照れる。
声にすることはしなくても、なんとなく気恥ずかしいものがある。
あたしはくるっと後ろを振り返った。
振り向いた視線の先に影が落ちる。
「………え?………」
顔をあげると、間近に青年の姿があった。
「ガウリイ………?」
影になったガウリイの顔が笑った。
そのままガウリイが近づいてくる。
そしてゆっくりと唇が触れてきて───。
耳元にささやかれたのは、さっきあたしが呟いたのと同じ言葉だった───。
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