Eternal
 

kyo


 
 

「なんだ、そんなところにいたのか」
ガウリイが、あたしを見つけて言う。
「お子様は、寝てる時間だろ?」
お子様……か。あたしは、苦笑した。
「ねえ、ガウリイ。確か、あたしたちの旅って剣が見つかるまでって約束だったよね」
ガウリイが首をかしげる。
「……そうだったっけか?」
予想通りのガウリイの声。
……忘れてるとは思ってたんだけど……やっぱり……。
記憶を、どっかに落っことしてきたのか、それとも、一緒にいる理由を考えることすらしなくなっていたのか。
どちらかなのかは知らないけど。
あたしは、首を振って気を取り直した。
「だから、ここまでよね。あたしたちの旅も」
「……え?」
ガウリイが、ほけっとした顔でこっちを見る。
「……別れましょうっていってんの」
あたしはガウリイの方を見ないようにして言う。
見なくても、どういう表情をしているかは、何となく想像がつく。
そして、自分の表情も。
「潮時じゃない?
ついずるずるいっしょに旅をしてたけど、
考えてみれば、もともとはあたし、光の剣が目当てでガウリイにくっついてたのよね。
でも、光の剣はもうないし……。
まあ、それにはあたしにも原因の一端があるような気がしたから
魔力剣探しにはつきあったけど……。
新しい剣も手に入ったし、これでもう、あたしがあんたにくっついてる必要ないわよね」
「これはおまえさんが見つけた剣だぞ? おまえさんのだろ?」
「……あの状況を『見つけた』って言えるんならね……。
それは、あんたにあげるわ。餞別代りに」
あたしは、くるりと振り返って笑って見せた。
「……リナ……?」
「そんなごっつい両手剣、あたしが持ってたってしょーがないもの。
持ち上げるのだって一苦労なのよ?
光の剣の代わりには不足かもしれないけど……一応は伝説の剣だし、それで我慢して」
ガウリイが、ちょっと考え込んだ。
「剣の研究するんじゃなかったっけ?」
……余計なことだけ覚えてる。
あたしは苦笑した。
「……そんな自動辻斬り装置みたいな剣を作るノウハウ知ってもしょーがないって……」
二、三度何かを言いかけて、ためらった末にガウリイが口を開く。
「………なあ、おまえさん、ひょっとして、おれのこと心配してくれてるのか?」
ふーん。ガウリイにしてはちょっとは考えたかな?
でも、
「そんなことあるわけないじゃない」
これが精一杯のあたしの答え。
「………そっか………」
沈黙が落ちる。
それがなぜか痛い。
あたしとガウリイは、基本的に二人で旅をしていた。いくらあたしだって道中しゃべりっぱなしじゃないから、黙ったまま何時間も歩きつづけることだってあった。
沈黙を気詰まりに感じたことはない。
でも……こういう沈黙はいやだ。
先に口を開いたのはガウリイのほうだった。
「じゃあ、ここまでなんだな。旅は」
静かな声。
………別に何を期待していたわけでもないけれど。
その声は、予想以上に心臓に痛かった。
でも、これでいい。
………これで。
あたしなんかに関わり合いにならなければ、ガウリイはきっと魔族なんかと縁を切った生活をすることができる。
そうすれば、あたしも、もうこいつの心配をする必要もなくなる。
だから。
「……それで、おまえさんは、どうするつもりなんだ?」
ガウリイの台詞に、あわてて我に返った。
「………あたし? あたしは、旅を続けるだけ。あんたと会う前と、同じにね」
「そっか………」
ガウリイが、つぶやいた。
再び、沈黙が落ちる。
沈黙に、あたしの方が耐えられなくなったとき、
なにかを吹っ切ったかのような表情で、ガウリイが顔を上げた。
「………なあ、リナ。おまえさん、おれを買ってみる気はないか?」
「……へ?」
こいつ、今、何て言った?
あまりに突拍子もない台詞に、ついつい、ガウリイの方を見つめてしまう。
ふざけているのかとも思ったが、ガウリイは、まじめな表情で、こっちを見ている。
それにしても、突然、何言い出すかな。こいつ。
人身売買のシュミは、あたしにはない。
ついでにゆーと、ヘンな意味で男の人を買うシュミももちろんない。
ガウリイが、ゆっくりこちらに近づいてきた。
あたしにかまわず話しつづける。
「自分で言うのもなんだが、オレはお買い得だそ。
いちおー、剣士としての腕はそこそこのもんだと思うし、
