力ある言葉

Kyo



 
 
 
 

 

<L>
 

たとえばそれは、今日の夕飯のメニューだったり。
盗賊がもってたちょっと気のきいたお宝だったり。
そして、もしかしたら、故郷の姉ちゃんだったり。
ひとつひとつは、きっととても些細なことなんじゃないかと思う。
 

───来よ。我らが仲間として───
声が、聞こえることがある。
それは闇よりも暗い闇の囁き声。
───我らと共に来れば、望みのものを与えよう───
強く緩くあたしを囲み、甘美な響きで誘いかける。
───巨万の富か、永遠の命か───

そんなこと、興味ないといったら、多分嘘になるけれど。

あたしをこの世界に引き留めているのは───

例えば故郷の姉ちゃん。
例えば、今日の夕飯。
おいしいもの。好きなこと。
そんな小さなことのつみかさね。
でも、何よりもあたしを引きとめるのは。
「おーい。どうした、リナ………。居眠りなんかしてると置いてくぞ」
―――ちょっと真抜けた穏やかな声だったり―――。
「ほんと、寝てるとしずかなのにな」
───さらっとあたしの前髪をかきあげる、無骨なわりに器用な指だったり───
身体の下に、そっと手が差し入れられる。
静かにそっと、あたしの身体が持ち上げられる。
ゆらりとした浮遊感。
───あたしを支えてくれるこの腕だったり───
そしてなにより。
「リナ」
頬に吐息のかかる近さで、そっとあたしの名前が呼ばれる。
自分の名前を呼んでくれるこの声が、何よりもあたしをここに引きとめる。
自分の名前を呼ばれるのが、こんなに嬉しいなんて思わなかった。
「リナ」
あたしはゆっくりと目を覚ます。
一番最初に目に入ったものに微笑みかける。
こぼれ落ちる金の髪。
湖の深さをたたえた青い瞳。
唇にあるのは、穏やかな微笑み。
この瞬間が、なによりもあたしは好きだ。
青い瞳の中、栗色の髪の少女が微笑んだ。
その瞳に映っているのが、なによりも一番好きな自分。
だから、あたしは………。
「ガウリイ」
あたしはガウリイに微笑みかける。
───あたしを呼ぶ声───
それは、あたしを引きとめる、なによりも力ある呪文───
 
 
 
 
 

<G>

はじめに感じるのは、程良い温もり。
人肌に馴染んだ夜具の暖かさ。
まどろみの中、意識は緩く覚醒に向かう。
小さな音が聞こえてくるのに、そっと耳を傾ける。
やかんからこぼれる湯気の音。
とんとんとリズミカルに繰り返される、
小気味いい響く包丁の音。
………あ、こけた。
ぶつぶつ小さな文句が聞こえる。
唇につい、笑みが浮かぶ。
起きられない、わけじゃない。
でも、もう少しこうしているのも悪くない。
ぱたぱたと軽い足音がする。
扉がそっと開かれる気配。
「何? まだ、寝てるの?」
あきれたような言葉の割に、ひそめられた声。
近づいてくる足音が止まる。
手を伸ばせば届く距離に、誰よりも馴染んだ気配。
なんとなくためらっているのがわかる。
額にそっと華奢な手が触れた。
さらりと髪がかきあげられた額に、暖かい感触が触れて離れる。
やわらかな口付け。
唇の方がいい、なんて言ったら怒鳴られるんだろうな、多分。
ぽかり。
小さな拳がオレの頭を軽く叩いた。
「あのねえ、いいかげんに起きてよねっっ」
起きていたのがばれないように、わざとゆっくりと瞳を開ける。
栗色の髪。
しかめられた表情。
でも、その唇には笑みがある。
オレは静かに微笑みかけた。
「おはよう、リナ」
そしてオレの一日が始まる。
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 

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