フィアー

〜あなたに怖いものはありますか?〜

kyo


ガウリイ・1

「怖いもの………?」
リナの問いにガウリイはきょとんとした表情を向けた。
リナがこくりと頷く。
「そうよ。いくらガウリイだって、怖いもののひとつやふたつあるでしょ?」
「オレの怖いものねえ………」
腕組みをしたガウリイが、珍しく真剣な顔をして考え込む。
やおら顔を上げ、
「忘れた」
にっこりと笑みを浮かべた。
すっぱーんといい音がし、ガウリイが叩かれた頭を押さえる。
スリッパを片手にしたリナが口の端だけでふっと笑う。
「やっぱり。言うと思ったわ」
「………だからって、いきなり殴るなよっっ。ちょっとした冗談なのにっっ」
「あんたがその笑えない冗談を言うからよっっ!!」
胸を反らしてリナが答える。
「………そこで威張るなよ………」
ガウリイがため息をついた。
「でもなあ、一応、オレにもあるんだぜ。怖いもの」
リナがおやっという顔になる。
「へえ………、何? 教えて教えて」
ガウリイがちょいちょいと手招きをした。
リナがガウリイの方に身を寄せる。
ガウリイはリナの耳もとに口を寄せてささやいた。
「………オレの怖いものはな、リナだよ………」
がつっ。
リナの見事なストレートパンチがガウリイを襲った。
鳩尾を押さえたガウリイがうずくまる。
頬を赤く染めたリナが大声で怒鳴った。
「───悪かったわねっっ、ドラまたでっっ!!」
ばたんと扉の閉まる大きな音を残して、リナはその部屋を後にした。
残されたガウリイが低くうめく。
「………リナに嫌われるのが怖いって言おうとしただけなのに………最後まで聞けよな………あの馬鹿………」
 

ガウリイ・2

「怖いもの?」
ガウリイが首を傾げた。
「………うーん。リナに光の剣を渡すことか?」
ゼルガディスがくすりと笑った。
「何だ? リナが旦那にくっついてくる口実を無くすのが怖いのか?
それとも、ただ単に、家宝を取られるのがいやなのか?」
ガウリイがふるふると首を振った。
じっとゼルガディスの目を見て訴える。
「オレが怖いのは、そんなことじゃない。
ほら、よく言うだろ? き●●いに刃物って」
唐突に、リナのフリーズブリッドが室内に炸裂した。
「あんたはっっ!! もういっぺん言葉の使い方を勉強してこいっっ」
怒鳴り声と共に足音が遠ざかっていく。
後には、冷凍されたガウリイと、別の意味で凍り付いたゼルガディスだけが残された。
ゼルがリナに聞こえないような小さな声でぼそっと呟く。
「………いや………正しい用法だと思うぞ………旦那にしては………」
 
 

ガウリイ・3

「怖いもの?」
ガウリイが首を傾げた。
「女かな?」
「へ?」
妙な顔をしてリナがガウリイを見た。
「女が怖いって………あんた………どういう意味よ?
まさか、男が趣味だとか言うんじゃないでしょうね」
「なんだよ、それ」
今度はガウリイが妙な顔をする。
「婆ちゃんがいつも言ってたんだよ。
『女は怖いぞ』って。
だからそーゆーもんかと思ってたんだが」
ガウリイはふと首を傾げた。
「でも………そういや、考えたことなかったよなあ………。
それってどういう意味なんだ?」
ふっとリナがガウリイに笑いかけた。
「知りたい?」
「え?」
ガウリイの背を、なぜだか冷たい汗が伝った。
逃げをようとするガウリイの襟首を、むず、とリナが捕まえる。
「知りたいっていうんなら、しょうがないわよねえ。
………特別に教えてあげてもいいわよ。ガウリイになら」
笑みを浮かべたままのリナが、ガウリイに囁きかける。
「あ、あのな、リナ、ちょっと待て、止めろっっ、オレは別にそんなつもりじゃあ……………」
「甘いわっっ」
ずるずるとリナがもがくガウリイを引きずっていく。
「じっくり、たっぷり教えてあげるから、そのつもりでいなさいね。
さあ、まずは女の戦場、ブランドバーゲンへの突入からよっっ。
荷物持ちは勿論、ガウリイだからねっっ」
「ひえええええぇぇぇぇぇぇっっ」

そして、ガウリイの叫び声だけが後に残された………。
 
 

ゼロス

「怖いものですか? 特にはないですが………そうですね。
リナさんがお亡くなりになることでしょうか」
「どうしてですか?」
いぶかしそうにアメリアが尋ねる。
「生きとし生けるものの天敵、
焼却処分になるしかない生ゴミにすら劣ると言われているあの魔族が、
人間の心配をするなんて………」
「………だからって、そこまで言いますか………?」
ゼロスの笑顔が少し引きつった。
「まあ、僕的には、リナさん個人の生死にたいしてどうこうというのはないんですが、
リナさんのまき散らす恐怖を食べて命をつないでる魔族もいますのでね。
リナさんがお亡くなりになると、彼らも存亡の危機なんですよ。
そうすると中間管理職のぼくとしては、彼らの食料を新しく捜してこなきゃならないわけで………その分仕事が増えるかと思うと………」
どこからかハンカチを出して、ゼロスがそっと目頭を押さえる。
「もう怖いの怖くないのって………」
リナのスリッパがゼロスを直撃した。
「滅んでしまえっっ、ンな魔族っっ」
 
 

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