元が丈夫だから、たしょうのことでは壊れないし。
野宿だってなんだって平気だし。身長あるから、高いところの物もとれるし、
なんてったっておまえの相棒3年もつとめられたぐらい辛抱強いし」
ガウリイは、あたしの目の前で、歩みを止めた。
「今なら、ブラストソードのおまけつき」
「………なによそのテレフォンショッピングみたいな台詞は」
ガウリイが苦笑した。
でも、見慣れたその表情の中に、あたしが今まで見たことのない感情が覗いている。
「……なにって……いちおー、おれ、口説いてるんだけどな……ダメ?」
どきん。
「……口説いてるって……」
口がかってにガウリイの台詞を反芻する。
心臓が跳ね上がった気がした。
何言ってるんだろう、こいつ。
「………リナにおいてかれないようにって………」
なんだ、そーゆー意味か。
って、べ、別に、なにかを期待したわけじゃないけど。
ふと気づくと、ガウリイの手があたしの髪に伸ばされていた。
いつもの仕草。
でも、いつもならあたしの髪をかき回す手はあたしの頬を掠め、
肩に掛かっている髪を一房その指に絡めた。
吐息のふれる近さに、ガウリイの手がある。
わずかに高い体温が、そこから伝わってくるような気がして、落ち着かない。
思わず顔を上げてガウリイをみたあたしの視線を、強い瞳が捕らえて離さない。
………どうしてだろう。自分の鼓動がやけにうるさく伝わってくる。
「………リナにだったら、おれの一生やるのも、悪くないかなって」
え?
思わずあたしは、ガウリイを見上げたまま動きを止めた。
今、何て言った? ガウリイ。
言葉は確かに聞こえている。
でも、その意味がなぜかわからない。
「前に、言ったろう? おまえさんにはとことんつきあってやるって。
おれの一生、おまえさんにやるよ」
こいつ、なにを言っているんだろう。
問い返す声が、掠れる。
「……あんた、自分で何言ってるか、わかってないでしょう?
………とことんつきあうにもほどがあるわよ。
一生ってね、とんでもなく長いのよ。
いままであんたが生きてきてる年数の何倍もあるんだから
そんなもん、ぽんぽん人にやってどーすんのっっ」
にこやかに笑うガウリイ。
「いやあ、おれって忘れっぽいから……。今までの人生の何倍とかいわれてもちょっと……」
おひ。このくらげ。さわやかに笑って言うことか。
「………それに、いくらおれだってンなもんそーそー人にやるかよ」
ガウリイの笑みが深くなる。
髪に絡められた指が、あたしの髪を………つまりは、あたしの顔を引き寄せる。
「おまえ以外のヤツになんかやらん。………もちろん、ただじゃヤだけどな」
「……いくら払わせる気よ?」
剣を握る大きな手が、思いのほか優しい感触であたしの頬に触れる。
「そうだな……たとえば……」
ガウリイの顔が近づいてくる。
その蒼い瞳に吸い込まれそうな気がして、あたしはふと瞳を閉じる。
唇に暖かい感触。
「………これで、契約成立な」
笑みを含んだガウリイの声を、あたしはその腕の中で聞いた───。

「………なんだか、あたしの方が、損してる気がする………」
「そうか?」
あたしの髪をなで下ろしながら、ガウリイが答える。
笑みを含んだガウリイの声が、触れている部分を通して、伝わって来た。
聞き慣れた声のはずなのに、不思議な響き。
もっと聞いていたいような気がする。
「………オレの方が損してるとおもうけどなあ」
「何、いってんのよ。純情可憐な乙女にこんなことしといて」
「………純情可憐って………まあ、いいけど………」
何やらぶちぶちと言うガウリイを顔を上げてにらみつける。
ガウリイが人の悪そうな笑みを浮かべてあたしを見下ろした。
「でもさ、リナが本気でいやがってたら、今頃呪文でぶっ飛ばされてるよあ………オレ」
ほーう。そーゆーことを言うか。
では、お望みどおり呪文で………。
「こら、やめろって」
呪文を唱え始めたあたしの口を、ガウリイが再び塞ぐ。
唱えかけの呪文は、そのまま口の中に消えてしまう。
………覚えてなさいよ、ガウリイ。
きっちりきっぱり、明日になったらぶっ飛ばしてあげるから。

そう。明日になったら。
また二人で旅を始めるんだから。
 
 





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