夜空には、満天の星。
星は人の魂だと言ったのは誰だったろうか。
あたしは、ただぼんやりと空を見上げていた。
「リナ」
唐突に声をかけられる。
でも、その声の主をあたしは知っていた。
声をかけられる前に判る、見知った気配。
「大丈夫か?」
静かな表情で聞くガウリイに、あたしは笑みを浮かべてみせた。
「最近、その台詞ばっかりね、ガウリイ」
「そうか?」
ガウリイがあたしの隣に腰を下ろす。
「そうよ」
いつからだったか、もう覚えていないけれど。
あたしが前を見る気力をなくしかけてしまう時、
ふと顔を上げると、視線の先、かならずガウリイがいる。
そして訊くのだ。
───『大丈夫か』───と。
そう、ちょうど、今のように。
座り込んだガウリイは、何を言うでもなく、ただ夜空を見上げている。
互いの息づかいの感じられる、この距離で。
あたしは、ことんと、頭をガウリイの肩に預けてみた。
ガウリイは何も言わなかった。
ただ、自然な動作であたしの体に手を回し、引き寄せる。
ホントは、怒るべきなんだろうな。
ぼんやりとあたしは思う。
でもこの感覚は、嫌いじゃないから。
あたしはそっと体重を預けた。
ぬくもりが夜気に冷やされた肌に心地よい。
触れあっている部分から、規則正しい鼓動が聞こえてくる。
何よりも、お互いが生きているのだと実感できる。
あたしは小さく吐息を漏らした。
「なあ」
沈黙を破るのをおそれるかのように、そっとガウリイが言葉を口に上せる。
「ん?」
あたしの返事はまどろみに落ちる寸前のささやきに近かった。
「何だったんだろうな、ミリーナがルークに言った言葉って」
「さあ………ね」
ガウリイに抱き寄せられたまま、あたしはすっと宙に手を伸ばした。
伸ばした手の先、触れられそうな距離に満天の星がある。
「でも、ミリーナの言いそうなことなら、見当がつくわ」
あたしは伸ばした自分の手の先を見つめて言った。
「愛してる」
「え?」
あたしは体を捩り、ガウリイを見上げた。
ミリーナがルークにやったように、そっと手を差し伸べて。
「今のあなたを───愛してる」
ガウリイがの瞳が静かにあたしを見つめ───ゆっくりとその瞳を閉ざした。
回された手に力がこもり、あたしは静かに引き寄せられる。
「ルークは、知ってたかな? そのこと」
「知ってたわよ、きっと」
そして、ルークがそれを知っていることを、ミリーナも多分知っていた。
だからあの二人は一緒にいられたのだ。
「そうだな」
ガウリイの吐息があたしの髪をくすぐって闇に溶ける。
でも、だからこそ彼は───ルークは、自分を許すことができなかった。
自分が心を預けた者が失われて行くのを見るのは───それを為すすべもなく
見ているのは───どれほどの痛みだろう。
ルークの感情がわかるとは言えない。
でも───その感情を、多分あたしは知っている。
『もしも、俺と同じになったらどうだ?』
だから………あの時のルークの問いに答える言葉を、あたしは持たない。
『もしも自分の連れが、どこかの馬鹿にぶち殺されたら………』
「世界を壊すわ」
あたしのつぶやきに、ガウリイがふと顔を上げた。
「何?」
「もしも、あたしが、ルークみたいな目に会ったら………あたしは、きっと世
界を壊す」
くすっと小さな笑い声があたしの耳に届く。
「怖いな」
「怖いわよ」
あたしはガウリイの青い瞳を覗き込む。
あたしをいつも見てくれている、その瞳を。
「だから───あたしにそんなことさせないで」
ガウリイが、じっとあたしを見た。
次の瞬間、強く強く抱き寄せられる。
だから、ガウリイがどういう表情をしていたのか、あたしにはわからない。
ただ、言葉だけが触れている部分を通して伝わってきた。
「───ああ、約束する───」
あたしはゆっくりと瞳を閉ざす。
それはあたしが今まで聞いた中で一番神聖な誓いの言葉だった。
「ガウリイ?」
続く台詞をあたしは声に出さなかった。
でも、多分───。
「何?」
ガウリイの唇が優しくあたしに触れていく。
───言葉にしなくても、伝わっていると信じられるから───。
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